拡張機体、立つ!
レガシに迫るゴリアテ軍団。
愛する街を守るため最後の戦い。
新型鉄蜘蛛に先生、ベータ君、キラすけ、ミネルヴァ。
荷台には俺、兄弟エルフ。
迎え撃つ!
「デイエートさん…」
「残れとか言っても聞かないから!」
ぴしゃりと言い返された。
「お兄ぃもサポートがいた方がいいよね。」
「ふふ、まあ、そうですねえ。」
うーん、まあ、言って聞くようなヤツじゃないか。
「じゃあ、走行中はここへ。」
「んん?」
しゃがみこんで中腰。
デイエートを膝の上に乗せる。
いつぞやのアクティブサスペンション。
「現場に着くまでに乗り物酔いじゃ困りますからね。」
「ええ、ちょっとこれ、恥ずかしい!」
「いいじゃないの、僕とアイザックしかいないよ。」
お兄ちゃん、いつの間にか俺の事、呼び捨てになってるね。
何だかちょっとうれしいかもね。
「デイエートはさ…」
お兄ちゃんがなにやら語りだした。
「エルフは男が少ないし、女衆だけで協力して子育てするから…」
「子供も小さい頃はみんな一緒に生活するんだよ。」
「早くから弓の腕前があったせいで、自然と同年代の女の子から頼られるようになって…」
「そのせいか、みんなの前だと妙に気が張ってるんだよね。」
「こんなに甘えん坊なのにね。」
ははは、デイエートの奴、真っ赤になってるぞ。
「やめてよ、お兄ぃ。恥ずかしい!」
サガっ原へ向かう途中、タモン兄貴たちの説得隊と合流した。
「おお、エアボウド。どうだ、首尾は?」
「上々だよ。中々のやり手だ、ニュース殿下。」
「王軍兵士はもちろんだが、モアブ兵も見事に説得した。」
「バンカーを処罰し、領地、兵隊は自分が接収すると言ってな。」
「だから、お前らはすでに自分の配下だという理屈。」
「戦意喪失したモアブ兵に上手い逃げ道を作ってやって取り込んだ。」
「あと、イオニア様が【お願い】したからな。」
アメとムチならぬアメとアメ。甘すぎないですかね?
イオニアさんのムチだったらご褒美かも知れませんよ。
飛行ユニットが使えなくなったことに愕然とする兄貴。
「地上攻撃だけで? 無茶だ。」
「無茶は承知ですよ。住民の避難まで時間を稼ぎます。」
ちょっと考えたが…
「俺も行く。役には立たんかもしれんが…見届けたい。」
兄貴…
「そうしてくれ。」
と言ったのは先生。
「タモン殿が指揮を取ってくれ。正直、ワタシ団体戦は苦手なんだ。」
メンバー構成を聞くとすぐに提案が。
「ミネルヴァが運転手兼任じゃ困るな。」
確かに。
車外で戦闘に参加してほしい。
「私が運転するよ。」
アイワさん。
でも、そすっと運転手一人足りないんじゃ?
ニュース王子たちをレガシに連れ帰るのに引き返す鉄蜘蛛は2台。
一台はあっし君の運転だけど、もう一台は?
「私が運転しますわ。」
お嬢さま? あー、そういえば工房で習ってた。
「ええ?」
ビクターさんが冷や汗流してますけど? 免許取りたて。
「エルディ、ワシも一緒に…」
いやエアボウド導師もレガシに戻ってもらおう。
数人とはいえ、まだ迷宮内にはモアブ親衛騎士も残っている。
イオニアさん、ニュース王子、お付きの女官さん、ビクターさんで一台。
あっし君、エアボウド導師、荷台にストラダ元隊長、アルパン騎士、クラリオ女騎士で一台。
女騎士は兄貴と残ると言い張ったが、相手がゴリアテでは役に立たない。
「イオニア様と殿下を守れ! これは命令だ!」
「ま、ホントはもう命令できる立場じゃないんだけどな…」
ぶるっと身震いする武者震い女騎士。
「めめめ、命令!……将軍の命令!」
「あああ、もっと、もっと色んなこと、命令してくださいぃ!」
武者震いだよね?
