王城で会食
モアブ伯の屋敷から出てきた小太り学者エルフ、ハイバンド。
結局、ハイエートの馬獣機の後ろに乗せた。
王城へ戻ると、前庭に鹵獲した軍用獣機が勢ぞろい。
10体近いゴリアテが並ぶと、なかなか壮観だ。
それぞれの操縦器は回収され、犬獣機に接続されている。
自律行動できるようになったゴリアテだが、今のところ犬獣機と同時行動が出来ない。
今は、リソースが犬獣機に割り振られてゴリアテは待機状態。
まだ市内には何体か残っているが、ミネルヴァが回って順次再起動している。
やがてここに集結するだろう。
俺がぶっ壊したヤツも横たえられて、すでに分解作業が始まっている。
もくもく作業する工兵機。
仕事が速いぞ、タンケイちゃん。
あ、しまったー。
モアブ邸で両断しちゃったやつ…塊がでかいからここへ運ぶの大変だ。
「あ、アイザックさーん!」
手を振ってくれるタンケイちゃん。
「すごいですね、もうこんなに仕事が進んでいるんですか?」
「えへへー、この子にも手伝ってもらったっすよ。」
この子って? 紹介されたのは小学生高学年くらいの…
人間?…の男の子。油まみれ。
鼻の下にグリスついてヒゲみたいになってるぞ。
って、王子様だよ!! この子!
「すごく魔道機に詳しいんっすよ。作業も慣れてるし、力も強いし。」
「工具も貸してもらったんす。」
「さすが、王都のお城ともなると子供でも職人がいるんすね。」
いや、いや。そんなことありませんよ。何やってんの殿下!
慣れてるとか、工具を持ってたとか、マニアすぐる!
…え? 力が…強い? それって…
「あ!」
「こ、これは…これも神代魔道機?」
「すごい! 普通にしゃべってる!!」
おっと、王子様に見つかった。
「すごいでしょ、アイザックさんて言うんですよ。」
「あれ? この魔道機。先日クラマスが連れてきたのと…頭部が同じ?」
「同型?…頭部すげ替え? いや? まさか……変形機能!?」
うわ、鋭い。ごまかしは通用しないぞ。
「申し訳ありません殿下、その辺は内緒にしてください。」
「自律応答!? 自意識があるのか?」
とかやってたら、メイドさんって言うか、女官さん?がわらわら出てきて王子様を引っ張って行った。
手馴れた感じ。いつもこんな感じなんだな、殿下。
「タンケイさん、まったねー!」
引きずられながら手を振る職人王子。
「はーい、ニュース君。まったねーっす。」
庶民派だニュース殿下。
えーっと、タンケイちゃんに王子様だって教えるべきなんだろうか?
そこへ馬車がやって来た。
先導で警備はサンゴロウ騎士だ。
馬に乗って来たけど…馬がかわいそう。
デカ馬くんみたいなわけにいかないわ。
巨体に青息吐息。
となると馬車に乗っていたのは、エリクソン伯とクオリアさん、子供たち。
先に城内へ案内されていった先生、メガドーラさん、キラすけの後を追った。
「あれ? デイエートは戻ってきてない?」
ハイエートお兄ちゃんがタンケイちゃんに尋ねる。
「来てないっすよ?」
「イオニアさんと一緒に居るのか? 大丈夫かな…」
「王様とか、貴族さんとか居るんでしょ? おっかないっすね。」
「おやっさん、大丈夫なのかなあー…」
まあ、さっきまで手伝わせてたの王子様だけどね。
「あ、仮面!」
ベータ君が自分の顔に手を当てて困ったような声。
持ってちゃったのか、キラすけ!
「ところで…この人は?」
ああ、ハイバンド氏。レガシ出身の学者さん、先生の弟子、ベータ君のお兄さん。
「え? イーディ道士の言ってた…持ち逃げ犯…すか?」
「はっはっは、人聞きが悪いなあ、イーディのやつ。」
悪びれない。鋼のメンタル。
俺、ベータ君、ハイエートはタンケイちゃんの手伝いとかしながらしばらくのんびり。
王城からミーハの三戦士、ウェイナさん、シマックさん、ベスタさんが出てきた。
鬼人隠れ巨乳剣士アイワさんも一緒だ。
「いやー、王様とか貴族とか。肩が凝った!」
「お疲れ様です、おケガはありませんか?」
「平気平気。しょせん兵隊さんは戦場が専門だからね。」
「専門の警備兵はみんな王軍で、最初っからこっちの味方みたいなもんだったしね。」
「大した奴は居なかったなあ。サンゴロウ騎士みたいな凄い人はいなかったね…」
ベスタさんの言に照れて頭をかく巨漢騎士。
ハイエートが声をかける。
「お疲れ様、こっちでお茶にしましょう。」
ベータ君が引き寄せたコンテナNo.2。
作業台だけじゃなくお茶道具も積んであった。
準備いいね、タンケイちゃん。
「ああー、ちょっと鎧、緩めてもいいよね、もう。」
んん? アイワさん?
