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モアブ邸攻略


王都奪還の最終段階。

モアブ伯の屋敷へ向かう。

建国英雄の家系、王国最大の勢力を持つ貴族だ。

さぞかし豪華なお屋敷に違いない。

……ここ?

思ったのと違う……

まあ、ドローン情報で見てはいたんだけど、実際目にすると…

敷地は広い。手入れの行き届いた豪華な庭園…

じゃないよ。公園? 野球が出来そうな広さだけど更地。

芝生が敷いてあるだけで…申し訳程度の小路。

建物も…お屋敷? いや、お役所だよね、これ。

貴族的な豪華さとは程遠い実務的な建物、効率優先。

芸術性とか装飾とか最低限。

「まあ、建てたのは先代のブレビーだからな…」

「あいつはとにかく実務一点張りの男だったから…」

七英雄の中で、もともと貴族だったのはブレビー・モアブだけ。

その人が一番地味って言うのは…

いや? 元々貴族だから見栄を張る必要が無かったのか?


今のモアブ邸は堅く門を閉じている。

屋敷周辺は、すでに王軍が取り囲んでいた。

俺達が近づくと、ちょっと良い鎧を着た隊長っぽい人が駆け寄ってきた。

「エルディー大導師ですな。」

「タモン将軍の部下、騎士アルパン・ルプスと申します。」

「ただいま将軍がこちらへ向かっております。しばしお待ちください。」

ごっつい顔した戦士タイプだ。いかにもな軍人。

今まで見た王軍騎士がポンコツ女騎士や商売上手騎士だったんでちょっと新鮮。

見ると耳にくっつけているのは…カナちゃん。

通信機として使っているのか。

先生やみんなの視線に気付いた。

カナちゃんに軽く触れる。

「便利ですなあ、この虫魔道機は。」

照れたような顔。無骨さと純朴さがチャーミングですね。


そうこうしてるうちに向こうから軍用獣機ゴリアテが近づいてきた。

モアブ軍の生き残りか? と緊張する兵士たち。

「大丈夫です、アレはミネルヴァですよ。」

そう、操縦器に警護獣機ハウンドを接続してコントロールを乗っ取った。

パーンサロイドミネルヴァが駆け寄ってきた。

生き物同然の動きをする奇妙な魔道機体に王軍兵士たち、びびる!

「コントロールは奪いましたがちょっと問題が…」

どしたの?

悠然と歩を進めるゴリアテの前を犬獣機が歩いている。

背中には操縦器がくっついている。

なるほど、工兵機サテュロスを積む時に使っていたジョイントを利用してるんだな。

「問題って?」

なんか、ハウンドの方がしょぼんとしているような…

ヘッドアームが下がって、しょぼくれ感が出てるけど?

「ゴリアテを動かしている間はハウンドの方は歩くだけしか出来ないんですよ。」

あー、そうか。ケロちゃんGの自律CPUはゴリアテだけ動かしてた。

そのデータを移植しちゃったから…

両方同時には無理かー。


「ゴリアテ同士をぶつけるのは最後の手段、頼みますよ、キララさん。」

デスグリップで無力化するのが一番簡単だ。

「ふっふっふ! やっと我の実力がわかったようだな。」

「まあ、下僕の望みをかなえてやるのも主人の務め。」

「わが、闇の魔力、冥刻界より導かれし漆黒の波動の威力!」

「凡俗の士にもわかる形で啓示してくれようぞ!!」

うざっコイツ! ちょっと活躍して調子に乗ってるな。

イラっとくる!!

不敵な笑みを湛え、手のひらに闇の球体を浮かべた。

おお、悪っぽい!

「あ、あれ?」

急に戸惑ったような表情。

ん、どした?


そこへタモン将軍が到着!

クラリオ女騎士、クリプス騎士も同行。

「おおー、クラリオ、クリプス。久しぶり!」

アルパン騎士とは知り合い…元同僚か。

「ストラダが居れば四天王勢ぞろいなんだが…」

ええ? タモン将軍四天王! そんなメンバーが?

燃える! 四天王!!

