表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

163/371

魔王の秘密


モアブ伯はすでに大迷宮に入った。

犬獣機ハウンドとモアブ騎士団の管理下にあるレガシ。

街中は見た目、平穏を保っている。


『アイザック、聞こえる?』

おっと、組合長。

「今、大丈夫ですか?」

『ああ、今、救護院にいる。イーディも一緒だよ。』

『あんまり大きな声は出せないけどね。』

「先生もおやっさんも一緒です。」

「タモンさんは王都に残ってますが…」

『そっちは上手くいったんだね?』

「王都は奪還しました。」


組合長と現状について情報交換。

我々が出撃したあと、程なくしてレガシに騎士団が突入してきた。

『見張りが付いてたみたいだね。』

『方法はわからないけど…すぐ、犬獣機が言うこと聞かなくなって…』

『おそらく、その前から獣機の【心】を覗いてたんじゃないかな?』

ハッキングか!

南山基地局を破壊する前から犬獣機の視聴覚センサーを乗っ取っていたとすれば…

こっちの動きは筒抜けだったわけだ。

王都を出発した直後から騎士団だけが急ぎに急いでレガシ近辺に潜んでいたのか?

ミネルヴァが犬獣機に命令だしてたのはずいぶん前。

最近レガシにやって来たヤツらは自律行動で好き勝手してたから…

ファイヤウォールのない奴がほとんどだろう。

近づいただけで乗っ取れるのか? しかもジョーイ君に気付かれずに?

「犬獣機に強引に命令を出せる【将機】がいるはずなんですが。」

「ご覧になりましたか?」

『いや、見てないぞ。そんなの…?』

用心深い! 切り札は町民にすら見せないって事か。

「あの騎士隊長がやり手でね。以前のヤツらとちがってみんな紳士的だから…」

「逆に、誰も反抗しないうちにあっという間に要所を抑えられちゃった。」

工房も救護院も犬獣機に監視されたまま平常運転。

町民の大部分は街がのっとられている事に気付いていないと言う。

『店を壊されたのも、宿屋再建工事の続きくらいにしか思われてない…』

『今度は倉庫の入り口もっと大きくしてくださいよって、肉屋に言われた。』

とほほ。それじゃ、威嚇射撃は余計だったかも…

まあ、みんな先生の仕業だと思ってるからいいか。


「実はストラダ隊長はタモンさんの元部下で…」

スパイだって話しをすると…

『そうなの? でも、いつも回りに部下がいるから…直接そういう話は出来ないなあ…』

モアブ伯とは顔は見たが話はしていない。

大迷宮になんだか大荷物を運び込んでいた。

『うちの棺おけを接収したんだよ。』

棺おけ?

『布で巻いた人間みたいなのを納めて運び込んでいたぞ。』

マジっすか? ミイラの呪い!

いや、人型魔道機?

何が出てくるかわからなくなってきたぞ。


「バンカー・モアブは魔力核のスペアを持っているらしい。」

『………』

先生の言葉に組合長が息を呑んだ。

『ええーー!? 魔王になるつもりなの? あの人?』

『あんま、オススメしないがなー』

「前のときは倒した後、話が聞けたわけじゃ無かったから…」

「実のところ魔王の力ってよくわかってないんだ、私も。」

「詳しく話してくれるかな?」


組合長が魔王だったときの話を聞く。

カナちゃんズネット経由で、王都の兄貴、生臭導師、夢魔女王も参加。

テレビ会議、テレワーク。

向こうの様子はこっちのモニターに映るんだけど、こっちの様子は向こうには見えない。

ちょっと不便。

向こうの場所は…コンテナNo.2の内部だな。

後ろのほうにちょろちょろキラすけが映ってるのがすげー目障り。

ルミごんまで居るぞ!

そこまではいいとして(良くないが)ニュース王子がいるのは何でなの?

トンちゃんやカナちゃんを捕虫網で捕まえようとしていたので困って捕獲したと。

困ったねえ。

え? 捕まえられるの? カナちゃん凄い素早いんだけど?

「妙に身体能力高いぞ、このボクちゃん。」

もしかして、ナビン王以来の鬼人の血統のせいか?

夢魔女王が後ろから抱きかかえるように捕まえている。

後頭部がむにゅっと谷間に埋まって赤くなってるぞ、殿下。


組合長魔王、七英雄にやられた後はほぼバラバラで(ひえええー)

そのまま、吹っ飛ばされて散乱したので(うあああーー)