そういえば…胸が、小さい…だと?
晒し着用の頃と同じサイズに見える。
なんか、胸元についたダイヤル的なものを回すと…
軽装鎧の胸元がスライドして拡張!
もわん、もわあんと膨らんだ!!
「ふー、楽になった。これ、いいよ! タンケイ。」
「上手く行ってるようっすね。下着との連動がむずかしかったっすけど…」
な、にぃ!? 可変胸ガードシステム!
戦闘時に胸を押さえて邪魔にならないようにする機構。
残念女騎士やデイエートには無用な代物!
サラシによる圧縮をワイヤー機構で再現する鎧ー下着連動隠れ巨乳システム!
恐るべし、タンケイちゃん胸囲のメカニズム!
「アイザックさんの装甲板を参考にしたっすよ。」
え、そうなの。
と、そこへデンソー家のクラマスさん。
「アイザックさん、来てください。殿下がお呼びです。」
ああー、やっぱそうなるよね。
ああ、ここ。先日の宴会場だわ。
先日とは違ってビュッフェ方式の半分立食パーティな感じ。
こっちのほうが貴族パーティっぽい?
だが、とてもそんな雰囲気じゃなかった。
ちゃんとしたカッコした王様や王族、重臣に対してついさっきまで戦闘してたレガシの面々。
すんごく服装がちぐはぐ。工場作業員食堂に重役がブランドスーツで来ちゃった的な。
すでに場はくだけて、みんな思い思いの小集団に。
イオニアさんは…知らない人達と話してる。
カロツェ家の方々か?
綺麗な女性、お母さん? こっちはお祖父ちゃんお祖母ちゃんかな?
その隣にデイエート。困った顔、助けを求めるように俺の方見た。
いや、俺にもどうしようもないですよ。
一方、先生とおやっさん。王様と話してる。
エアボウド生臭導師も一緒だ。今後の相談か?
エリクソン伯は王族や重臣らしい人達と会話中。
「無事で良かった、良かった。」
って泣いてる人までいるぞ。
人望あるね。
バッソ家の兄弟クリエート君とトリニート君は王子様のニュース殿下とお話。
王子様、作業着を着替えさせられた。
タンケイちゃんから仕入れた魔道機の知識をうれしそうに話しまくり。
オタッキングトーク、つい語りたくなるんだよなあ。
わかる、わかる。その気持ち。
バッソ兄弟はちょっと困った顔で聞いてる。
話が濃すぎて追いていけない。
まあ、頑張ってね。王国の次代を担うメンバーだ。
おっと、俺に気が付いた。
俺は宴会場の隅。
さすがにこの中に入っていくのはためらわれる。
いかつい戦闘魔道機は場違いだよね。
王子様の方から来てくれたよ。
バッソ兄弟もついて来た。
殿下ほどのマニアでなくても、男の子ならロボ好きだよな。
そうとも、そうに決まっている! ロボ嫌いな男子などいない!
「アイザックと言ったな、キミは神代魔道機なのか?」
「自分が何に分類されているのかは、知りません。私は私ですので…」
「ふーむ、確固たる自意識があるようだな。驚くべきことだ。」
「稼働している神代魔道機は僕の知る限りキミだけだぞ。」
うーん、実はミネルヴァとかもいるんですがね。
あれ? そういえば…
「殿下は先日、モアブ伯から神代魔道機を見せてもらった、とおっしゃいましたが…」
「詳しくお教え願いませんか?」
ちょっとためらう王子様。
「う、バンカーから内緒だって…」
異を唱えたのはクリエート君。
「殿下、今更モアブ伯の約束など…」
「う、うん。そうなんだけど…」
妙に歯切れ悪いな。
「やはり…ヒト型で…」
「キミよりかなり小型でほっそりしていて…」
あー? もしかして女性型だったのか?
「色はもっと白っぽくて…」
エロかったのか!? エロかったんだな!!
それで言いにくいのか! 思春期男子王子!
そんなもの王子様に見せるなんて…ダメやん! モアブ伯。
教育に悪い!
