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魔王鎧


モアブ伯バンカーはついに魔力核を起動。

冥刻界の女王神殿(ヘルズパレス)の機能が復活した。


その頃、俺本体、タモン兄貴、斬りまくり上機嫌女騎士は神殿直通エレベーターの中に居た。

スペースの問題で飛行ユニットは持ち込めない。

上空から迷宮入口を見張ってもらう。

エレベーター降下にかかる時間を利用してタマちゃんと意識共有、記憶同期を図る。

あああ、すげえヤバいことになってるよ!

「タモンさん、クラリオさん、まずいことになってます。」

「下についたらすぐ先生たちを連れて脱出する準備をしてください。」

「な、何? 魔犬将機より早く到着するんだろ? このリフト。」

「他にも何かいるのか?」

「敵側にも神代魔道機がいます。あっ!」

タマちゃんから送られてくる地下の状況…

「う?」

「あ、ななな、何だかめまいが…」

ややや、やばい! 魔力核が起動した。


「う、おお?」

「こ、これは、きつい!」

魔力核から放出される高濃度の魔力。

先生とジジイたじろぐ。

めまいに近い感覚にこちらも敵側も混乱。

まあ、オレ(タマちゃん)は平気ですが…

平気平気! ラッキー、ハッピー!

オレはタマちゃん! 蜘蛛型ドローン!

空も飛べるぜ! 得意は偵察!

お風呂も覗くぜ! 異世界無罪!

おいらは魔道機、涙は出ない。

かつてないほど健全だぜ!

何と言っても、ついてないんだおティンティン!

ラッパー? …あれ? あんまり平気じゃない? 

ウェイナさんが顔をしかめている。

「これ、まずいですよ…ヤバい葉っぱ吸ったみたいな気分ですよ。」

吸ったことあるんですか?

「お兄ぃーー! ふわふわするよー! くすくす。」

「こ、こら、抱きついちゃだめですよ。」

いかん! デイエートもだいぶキマってる。

組合長は…頭抱えてしゃがみ込んでるぞ。


「メドュウサ、流れを集束しろ。ここだ。」

さすがの騎士団も盾の並びが乱れている。

その後ろで声を上げるモアブ伯。

集束?

そこに置かれているのは…棺桶。

組合長のお店から接収した二つのうちのもう一つ。

「コネクト・シマス」

おお? 音声機能あるのか? こいつ。

そこへ突っ込んだのは…ミネルヴァ!

フクロウ型機体が突進!

「返せ、返せ、返せ! それはボクのだ! ボクのだ!」

羽ばたきホバリングしながら頭を突っつく!

いや、かなうはずないだろ。

それにどう見てもがっしり固定されてるだろ、ダミーヘッド。

これ、ミネルヴァも過剰魔力でおかしくなってるのか?

ここの魔力…魔道機にも作用する?

「ジョーイ君、将軍機は大丈夫?」

『え? 何がですか?』

あれ? ジョーイ君、感じてない?

まあ、キミ本体はここにはいないからね。

女怪魔道機メドュウサは?

平然とハエでも払うようにミネルヴァを払いのける。

「ウルサイ・命令ヲ実行・コネクト」

異常ないみたいだな? ダミーヘッドだから?

あれ? 影響受けてるのはオレたち神代魔道機だけ?

「うわああああーーー! 覚えてろーーー!」

捨て台詞を吐いて飛び去るミネルヴァ!

となりの小部屋、ベータ君が隠れている方だよね、そっち。


う!? 突然ハイな気分が消失。

魔力放出が止まったのか?

「な、何? これは…どういうことだ?」

「魔力が…どこかに…流れ込んでおるのか?」

全方位に放出されていた魔力が一方向に集束して送られている。

あれ? 何でそんなことわかるの? オレ。

集束先は棺桶。

その中から、蓋を押し開けて、「それ」が立ち上がった。

全身を覆う布。

白い綺麗な布が巻かれていたメドュウサに対して、いかにもなボロ布。

人型? いや、細すぎる。

と思った瞬間、ボロ布の下で膨れ上がった。

身体に撒かれた布の一部を引き裂いて、両手があらわになる。

五本の指を持つ人型の手だ。


人型魔道機!? デカい!?

俺本体より背が高いぞ。サンゴロウ騎士と同じくらいある。

人間ではありえない広さの肩幅。

何だこれ!? どうやって棺桶に入ってたんだ?

棺桶よりでかいよね?

変形機能? 装甲板をスライドさせて縮んでたのか!

棺桶のへりを踏みつぶして歩を進める。


『危険! 危険!』

アラーム! ヘルプ君!?

ジョーイ君、攻撃だ!

魔力放出の影響か、キャンセルされた拘束陣。

解放された将軍機が「それ」に斬りかかった!

「それ」は動かない。

高周波振動剣が「それ」を覆っていたボロ布を切り裂く!

切れない? 切れたのは布だけ。

「これは…硬い?」

さらに切りつけて振動剣を押し当てる!