話ができる状態ではなかった。

復活したのは大迷宮が封印されちゃった数年後。

そんなわけで、魔王の支配力の詳細は不明のままだった。


ぽつぽつと組合長が話し始める。

偶然発見した魔力核に触れて魔力酔い、誇大妄想状態になった魔王。

「私もおかしくなってたから、あまり憶えてないんだけど。」

「繋がってるんだよね、大迷宮と大街道は。」

繋がっているといっても通路があるって事じゃない。

魔力的に繋がっているらしい。

「おそらく西街道の下に…魔法石の回路が埋まってるんじゃないかな。」

おやっさんが考察する。

「神殿から魔力を流すと、大街道の魔獣避け効果が消えて…」

「それどころか逆に魔獣を引き寄せる事ができるんだ。」

さらに、集まった魔獣をある程度コントロールできるという。

その力で大街道を封鎖、流通・兵站を破壊して各都市国家を危機に陥れた。

その他にも大迷宮には魔道機文明時代の遺物、魔道兵器の類もあった。

どっちかって言うとその辺を目当てに集まった各国家の反政府勢力が魔王軍を結成。

特に【魔族】とかが居たわけじゃない。

みんな好き勝手にやってた部分が大きいと。

「まあ、ワシも勝手にやっておったしの。」

夢魔女王がつぶやいた。

「待てよ? 魔獣をコントロール?」

「当時の魔王城山におった自称四天王の魔獣使い…ネスは地元民…」

「魔王城山の石で作ったアクセサリーをつけておった…」

「あれはそういう仕組みだったのかも…」

「ネス? ウチのおばあちゃんとおんなじ名前っすね。」

タンケイちゃん?

「ええ?」

先生が思わずおやっさんの方を見ると、すっと目をそらすおやっさん。

「いや、まあ…縁と言うか…」

「ちなみに…もう一人の四天王、ダークエルフはデイシーシーの祖母だけどな。」

まじかよ!


「何年か経って復活できたんで…まあ、その頃はナビン王たちも引揚げて、大迷宮も封鎖されてたし…」

組合長、正気にもどったところで畑でも作ってのんびり農家でもやろうと思ってた。

魔王になる以前の貯えもあったので、悠々自適。

「商人とかに投資してた分とか、旧首都市の市債とか…」

セレブっぽい!

「もっとも魔王禍のせいで目減りしてて…」

ああ、うん…自分のせいじゃ文句言えないしね…

畑を作ってるうちに人が集まってきて村っぽくなった。

「あまり、魔獣、野獣が来ないんだよね、この辺。」

「今にして思えば、大迷宮に使われている魔法石の効果だったのかも…」

そこへ、おやっさんがやって来た。

「自分の工房を作ろうと思って場所を探しておったんだ。」

なじみのある場所へ来てみると、石炭、水、道路と揃っていて具合がいい。

魔王だった人が復活して畑作ってるのにはちょっと驚いた。

すでに村長っぽい立場だった組合長とも相談して工房を立ち上げた。

だんだん人が増えてレガシの街が出来た。

タンケイちゃんやデイシーシーのお祖母ちゃんもその頃やってきたそうだ。

「ネスは石切り場が封鎖されたせいで元の村が寂れてな。」

「ダークエルフ…デイジーは元軍族だが原隊は解散してて…」

「その後、行き倒れ魔道士とか食い詰め夢魔族とかもやって来たがな。」

先生とか夢魔女王とかですね。

「ま、工房長が王都とつなぎを付けてくれたんでうまく行ってたね。」

「あの頃はまだナビンもプロフィルも生きとったからな。」

人に歴史あり、町にも歴史ありだなあ。


あれ?

「そうすると…ここ、北遺跡は?」

「ここが発見されたのはずっと後だ。」

「まあ、発見したのは私だが…」

先生が?

「エルディーは普段の素行がな…」

「街中に住まわせて置くのは危険なんで、街外れに今の家を建てて…」

おやっさん、言いかた!

「新しい家の周りをあちこち見て歩いてる時に私が発見したんだ。」

得意げに言いますけど…あまり自慢できる事情ではありませんよ、先生。

例の睡眠学習魔法、識字騒動の後か。

組合長は魔王の頃も村長時代も全然気付いて無かったと。

「この間までの状態よりさらに埋まってて、木が茂ったりしてたしね。」

今はピカピカですけどね。


「しかし、それでバンカーは何がしたいんだ?」

最初に戻った。

エアボウド導師が疑問を呈する。

「あの頃は各都市はバラバラだったが…今は一応王国にまとまっているし。」

「今さら魔獣くらいでは…」

この世界のみんなはピンと来てないようだが…


俺にはわかる。

国土全域に供給される電力網。

全国をカバーする携帯電話や光ファイバー。

次の日に配達される宅配便と毎日入荷するコンビニ商品。

そんな世界から来た俺だから。


大街道は単なる道じゃない。

舗装に敷き詰められた石畳は魔法石。

魔力を伝え、魔獣に命令を出せた。

かつて明治日本がいち早く鉄道を整備したのは軍が移動し軍需物資を運ぶため。

けっして庶民や旅行のためじゃない。

そして、この大陸には…

エネルギーと情報と物資。全てを伝えるインフラがすでに存在する。

もし、骸骨塔ネットワークを大街道ネットワークに統合できたら…

大陸全土が獣機の活動範囲になる。

以前話に出た「車輪のある魔道機」を再現できれば…

道路自体からエネルギーを受け、軍用獣機を乗せ大陸全土を移動。

リアルタイムで指令を受けられる機動部隊が世界を征服するのだ。

そのキーポイントが、ここ、大迷宮か!?

