総力戦準備
冥刻界の女王神殿での戦いに敗れた俺達。
地上で立て直しを図る。
迷宮から出たときは夜明けだった。
朝風呂浴びて工房の食堂で食事。
一眠りしたあと、夕方、北遺跡に集合。
王都に残してきたキラすけの様子も知りたいと言うので、ディスカム、マビカもやって来た。
「やっぱりレガシはいいなあ。」
先生がのんきなこと言う。
「風呂サイコー!」
「王様メシも良かったけど、肩が凝るしな。」
「あちしも王様メシ食べてみたかったしー。」
なぜかデイシーシーがしれっと混じっていた。
追い返そうとすると、
「ちょちょ! モアブ家の兵隊さんから収集した情報、聞きたくないっし?」
な、何?
「むふふっふ、食堂とかでご飯食べてる騎士さんと話したっし。」
こいつ、コミュモンスターか!
見ず知らずの軍人と世間話とか…
いや、待てよ。
元々、モアブ軍のスパイはシーシーとの世間話で情報を集めてた。
もしかしてその騎士、情報担当?
前任者から引継ぎを受けてて、また情報引き出そうとしたんじゃね?
お前、余計な事、話してないよな?
「いやいや、誰でも知ってることしか話して無いしー!」
お前が「誰にでも知らせてる」んだろうが!!
「ボンちゃんが言うには…」
ボンちゃん?
「でっかい獣機を主に動かしてる奴らは『獣機使い』と呼ばれてて…」
「自意識過剰のクソ野郎で、威張ってるって。」
「『お前らがスゴイんじゃなくて獣機がスゴイだけだろ!』」
「ロクに剣も使えないのに、でかい面してるんでイヤになる。」
「『鉄蜘蛛の荷台はすごい揺れる!』」
ああ、車とか、上になるほど揺れるよね。
「あいつらばかり、乗り心地のいい内部席を使ってる。」
愚痴を聞いただけなのかよ、シーちゃん?
「遠くでも話ができる道具を独り占めしてるって言ってたし。」
何?
「鉄蜘蛛の中から、別の鉄蜘蛛と話ができる道具だって…」
インカムか! 発見されてたのか!?
鉄蜘蛛はもちろん通信機能を持っている。
内部からゴリアテ操縦器の電波を再送信できる。
ところが、インターフェースとしてのスピーカーとマイク。
個人用インカムが装備されていなかったため、音声通話が出来なかった。
てっきり、インカムは遺跡から発見されていないんだと思っていたが…
一部の奴らが独占していたわけか。
「そのせいで隊列進行がうまく行かないってブーブー言ってたし。」
どこかで『獣機使い』を一人攫って来て拷問…尋問したほうがいいかも…
ベータ君もやって来た。
ベータ君大丈夫? 回復した?
「ベータ、大丈夫か?」
先生の問いに妙な顔で答えるベータ君。
「はい、それが…変なんです。」
「ん? どうした?」
「昨日、あれだけ固有魔法を使ったのに…」
「全然疲れてないんです。」
「え?」
驚くみんなに組合長が
「ああー、そりゃあ、あれだ。魔力核の近くにいたから…」
「補給しちゃったってことか!?」
「そういうこと。」
「まてよ? じゃあ、地下のモアブ親衛隊も…」
「今頃、元気いっぱいだろうね。」
うーん、やっかいだわ。魔力核。
「そういうお前だって…」
先生に指摘されて、左肩を見ると…
ほとんど修復されている。早い。
これも、魔力核からの放射のおかげか?
