電話会談
モアブ伯に徴用された王軍兵士を説得するためにレガシに同行したニュース王子。
かつての臣下であるバンカー・モアブと電話会談を希望。
迷宮入口から有線電話を使ってみることになった。
今、入口をここを守っているのはケロちゃんG。
さらに、職人衆が突貫改造した2体のゴリアテも。
今回破壊された犬獣機から自律CPUを取り出し、セキュリティ設定の上、再起動。
予備の操縦器に接続して、ケロちゃん同様装甲内に収めてある。
G-typeゴリアテが3体。かなりの戦力だ。
ケロちゃんドラゴン、ライガー、ポセイドンと命名しようと思ったが、ミネルヴァに却下された。
これで魔王鎧にどこまで対抗できるかわからないけど…
「これを使って迷宮内の親衛隊と話が出来ます。」
ストラダ騎士の説明に興味津々の王子。
じゃあ、やってみますか。
磁石式電話機、岩崎通信社製41号M型。
21世紀から転移してきたはずの【人間】がなんでこれを?
1958年製だよね?
ちょっと裏を見る。
「日本電信電話公社」って書いてある。
本もんだコレ! 文化遺産級だよ。
転移者にコレクターとか居たのかね?
受話器を置いたままクランク型ハンドルをぐるぐる回す。
「アイザック? 使い方知ってるのか?」
驚くストラダさん。
そりゃま、俺の地球の技術だしね。
もっとも若い奴は途方に暮れるだろうけど…
いや、もうダイヤル式でさえ使い方がわからないと言う事実!
受話器を取って耳を当てる。
ま、耳は無いんですがね、俺。
『ガシャ! はい、こちらヘルズパレス。』
でたよー。まだヘルズパレスに居るのか?
「もし、もし。いつもお世話になっております。」
「わたくしエルディー大導師所属。神代魔道機のアイザックと申します。」
「モアブ伯爵はご在宅でしょうか?」
『……どういったご用件でしょうか?』
「えー、じつはですね。モアブ伯爵とお話ししたいと言う方が、王都からいらっしゃってまして…」
ちょっと無言、バンカーに確認している模様。
『今、本人に代わります。』
「あ、はい。ありがとうございます。」
なぜか、電話口調になってしまう俺。
まあ、電話だが。
そして、見えるはずもないのにペコペコ頭を下げる。
マンガだとたいてい頭を下げながらハンカチで汗を拭くところ。
そんな人、見たことないですがね。
『どういう事かな? 誰が来ていると言うんだ?』
バンカーだ。まだヘルズパレスを動いていないのか。
いや、この人のことだ。欺瞞工作と言う可能性もある。
「今、かわります。」
受話器をニュース王子に渡す。
さすがマニア王子、俺が会話しているのを見ただけで受話器の話し方を理解したようだ。
「バンカーか?」
『そ、その声は! ニュース殿下!? まさか!』
集音機能で会話を聞き取る。
明らかに狼狽しているな? バンカー。
『な、なぜ、こんなところに!? 危険ですぞ!』
「お前に聞きたかったのだ! なぜこんなことになったのかを!」
『…………』
返答に詰まるバンカー。
「父上や……私ではダメだったのか? お前にふさわしくはなかったのか?」
『そ、そうではありません! そうではないのです。』
『事の経緯についてはエアボウド大賢者にお聞きください。』
『陛下や殿下に含むところがあったわけではありません。』
『ただ…出来ることがあるとわかった以上、やらずにおくことは…私にはできなかったのです。』
「…………」
今度は王子の方が黙っちゃった。
『どのような事態になろうとも、陛下や殿下に危害が及ぶようなことは致しません。』
『ですから、すぐ王都にお戻りください。そこは危険です。』
「この街が危険だと?」
『はい、今進攻中の兵団の中核には至上主義原理主義者が居ります。』
『異種族の街に手心を加えるような奴らではありません。』
何だと!? バンカー自身にもコントロールできないのか?
「わかった。…そういえば…」
「魔王鎧なるものを纏っておるそうだな。」
『はい、殿下にご披露できないのは残念ですが…』
『神代魔道機をも凌ぐ代物です。』
「魔王鎧、と言うのはヨロイの名前であろう? 纏ったお前は何と名乗るのだ?」
『はて、そういえば…ヨロイを名乗るのは変ですかな?』
なんかのんきなこと言い始めたぞ。
こんな時に名前なんか…どうでもいいでしょう。
「犬型が獣機、ヒト型が兵機…指揮官型は将機と言うらしいな…」
「ならば、王機…魔王機か。」
『魔王機! 受け賜わりました。』
『もう一度、そちらの魔道機、アイザックに代わっていただけますか?』
俺? はいはい。
『聞いていたかね?』
「ええ、聞いておりました。」
『本隊が到着すればその町は廃墟になる。』
『こちらから連絡する手段も、制止する手段もないのだ。止める事は出来ん。』
『街が無くなれば、遺跡の熱線砲が遠慮なくヘルズパレスを破壊するのだろう?』
それは、まあ、そうなりますわな。
もちろん、ゴリアテ部隊も全部蒸発させてやりますがね。
『そうなっては元も子もない。』
『私は本隊到着前に遺跡の砲台を破壊しなくてはならん。』
決戦は不可避、と言うことですな。
「お待ちしておりますよ。」
通話は終わった。
再び北遺跡に戻ると事情を先生に説明。
「どうにも厄介だな。至上主義者どもは。」
「ストラダ騎士の話…バンカーの話。何なんだろうな、独占してる技術ってのは?」
「ああ、それなら…」
小太り学者エルフ、ハイバンドが口をはさむ。
「自動攻撃モードの操作でしょう。」
ええ? 知ってるの?
