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妹エルフが大変なことになるよ


動いた? 獣機が?

先生とおやっさんがいるぞ。

「どうされました?」

「獣機が1体、消えた。」

「わたしが来た時にはちゃんと9体あったんだが、お茶飲んでる間に。」

おやっさんは深刻そう。先生はポリポリ頭をかく。

あ、大変。山頂に2体。ビームで打ち抜いたやつ、放りっぱなしだ。

忘れてた。

「最後に、アイザックがいないときに倒したやつだ。」

「タモン将軍がしこたまぶん殴って、わたしが雷神槌でとどめを刺したんだ。」

「けっこう壊れてたから、まさか動くとは…」

まだ稼働できたのか?

「残りの1体はそのあとすぐ引き返していったが…」

破損と電磁ノイズ、電波停止が合わさってフリーズしていたのか?

鉄蜘蛛トラックの再起動を思い出す。

時間はかかったが再起動したってことか?

帰還モードが発動したんだな。

「電波が停止している以上、人を襲うことはないと思います。」

「元の基地局があった方向に戻ろうとしているんだと思いますよ。」

「デンパ? キチキョク?」

ああ、いけね。説明しにくいな。

「詳しくはいずれ。近づかないようにすれば安全かと。」

「そうか? とりあえずみんなを建物に入れよう。一か所に集めて…」

おやっさん冷静だ。周囲の弟子たちに指示をだす。

「そうですね、探すのは私が。」

「わたしも探そう。魔法護符は持ってきてるしな。」

準備いいね。先生。

「念のため、先生はみんなのガードを。」

「む、そうだな。」


さて、帰還モードで移動したとするとどっちに?

経由した基地局の方向をまっすぐ目指すとしたら?

昨日の行動で作成した地図とメモリーした館内配置図を参照。

動いたとすればこっちだな。浴場!?

まずい!妹エルフとタンケイちゃん!

帰還モードだとしたら人を襲うことはないだろうが。

びっくりすることは間違いない。


大急ぎで戻る! 待合室に人はいない。

タンケイちゃんは受付…番台に座っている。

「デイエートさんは? 他に人は?」

「え、ええ? どうしたんすか?」

「デイエートさんはお風呂入っちゃったすよ。他のお客さんはまだ誰も…」

「タンケイさんは急いで中庭に。おやっさんの指示を仰いでください。」

「え、ええ?」


「ひやややーーー!」

悲鳴だ、浴室から。妹エルフだ。

「え?ええ?何?何?」

「ここを動かないで。」

突入、女湯! 緊急時だから仕方ないよね。

脱衣場、居ない。

浴室へ!

居た。屋根、天窓に引っ掛かるように獣機が取り付いている。

実際、引っ掛かっているらしい。もがいてる。

愚直に直線行動をとっているんだな。

センサー類がいかれているのかも。


そして浴槽には妹エルフ。

もちろん、おヌード。

浴槽にタオルを持ち込まないのは異世界でも常識!

「じゅ、獣機!」

焦ってる焦ってる。

浴槽に弓とか持ち込まないのは異世界でも常識!

事情を知らない彼女にとっては、コイツはまだ殺人メカ。

焦って当然、漏らしちゃっても当然。でも湯舟ではやめてね。

「落ち着いてデイエートさん、奴はもう、まともには動けません。」

「そ、そんなこと言ったって…」

「はやく、こちらへ。」

「あ、ああ」

獣機に視線を向けたまま、遠ざかるように移動。

引き締まったお尻、すらりとした脚。

射手としての訓練か? 背中の張りが若々しさを強調。

うーん、健康美。

そして、胸は。

脱いだら実はすごかった。一族のしきたりで、隠してた。

お兄ちゃんの好みに合わせるためサラシで巻いてた。


…なんてことはなかった。


だが、妹エルフよ。

俺は謝らなくてはいけない。

しょせん貧乳だと、侮っていた俺の無知を。

妹キャラなら許してやる、などと思っていた俺の傲りを。

お色気担当など夢のまた夢だな、などと考えていた俺の誤りを。


君は美しい。


女性らしさと戦士らしさ。

野生と優柔の真なる調和。

そして胸!