『なるほど、有線ネットワーク。今後の骸骨塔設置に利用できるかも。』

おいおい、ジョーイ君、聞いてたの?

『魔力が伝わるのなら、魔道機通信も可能では?』

ヘルプ君?

『われら魔道機が世界を我が手に!?』

いや、いや、なに言ってんのミネルヴァ! 怖い怖い怖い!

しないからね、そんな事!


「あー、ゴリアテが…」

何? タンケイちゃん?

「ゴリアテが自力じゃなく鉄蜘蛛で移動するのって…」

「最初は足が遅いのかと思ってたんすけど、」

「ケロちゃんGを見てると…足、速いっすよね。」

そうだね。

「燃費が悪いから、自力で移動すると出先で魔力切れになっちゃうんすよ。」

ああ、そっか。移動でエネルギーを使い果たしてたら、肝心の戦闘行動が出来ない。

しばらく待てば自然魔力が溜まるだろうけど、それじゃのんびり過ぎる。

「兵は拙速を尊ぶ」って言ったのは、安孫子あびこ先生(藤子 不二雄A)だっけ?

『違いますよ』

それで、鉄蜘蛛移動が標準になってるわけか。

「大街道から魔力が供給されるんなら、魔力切れの心配はないっすね。」

……さらっと恐ろしい事言ってくれるよ、タンケイちゃん。

「高速で移動できる強力な軍隊、素早く伝えられる命令…」

「魔力供給も問題ないとなれば…」

「全都市国家を完全に攻略・統合できるぞ。」

兄貴は軍事の専門家だ。その脅威を理解している。


だが、それでどうする?

そもそも民主主義が存在していないこの世界。

圧倒的な力で世界を支配しても、それが悪いことだと誰が言える?

モアブ伯は全土を掌握して、どういう支配をするつもりなのか…


「どうでもいいんだよ。そんなこたあ。」

先生が言い放った。

「アイツはイオニアを殺そうとした。」

「私の弟子に手を出した奴はただでは置かん!」

「肥溜に叩き込んでやる!!」

シンプルで、そしてぶれない。

「ま、そういう事じゃな。」

あやっさん。

「ウチの孫に手を出したしな。」

メガドーラさん。

「ま、要するに、これは向こうが売って来た喧嘩ですからね。」

組合長。

タモン兄貴とエアボウド導師が通信越しで聞こえるほどのため息をついた。

「そいや俺、政治がイヤで王都をおん出たんだっけ…」

「俺が学園長になったのも、そんな感じだったよな…」

「お前はどうなんだ?」

え、先生? 俺ですか?

「私は先生の魔道機ですから。」

「よし、バンカーが何をするつもりか知らんが…」

「我々は邪魔をする! それでいいな!」


安孫子先生はこうも言ってた。

『違いますよ』

「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」

敵を知るってことではこっちが圧倒的に有利。

話し合いのうちにも街に放ったカナちゃんズから様子が伝わって来てる。

工房も、街も見た目は普段と変わらないように見える。

ただ、街中で見かけるモアブ騎士や、妙に組織立った行動をとる犬獣機に違和感を感じている人もいるようだ。

「マビカはどうしてる?」

「特に拘束とか…見張りもついていないようですが…」

「戦力が揃った今、バッソ家を警戒する必要もないってことか。」

「ワシは工房へ戻る。」

おやっさん?

「どこかへ出かけていたことにして…しれっと戻ればいいじゃろう。」

危険じゃないかな?

カナちゃん通信があればいざと言うときは俺が駆けつけるか。

「だったら、ミーハ村に行ってたことにすれば?」

「アタシらが護衛としてついてくよ。」

ミーハ三戦士のシマックさん、ベスタさんが提案。

「そうだな…ウェイナは残ってくれ、隠形魔法は迷宮で役に立つからな。」

何か作戦があるんですか? 先生。

「そんなもんは無い! 組合長はなんか無い?」

丸投げ! ひどい。

『ふつうに迷宮内を進むと神殿まではかなり時間を食うから…』

『まだ、到達してないと思うよ。』

『下の通路から先回りすればいいんじゃないかな?』

「下の通路?」

『ほら、川べりにあったやつ。』

ああーホームレスキャンプ。

「でも、魔力切れで開かなかったのでは?」

『普通には開かないってことで…ブチ破る分には通れるでしょ。』

「そうだな、ブチ破るのは得意だ。」

そうですね、先生。


「え? あ? 川べりのって?」

なんだ? 挙動不審だぞ、女騎士?

「ももも、もしかしてあの洞窟ですか?」

ああ、ホームレス女騎士が住んでたんだっけ?

「そそそ、それでは私が先行して偵察を…」

「ん? いや別に必要ないだろ。誰かいたらぶっ飛ばせばいいし…」

そうだね、発見されて警戒される方が厄介だ。

「いや、あの…その、」

なんだよ?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