ちょっと気持ち悪いぞ、何かに目覚め女騎士。
あと、生臭導師、ビクターさんに同乗者代わってくれとか言うのやめて。
確かに、イオニアさんと女官さん、いい匂いしそうだけど。
あっし君と女官さんが冷たい目で見てるから。
「お姉さま、お気をつけて。どうかご無事で…」
「心配するな、イオニア。そっちこそ気をつけてな。」
凛々し王子系の顔してお嬢様を見送ったデイエート。
甘えんぼ状態を知ってる俺とお兄ちゃん、思わず顔を見合わせて苦笑い。
ま、俺の方は表情変わらないですがね。
「よし、アイワ。西街道に沿ってサガっ原へ向かってくれ。」
兄貴の指示で進行開始。
「サガっ原の様子を見たあと、奴らがどうするか…」
「あきらめるか、警戒するかして引き返してくれればそれで良し…」
「進軍を続けるつもりなら、その先の一本道で迎撃する。」
「最初から全力で攻撃。」
「初撃で大損害を与えれば、奴らも戦略を見直すだろう。」
「そうすれば飛行ユニット修復の時間が稼げる。」
さらに、北遺跡ドームと連絡を取る。
「ハイバンド道士はいるか?」
あー、いたいた。そんなヒト。
『え? 私?』
「軍用獣機の弱点とかないか?」
「一人やっつければ全部停止するみたいな方法は…」
『そんな上手い話は…そもそも複数操作の方法は私には秘匿されてたし…』
なるほど、獣機使いの秘密って、既得権益確保のためだけじゃなく、機密保持の目的もあったわけか。
侵攻軍にはトンちゃんが張り付いている。
次々とサガっ原に到着したゴリアテ。
先行して駐留しているはずの兵站部隊が見当たらない。
それどころか不自然にバラバラになった荷車や馬車。
何百年も経ったかの様に錆びて朽ち果てた鉄蜘蛛。
バラバラに吹き飛ばされた軍用獣機の残骸。
到着した先頭部分の兵士たちは途方にくれた様子。
用心深い指揮官なら、この時点で引き返すだろう。
だが…おそらく獣機使い達には王都の情報が伝わっている。
そう、もう引き返す所はないのだ。
進んで、レガシの街を制圧するしかない。
バンカーがすでに敗れているとも知らず。
教えたら降参する?
そんなわけないよね。
もともと一致団結していたわけじゃないしね。
ゴリアテが、いっせいに鉄蜘蛛から降りる。
先行させて敵を排除するつもりだ。
操縦用電波は到達距離が限られるから、最低限の鉄蜘蛛は同行しなくてはならないはずだが?
ゴリアテ10体に鉄蜘蛛一台くらいな感じで進軍を再開。
「あれって…操縦者の乗ってる鉄蜘蛛をやっつければ停止するんじゃないか?」
おう、先生。そうですね。
今までの例から言うと操縦器を破壊すればゴリアテは自動モードでも停止した。
だが、兄貴が疑問を呈する。
「どうかな? 複数の獣機を同時設定するモードなんだろ?」
「攻城、攻都市戦だと、攻撃範囲が広いから…」
「電波が届かない場所でも活動できないと実用的じゃない。」
今まで見て来た対象ロック自動モードと範囲指定攻城戦モードは違う?
ま、やってみればわかるか。
まず、ミサイル攻撃だ!
先にミサイル使っちゃわないとね。
荷台に取り付けたのはいいけど…
ロケット噴射が危なくて荷台が使えない。
ちょっと詰めが甘いぞ、職人衆。
兄貴、兄妹エルフ、ちょっと避難。
「ミ○ルがいなくなった」的なのは困るからね。
被甲身でガードの上、ミサイル発射!
発射コントロールは俺。
標的はゴリアテじゃなく、鉄蜘蛛を集中的に。
突然飛んできた未知の飛び道具。
なすすべなく破壊される鉄蜘蛛。
6発のミサイルは外れることなく対象を破壊。
「止まらんな。」
「やっぱり独立行動モードがあるんだな。」
兄貴の予想通り。ゴリアテは止まらない。
『音声通信を傍受しました』
え? ヘルプ君? 傍受?
