騎士隊長
モアブ騎士団に占領されたレガシの町。
俺達は北遺跡に立てこもって反撃の機会をうかがう。
「街の様子は?」
「タマちゃんカナちゃんが偵察に出ています。」
と? タンケイちゃん、おやっさん。何してるの?
コンテナの後ろに取り付くとジャッキハンドルを回してる。
ああ? 縮む! コンテナが前後方向に蛇腹状に縮む!
これなら某2号の伸縮脚の間を横スライドできるぞ。
たちまち5分の1くらいの厚みに。
ドーム内が広くなった。すげえ仕組み。
さて、じゃあ街の様子を確認だ。
管制室のモニターにタマちゃんからの映像が映る。
ここは? 更地? あれ、ここ、組合長のお店が!!
ああ! 葬儀屋が取り壊されて更地に!
取り壊したのは2体のゴリアテ。工房に居た奴。
背中に操縦器を接続した犬獣機が2体いる。
ケロちゃんGは…居ないな。
ケロちゃんの操縦器は装甲板の下に内蔵されている。
もしかして、操縦器が足りない機体だと思われて工房に残されてるのか?
何人もの兵士…いや、騎士だなこいつら。いい鎧。
大迷宮の入り口、葬儀屋跡地にぽっかり開いた穴。
穴の上に天幕が張られ、運動会の本部みたいになってる。
騎士たちはその周りを守ってる感じだが、かなり右往左往している。
なんだか慌しいな。どうした?
「隊長はまだか?」
「北の遺跡方面の兵士は撤退させました。」
「あんなの喰らったら、蒸発…」
…ああ、さっきの威嚇射撃で混乱してるんだわ。
「あ、あそこ! 組合長いるよ!」
目ざとい、デイエート。
騎士二人に挟まれてショボーンと立っている。
特に警戒されている感じはない。
まあ、このしょぼくれオジサンが元魔王だと思わないよなあ。
「これ、私の店、補償とか出るんですかね?」
「わ、我々にそんな事聞かれても困る!」
穴から精悍な表情の騎士が出てきた。
他の騎士たちがビシっと敬礼。
リーダーだな。
「何事だ!? さっきの振動は?」
「あ、あれです!」
騎士の一人が指差す方向を見る。
同時にタマちゃんアイもそっちを…
「なんじゃこりゃあーーー!!」
騎士隊長だけじゃなく、モニターを見ていた面々も驚愕!
南山の向こう、東よりの山の山頂が大きくえぐられて三日月形にへこんでいる。
中腹にもクレーターが出来ているんだが、そっちの方はインパクトが弱い。
『ほーらね、視覚効果を有効に使わないと』
「ぐぬぬぬ!」
ヘルプ君、ミネルヴァを煽らない!
「ななな、なんだありゃあ!」
「何がどうなって!? モアブ伯の兵器か?」
先生たちも騒然。
えーっと、すいません。
「あれは、この北遺跡の兵器がやりました。」
「遺跡に兵士を近づけないための威嚇のつもりだったんですけど…」
「予想より威力が大きくて…」
「こここ、ここ?」
みんな、ドームの上部を見渡して、不安げな表情。
「あ、アイツ! ストラダじゃないか!?」
モニターを見ていた女騎士が驚いたような声。
「誰です?」
「元同僚だ、タモン将軍の部下で…」
「クリプスの話ではモアブ軍にもぐりこんでるって…」
ああ、アルパン騎士が言ってたタモン四天王の一人。
情報収集のため、あえてモアブ軍に身を置いているのか!?
すげー危険じゃない? 豪胆なお人だな。
「なんで隊長みたいな事やってるんだ? アイツ! スパイじゃないのか!?」
ああ、優秀で根がマジメ…手抜きが出来ないもんで、上に認められちゃった的な…
「敵にまで認められて…出世!? ワタシは平騎士なのに!?」
あー、こらこら。人をうらやんだりしない。
「ううう、裏切り! これは裏切りですよ!!」
成功者を妬んで中傷を書き込むネット民か、お前!
