ハイバンド尋問
やっとこさ解散になった宴会。
さて、俺たちどこで寝ればいいの?
キラすけメガドーラさんはエリクソン邸に入ることに。
まあ、親戚だからね。
その流れで先生と俺もエリクソン家へ。
クオリア奥さまを奪還しようとしたバッソ家騎士団は撃退されたらしい。
サンゴロウさんは騎士団と一緒にバッソ家へ行ったとのこと。
イオニアさん、ビクターさん、アイワさんはカロツェ家へ。
デイエートも引っ張っていかれたのでハイエートもついていくことに。
ベータ君はクラマスさんが連れて行こうとした。
「はっはっは、ダメですよ。どうも信用できませんね、あなたは。」
弓を突き付けて威嚇するハイエート。
「ベータ君は僕と一緒ですよね、アイザックさん。」
いや、いや、アンタもダメですよ。俺や先生と一緒に行きましょう。
タンケイちゃんや3戦士はこのままコンテナに泊まるとのこと。
「まだ、作業は終わってないっす!」
おやっさんも王城に残る。
「面倒だわい、色々。組合長に来てもらえばよかった…」
いや、まずいよね。やっぱ、魔王は…
エリクソン邸でやっとこさ落ち付いた俺たち。
俺とベータ君が同室。
先生、夢魔女王、キラすけが一部屋。
さすがに疲れた…ベータ君はもうスヤスヤ。
ん? 先生?
カナちゃんを通じて先生から通信だ。
『起きてるか? アイザック。』
先生たちの部屋。
ベッドに入ると死んだように寝るキラすけ。
魔力を消耗したからね。
そこへ、クオリアさんが訪れた。
「お義母さま、エルディー先生…少しよろしいですか?」
キラすけには聞かせられない話だと言うので、別室へ。
そこで先生から通信。
『お前も聞いておけ。来い。』
ええ? わ、わかりました。
俺がやって来たことにびっくりしたクオリアさん。
「心配いらん、キララのことについてはこいつも関係者だ。」
「そ、そうなのですか?」
意を決したように二人に向きなおる。
「お義母さまと先生には聞いておいていただきたいのです。」
クオリアさんの真剣な表情に思わず居住まいを正す二人。
「キララさんの母親についてです。」
「む?」
メガドーラさんの表情が強張る。
「表向きは病気で亡くなった事になっていますが…」
「本当は違います。」
「な…に?」
クオリアさんの話は衝撃的だった。
事の起こりはクリエート君、トリニート君への襲撃事件。
知り合いの園遊会に出かけた二人を過激至上主義者が襲撃した。
二人の子供は瀕死の重傷を負った。
この時、一緒にいたのがキララの母。
あるいは彼女自身も標的に含まれていたのかも知れない。
負傷した兄弟を助けるために回復魔法を使った。
当人はちゃんと教育を受けた治癒術士ではない。
瀕死の子供たちを救うために限界を超えて魔力を消耗してしまった。
半霊の存在である夢魔族の血筋だった彼女は肉体の構成要素の一部を失ってしまう。
その後、病弱となり程なく早世した。
「そ、そんな事が…」
「彼女は…息子たちに、いらぬ負い目を。娘にわだかまりを感じさせてはならない、と…」
「けっして子供達に話してはいけないと言い残しました。」
「知っているのはベガと私、一部の使用人だけです。」
「父にも話していません。やっとお義母さまには伝える事が出来ました…」
クオリアさんの目から涙が落ちる。
「そんなことがの…」
メガドーラさん、すっと、手を伸ばすとクオリアさんを引き寄せ、抱きしめた。
「つらい思いをさせたの…すまなんだの。」
先生ももらい泣き、目頭を押さえてる。
「しかし、襲撃が過激至上主義者の仕業だとわかったのは?」
「当時は推測だけで確証はありませんでしたが…今回、モアブ伯が…」
「バンカーが?」
「当時、過激派を抑えられなかったと言って謝罪を…」
「謝罪!?」
「どういう男なのだ?? バンカーと言う奴は!」
どうにもつかみどころがない奴だ。
「しかし、過激派が兄弟を狙ったのは、どういう理由なのでしょう?」
俺の疑問にメガドーラさんが答える。
「男の子だからじゃろう。」
「??」
「夢魔族の男性は珍しいからの。」
「ワシでさえベガが生まれるまで一度も見たことが無かった。」
そんなに!? メガドーラさんがお幾つかは知らないけど…
「だから、夢魔の血は薄まりこそすれ、濃くなることはない…」
「と、ワシ自身思っていた。」
「そこへ血を引く男の子が二人も生まれたのだ。」
「夢魔族の血統再興への可能性となる。」
「過激派の中に夢魔族の能力を恐れている奴がいたんじゃろうな。」
実際、両親がともに夢魔の血を引いていたキラすけは夢幻投影能力を発現している。
「血統…アイザックが言うところの【遺伝】に対して知識を持っている奴が居たのかもな。」
「ハイバンドを尋問すればもっと、何かわかるかも…」
「あれ?」
どしました? 先生?
