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ラストベルト


大迷宮内部には魔王機バンカーと親衛隊。

大街道からモアブ軍本隊とゴリアテ軍団。

同時に対処が求められる厄介な事態。

大街道とゴリアテ軍はトンボ型ドローンのトンちゃんが見張っている。

大迷宮の出入口はハウンドとケロちゃんGが見張り。

俺本体は北遺跡の警備に当たる。

大迷宮の内部にはカナちゃんも入り込んでいるので奇襲を受ける心配はないだろう。


レガシの住民はいざと言うときに備えて避難の準備を進めている。

組合長、おやっさんは前回のモバリックの一件以来、避難所の準備を進めていた。

そのうち一つは大迷宮の中階層。

確かに避難所としては最適。

今現在、モアブ親衛隊が入り込んでるのでちょっとまずい。

備蓄食料も奪われちゃったしね。

もう一か所は工房専用の石炭と鉄鉱石の鉱山。

両方とも規模は小さいし、常時採掘がおこなわれているわけではない。

専任の鉱夫がいるわけではなく、必要な分を必要なときに掘り出していた。

坑道も浅く、ほぼ露天掘り。

一年に何回か周辺の村からも鉱夫を雇ってまとめて掘り出す。

その時の作業員が泊まり込むための小屋を大幅に拡張して避難所を建設。

まあ、例によってケロちゃんG達が活躍したわけですが。

幸い街の住民は種族の特性上、動けない高齢者はいない。

あと、あんまり幸いではないが…子供も少ないんだよなあ。


そんなこんなしているうちに進攻軍本隊が大街道関所に到着した。

関所はもぬけの空、ちょっと拍子抜けしたようだが、ここで一旦駐留するらしい。

監視担当はトンちゃん。カナちゃんズと連携しつつ様子をうかがう。

王軍兵士、モアブ軍兵士に混じってちょっと違う服装のやつらがいる。

神官っぽいカッコ? ちょっと宗教がかった衣装。

こいつらが【獣機使い】か?

わざわざベールで顔隠したりして、痛い。

主に新型鉄蜘蛛に乗っていること、インカムを装備していることから見て間違いないだろう。

ストラップで首から操縦器を下げている。

その中でいくつか気になるものが。

この操縦器…ちょっと今までのと違う?

外部アンテナが付いてない?

レバーやボタンの数が多い。

プロ仕様? 複数制御が出来るタイプか?

鉄蜘蛛内の中継器使用が前提だから本体の電波出力は小さくていいのかな?

いや、もしかして有線接続用なのかも。


王軍兵士はテントを張って野宿。

モアブ兵は建物内で雑魚寝。

獣機使いは当然のような顔をして宿の客室を使用する。

この格差。こりゃあ、不満もたまるわな。

カナちゃんズが兵士たちの会話を拾ってくれる。

王軍兵士たちは見張りも担当、交代制だな。

「俺たち、なんでこんなことしてるんだ?」

兵士たちが愚痴をこぼしあう。

建前としては反逆者の討伐に来た事になってる。

イオニアさんを旗頭に反乱を起こしたギャザズ将軍を打倒するってのが表向きの理由。

「ホントに陛下のご意志に沿っての命令なのか?」

「そんなわけないじゃん!」

「なんで大街道関所に誰もいないんだ?」

「王命なら支援を受けられるはずだろ?」

「噂の軍服ウエイトレスはどこ行ったんだよ(泣)」

「今頃、王都はどうなってるんだ?」

「ストラダ隊長もモアブ伯も戻ってこないし…」

王軍の拠点であるはずの関所が放棄されていたことで疑念を抱いているらしい。

軍服カフェが丸焼け再建中だから不安倍増。

少し、別の不満もあるようだ。

ちょっと悪戯してやるか。

トンちゃん、無音ホバリングで降下。

サンプリング音声を合成、どこにでも居そうで誰のでもない音声。

もちろん著作権フリー。

「王都はギャザズ将軍が掌握しちゃったらしいぜ。」

兵士たちの顔の高さでささやいた。

「え? マジかよ!」

「え? 今言ったの誰?」

「お、俺じゃないぞ!」

あ、これ、楽しい(邪悪)

「陛下はイオニア様と和解したってさ…」

「モアブ伯は逆に王都から追撃されるかも…」

兵士の会話に横から口出し。

てきとーに不安をあおるようなことを囁くよ。

あー、拡散希望!

くくく、みんなオレがテキトー言った事、信じてるぜ!

バカだぜ! オレは賢いぜ! 歪んだ優越感。

SNSでデマ飛ばす奴の気持ちがわかるぞ。


一夜明けて、進攻軍は出発…しなかった。

レガシに向けて最終行程だが、ここで足踏み。

道が狭い!