「おおおおおおーーー!」

凄まじい振動、火花が散る!

その火花は「それ」の装甲ではなく剣の方が摩耗散乱して生じたものだった。

切断刃が磨耗。がががっと異音を発して振動剣が停止した。

火花が布地に移って燃え上がる。

気圧されたように後退する将軍機。

「それ」はゆっくりと、焼け焦げ炭化した布地を払い落とした。

「それ」の装甲には擦り傷も焦げ目すらも付いていない。

警戒し、さらに後退するジェネラル・ジョーイ。

この装甲…こいつも神代魔道機か?

だが、この…厳つくも禍々しい外見。

俺本体と同じダークグレーの装甲。

戯画化カリカチュアされたプロポーション。

人間らしく見せかけるつもりはないようだ。

幅広い肩、太い首、今にも飛び掛らんとするような前傾姿勢。

そのモチーフは明らかに攻撃性を表現している。

それに対して異様に細い腹と腰部。

その貌は…のっぺらぼう?

つるりとした球体状だ。


『エクソアーマー!』

知ってるの? ヘルプ君?

『撤退を進言』

は?

兄エルフがとりあえず全力の矢を放つ。

命中、乾いた音を立てて跳ね返った。

もちろん傷一つ付いてない。

「これ…逃げた方がいいと思いますよ。」

肩をすくめる。


にこにこ顔、上機嫌といった風情でモアブ伯が「それ」に歩み寄った。

「予想取り、予定通り、ですね。」

「どうやっても起動しなかったんですが、やはり魔力が足りなかったんですね。」

「お見せしましょう、コイツの使い方。」

「させんぞ!」

させはせん! させはせんぞぉー!!

先生が放った護符! バンカーに命中…寸前でメドュウサが叩き落した。

あれ?

「な、発動しない!?」

物理的に防がれても、魔法は発動するはずだよね?

「し、しまった! これは!!」

足元を見る先生。

女王神殿の床一面にうっすらと浮かび上がる魔法陣。

これ、見た事あるぞ。

凶暴令嬢ルミごんの魔力を封じていたリボン。

あれに刻まれていた魔力封じの魔法陣の拡大版だ。

「大変だったんですよ、これ。床一面に描くの。」

得意げなバンカー。

騎士団の盾の後ろにいた魔道士たちがうんうんうなづく。

オレ達の襲撃を予想…いや想定していたのか!

これだけの陣容をもちながら用心深い!

いや、相手が七英雄の魔導師たちである事を考えれば当然の備えとも言えるか。

魔力核祭壇の周囲を覆いつくす魔法陣。

「数が多すぎる!」

先生にも解除できない。

「これだけの数…魔力核の圧倒的な魔力量あってこその代物ですがね。」

「ま、ちょっと見ててください、導師。ここ、見せ場なんで。」

なに言って…

メドュウサに向かってうなづく。

女怪魔道機がコントロールしてるのか、これ?

「それ」の機体表面に分割線が生じる!

装甲が割れ、その隙間から赤い光が!

パワーファイヤ!? オーバードライブ?

分割線はそのまま拡大。

胸板、腹部、太股の装甲がめくれ上がるように開いた!

さらに、顔面部分がヘルメットのバイザーのように跳ね上がる!

「それ」の中身があらわになった!

え? 空っぽ??

装甲の内側…裏側は、パワーファイヤを思わせる赤い波紋が蠢く。

だが、中身は空っぽ。機械も何もない…鎧?

これ、鎧か!?

「【魔王鎧まおうがい】と名づけました。」

雀竜のウロコを使ったお高い防護マントを惜しげもなく脱ぎ捨てる。

魔王鎧の前に、背負うように立つバンカー。

覆いかぶさるように進み出る魔王鎧。

頭部、肩、両腕、腹部。

スライドし、閉じて、引き込むようにバンカーの身体を覆っていく。

飛行ユニットと俺本体の合体を彷彿とさせる。

そう、融合!

「何てこった!」

唖然とする先生。

「こんなものを…自ら纏うのか!?」

エアボウド導師がうめく。

完全にバンカーの身体を覆いつくす。

最後にバイザーが下がり、顔を覆う。

次の瞬間、顔面バイザーに亀裂が生じた!

オーバードライブモードのそれだ!

歌舞伎の隈取のような赤いラインが走る!

装着完了!

思わず見入ってしまう一同。

合体や変身の途中で攻撃しないのはお約束だしね。


ゆっくりと背筋を伸ばし、胸を張る。

「こ、こりゃいかんわ! すごい魔力量だぞ。」

「お、おい。バンカー、大丈夫なのか? その中…魔力酔いとか…」

先生もジジイ導師も人の心配してる場合じゃないですぞ。

「…いい気分だ。これが魔力酔いなら……最高の気分だ!」

声? 拡声スピーカーとか付いてるのかな?

