学者道士ハイバンド
軍用獣機のコントロールをすべて掌握。
王都奪還の仕上げ、首謀者モアブ伯の屋敷を制圧した。
残党兵士はタモン将軍に任せて、俺たちは…
「邸内を調べるぞ!」
「軍用獣機の出どころの手がかりがあるかもしれん。」
先生、俺、メガドーラさん、キラすけ、ベータ君、ハイエートは邸内へ突入!
…キラすけはいらないんじゃ? まあ、置いてもいけないしね。
ベータ君は身元隠しの仮面付けたまま、カッコイイ。
意外と気に入ってる?
ついて来たのはちょっと髪の毛焦げてる女騎士。
「ごごご、護衛を命じられました。」
まあ、いいでしょう。
突入、モアブ邸!!
当然邸内にも兵士はいるわけだが…
ハイエートの弓、女騎士の剣技、魔女ズの魔法とくれば俺もベータ君も出番がない。
突っかかってくるモアブ兵は空気。
その辺で留守番の執事さんを捕まえた。
秘密の場所っぽい地下室を教えてもらった。
メガドーラさんが尋ねると隠さず親切に教えてくれたよ。
やっぱ、おっぱいの力は凄いね。(違うけど)
ちょっと目がうつろで表情がおかしくなっちゃってたけどね。
「ここか?」
地下牢とかじゃなくて、けっこう立派な部屋だ。
特にカギはかかってない?
内部は…書庫?
立派な装丁の書物がぎっしり詰まった本棚、壁一面。
テーブル…作業台の上には紙束の資料が積まれている。
研究室?
「ありゃ? どうしたんです? 執事さん?」
「お客さん? ここ、人は入れちゃいけないって言ってませんでしたっけ?」
山積みの本や資料の向こうから顔を出したのは…
え? 長耳…エルフ?
エルフの男性だ。
至上主義者の代表格モアブ伯の屋敷にエルフ?
エルフ? ちょっと今まで見たエルフと違う…
うん、小太り。
こっちを見てびっくり。
「せ、先生? エルディー先生!?」
「ありゃ、お前…ハイバンドじゃないか?」
ハイバンドさん? て先生の弟子、ベータ君とイーディさんのお兄さん?
「何やってんだ? お前、こんなとこで…太った?」
「え? ハイバンド? いやー久しぶり。…太った?」
「おおー、ハイエート!! ごぶさた!」
いやいや、のんびりしすぎ。あんたら。
「何でお前こんなところにいるんだ?」
先生がせっつく!
「いや、何って…監禁されてるんですよ。もう何年も。」
「ええー?」
「いや、実はですね…」
ハイバンドさんの事情説明。
何年か前に史料を調べるために王立学園図書館にやって来た。
エアボウド前学長の紹介をもらってしばらく調べものをしていた。
ところが魔道機文明の史料が読めることが知られて、モアブ伯に拉致された。
それから、ずっと文献の翻訳作業をやらされていた。
獣機のマニュアルとかそういったあたりの…
など、など。
「モアブ家には翻訳能力者がいたらしいんですが…」
「5年くらい前に行方不明になったらしくて…」
ああー、犬獣機の本拠地サイト1に転がってた白骨死体。
あの中の一人だな、たぶん。
「なに、おとなしく捕まってるんだよ!?」
「自力で脱出できなかったのかよ?」
そうだよな、先生の弟子だったら戦闘魔法だって…
「え、いや、そのー」
目が泳いでるぞ、ハイバンド氏。
「貴重な史料だしー、逃げるのは全部目を通してからでもいいかなーって…」
「アルバイトとかしなくても、ごはんも出ますしー…」
「必要だって言えば大抵の資料も取り寄せてもらえるしー…」
エンジョイしてたんですね。学究生活を。
「なるほど。それは羨ましいかも…」
先生も納得しないでくださいよ。
「まあ、いい。モアブ伯はもうだめだからな、ついて来い。」
「え? そんな!? マジで? 何で?」
愕然とするハイバンド氏。
夢の学究生活、理想の引きこもり、モラトリアム終了。幼年期の終わり。
「ちょっと待ってください。これとこれとこれがまだ手付かず…」
「ええーい! ベータ、ちょっと触っておけ、後から取り寄せる。」
「え? ベータ?」
兄弟、感動の再会! してる場合じゃないか。
「おまえ、ベータ? 確か弟だよね、僕の?」
「ええ、ぼくの記憶ではそうですけど…」
嬉しそうじゃない、ベータ君。
エルフの家族関係はドライだ。
しかも、このお兄さん。レガシを出る時に家の金を持ち出している。
名前を聞くとイーディさんが不機嫌になると言う。
キラすけを見て
「え? 子供? 体験学習会か何か?」
ああ、うん、そんな感じするよね。
ところで、ベータ君。いつの間にか仮面は外している。
外した仮面はキラすけがちゃっかり着用。
ああ、好きそうだよね…お前そういうの。
せがんだんだな、ベータ君に。
メガドーラさんを見てびっくり。
「うっわ! エロっ!! どちらさん?」
正直者だ。そして、この緊張感のなさ。ゆるい!