レガシに向かう小街道は馬車がすれ違えるくらいの道幅。

4車線から6車線で路肩もある大街道に比べると1/4以下しかない。

鉄蜘蛛一台通るのがやっとだ。

これでは200体のゴリアテが一斉に行動するのは不可能。

兄貴や先生が読んだ通り、街近くに駐留地を作るしかあるまい。

騎馬の斥候が派遣される。

そして、この辺で大軍が陣を張れそうな平地は一か所しかない。

うん、こっちは予定通り。


軍用獣機を乗せた何台かの鉄蜘蛛と主に兵站部隊からなる人間兵士。

駐屯地の確保に先行。

荷物専用の鉄蜘蛛もいるな。全部旧式タイプだ。

ゴリアテの数は…8体か。

何にせよ、ここでかなり時間が稼げる。

いや、稼ぎすぎ?

先行した部隊が草を刈り、石をよけて平地を作り、道をつけて馬車や荷車を通す。

ゴリアテ大活躍。ああ、軍用獣機があの形なのはこういう事か。

「軍用」てのは「戦闘用」っていうのと同じ意味じゃないんだな。

ケロちゃんGが土木工事に役に立ったのは、それが元々本来の任務の一部だったから。

両手が使えるのはとにかく便利だよね。

「ヒト型兵器なんてナンセンス」って意見は工兵隊が考慮に入ってないな。

陸上自衛隊で言ったら施設科。

小街道を通って馬車や騎馬、歩兵が列をなしてサガっ原に向かう。

荷駄隊が運ぶのは主に兵糧。樽とかもあるな。

そう言えば水筒護符には水は入るけど酒は入らないって言ってた。

たぶん油とかも入らない。

軍隊って大変だなー。

でも、早くしてくれないと、魔王機が大迷宮から上がってきちゃうんだけど。


その間にレガシでも作戦の手配が進んでいた。

ドローンによる偵察機能はこちらが圧倒的に有利な部分だ。

先生が仕掛けた武装解除用錆腐風(ルストハリケーン)魔法。

作動させて武器が使い物にならなくなったあたりでタモン将軍、王子とイオニアさんが説得する。

そのためには鉄蜘蛛に乗って拡声魔法の声が届くところまで接近しなくてはならない。

鉄蜘蛛2台で向かうことになった。今回鹵獲した新型を使用。

エアボウド賢者、ビクターさんが護衛。

運転はアイワさん。習得してたんですな。

もう一台の運転手はあっし君。

思いがけない役目にビビりまくりブー。

兄貴、ストラダ元隊長、アルパン騎士、クラリオ女騎士は荷台。

英雄たる将軍と、勇者王の娘、次期王様である王子。

これだけ揃えば、王軍兵士だけでなくモアブ兵だって折れるだろう。

それでもゴリアテを使って攻撃してくるようなら空爆。

マッハ飛行と爆装ユニットで操縦者ごと吹っ飛ばすことになる。

さすがにもう、きれいごとは言ってられない。

地下倉庫から格納庫にミサイルと爆弾を移動。

すでに爆装コンテナには搭載済み。

空爆ユニットの攻撃力は圧倒的だ。

ストライクスカイエクソン!

だが、弱点もある。

一回あたりミサイルは4機、爆弾は3発しか積めない。

複数回の出撃に備え、タンケイちゃん、職人衆、工兵機が搭載作業を練習していた。

レーシングチームのピットクルーみたいな感じ。

「帰還から再出撃まで1分弱てとこだな。」

この辺、さすが職人衆。プロ集団だわ。


そして作戦決行のタイミングは来た。

先生、組合長、おやっさん、夢魔女王が管制室に集合。

もちろんベータ君、ハイエート、デイエート兄妹。

あと、サンゴロウ騎士、ミーハ三戦士はいいとして…

なんでマビキラ、ディスカム?

モニターに映し出されたサガっ原。

ほどよく兵士や物資が集結した。

追加で移動してきたゴリアテを足して12体。

獣機使いが率いる機動軍団本隊はまだ大街道上に留まっている。

ぎりぎりまで魔力供給を受けるつもりなんだろう。


「大迷宮の動きはどうだ?」

先生がトンちゃんに問いかける。

俺本体は北遺跡の外で警戒態勢継続中。

迷宮内のカナちゃんからの情報を受信して伝える。

「今のところ動きは有りません。」

「魔王機の襲撃と同時になる事態は避けたいからな。」

幸い、迷宮内と機動軍団との間には通信手段がない。

タイミングを合わせて仕掛けるとかはできないはず。

だが、偶然一致と言うことも十分あり得る状況だ。

飛行ユニットは一機しかないからね。

俺本体のビームはまだ修理中。

ビーム無しで魔王機と戦闘とか…イヤすぎる!