「聞けい! 我に従う者たちよ!!」

騎士団、魔導師に呼びかける。

「我は至高なる力を手に入れた!!」

「我こそは新たなる【魔王】! 全土を蹂躙し新たなる帝国を打ち建てん!!」

剣を抜いて突き上げ、盾を鳴らし、雄叫びを上げる騎士たち!!

あー、いかん。魔力酔い。

すっかりおかしくなってるわ、この人たち。

マンガだったら瞳がグルグル渦マナコになってる感じ。

そして、自分たちでは気づいてない。おかしくなってることに。


「大導師と大賢者を拘束せよ!!」

バンカーの命令に、盾を構えて接近する騎士団。

じりじりと囲みを狭め、先生、ジジイ、兄妹、女豹戦士を追い詰める。

おーい、エレベーター! 早く来てー!!


高速思考でヘルプ君に情報提供を求める。

魔王鎧だって!? エクソアーマー?

ヘルプ君知ってたの?

すげえ物隠してたな!

パワードスーツ?

だけど、変だよ?

どうみたって魔王鎧、バンカー本人よりでかい。

関節の位置とか向きとか全然合ってないよね。

特にヒザと股関節の辺りが…

ヒザが折れる、折れるー、ゴ○ディアーン!

中身が俺本体みたいなマシン生命体だったら何とか都合もつくだろうけど。

どうなってんの、これ?

『エクソアーマー内部は本体の内部と同様、高次元構造です』

『【収納】に近似した状態になっています』

なるほど、それなら関節とか大丈夫なわけか。

するってーと、どんな体格のヒトでも装着できるって事?

便利だなー。

え? 本体内部が高次元構造? 俺の事??

いや、初耳なんすけど?

『何のんきな事、言ってるんですか。あなたのですよ、アレ』

え?

『魔道機体用の外装強化パーツです』

は?

そうなの?

『あれを装着する事によって外衝撃耐性が5倍、対荷重フレーム強度が10倍』

『リフティング最大重量が10倍に拡張されます』

『ゴリアテを格闘戦で圧倒できます』

『エクソアーマー装着状態を、【パーフェクト・アイザック】と呼称』

パーフェ…

……いや、やっぱりいいかな、オレ、そういうのは。

『なに言ってるんですか、どうしてそんな塩っぽい対応?』

パーフェクト○○にはあんまりいい思い出がないんだよね。

パーフェクト○○ダムとかパーフェクト○○ングとか…

『そんな好き嫌いは…あーゆーのが好きな人だっているんですから!』


てなこと言ってたら、隣の部屋からアイワさんとU-69が突進してきた。

「導師! みんな!」

騎士団の陣形の後方から斬りかかって、包囲網を崩す!

ヘッドアームを開いて回転ハンマーアタックのU-69!

ぶん殴る! 痛そう!

混乱する騎士団。乱れた隊列を見逃さないエルフ兄妹。

ハイエートとデイエートの放った矢が盾の隙間をついて騎士を襲う。

アイワさんが抜いたのは、秘伝の日本刀!

とっさにガードした騎士のウロコ製の盾、上半分を切り飛ばした!

「うわあ!? 盾を?」

すげえ切れ味!

まあ、生きてる雀竜を両断してたもんな。

思わず後退するモアブ騎士。

「先生! エレベータの前へ! こっちです。」

オレが誘導。


アイワさん乱入と同時に飛んできたものがあった。

空飛ぶサーフボード? 板?

あー、これ、北遺跡の倉庫にあったアレ!

超でっかい剣!

飛ぶのかよ!

剣の各部のスラスターノズルからパワーファイヤを噴射して飛行。

柄と刃の境、鍔に当たる部分に鳥ミネルヴァがくっついている!

ミネルヴァがコントロールしてるのか?

ええ? どうしてこれがこんなところに??

あー、そうか! 器機召喚アポーツ

ベータ君にせがんだんだな、ミネルヴァ!


「おお?」

さすがの魔王鎧も突然現れた巨大剣に驚いた。

ジャンプ、魔力核の祭壇と飛行剣の間に位置どる。

飛行剣は将軍機のもとへ!

「これを使ってください!」

「おお、ミネルヴァさん!!」

空中で柄をキャッチ!

半回転して構えをとる。

スラスターによるブーストで、まるで軽々と振るっているように見える!

なるほどカッコイイ!

「あ、でも女型魔道機は攻撃しちゃダメです。アレはボクのボディですから!」

「ええ、そんな!」

ジョーイ君、ミネルヴァのわがまま聞かなくていいから!

でも助かる。

何とか俺本体が到着するまで時間を稼いで…

『本体が到着しても…』

ん? 何かなヘルプ君?

『魔道機体本体じゃかないませんよ、全然』

…………そうなの?

『さっき言ったでしょ、5倍から10倍ですよ』

『それに、祭壇の周り、魔法使えないんでしょ』

そうでした。…えええ?

被甲身バンパー重力魔法グラビトンも無しにパワー10倍の相手…

まずいですよ、これ!



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