「あいつ、どうしたっけ?」
ああ、忘れてた!
明朝、先生はあわてて王城へ向かった。
まあ、一晩ぐっすり眠って朝ごはんがっつり食べてからだけどね。
先生に忘れられたハイバンド氏。
放置されているのを発見した王城の警備兵は困惑。
「重要参考人」と言うのを聞きかじっていた王軍兵士の証言を頼りに地下牢に監禁。
そこにはモアブ兵とかも詰め込まれていた。
知ってるモアブ伯爵邸の兵士が居たので
「弱ったねえ」「まいったねこりゃ」
とか話しながら一夜を明かしたとのこと。
けっこうタフだ。神経は太い。
「ひどいですよ、先生。」
「すまんすまん、酒飲んじゃったからさ。」
「僕は夕食も抜きだったんですから…」
タンケイちゃん、3戦士らと一緒に朝ごはんをおよばれ中。
「拘束された人数が多くて…ベッドとかも無くてごろ寝だったんですし。」
「そうかー、すまなかったなあ。」
頭を掻いてあやまる先生。低姿勢。
「あ、朝飯、あんまりいっぱい食うなよ。」
「え? なんでですか?」
「拷問…尋問した時、情報以外のものもゲロるといけないだろ?」
ハイバンド小太りエルフ。むせる!
「さて! 始めるか!!」
ぱんと、膝を叩いて立ち上がる先生。にっこりいい笑顔。
「いや、いや、隠し事なんかしませんよ!! しませんからーっ!!!」
そんな事をやっていたら、エアボウド生臭導師もやってきた。
今は酒臭導師。昨日のお酒が残ってる。
「お、おお、ハイバンドくん久しぶり。…太ったぁ?」
定型の挨拶。
ああ、王都に来た時、学園に紹介状書いてもらったんだっけ。
「ま、挨拶も無しにいなくなったのは変だな、と思ってはいたが…」
「まさか、監禁されていたとはなー。」
昨日は王城に泊まったというおやっさんも出てきた。
「やれやれ、おはよう。」
「貴族ベッドとか…柔らかすぎて首が痛くなったわい。」
コキコキ、首関節が鳴ってますな、おやっさん。
「なんだ? ハイバンドじゃないか。太ったか?」
ハイエート、デイエートの兄妹とイオニアさんもご出勤。
イオニアさん、昨日の宴会ではさかんに王様に口説かれてた。
といっても、政務の話。
王都に戻って王族の一員になってくれと言う要望。
まあ、イオニアさんは渋ってたけどね。
小太りエルフがデイエートに気付いた。
「え? もしかしてデイエートちゃん?」
「大きくなったねえ。そしてキレイになったね!!」
ウインク!
いい顔で、決めたつもりの、ハイバンド。(五・七・五)
露骨に嫌そうな顔するデイエート。
いちいちイラっとするよ、この人。
「王城に拷問室とか、無かったっけ?」
「そういうのは作らなかったが…」
先生とおやっさんが相談してるそばで身をよじる、小太り。
「助けてください、コウベン工房長!」
「ひどいんですよ、エルディー先生は!」
おやっさんに泣きつく。頼るべき人をわかってるな。
「…いや、お前…レガシを出るとき仕立てた馬車の支払い…滞ってるんだけど?」
ローンか。120回払い。
「そ、そ、それは監禁されてたからでして……」
問題ありすぎ、ハイバンド学者エルフ。
カナちゃん通信で連絡したタモン兄貴もやって来て全員集合。
尋問開始だ。
「えーっと、学術的なことはともかく…僕の知ってることなんかわずかですよ。」
コンテナNo.1の内部に机を置いて簡易尋問室に。
先生が魔法ランプをともす。カツ丼食うか?
ハイバンド氏、泣きそう。
バンカー・モアブ伯と話したのは断片的な愚痴だけ。
推測や憶測が入っているので確実な情報ではないとのこと。
「大元は先代のモアブ伯、ブレビー・モアブさんから始まってるようです。」
「ブレビーが?」
先代のブレビーさんは七英雄の一人、先生やおやっさんとも知り合い。
ナビン勇王の王国を実質一人で立ち上げたといっていい、実務派の英傑。
「勇王や大剣豪が魔王を倒した後、大迷宮の遺物を収集したって言うんですが…」
「ワシらも手伝ったが…大したものは無かったぞ?」
「魔力核以外はありきたりの魔道具ばかりだったしな。」
「動く魔道機は全部再利用したし…今王都で動いてるやつの大半はそれだろ。」
そんな事あったの? あー大迷宮がガラガラだったのはそういうわけか。
「ところがですね…その中に一冊、古文書があって…」
ブレビーさんが発見したのはぺらぺらの薄い本。(薄い本)
文字は翻訳出来なかったけど、図版が多く描かれていた。(絵じゃん)
軍用獣機や犬獣機、あと、女性人型魔道機体とかの図解。
内容がちょっと…女性型機体の図解が詳しく、執拗で、アレだったので…
古代の春画的フィクション物…メカフェチ同人誌か何かだと判断されて放置。
なにそれ!? すげー見てえ!!