確かに小さい。平坦と言っていい。

脱衣場の鏡と双璧と言える。

だが、その風渡る平原に立つ美しきモニュメント!


ぷっくりとピンクのふくらみの先に、ぴんっと立った突起。

美しい! うるわしB地区、優良物件。


ロリなんてバーチャル貧乳ですよ。


かつて、自他ともに認める貧乳マニアである友人は、こう、言い放った。

ロリコンなの? と聞かれたときに。

彼は熱く主張した。

移ろいゆく時、失われるべき美のはかなさを愛するロリとは違うのだと。

成人女性の貧乳は完成。

ふくらみかけ、とは違う。完成された美であると。

完成とは不変、永遠であり究極。そして真実。すなわち絶対正義。

不足ではないと。

不足であることを愛でる、日本的侘び寂びとは異なる次元なのだと。

小ささという美を加えることで初めて成立する完璧なのだと。


当時の俺には共感も理解もできなかった。

だが、妹エルフを見た今なら理解できる。


あたかも精緻極まりないカッティングを施された金剛石ダイヤモンドのごとく。

小さいからこそ、価値を持つ精妙。

はかなもろいバランスの上に成り立ちながら、しかも揺るがない。


…揺れないとも言う。


あの彼に伝えたい、すごいやラピ○タは本当にあったんだ!


貧乳ではなく賓乳。

彼はそう表記した。

心に来訪するまれびと、讃え、もてなすべき賓客。

喜びの使者たり。


最近は一部でシンデレラバストなる呼称もあると聞く。


だが俺は認めない!


俺の心のシンデレラは巨乳!

王子を悩殺するのは夜会服の谷間!

サンドリヨンは灰だらけだ!

美の追求と好みは別(笑)


妹エルフの視線がこちらを向く。

「な、おまえ!」

正面から見る姿もまた美しいですよ。

肩の筋肉の発達がウエストとお尻の引き締まりを強調。

今どき流行りの女の子ですよ、四十数年前ですけど。

そして予想通りですね、無…

「きゃあ!」

きゃあ? 誰の声?

「ば、ばか! 見るな! あっち向け!」

胸を押さえてしゃがみ込む。

えええー? 羞恥心?

この異世界に来てから、それが存在することに疑いすらいだいていた「羞恥心」

主にガバガバ先生のせいで。

ここで、発動! しかもお前が!

あわてて後ろを向く。

「すいません。後ろを向いていますから早く…」

うっそでーす。360度視界でーす。

美は讃えるが、それはそれ、これはこれだ!

おまえの態度は忘れてないぞ。

そのつるつるボディをじっくり見物…


獣機がずるっと滑る。ああー落ちるな。

光った?

今、小さいけど、何かが光った。

ガツンと殴られたような感覚。アラーム!

非常事態! 警告!

思考が加速される。

映像リプレイ。ズームアップ。

発光は獣機の装甲内部で起こっていることを確認。

火花? 放電?

しまった! 獣機は電波送受信に電力を使っている。

もちろん野外活動用である限り、当然防水機能はもっているだろう。

だが、今は破損状態。漏電しているんだ!

そして、下は浴槽、浴槽の中には妹エルフ。

高速思考を加速、かつてない加速。クロックアップ!

加速装置!!

落下する獣機を受け止める?

手は届く、が、支えきれない。水に落ちる。

妹エルフを脱出させる?

彼女は戦士。突進してくる俺を見て逃げようとするだろう。

その動きも計算に入れて、最短時間で抱き上げ浴槽を脱出。

俺のボディは絶縁体。雷神槌を習得した時に確認済み。

だが、濡れている! できるだけ遠くへ!

最適ルートを算出、実行!