サガっ原の中継担当はトンボ型ドローントンちゃん。

魔法陣の起動も担当する。

「錆腐風! 連続起動!!」

先生の号令で起動護符を投下。

平地の周辺部、陣を引いたモアブ軍・王軍の周囲に魔法光が浮かび上がる。

外辺にいた兵士たちが気づいてあわて始める。

「周辺の五ヶ所に配置した魔法陣が連携することによって広範囲を作用領域にすることができる。」

「私のオリジナルだぞ。」

自慢げ、先生。

「すごい! これなら魔導士を大動員しなくても広範囲攻撃魔法が仕掛けられる!」

「魔法戦闘に革命が起きるぞ。」

唸るサンゴロウ騎士。

「ふふふ、魔法陣も5個描くだけで済むし、起動呪も一か所だけだ。」

ラクがしたかったんですね…先生。

錆腐帯結界ラストベルト!!」

起動した魔法陣から発生した光が地面を這うように伸びる。

次々と魔法陣を起動して五芒星セーマンを形成。

ああ、五ヶ所なのは一筆書きが出来るからか。

サガっ原全体が光に包まれる。

駐留軍全体を覆いつくす魔法光。

錆腐風が吹き始め、舞い上がる土埃に兵士たちが顔を伏せる。

そして平地の空気全体が金属に作用を及ぼしていく。

剣が、槍が、錆びていく。

「な、なんだ? 槍が錆びて…穂先が無くなってるぞ。」

「うわああー、俺の剣があーー!」

「弓矢の矢じりが消えた!」

「うわああああーーー! 鎧が! 腐り落ちて…」

うーん、女騎士が濃いのを浴びちゃった時を思い出す。

いや? あれ? ちょっと、思ってたより強くない?


馬に乗っていた騎士が転がり落ちた。

馬具、あぶみくつわに使われていた金具が消滅したのだ。

蹄鉄が失われ、ヒヅメに痛みを感じた馬たちが騒ぎ出す。

車軸が折れ、車輪の鉄輪が錆び落ちて馬車や荷車が横転する。

輸送用の長持、木箱の止め具、蝶番が消えて中身がぶちまけられる。

「食料がーーー!」

「矢が、武器が…」

転がり出た武器、金物は見る見る腐食。

馬車に使われていた釘が腐って箱ものが次々とバラバラに。

樽の鉄製のタガが錆びてはじけ飛ぶ。

飲料水、酒、油が漏れだす。

「あああー止めてくれー!」

「油があー! 火を使うなー!」

「あああ、鍋が…スプーンがー」

あ、調理器具や食器がなくちゃご飯食べれないかー。

腰ベルトが、靴が、ボタンや留め具が錆落ちて、服装にも影響が。

制服の乱れは心の乱れ!

ネクタイをちゃんと絞めろ!

とか言って直してくれる美人風紀委員長なんていない!

文句言うのは中年オヤジ教師だよ。

絶望した!

そして、ホームレス風になった兵士たちはもちろん男ばっか。

ズボンずり下がり騎士団。

ああ、男の下着もやっぱり紐パン風ふんどしなんだ…この世界。

異世界ものでは、あえて語られる事の少ない話題。

いや、異世界ものに限らず…男の下着なんかねー。

いや? 乙女ゲー悪役令嬢ものとかでは触れられているんだろうか?

BLものでは?

ブーメランパンツに関するねっとりとフェッチっこい描写とか?

あるの?

認識しないようにしていた事実を突きつけられる!

絶望した!

一部トランクス派もいるな? いわゆるサルマタ。

まったくどうでもいいが。


「あ、あれ?」

先生当人が驚いているのは何でなの?

「お、おかしいな…こんな強力なはずは…」

「剣や槍が使い物にならなくなる程度のはずなんだが…」

メガドーラさんが聞いてくる。

「魔力源はどうなっとるんだ?」

「そ、それは農業魔法同様、受光魔法陣を組み込んで太陽光を…」

「設置したのはいつ頃じゃ?」

「80年くらい前かなー」

「その間ずっと魔力を蓄え続けておったわけだの。」

「え? あ! そっ…」

「お前はいつも、やり過ぎなんじゃ。魔力は調節しろと!」

おやっさんも加わった。

「やりっぱなしにするな! ちゃんとメンテナンスしろといつも…」



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