とりあえず、進攻軍の様子を確認。
迷宮から脱出してすぐ飛行ユニットに偵察に飛んでもらっている。
王都とも連絡を取り、向こうの掴んでる情報も教えてもらおう。
予想通り、進攻軍は王都へ引き返さずにロスト地方に向かった。
一部が引き返したが、王都には入らず街道を封鎖するに留まっている。
王都からレガシ方面へ援軍を送るのを防ぐためと思われる。
すぐに飛行ユニットからカナちゃんネットを中継して映像が送られてきた。
北遺跡管制室内のモニターに映る魔道機軍。
走ってる。すげー走ってるわ。
大街道から魔力供給を受けて、ガス欠の心配が無くなったゴリアテ。
鉄蜘蛛から降りて自力走行。
鉄蜘蛛には兵站部隊の荷物や兵士が乗っている。
輸送用の荷車とか馬車とかそのまま乗っけてる。
軍用獣機があればこの辺の作業はあっという間だからなあ。
普通、進軍の律速段階となるのは足の遅い兵站部隊。
だが、鉄蜘蛛に乗せたおかげで大幅にスピードアップ。
逆に乗馬した騎士や、馬車から解放された馬の方が足を引っ張ってる。
…慣れない魔道機に乗せられた兵士が車酔い。
荷台のへりからげーげー吐いてる。
見苦しい! いかん、もらいゲロしそう。
画像処理でキラキラに変換。ふう!
「こりゃいかん、すぐに到着するぞ。」
「関所の連中も逃がさなきゃならんし。」
「クリプス騎士を王都から呼び戻そう。」
「戦力は多い方がいい。メガドーラもレガシに戻ってもらう。」
王都に準備を打診。
ベータ君の認識とキラすけの能力の問題でコンテナNo.2、一回切りしか引き寄せできない。
転移メンバーの決定にちょっともめてるようだ。
準備に少し時間がかかった。
王都からコンテナNo.2が引き寄せられた。
搭乗メンバーは夢魔女王、キラすけ、クリプス騎士、サンゴロウ騎士。
クリプス騎士は関所が心配。
サンゴロウさんはマビカが心配だし、デカ馬くんもレガシに置いたままだしね。
ここまでは予定通り。
若干一名、不審な人物がいるぞ。
マントを羽織り、フードを目深に下ろしている。
その下からちらりと見える顔には…仮面。
ベータ君がクラマスさんから借りてたやつだな。
素性を隠したその姿、怪しい。
そして、小太り。
いやいや、ハイバンドじゃん!
「妹…イーディに見つかるとまずいから…」
そして、イオニアさん、ビクターさん。
え、こっち来ちゃって王都は大丈夫なの?
それに、こっちは危険だし…
加えてアルパン騎士、これでギャザズ将軍四天王が勢ぞろい。
あと二人? えええ!
ニュース王子殿下!!
なんで? もう一人は王城で見た女官さんの一人だよね?
「コンテナの大きさの都合で王子の護衛は一人に限定してもらった。」
ビクターさんの説明。護衛なのか? この女官さん。
いや、それよりも何で王子が?
「モアブ軍と同行した王軍兵士を説得すると言ってな。」
うーん、確かに…王子様がいれば説得力が違うけど…
ただのマニアック少年じゃないなあ。
小さくてもさすがは王族だ。責任感と言うか、覚悟が違うぜ。
「あ、タンケイさーん!」
ぶんぶん手を振る。
「あれー、ニュースくん。手伝いに来てくれたんすか?」
「うわ、ここ、すっごい! 魔道機基地? あ、これ何?」
エルディー魔道研究所内部に興味深々。
覚悟が違うんだよね?
「マビカー! ディスカムー!」
二人に駆け寄るキラすけ。
危ないことはさせたくないが、ダークゾーンはゴリアテに有効だしな。
総力戦になるだろう。
「兄上ー」
「マビカー」
エスブイ家兄妹も再会。
「留守の間、何も無かったろうな?」
「何もって? 何?」
きょとんと首をかしげるマビカ。
じろりとディスカムを見る巨漢騎士。
圧迫感半端ない。
そして、宿屋が預かっていたデカ馬君。
マビカが連れてきた。
巨漢騎士の顔ベロベロなめる。
ストラダ騎士がアルパン騎士に再会のハイタッチ!