そうか、獣機使いはインカムを装備。
鉄蜘蛛の通信機能を使ってるんだっけ。
『攻撃を受けています!』
『な、何だ!? 今のは? 魔法攻撃か?』
『前方に多脚戦車、敵に鹵獲されたものと思われます。』
『軍用獣機を先行させろ!』
『そういわれても一本道…止まれ! 押すな!』
後方の鉄蜘蛛は進行を止めようとしたが、何せ一本道。
次から次へ押し寄せるゴリアテに押されて街道を外れた。
転がり落ちる奴とか、押しのけられて転倒する奴とか。
「素人だなあ…こいつら」
兄貴があきれたようにつぶやく。
「そもそも、斥候も出さずにこんな一本道で進軍すること自体がおかしいんだが。」
まあ、歴戦の将軍からみれば宗教団体崩れの至上主義者集団なんぞ烏合の衆同然か。
「鉄蜘蛛は後回しにしよう、火力のあるうちにゴリアテを減らす!」
「え? 電波遮断効かない? 我は…」
キラすけが役立たず化してショック受けてる。
「キララ、魔力を温存していろ。この後どうなるかわからん!」
「ケロちゃん、爆弾の投擲、頼みますよ。」
鉄蜘蛛に積んできた爆弾から投擲開始。
ケロちゃんGのアンダースローで投げられた爆弾が次々炸裂。
一発当たり2、3体のゴリアテが吹っ飛ぶ。
街道が穴だらけ。
普通の車両ならこれだけで進軍不可能だが、ゴリアテも鉄蜘蛛も不整地走行が可能だ。
だが、進行速度は確実に低下した。
ハイエートの長距離射撃。
持続性炎縛鎖護符が発動。一射で隣接する複数の獣機が炎上。
デイエートが射ているのは、消磁魔法の矢だ。
旧型鉄蜘蛛の動きが止まる。
投げる! 射つ!
ベータ君に器機召喚された爆弾。
最適化されたケロちゃんの投擲が的確に着弾する。
次々と破壊、炎上、機能停止する軍用魔道機。
街道を進むことも後退することもできず、残骸の山を築いていく。
だが、それでも次々と現れるゴリアテ。
進軍が止まる様子はない。
「いくら何でも変だ?」
何がです? 兄貴?
「これだけ損耗したら、停止なり退却なりするはずだ。」
「いくら素人でも、やみくもに過ぎる。」
『もしかしたら、あいつら…』
モニターを通じて状況を見ていたドームから通信が入る。
なんです? 小太りハイバンドさん?
『解除の仕方がわからないんじゃ…』
そそそ、そんな馬鹿な!
『やつら操作法を隠蔽してた…最小限の人数しか知らないはず。』
『知ってるやつを最初の攻撃で…やっちゃった…としたら?』
……あれ?
たぶんレガシを攻撃目標に設定して行軍してた。
状況を見て変更や中止を指示するとしたら…
うん、先頭付近にいた可能性大だよね。
俺たち…自動モードを解除できる操縦者をふっ飛ばしちゃった?
ええ? 設定変更不可?
もはや獣機使いにもどうしょうもない状態?
うああーー、墓穴!!
「なんてこった! 大失態だ!」
兄貴が頭抱える。
「ま、あるよ。そゆこと…わりとね。」
先生が達観したご様子。「やらかし」のベテランだからね。
覚悟はしていたつもりだが、見通しが甘かったと言わざるを得ない。
一見破壊したように見えたゴリアテ。
だが、中にはゾンビのように立ち上がるやつも。
両足さえ動けば進攻を続ける。
そして、ゴリアテと同数の鉄蜘蛛がいるのだ。
ベータ君が音を上げた。
「だめです、引き寄せ認識できる爆弾がもうありません。」
「デイエート、護符矢は?」
「ダメ、お兄ちゃん…品切れ…」
「エンチャントならするぞ!」
「ダメ、矢そのものがもう無いのよ…」
飛び道具がタマ切れだ!
「アイワさん、退いてください!」
「後退して北遺跡に避難を!」
生身のヒト達は後退してくれ。
「お前はどうするんだ?」
「ここからは私たちの出番ですよ。」
後は魔道機同士の肉弾戦だ。
頼むよミネルヴァ、ケロちゃんG。
オーバードライブ!
パワーブースト!
魔道機軍の前に立ちはだかる。
パーフェクトミネルヴァもブースト!
