サヨナラだけが人生さ
魔力酔いで暴走したキラすけ(と俺)
組合長が過去を封印した気持ちがわかった。
中二病の後遺症。キツい。
タンケイちゃんが魔王機のストラップを緩める。
「え? 何です、これ?」
魔王機バンカー、ダークゾーンを見てびっくり。
丸くなった(そして黒い)キラすけをそーっと地面に下ろした。
「いや、まあ、その……ちょっぴり気持ちはわかりますな…」
ああ、あんたも少し、魔力酔いしてたもんね。
ニュース王子も駆け寄って来た。
もちろん巨大ロボも大好きだろうけど、いま最初に気にかけたのはアイザクソンより魔王機バンカー。
近寄って魔王機に話しかける。
「ご苦労だったな、バンカー。」
ストラップを外すと王子の前に跪いた。
「恐縮です、殿下。」
「まあ、これくらいで悪行がチャラになるわけではないですが…」
「功績を認めていただけるのなら、殿下にお願いがあります。」
「ん?」
「部下たちのことをよろしくお願いします。」
「あれらは私に忠実だっただけですので…」
「うむ、悪いようにはせん。配下も、領地もな。」
「それに……そなたのことも何とか父上にとりなして…」
ピーピーピー! って何の音?
『警告! エネルギー供給源が接続されていません』
『エネルギー残量2% 直ちに供給システムに接続してください』
魔王機のベルト?部分、V字型の模様が赤く発光、そして、点滅している。
これ、もしかして……カラータイマー?
そうか、大迷宮への魔力の供給元は拡張機体。
それが移動しちゃったから、魔力核も無力化。
エネルギーが送られて来て無いんだ。
『エネルギーがゼロになると内部高次元空間が維持できなくなります』
おっと、これはヘルプ君?
『危険です、装着者は直ちに解除してください』
おっと、こりゃいかん。
なんだかわかんないけどヤバそうだ。
「そのヨロイ。早く脱いだ方がいいみたいだぞ、バンカー。」
先生も話しかける。
魔王機が肩をすくめる。
「ははは、脱ぐといっても……どうやって?」
え?
は?
何言ってるの? このヒト。
「脱ぎ方知ってる人がいたら教えていただけませんかね。」
は?
「私も迂闊でしたよ、まさか脱げないなんてねえ。」
いやいや、ヘルプ君。知ってるよね!?
『解除信号を発信してください、あ!』
あ!
人間のバンカーには解除信号とか発信できないよね。
そりゃそうだ。
ヘルプ君、どうすればいいの?
やり方教えて。俺なら発信できるでしょ。
『それが…装着中は解除信号は内部から発信する必要があります』
はい? え?
……ちょっと! そんな!
『だって外部から解除出来たらまずいでしょ、戦闘中に』
『本来、あなたが装着するもので、エネルギーも内部から供給…』
『人間が装着するなんてのは想定されていませんでしたし』
まずい、まずい!
エネルギー? 魔力核へ供給する?
もう一度アイザクソンに? また暴走しちゃうよ!
俺本体から供給できないの? ヘルプ君。
『機体単独で外部からは不可能です』
『拡張機体が収納されていた場所からなら核を通じて…』
埋まってるよ! 土の下、そう簡単に掘り返せるような状況じゃない。
「何とかならんのか!?」
先生も焦る。
「そ、そうだ! もう一度、遅延拘束で……メガドーラ!」
「いや、その…護符全部使ってしまったのじゃ、二重がけやら、キララの保護やらで…」
「まだ家に余分の護符が…」
その先生の家も埋まってる。
「お、おい! 内部空間とかが無くなったらどうなるんだ?」
『内部高次元空間が消失すると内部の収納物は空間とともに消失』
『ここではない【どこか】、今ではない【いつか】へ転移すると考えられます』
何言ってるかわからないよ、ヘルプ君。
「バンカー!」
ニュース王子の悲痛な声。
「【どこか】で【いつか】…ですか? それは楽しみですね。」
達観したような静かな声。
「お別れです、殿下。私は脱出します。」
「未来に向かって脱出……」
魔王鎧は停止した。
停止後なら外部からの信号で展開が可能だった。
そして開いた魔王鎧の中には……何もなかった。
後始末は大変だった。
一部の鉄蜘蛛、軍用獣機は大街道に戻り、逃亡した恐れもある。
幸い、拡張機体に収納された飛行ユニットは短時間で修理が完了。
飛行可能となった。
直ちに空爆装備で出撃。
偵察、追撃に向かった。
そして俺の額のビームランプも復活。
拡張機体、すげー!