「ちょっと待て!? そんな春画ジャンルがあるのかの?」
夢魔女王が突っ込んだ。
「え? 知りませんでしたか? 結構、歴史ある伝統的なジャンルですよ。」
「女騎士の鎧を脱がさないのがエロいんだ的な所から派生して…」
「魔道機がエロかったら全部金属ステキだね的なところへ到達した感じで…」
「硬いのがいいとか、つなぎ目がセクシーとか、球体関節たまんねえな的な…」
うーん、と唸るサキュバス女王。
「金属? まだ、まだ…男どもの欲望と言うのは…奥が深い…」
そして、くわしいねハイバンド氏。
「まったく、業が深いな。」
あきれる先生。
その時、コンテナのハッチからミネルヴァが覗き込んだ。
「あ、居た。サボってるんですか? アイザック。」
「違いますよ。仕事です、これも。」
「なら、いいですけど。」
すぐ立ち去った。
目を丸くするハイバンド氏。
「あんな感じ。」
「なるほど。」
この世界、侮り難し!
俺の元世界、日本以上に濃いフェチが?
もっとも江戸時代にも、有名な葛飾北斎のタコx海女春画があった。
だが、それを超える男タコ魚人x女人面魚という誰得春画が確認されている。
人類文化史の闇、人の業は深い!
問題はそこではなく、巻末に地図があったこと。
なにやら印がつけてあった。
ブレビーさん、なにやら嫌な予感がした。
その場所へ人が近づかないように、自分の名目上の領地にして立ち入り禁止に。
「【荒野】を領地にしたのは、そんな事情があったのか!」
「あいつ、隠蔽するの好きだったからな。」
「けっこう、隠し事多かったよね。」
「大迷宮も、石切り場も、そしておそらくナビンの出自も…」
隠しちゃうよオジサンか、先代モアブ伯。
先代が亡くなると代替わりしてバンカー・モアブの代に。
「きっかけになったのが、学園の卒業生で翻訳能力者を雇用したことで。」
「んん?」
首をかしげるエアボウド導師。
ああ、言ってたね、そんなこと。
「外交官にするつもりだったのに…そいつガチガチの至上主義者で…」
「使いもんにならなかったってこぼしてました。」
うーん、採用は難しいね。
そんなわけで、翻訳だけやらせていたが、外国語だけじゃなく古代語も訳せることが判明。
古文書の翻訳が可能になった。
例の古文書を解読すると描かれた魔道機が実在することが明らかに。
調査隊を送り込んだところ、軍用獣機と大量の史料を発見。
軍用魔道機体廃棄場(正確には廃棄機体一時保管場)サイト2。
「発掘と復元にはかなりお金がかかったみたいです。」
「うむむ、先代のブレビーは蓄財とかには縁が無かった男だぞ。」
「無理をしたのか…バンカーは?」
「自分は天性の詐欺師だって、自嘲してましたね。」
「自由になる予算を確保するために…」
「だましやすいヤツからだましていったら、いつの間にか至上主義者の首魁になったって。」
「ところがですねえ…」
翻訳できるのがその能力者だけ。過激な思想を持つ至上主義者。
「気分屋でプライドばっか高くて…おだてたり、なだめすかしたり…大変だったって…」
その能力者、史料やマニュアルを翻訳しているうちに、サイト1の場所をつきとめた。
自律行動する大量の獣機が保管された犬獣機の本拠。
さらに勝手にサイト1へ赴いた上に不完全な知識でトンデモ命令を入力。
獣機災害を引き起こしてしまう。
しかも本人はそこで行方不明。まあ、犬獣機にやられたわけですが。
ここで事実が明らかになるとモアブ伯は共犯。
「この辺からもう、大変だったみたいですよ。手段を選んでいられなくなったって。」
翻訳能力者の穴埋めにハイバンド氏を拉致。
「まあ、行方不明になった能力者は言葉を訳せるだけですが…」
「その点、僕は魔法や魔道機にも詳しいですから…」
「運搬用多脚機動機(鉄蜘蛛)とか制圧用大型魔道機体(ゴリアテ)とかのマニュアル翻訳は…」
自慢げににやりと笑う学者エルフ。
「僕じゃなきゃ難しかったでしょうね。」
「助かったって、バンカーも喜んで…痛い!痛い!痛い!」
獣機分解用工具を額にぐりぐり押し付ける先生。
「お前か! お前のせいか!」
「いや、いや、僕は翻訳しただけで…何に使うかも知らなかったですしー!」