だが、タモン兄貴の部下が隊長をやってるんなら、町民にあまり無体な事はしてないだろう。
ちょっとほっとした。
隊長と騎士たちの会話にズーム、タマちゃんマイク。
「町の北にある遺跡から発射された光線が…」
「山が一瞬で蒸発…」
「落ち着け! 隊に被害は!?」
あわあわ状態で報告する部下たちを一喝。
「ひ、被害はありません。」
「よし!」
改めて組合長に向き直るストラダ隊長。
「組合長さん、あれはいったい何なのですか?」
「いや、私に聞かれても…私だってあんなの初めてですよ。」
「まあ、北の遺跡はエルディー導師の研究所になっているので…」
「…何があっても驚きませんが。」
「失礼だな。」
組合長の物言いに先生がぼそっとつぶやいた。
「エルディー導師…七英雄の一人、大導師ですな。」
「兵隊さんも近づかない方がいいですよ、危険ですから。」
しれっと語る組合長。
「地元民は近づきません。」
……え?
そういえば……先生の弟子と工房関係者以外、見たこと無いな。このあたり。
ええ? そんな扱いだったの、ここ!
「七英雄…お会いしたいですなあ、今どちらに?」
「さあ、しばらく出かけると聞いていますが…気ままな方ですので。」
「気まま…ふふふ、コウベン工房長やタモン将軍もですか?」
「う!」
にこやかではあるが鋭い突っ込みに、さすがの組合長も言葉に詰まった。
「た、隊長。あの武器にはどう対応したら…」
焦る騎士たちに平然と返す。
「わざわざ山を吹っ飛ばしたってことは、街には撃ってこれないってことだ。」
「心配無用、近づかないようにして放っておけ!」
カッコイイ! ストラダ隊長。頼りになる!
モアブ伯にも重用されるわけだよ。
「ぐ、ぬ、ぬ」
そして顔をゆがめる妬み嫉み女騎士。見苦しいなあ。
この隙に、カナちゃんの一体が組合長の後ろ襟に取り付く。
『組合長、アイザックです。戻りました。』
周りに聞こえないよう小声。
聞こえたはずだけど、まったく態度に出さない組合長。
「大迷宮について伺ってもよろしいですかな?」
質問を続ける騎士隊長。
「大迷宮…と言われましても、私らにしてみればよくある遺跡の一つ。」
「今は倉庫として使っていますが…余り奥までは入ったことはありませんね。」
そらっとぼける魔王組合長。
実際、備蓄食料とかが保存されてるしな。
お肉屋さんの干し肉やら兄妹エルフの獲物やら、結構俺が運び込んだんですけどね。
「先ほど中に入られた方…ずいぶんとご立派な方でしたが、どなたです?」
さりげなく、質問をする形式で俺に情報を与えてくれる。さすがだね。
モアブ伯はもう大迷宮に入ったのか。
「王都の有力な貴族ですよ。それ以上の事は…」
「結構大きな荷物を運び込んでおられたようですが…入り口狭いですよね?」
「入りましたかねえ…」
とぼけっぷりが堂に入ってるよね組合長。
さて、もう一体のカナちゃんにはストラダ隊長にくっついてもらう。
「ありがとうございました、もう戻られて結構です。」
会話を打ち切った騎士隊長に組合長、情けない顔で
「そう言われましても、ここが私の家だったんですけど…」
「う!」
嫌味言われて困り顔。
「この状況で、あの落ち着きっぷり。只者じゃないぞ。目を離すなよ。」
組合長が立ち去った後、部下に指示を出す騎士隊長。
「どこで寝るんだ? あの人?」
「両隣の宿屋も救護院も組合長の経営との事です。心配は無用かと。」
「ふうん、迷宮入り口の上に店を建てたのも偶然じゃなかろう。」
「他の住民の反応は?」
「救護院で聞き取りましたが、ほぼ、組合長の証言と同様です。」
「エルディー導師ならあのぐらいはやるだろうと…」
「おっかねえな!」
「私のせいにされてるじゃないか!」
ああ、ごめん。先生。
とにかく、街の様子を把握する必要がある。
地下倉庫から追加のカナちゃんズ|(まだ居るのかよ!)に来てもらって偵察に出てもらおう。
みんなで地下へ…封印扉を開けて倉庫に入る。
「ホコリっぽい!」
デイエート、文句言うな。
「こりゃまた…わけのわからんものがいっぱいあるな」
おやっさん、倉庫に入るの初めてだっけ。
「あ、これ。飛行機体に積んだやつっすよね。」
「タンケイさん、それ危険物ですのであまり…」
「ふえ!?」
爆弾、ミサイルの在庫だからね。
ベータ君も気をつけて、あんま触んない方がいいよ。
まず、カナちゃんズを放出。
器用に通路に沿って飛行して飛び出していった。
次にケース型ビームガンを運び出す。
これはミネルヴァボディの下半身にあるマウントに装備出来る。
しかも左右両側に。
…今のパーンサロイドミネルヴァに装備すれば、人間兵士はまったく脅威ではなくなる。
だが、問題は皆殺しにしちゃってもいいのか? ってことだが……
兄貴は反対するだろうなあ…
「あ、これこれ。」
ミネルヴァがなんか引きずって、持ち出してきた。
何それ? 剣?