巨大なエクソアーマーソードを構えて俺の傍らに立つ。
その後ろにはケロちゃんG。
投石! サイドスロー!
爆弾が無くなったので、その辺の岩をひっつかんで投げる!
至近距離からぶっつける大岩。
けっこうな破壊力。
直撃を受けたゴリアテが吹っ飛ぶ。
ハイパー拳骨シュートが装甲を砕く!
ドリルアタックでボディを貫く!
天空無双剣が巨体を両断する!
アーマーソードが切り裂く!
ミネルヴァのオーバードライブ!!
白いボディに走る赤いライン!
ドリルソードでなぎ倒す!
何体破壊しただろうか?
40体? 50体? いや、100体いってるんじゃないの?
だが、街道からは次々とゴリアテが現れる。
じりじり圧されてるぞ。
飛行ユニットの機動力がないのが、これほどきついとは。
後退しながら戦闘を継続。
接近しすぎて肉弾戦に移行していたケロちゃん。
ついに停止した。エネルギー切れだ。
レガシの街を目標に設定された機動軍団。
脅威にならない相手にはお構いなし。
停止したケロちゃんを街道わきに投げ出すと無視して行軍を続ける。
いったいあと何体居るんだ?
後方にレガシの街が見えてきた。
ここまで圧し込まれていたのか…
街の向こうに北の丘陵…
北遺跡、エルディ魔道研究所のシルバードームが見える。
もう向うからもこちらが見えているはずだ。
「ピロリーーーン!」
おおっと! いつもの通知アラーム。
『多数の軍用機動体を含む大規模戦力が有視界領域内に侵入』
『筐体と交戦中』
『【敵】と認定』
『敵による施設への攻撃意志を確認』
『協定はすでに破棄されています』
『筺体、および関連施設に対する重大な脅威と認定』
『住民の生命に対する現状で対応不可な重大な脅威と認定』
え? 誰? ヘルプ君?
『違いますよ、遺跡の内部からの信号です』
え? これ…倉庫の封印扉に記されていた説明書きだよね?
「ピロリーーーン!」
『開錠に必要な要件が満たされました』
倉庫は開封済みだったはず…まだ何かあるのか?
『拡張機体の起動が許可されました』
『拡張機体の管理AIと魔道機体本体の補助AIを統合』
『…………』
ヘルプ君?
『権限の移行を確認』
『拡張機体を起動しますか』
拡張機体? えーと、それって…凄いヤツ?
『スゴイ奴です』
起動すると街に被害とか出たりしない?
『街は大丈夫です、一部の建物に被害が及ぶ怖れがありますが』
人的被害は?
『現状では問題ありません』
よし! じゃあ、オッケーだ!
起動しちゃって!!
このさい使えるものは何でも使う。
『起動シークエンスを開始。エネルギー充填率80%』
『想定されていないエネルギーの流出を検知』
『当該経路を封鎖、対応済み』
『残存エネルギーにより起動可能』
『エネルギー充填率90%、拡張機体を起動します』
おお、来た!
どこだ?
北遺跡付近をズームアップ!
遺跡ドーム、前方後円墳のさらに前。
突然の振動!
地面に亀裂が走る!
斜面の土が盛り上がった。
土煙が吹き上がる!
あー、これ特撮もので地底怪獣が出現する時のアレ。
倉庫の奥にあった扉。中に土が詰まっていた所。
あの扉の中に格納されていたのか?
何で土が詰まってたんだ?
地下から巨大な腕!?が出現する!
崩れ落ちる土砂、家が一軒巻き込まれた。
「私ん家があああーーー!」
ああ、一部の建物って……先生の家かあー。
そして!
うん、知ってたよ。やっぱりこう来なくちゃね。
巨大ロボだ!!
先生の家を土砂に巻き込んで半身を起こす。
コイツ、動くぞ!
これが拡張機体か!
ゆっくりと立ち上がった。
拡張機体、大地に立つ!
「ガ○ダム大地に立つ!」第一話!
燃えるぜ!!
『でも、サイド7はスペースコロニーですよね?』
『……大地?』
今それ突っ込むの? ヘルプ君。
いいんだよ、それはもう!(汗)
40年前に済んだ議論なんだから!