まあ、たぶんモアブ伯はフェチ属性無しだったんだろうな。
単なる機械としか思わないから、王子に見せたんだろうけど。
そういうのに、性的な興味を持ってしまう属性と言うのが存在するんですよ。
「どこで手に入れたかとかは言っていませんでしたか?」
「領地の【荒野】で発掘したって言ってたが…」
そうすると…軍用獣機と一緒に発見したのか?
「稼働しては居なかったんですね?」
「まあ、稼働も何も…身体だけで頭が無かったしね。」
なん、だと!? それってもしかして…
しばらく俺の身体を撫でまわしたり、屈伸運動させたりして観察。
背中の構造に興味津々。スケッチ始めた。
バッソ兄弟の方は飽きて来た。帰りたい。
王子が王様に呼ばれて渋々離れると、クリエート君、トリニート君も移動。
えーっと? 俺もう帰っていいですかね?
なんか、みんな結構お酒が入ってグダグダになってきてるんですけど?
「おい! 魔道機君!!」
う? エリクソン伯?
「さっきは、娘や孫を守ってくれてありがとう。」
バンバン! 背中叩く!
酔ってますね、かなり。
「あの後、バッソ騎士団がクオリアを屋敷に戻すって主張しおってな…」
「もう、返さないっていうウチの騎士団と戦闘になったが…」
クオリアお嬢様は永遠のマドンナ的な、バカはバカ親父だけじゃなかった。
何やってんだよ!
「クオリアは返さん!」
いや、俺にそんなこと言われても。
飲み屋の前の狸の置物に延々と愚痴を言う酔っ払いのおっさん状態。
そして、タヌキは俺。
カーネルサンダースさんが被害に遭ってるのも見たことある。
帰りたい!
さらに愚痴は続く!
エリクソン伯、クオリアさんを溺愛していた。
その愛娘を娶ったのがバッソ侯ベガ。
至上主義者になったのは、そのバッソ侯が夢魔ハーフだったから。
という噂が立つくらいがっくり来たらしい。
もっとも、エリクソン伯は理想至上主義といわれるタイプ。
人間こそが先頭に立って秩序と平和を主導すべきと言う理念主義。
もちろんその秩序の中には差別撤廃も入っている。
差別的、妄念的な他種族排除とは縁遠い存在でもあった。
それなのにベガさんとクオリアさんの結婚には反対したんだよな?
そりゃあ、アレだけの美形。
女性は向こうから迫ってくるだろうし、見た目は女たらしっぽいけど…
実際にはキラすけの母親以外は側室もいなかったらしい。
その側室だって最初はメガドーラさんが押し込んだ。
湾岸市でも身持ちは堅そうだったよ?
「湾岸都市でバッソ侯にお目にかかった事があります。」
部下に尊敬され、住民にも好かれているように見えた。
「中々の人物とお見受けしましたが…」
「そういうことではないのだ!」
「あいつが立派な男なのはわかっとる!!」
「長年、一緒に王国の仕事をしてきたのだ。」
「だが、……だが!!」
父親伯爵、こぶしを握って肩を震わせている。
ええ? 何でそんなにバッソ侯の事、嫌いなの?
「アイツは夢魔族ハーフ!」
「見た目はあんな姿をしているが…」
「ワシより年上だぞっ!!!」
…………………えっ?
ああっ! そうだ!!
メガドーラさんが王都に居た頃の子供。
アラウンド200歳!
今の人間、ヒト系獣人は「人間」よりは寿命が長い。
それでも100歳ならそれなりに歳をとる。
でもバッソ侯はこの間見たときでも青年にしか見えなかった。
そうか! 見た目を除いて考えれば……
「手塩にかけた愛娘を、自分より年上のひひジジイに奪われた」
って事だ!!
あーーーーうーーーーん! そりゃ、許せんわ!
いやいや! 許せねえ! 許せんぞ、バッソ侯!!
ええ、アイツ結婚するの? 出来ちゃった婚! 嫁さん…19歳!?
許せん! うらやま…お巡りさん、コイツです!! そんな感じ!
こりゃあ、たまらんわ!!
切ない!!
エリクソン伯、涙目!
「わかるだろう! ワシの気持ち!」
「お気持ち、お察しいたします…」
「わかってくれるだろーーー!!」
ああ、うーーん。
小一時間、エリクソン伯の血を吐く様な愚痴に付き合った。
帰りたい!