「知ってるなら、なぜ早く言わん!」
「いや、聞かれなかったし…」
首関節を極める先生、同時に前腕骨を頬骨に押し当てる。
フェイスロック!
「痛い痛い痛い!」
「通常、軍用獣機と操縦器は1対1でペアリングされてます。」
「自動モードは操縦器で目標を設定しますが…」
「鉄蜘蛛の再送信装置を通すことで複数獣機の同時設定が可能になるんですよ。」
何だと!?
「複数の軍用獣機に同じ目標を設定できると言う事ですか?」
なんか、あまり効率がいいとは思えないが…
ゴリアテが複数でかかる必要のある敵なんているのか? 俺以外に。
「いや、目標っているのは魔道機じゃなくて、お城とか建物とか…」
「そういう事か!」
ハイバンドの発言の途中で声を上げたのはアルパン騎士。
「自動攻撃モード…それ、おそらく本来は攻城戦用の機能ですよ!」
「敵の城や砦、都市そのものを範囲を決めて目標に設定すれば…」
「あとは自動で徹底的に破壊してくれる。おそらく役割分担も自動で…」
「その辺の設定方法を独占してるんだな、奴ら。」
なるほど。バンカーも「廃墟になる」と言っていた。
小太り学者も相槌を打つ。
「自動モードの存在は知ってますけど、実際どうやるかはわからないですよ。」
「その辺、僕じゃなくて、前任の翻訳能力者が扱ってたらしくて…」
「僕のとこには資料が回ってこなかったんですよね。」
向こうも一枚板じゃない。
至上主義団体とモアブ伯とで色々駆け引きがあったんだな。
自動モードが欠陥品に見えたのは、動く相手を目標に設定したからか。
考えてみれば、獣機、魔道機は異世界転移者【人間】側の独占技術。
敵側には魔道機はいない。
開発段階では、魔道機対魔道機の戦闘というのは想定されていなかったわけだ。
思えば本来、改造人間はショッカーの独占技術だ。
怪人にとっては、改造人間は全員味方であるはず。
改造人間同士で戦った経験など無いし、想定外。
戦闘を重ね、対怪人戦闘のエキスパートとなった仮面ライダー本郷猛。
ある意味ド素人な怪人では勝てるわけがないよ。
それで、イカデビルは特訓したわけかー。
なるほど、なるほど。
アニメ侵略者のメカもたいてい独占技術だよな。
ロボ対ロボの対戦経験が少ない。
第一クールを生き残り、対ロボ戦闘の経験をつんだ主役メカには勝てない。
2体のロボを戦わせ、勝った方を出撃させた兄弟幹部は実は間違って無かったんだ!
てなことはともかく、状況はひどくまずい。
200体のゴリアテ。
レガシの街を攻撃範囲に指定されたらひとたまりも無い。
唯一の対抗手段は…空爆!
飛行ユニットとミサイル、爆弾で空からの攻撃。
だが、大街道上にいる間に空爆したら大街道も損傷するよな。
この世界の重要インフラを破壊していいのか?
修復できるだろうか?
それに、飛行ユニットでは出撃一回あたりの積載弾数が限られる。
200体を1回で、と言うのは到底無理だろう。
最初の空爆で逃した奴らが分散したら、補足し切れないかも。
最大の問題は…いつ、バンカー…魔王機が出てくるかわからないってこと。
この状況じゃ、北遺跡を離れる事が出来ない。
飛行ユニットのビームなしじゃ魔王機に対抗できないのは明らか。
王軍兵士を含む人間の軍隊だって数が多いから簡単な相手じゃないし…
「人間兵士…兵站部隊は何とかなるかも知れんぞ。」
先生?
「タモン殿だったらここをどう攻める?」
「そうですな…大街道から魔力供給を受けているわけですから…」
「ゴリアテはギリギリまで街道上に留まるでしょう。」
「最小兵力…何体かのゴリアテと鉄蜘蛛を護衛に付けて兵站部隊を先行。」
「レガシ近くに侵攻の拠点を設置する。」
「レガシ近くで陣を張るとすればどこだと思う?」
先生がタモン兄貴に尋ねる。
「ここ、サガっ原でしょうな。」
地図の一点を指さす。
「そうだろうな、軍隊が野営できる広さのある平地は他にないしな。」
「まず、人間兵を武装解除する。」
言い放つ先生に驚く兄貴。
「武装解除?」
「そうだ。昔、レガシの防衛を考えて手を打っておいたんだよ。」
「手を? あ、何か仕掛けがあるんですか?」
「そうだ、軍隊が陣を引くならあそこだと見当をつけてな。」
「錆腐風が仕掛けてある。」
「武器がボロボロになれば士気は下がるだろう。」
「そこで王軍兵士をイオニアとニュース王子に説得してもらう。」
昔って…よくそんなに気が回りましたね。
レガシが攻められるような事態があったんですか?
「あの頃、戦略模擬戦遊びが流行ってて…」
「あー、あったあった。そんなブーム。」
組合長が相槌を打つ。
「エルディーが作れ作れって言うから工房で増産して…」
「売りに出したころには王都でブームが終わってて…」
「売れ残ったんだよなあ、アレ。」
おやっさんが愚痴る。
「私もけっこうハマっててな。」
「レガシ防衛作戦のシナリオとか自作してー」
「…それでつい、気合が入ってリアルにサガっ原に仕掛けを…」
そんな理由?