「妾はメガドーラ。おぬしエルディーの弟子かの?」
「え? メガドーラ導師? 夢魔族の?」
「ああー、昨日の妙な夢は先生の睡眠学習魔法ですか!?」
「言っちゃ何ですが、あれはまずいんじゃないですかねえ…道義的に…」
「ええーい、黙っとれ! ついて来い!!」
やれやれ、って感じでえっちらおっちら後をついてくる。
足腰弱い。引きこもり学者小太りエルフ。
「ちょっと待ってくださいよ、速いですよ。」
「えーい! 足手まといなヤツ!!」
先生が罵倒!
当の本人は怒られても平気な顔。メンタル強い。
「どこへ行くんです? 屋敷内でエルフがウロウロするとまずいですよ。」
「至上主義だって言う立場上、エルフがいるのはまずいって、バンカーが。」
「バンカー!? お前、モアブ伯を呼び捨て?」
仲いいのか?
「そりゃ、ここ自宅ですからね。時々、僕んとこへ来て愚痴こぼしていくんですよねー。」
「ちょっ!?」
「彼、王都から出発したんでしょ? ホントにやるつもりなんですねえ。」
「な、何? お、お前。どこまで知っているんだ?」
「え? 話すと長くなりますけど? 急いでるんじゃ?」
こ、このヒト。イラっとする。
地下室から上がると、アルパン騎士以下王軍兵士がてきぱきと働いていた。
残存兵の拘束、使用人の尋問、やる事はいっぱいある。
見知らぬエルフ(小太り)を連れて上がってきた先生に、目を丸くするタモン兄貴。
「そちらの方は?」
「コイツはハイバンド。」
「事件の重要参考人だ!!」
「えええーーー!?」
自分の扱いに驚く学者エルフ。
「この地下室には重要な資料がある、保全を頼む。」
「わかりました。」
屋敷を出て表へ出ると何体かの犬獣機が整列していた。
すっかり王軍兵士になじんでる。
っていうか、いかにも王軍の一員ございって顔して並んでる。
「おお、これが警護用機動体ですね。夢でも言ってたけど…正常化したんですね。」
「こいつらの扱いが予定通りに行っていれば、バンカーもこんな苦労しなくてすんだんですがねえ。」
聞き捨てならないことをポロポロ語る小太りエルフ。
この人、何を知っているんだ?
そして俺のほうを見て…
「あれ? この人…ええ? 人じゃない!? 魔道機!!」
今頃か!
「いや、いや。あんまり動きが自然なもんで…鎧騎士かなんかかと…」
『アイザック、聞こえるか?』
おっと、トンちゃん経由通信。エアボウド導師だ。
『片付いたようならエルディーを連れて一旦王城へ戻ってもらえるか?』
『王様と顔合わせしてもらいたいんだ。』
「てことです。」
嫌そうな顔する先生。
「そういうのはゴメンこうむりたい所だが…」
『ごはんが出るよ。』
「そうかー、それじゃ仕方ないな。イオニアの立場もあるしな。」
お腹減りましたね。昨日からロクなもん食べてませんしね。
王様メシの誘惑には逆らえなかったよ。
ハイバンド氏も連行。
「信用したわけじゃないからな、これを…」
あ、それ。ルミごんが着けられていた魔力封じリボン。
「ええ? そんな事しなくても…」
「うるさい!」
首に巻こうとしたら、届かなかったよ。
「えーい、太いわ!!」
首絞める先生!
「ギブ、ギブ!」パンパン!
手首に巻いて呪文詠唱。
「ひどいなあ。」
先生が魔法をいちおう警戒するってことは…
それなりに使える人ってことだな。
馬獣機を見て感激。
「おお、すげー。かっこいい!」
「お前は歩け!」
冷たく言い放つ先生。
「いやいや、長年の安楽…監禁生活で足腰弱ってるんですよ。」
「王城まで歩くとか無理。」
馬獣機は4機。サンゴロウさんをバッソ家においてきたので余裕はある。
メガドーラ・キララ組は除いて、先生、ベータ君、ハイエート。
誰が乗せてくの?
嫌そうな顔する3人。