『エクソアーマーソードですね』
巨大な剣? 剣じゃないよね、巨大すぎる。
俺の背丈より長いし、幅が60センチくらいあるぞ。
むしろ簡易ベッドとか担架とかってサイズ。
物理的に振れねえよ、そんなの!
「各部のバーニヤからの噴射で自分で動きますから、力はいりませんよ!」
いや、そういうのは…今はいいかな。
カッコはよさそうだけど、すでに空力バリヤーを応用した天空無双剣があるしー
「かっこいい! 絶対かっこいいですよ!」
『かっこいいですよ』
「カッコイイっすよ!」
ヘルプ君、タンケイちゃんまで…
いや、こんなの持って歩けないし…【収納】できる?
『……このサイズは無理です』
ほらー
どう見ても、適当に突っ込んであるな、この倉庫。
あわてて仕舞ったような感じ…
そういえば俺本体も、わりと中途半端な場所に安置されてたけど。
「さらに奥があるな。」
倉庫の奥にまた扉。今度は床に扉が付いている。
「地下?」
すでに地下ですけど…
やや斜めにはなっているが水平に近い、いかにも下に降りそうな扉だ。
「こう、降りてきて…こっち来たから…」
「このへんは遺跡の前…の部分のそのまた前のじゃないか?」
前方後円墳の「前方」部分のそのまた前?
それって、遺跡の外じゃないかな?
「開けてみるか?」
QRコードを読み込んで解錠。
引いてあけるタイプ。キッチン床下収納っぽい。
土?
「土だな?」
「土ですね?」
みっちり土。
「ここで終わり?」
どこにもつながっていない扉。超芸術トマソンか!?
がっくり。
「この辺にして上に戻りましょう。」
みんな上に戻ろうとしていると…先生が首をひねっている。
どうしたんですか?
「いや、…なんでわざわざ魔法鍵が掛かっていたんだろう? と思ってな…」
「整理が付いておらんな、この倉庫。」
おやっさん、不満げ。こういうの許せないタイプ。
「並びがバラバラだ。エルディーじゃあるまいし…」
先生、ビクッとした。
「いやいや、バラバラで言ったらお前だって…」
え? 俺ですか?
俺はいつだって整理整頓、定物定位ですよ。
「お前、飛行ユニット、ミネルヴァヘッド、トンタマ、カナちゃんズ…」
「保管場所も関連付けもバラバラじゃないか?」
うーん、そう言われると…そうかも。
「何千年も経ってあちこちに散逸したのか…?」
「ハイバンドの言うとおり神代魔道機が異世界から転移してきたとしたら…」
「少なくとも最初に転移してきた時は、まとめて収納されてたんじゃないか?」
「コンテナみたいなやつに入ってたのかな?」
そうだよね…わざわざ小分けに転移してきたとは思えない。
小分け…週刊神代魔道機、アイザックを組み立てよう。であごー!
え? 今週…コードとスイッチだけ?
そんな異世界転移はイヤだ!!
実際、トンちゃんタマちゃんは飛行ユニットに収納されてたし。
ミラクル合体BOXとか…スーパーDXセットとか……
そんな感じで転送されたはずだよね? きっと。
倉庫探検は切り上げて本部|(管制室)に戻ろう。
おやっさんとタンケイちゃんは大迷宮との接続通路を塞いでる。
工兵機に手伝わせて、向うからはわからないようにするそうだ。
「ここから大迷宮に入ると入り口付近につながってるから…」
「モアブ騎士と鉢合わせになっても困る。」
おやっさんが壁や天井の具合を調べてる。
「この通路、迷宮内部のと造りが違うぞ?」
すでにモアブ伯は大迷宮内部に侵入している。
中心部である冥刻界の女王神殿を目指していると思われる。
組合長の案内なしでそこまでたどり着くのは時間がかかるはずだ。
俺達、追跡するべきだろうか?