引き延ばされた時間の中で重くなった身体を引きずる。

相対的に運動速度の落ちた空気分子がまるで水のようにまとわりつく。

ジャンプしたら時間のロス。重力による落下時間は加速できないからだ。

妹エルフ、デイエートが何か叫んでいる。

周波数の相対的低下によって低音化して聞き取れない。

抱き上げる。水が跳ねて行く手をふさぐ。機体が濡れる。

浴槽のヘリに足をかけ、ジャンプ。

獣機が浴槽に落下! 放電! 閃光が走る。

最初期の放電を空中で切り抜ける作戦。

放電がどのくらい続くかは不明。

獣機が放出する電力も不明。

着地までに終了してくれれば。

濡れた洗い場の床を電光が走っているのが見える。

着地!

デイエートの身体がびくんっ! と跳ねる!

感電!


失敗した。防げなかった。次のジャンプで脱衣場まで飛び出す。

ダメージは?

ぐったりしている。

呼吸は? 脈は?

浴槽内では獣機が煙を上げ、焦げ臭さが充満する。

タンケイちゃんが駆け寄る。

「だだ、大丈夫っすか?」

デイエートが首をそらし痙攣するように息を吸う。

「生きて…」

いや、これは死戦期呼吸だ。

血流の停止による脳の酸素不足によって起きる異常呼吸反応。

心臓から血液が送られていない。

すなわち感電による急性心房細動。

いわゆる心停止状態。

「回復術士を呼んで来てください。」

エルディー先生か、デイヴィーさんか。

「は、はい!」

駆けだすタンケイちゃん。

出来ることは? 心臓マッサージ?

だが、ためらう。

機体のパワー。制御できるのか。押しつぶしてしまうのではないか?

「デイエート!?」

駆けこんできたのはハイエート兄。

ちょうどいいところへ。

「ハイエートさん、こちらへ!」

「心臓マッサージをお願いします!」

「し、しんぞう?」

「いったい何が? デイエートは?」

「落ち着いて、妹さんは今、心臓が止まった状態です。」

「し、死」

「まだです。ここを」

乳首と乳首の間、胸骨を指す。

「まっすぐ上から押してください、両手で、力をかけて、ギュッ、ギュッと繰り返し」

「止まった心臓を外から動かすのです。」

ぎゅっと唇をかむハイエート。

「わかった。」

さすがだ、もう落ち着いている。理屈が通ればためらわない。

一心に胸を押す。

「デイエート…デイエート…」

悲痛、落ち着いているわけがないか。

俺にできることは? ああ、AED!

体外式自動除細動器。AEDがあれば……

そんなものがこの異世界にあるわけが…

「ピロリーーーン」

何だって!?

『AED機能がダウンロードされました。』

ホントに? 有能! 凄いぞ俺ボディ! 愛してる!

「ハイエートさん、代わって。」

視界にガイドが表示される。

『この部分に手を添えてください』

俺の両手がパッド替わりか。

『解析を開始します』

『電気ショックを行います』

「ハイエートさん、下がってください。」

ショック!

ぴくんっとデイエートの身体が動く。

どうだ!?


がはっとせき込むと体を丸めた。

ごほごほとせき込んだ後ひゅーひゅーと呼吸を始めた。

やった。よかった。

「デイエート!」

「え、あ、おにい…」

ふううー、脱力感。疲れなど感じるはずのないこの身体で。

先生とデイヴィーさんが駆けこんでくる。

専門家の到着。助かる。

「治療をお願いします、先生。」

「状態は?」

雷神槌サンダーボルトを受けた状態と考えてください。」

「一時的に心停止、今は復帰。」

「わかった、神経修復を行う。デイヴィーは深部熱傷の治療を。」

「連弾で行くぞ。熱傷治療が先。」

さすがはプロの魔法使い、テキパキ!

デイエートの両側に膝立ち。

二人それぞれ魔法陣を起動。青い!

頭から足にかけて2つの魔法陣を移動させる。輪切り状態、MRIみたい。

「熱傷治療を先にするのは痛みを減らすためだ。」

「先に神経の麻痺を回復させると激痛を感じるからな。」

「はい、先生。」

治療をすすめながら、デイヴィーさんにレクチャー。

かっこいいぞ先生!


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