「あいじゃくー!」
おお、ミニイたん!
迷宮内に避難してたんで、アイザクソンの行動は見ていない。
見られなくて良かった……
つくづくそう思う。
キラすけはしばらく隅っこのダークゾーンで丸くなっていた。
まあ、気持ちはわかる。
俺も復旧作業や王都への連絡飛行とかで忙しくなかったら…
こっ恥ずかしくて表へ出られなかったよね。
拡張機体はしばらく野ざらし。
見物人で観光名所みたいになった。
いつかのお台場のガ○ダムみたいな感じ。
屋台とか出てるし。
そのうち、格納庫の土を掘り出して再収容するつもり。
サガっ原と西街道上に散乱するゴリアテと鉄蜘蛛の残骸。
回収しようにも、まず街道の修理から取り掛からなくてはいけない。
ケロちゃんGをはじめとする味方ゴリアテの活躍に期待がかかる。
まあ、残骸は放ってもおけるが、人間はそうもいかない。
あと、馬とかもね。
機動軍に同行してきた王軍兵士やモアブ兵の生き残り。
過剰に武装解除されちゃったんで、帰るに帰れない。
とりあえず炭鉱の避難所に収容して、装備を整えるまで面倒見ることに。
ついでに、装備増産のために鉄鉱石、石炭堀りもやってもらう。
ストラダ隊長が指揮、アルパン騎士が激励。
文句言う奴は女騎士が殴る、と言う役割分担。
……強制労働キャンプっぽい気がするけど…
先生んちは全壊、残骸から回収した家財道具を北遺跡に運び込んで避難所生活。
組合長のお店は移転して再建することになった。
避難のために一度、迷宮内に入った住民たち。
「倉庫に最適」
「もやしとかキノコの栽培が出来そう」
「夏場は涼しくていい」
味を占めたらしい。入口を拡張。
生活のために迷宮を侵食。
いつの間にか自動販売機的なものまで設置されてた。
クリプス騎士のデンソー家やイオニアさんのカロツェ家。
ロスト地方にコネのある王都の金持ちに援助を要請。
王都から大急ぎで物資を送ってもらう。
カロツェ家は、お屋敷再建のためにかなりの人手を送り込んできた。
王軍本隊や王族はモアブ家の処遇や、他の都市の干渉に対応するため動きが取れない。
湾岸都市からも応援を送ってもらうことになったが、いかんせん遠いしね。
組合長、おやっさんは大忙し。
生臭賢者も兄貴将軍も、王都との取次にてんてこ舞いだ。
ニュース殿下はモアブ家の親衛騎士の残党たちを短時間で掌握した。
単なる魔道機オタクではなかったみたい。
アイワさんの話では、年齢と見た目にそぐわぬ剣の腕前だという。
そして、この状況でも疲れを見せないタフさがある。
やはり、鬼人族の血を受け継いでいるんだろうか?
ちなみにお付きの女官さんはビクターさんと同じ無角の鬼人だった。
女の鬼人で無角なのは何百人に一人ってくらい珍しいそうだ。
わざわざそんな人材を王子に仕えさせたのは故ナビン王。
イオニアさんにビクターさんを付けたように、亡くなる前に手配を済ませていたらしい。
ニュース君が王子様だってことを知ったタンケイちゃん。
びっくりしてはいたけど…
そもそも王様とか王制とかがピンと来てない。
「すごいっすねー! ニュース君!」
あんまり対応は変わってない。
王都って言ったら…アルパンさん、ストラダさんや女騎士の家はどうなってんの?
「ウチは貧乏貴族なので…」
「俺は平民出身だし…」
「わわわ、私のウチも下級貴族で、女は後継ぎじゃないですし…」
金持ち男爵家みたいなわけにはいかないか。
「でも、お前、前の遠征の時、フルシア家の御曹司から求婚されてたじゃん。」
何!?
「いいい、今そんな話は…」
「何ぃ?」
「なになにぃ?」
「聞き捨てならんの。」
「詳しく聞きたいっしー!」
女性陣が食いついた!
ベータ君の器機召喚はなるべく隠しておきたい。
ってことでイオニアさんやニュース王子の送迎は主に飛行ユニットが担当。
これがけっこう忙しい。
マッハ飛行にはニュース王子も大興奮。
ところが離着陸するところをミニイたんにも見られちゃった。
乗せてくれってせがまれた。
もちろんデイヴィーさんも一緒だから大歓迎ですがね。
その後、子供たちを集めて遊覧飛行会をすることに。
小っちゃい子は母親同伴。
若奥様方。
うん、俺もけっこう楽しかった。
ハイバンドはイーディさんに見つかって半殺しに。
さすが先生の弟子だけあって姉エルフの攻撃魔法、強い! えぐい!