腕と腕をぶつけるやつ。
すべてを許す男と男。カッコいいね。
クリプス騎士にもお誘いポーズ。
「いや、私はいいから…痛いから、それ。」
スルーだ、チャラ男騎士。
割り込んで喜々として応じる体育会系女騎士。
ホームキャンプを失って錯乱していた宿無し女騎士。
ダットさんから新品パンツを都合してもらったことで元気が出た。
「痛った!」
「ちっとは加減しろ、クラリオ!」
評判よろしくない。
だいたいお前、ストラダさんのこと裏切り者だとか言ってなかったか?
この後、クリプスチャラ男騎士を飛行ユニットで大街道関所に運ぶ。
関所のメンバー、一部はレガシに急行し兄貴たちと合流してもらう。
工房の鉄蜘蛛、鹵獲した新型も動員して輸送。
馬、馬車のないものは裏道を通って避難。
獣機騒動でヒトのいなくなった廃村に潜伏予定。
あらかじめ目星をつけていたのがクリプス騎士らしい周到さ。
夢魔女王は獣機ネットを通じて魔王城山に指示を飛ばす。
もしモアブ軍が来るようなら、ここは籠城。
幸い軍用獣機はサイズ的に地下には入れない。
警備には自律犬獣機の一隊が当たるから人間兵士では入って来れないしね。
ミーハ村に関しては軍の経路上には無いので心配いらないと思うが、念のためここにも犬獣機隊を送る。
コンテナスペースの問題でハウンドファイブの残り4体は一緒には引き寄せられなかった。
他の犬獣機と一緒に、すでに走ってレガシに向かっている。
大街道を進攻軍の後追いするので鉢合わせしないか心配したが、その辺はジョーイ君が上手くやると。
鉄蜘蛛は走り続ける事ができるけど、人間は無理。
休憩も宿泊も必要だ。
その間に裏道を通って追い抜くとのこと。
犬獣機はまだまだ圧倒的な数がいる。
だが、ハウンドファイブの4体以外はセキュリティが甘い。
魔犬将機に乗っ取られる恐れがあるから、レガシには入らず南山付近で待機。
順次セキュリティ対策を行う。
「向こうはどう出るかな?」
俺が作った地図を見ながら軍議。
ギャザズ四天王+サンゴロウ騎士がそろったことで、すっかり軍隊っぽくなってる。
「しかし…この正確な地図。」
「上空からの偵察とそれを同時に映し出す魔道機。」
「なんかもう…今までやってた戦闘とか、何だったんだ? て感じですね。」
アルパン騎士があきれ返ったような感想。
「それだけに、今までの経験とかが役に立たん。どうしたもんか…」
兄貴…いや、ギャザズ将軍も苦笑い。
「ここへ来てあの威嚇射撃が効いてきますね。」
え? どういうことです? ストラダさん。
熱線砲のことはバンカーに報告済みだと言う。
「あの熱線の威力なら、岩盤を貫通して大迷宮も女王神殿も破壊できる。」
「それが出来ないのは射線上にレガシの街があるからです。」
「モアブ側としてはレガシの街を焼き払ったりしたら自分の首を絞めることになる。」
うなづく兄貴。
「と、なれば…バンカーはまず、この北遺跡を目標にするだろうな。」
魔王鎧が迷宮から出てくるのを止めることは出来ないだろう。
決戦の場所は、ここになるか。
「バンカーと話がしたい。」
言い出したのはニュース王子殿下。
ぎょっとする兄貴たち。
正式に退職してるタモン兄貴はともかく、王軍所属の騎士にしてみれば上役だ。
名目上、王子殿下が総司令官。まあ、兵士は4人だけだけど。
「何でこんなことをしたのか聞きたいんだ。」
うーん、将来の王様である王子にしてみれば、頼りになる家臣だと思ってたんだろうし…
内緒で魔道機を見せたりしてたところを見れば、モアブ伯の方だって王子を嫌っていたわけでもなさそうだし…
「じゃあ、電話をかけて見ますか?」
提案してみる。
「でんわ? ああ、あの通話できる黒い箱か!」