だが、一方。
タマちゃんは先生とクオリア奥様の会話を聞いていた。
「しかし、クオリア殿は何でまたベガ坊主と結婚する気になったんだ?」
「言っちゃ何だが、中身はけっこうなジジイだろ。」
ずけずけ、言っちゃう。
そう、先生の辞書に遠慮という文字はない。
「親父さんは反対したんだろ?」
クオリアさん、ちょっと恥ずかしそうに答える。
「そのー、私、小さい頃からお父さん子でして…」
「同世代の男性は頼りないって言うか…」
「父のような年上で頼りがいのある男性が理想で…」
「その点、ベガはずっと年上ですし…」
「しかも見た目は若々しい…理想の男性だったわけで…」
ぐはあっ!!(吐血!)
ファザコン娘が出会った理想の男子。
パパの教育、自業自得、因果応報、自縄自縛!
エリクソン伯! あんたのせいですよ!!
「なるほどー。」
「そうなると、もう何年もベガと会えんのはつらいな。」
「まあ、今度の事が片付けば、また会えるようになる。」
先生の慰めに、目を伏せる奥方様。
「でも、今になってみると…あの人は若々しいままなのに…」
「わたくしはもうおばさんですわ…」
「なあに、心配いらん! ワタシはアンチエイジング魔法は得意だ。」
「10代みたいなお肌にしてやるぞ。」
「ベガ坊主もメロメロだ。」
「ええ?」
「クーパー靭帯だって再生可能だ!」
「えええー?」
驚愕、クオリア奥方様!
先生もだいぶ酔ってんな…。
「で、でもエルフや夢魔族にはそーゆーの必要なかったのでは?」
意味深な笑みを浮かべる先生。
「ふふふ、アンチエイジング魔法はな…」
「金になるのだ!!」
あ、うーん…ぶっちゃけましたね。
「特に貴族や大商人の奥方たちには好評だった。」
「一時期はこれで食いつないでいた時期があって…」
先生…、そんな苦労していた時期が…
「効果は保証付だ。効き目が良すぎて、結婚詐欺の共犯と訴えられた事もあったほどだ。」
「あやうく火あぶりにされる所だったが…」
けっこうあちこちで、火あぶられかけてますよね、先生。
そして、トンちゃんはキラすけの行動を監視。
やらかさないようにね、心配だからね。
夢魔女王が一緒だから大丈夫か?
トリルミナ姉上も一緒だな。
メガドーラおばあちゃんの両側に座って、もりもり食べながらお話し。
ルミごん、でかい骨付き肉の塊かじる。あの肉!
何の肉なの、それ? あと、野菜も食え!
ルミごんはキラすけより年上のはずだが…サイズが変わらないゾ?
双子のトリニート君は結構育ってイケメン化してるのに…
お祖母ちゃんは孫に囲まれてご満悦。
「そうか、ルミナは魔法得意か。」
「がる!」
「ふん、我と違って固有魔法は持っておらんからな。」
「へっぽこファイヤボールは黙ってろ! がるる!」
「火炎球ではない! 獄炎の魔恒星!」
「あー、もめない、もめない! 人それぞれじゃ。」
「魔力が強いのは夢魔族の血が濃い証拠じゃな。」
メガドーラさんうれしそうだ。
ルミごんの頭をなでる。
「うが、お祖母様はおっぱいでかくて羨ましい!」
直接的だ、ルミごん。
キラすけも脇っちょで同意。こくこく。
ぐいっと顔を押し付けるルミごん、おばあちゃんのおっぱい。ふにふに!
微笑ましい。そしてうらやましい。待て待て! 肉の脂がドレスにつくからー!
「ははは、心配いらん。夢魔族は半分精霊的な存在だから…」
「イメージをしっかり持っていればその通りに成長するのじゃ。」
「ふひ!?」
「がる!?」
え、そうなの!? 夢魔族はみんな美人だって組合長も言ってたけど…
「ま、ちょっと時間はかかるがな。」
ビクッとする孫ーズ。
「ひふ?」
「うが?」
「夢魔族はエルフよりもさらに寿命が長いが…その分成長にも時間がかかる。」
「うが…が?」
「ちょ、お祖母ちゃん…それ初耳…」
「え? 聞いておらなんだか?」
いや、聞いてませんよ、俺も。
狼狽するキラすけ。
やはり、すくすく成長する相方、マビカに思うところがあったようだ。
ルミごんも明らかに動揺!
「ど、ど、ど、どのくらい?」
「が、る、る?」
「まあ、人間の2~3倍程度かのー」
「ふひいぃーーーー!?」
「うががぁーーーー!!」
絶望の声。うーん…まあ、頑張れ!