そしてこの辺の治癒術士はみんなイーディさんの息がかかってるので、治療を拒否。
小太り道士の回復には時間がかかりそうだ。
あの後、魔王鎧は一旦、拡張機体に収納。
ヘルプ君やミネルヴァが着てみろ着てみろ、ってうるさかったけど、今はそんな気になれない。
迷宮内の魔力核は源泉である拡張機体が移動しちゃったので無意味になった。
もっとも、機体からの「漏れ」にヘルプ君が気づいちゃったから…
アイザクソンが格納庫に戻っても元には戻らないかも。
バンカーは魔力核からのエネルギー供給が絶たれたことには気づいていた。
この結末も知っていたはずだ。
それでも、アイザクソンを止めるために行動した。
バンカー・モアブ。
最後までつかみどころのないお人だった。
「結局…何がやりたかったんだろな? あいつ。」
ある夜、先生がしみじみつぶやいた。
「本人にもわかってなかったのかもしれないな。」
……そうだね。でも俺はなんとなくわかる気もする。
一生懸命に働いて来て、ふと気づくと人生も終盤。
これでいいのかな? って。
なまじ才能も能力もあるお人。
傾いてみたくなっても、不思議じゃないかな…
そして、それでも性格は変えようがなくて…
真面目とか、責任感とか…
始めたら途中でやめることの出来ない人だったんじゃないかな。
「ワタシは嫌んなったらすぐやめるけどなあ…」
先生ぇ……
ふと思い返す。
アイザクソンンに取り込まれた時、流れ込んできた記憶。
いや、「記録」か。
【仲裁者】として破滅的激突を防いだ神代魔道機体。
両勢力に命じて、自らを封印した。
拡張機体を地下格納庫に納め、防衛用熱線砲を配置。
これが、北遺跡の始まり。
両勢力と【協定】を締結。
しかし、「人間」も【魔法原理主義者】もあきらめが悪かった。
ついさっきまで最終戦争しようとしてたくせに、協力して【協定】に抜け道を仕込んだ。
さまざまな分野に拡大する事で例外規定や、想定外項目を盛り込む。
読む気にならない細々した利用規約や、わざとわかりにくい言葉を使っているとしか思えない条文。
そして下の方の欄外に小さく書いてあるアレ的なものを。
そんなこんなですっかり仲良くなった両勢力。
和解に必要なのは理解ではなく共通の敵。
そして、その敵は圧倒的仲裁者であった神代魔道機。
しばらくすると、大迷宮を建設。
当時、大街道の伝達機能は予測されていたが、それを可能にする強大なエネルギー源が無かった。
アイザクソンの膨大なエネルギーを利用しようと言う計画。
民生用ですよー、とか。軍隊じゃ有りませんよー、とか。
民間人が勝手にやってるだけですよー、ってな感じでごまかしつつやってた。
北遺跡へ続く塹壕もこの時作られた。
だが、やってるうちにだんだんエスカレート。
もうちょっといいだろう、アレがOKならこれもいけるんじゃね!?
エロマンガの修正がだんだん小さくなる的な。
調子に乗って魔道機体を持ち出したり、軍用獣機を投入したりしたもんだから、熱線砲が起動。
拡張機体も再起動しそうになった。
あわてて、関係する魔道機を北遺跡にぶち込んで再封印。
この時、地下格納庫にも土が流し込まれ埋められた。
大迷宮も放棄して逃走。
この時大急ぎで作ったのが川べりの出口。
ただし、いくつかの神代魔道機体はこの時点で散逸してしまった。
「人間」の寿命問題とかが明らかになったのはその後すぐ。
それどころじゃなくなって、この計画はそれっきりになったという。
それで、北遺跡の遺物は俺本体も含めていいかげんな保管状態だったわけか。
自分たちの安全と、アイザクソンの起動を防ぐために大急ぎで撤退したんだな。
俺が感じたアイザクソンは破滅を望む、混沌の使者だった。
だが【仲裁者】は逆に世界の破滅を食い止めた。
その時の「中のヒト」は高魔力の中でも理性を保っていたのか?
よっぽど意志の強いヒトだったんだろうか…
【どこ】の【いつ】から転移してきたんだろう?
そして、どこへ行ったんだろう?
そのことに関しては何も情報が無かった。