先生が尋ねる。

「あっちはどうだ? イオニアは大丈夫なのか?」

「王城は問題ありません。エアボウド導師がいますし…おやっさんの貫禄が効いてますな。」

「あはは、まあ、ちゃんとしてるから、おやっさんなら。」

自分たちはちゃんとしてないって自覚あるんですね。


「こちらも軍用獣機を使用できる事を見せて、降伏勧告をしよう。」

モアブ兵といえど、兄貴にしてみればともに王都を守ってきた友軍という思いがある。

殺し合いになるのは避けたい。

正面にはあえて犬獣機を配していない。

ハウンド操作のゴリアテが起動。

器用に手を使って外壁に築かれたバリケードを撤去していく。

人間による操縦では難しい高度な作業。

さんざレガシで建築作業に従事したケロちゃんGの学習データならでは。

だが、モアブ側から見れば熟練の操縦者がいるように見えるだろう。

アルパン騎士が拡声魔法を使って降伏勧告。

だが、さすが本宅を守るモアブ軍、いや、モアブ騎士団。

今までの兵士とは士気、練度が違う。

きちんとした隊列を組んで抵抗の構え。

このままぶつかったら双方被害が大きくなる。

膠着状態。

「あの、鉄蜘蛛…変ですね?」

消磁魔法マグセーフの矢を用意していたハイエートが指摘。

「腹が地面についてますよ。稼動していないんじゃ?」

何? 電波可視化で鉄蜘蛛内に操縦者がいる事は確認済みだが…

デビル○ヤーは地獄耳! 音響分析。

稼動音が聞こえない?

「壊れてるのか? 単なるトーチカとして使ってるだけか…」

本宅にも稼動する鉄蜘蛛を残していない?

そこまで全数を出撃させたのか?


とにかく、軍用獣機を無力化する。

進み出たのは俺、キラすけと先生を乗せた馬獣機。

「いいか、キララ。見物人が多い、あまり派手にやるな。」

「え?」

「後々の事を考えると、特殊能力は隠しておいたほうが良いからな。」

先生が釘を刺した。

「お、おう。そうだな、うん、そうすべきだ、うん。」

なんだ? さっきまでと言ってること違うぞ。

冷や汗かいてる?

さっきまでの勢いどうした? キラすけ?

ここへ来てびびったなんて事は無いよな?


モアブ騎士団には俺の情報が伝わっている。

人相書きみたいなのが出回ってたくらいだから。

体格差で油断したりはしないだろう。

2体のゴリアテが同時に前進を始めた。

目標は俺だ。

今の俺は単体。飛行ユニットは分離して上空を旋回中。

連携して立体的に戦うつもり。

いざという時は先生とキラすけを脱出させることもできるしね。

だが、まずは頼むよ、キラすけ。


「デスグリップ!」

いきなり発動! あれー、前フリは?

先生の忠告に素直に従うとは思わなかった。

いきなり前のめりにぶっ倒れるゴリアテ。

内部アンテナを遮断されて緊急停止。

外からはダークゾーンは一切見えない。

はたから見ると何で停止したのかまったく不明。

やっぱりこれまでのは単なる演出だったんだな。

まあ、カッコ良かったけど。

突然の事態に残りのゴリアテも歩みを止めた。

「キララさん、次を!」

「お、おう! ほふ!」

「で、ですぐりっぷ…」

なんだ? 声小っさ!

意を決したように再び進み始める軍用獣機。

停止しない? 自動攻撃モードか?

いや、電波が来なければ自動モードも停止してたよな?

「キララさん?」

「ふんぬー!」

顔真っ赤! ええ?

なんか、脂汗流してる? キラすけ?

「……ごめん、もう魔力切れ…」

ちょわっ!

ああー、引き寄せ魔法から、ゴリアテ対策と使いまくりだったから…

今まで1日にこんなに使った事無かったもんな。

よけいな演出に凝るからー! 無駄遣い!

ハゲ隊長にいたずらなんかしなかったら、もう1体くらい行けたんじゃないの?

「ぶははは、いや、笑いごっちゃないが。」

それでも大笑いする先生。豪胆だ!

「無理すんな。夢魔族は半分霊的存在だから…」

「魔力使い過ぎると縮むぞ。」

「ふ? ふひっ?」

縮む? ひえ!? これ以上縮んだら…まずいぞ、キラすけ!

「先生引いてください。」

「おう、後は任せたぞ!」

はいな、任されました。

あわててUターン。先生とキラすけを乗せて引き返す馬獣機。

さて、残り3台のゴリアテ。

ここからは俺の見せ場だ!


ゆっくりと進むゴリアテに対し、俺も悠然と歩を進める。

来い! スカイエクソン!!

舞い降りた飛行ユニットが合体。アサルトアイザックモード。

機首ビームをスタンバイ。

ゴリアテが巨大な腕を振り上げた。

んん? まだ距離があるが?

内側から外側へ剛腕を振り払う!

いかん! 魔法センサーに反応。

コイツ、護符を装備しているぞ!

振るわれた腕から火炎が噴き出す。

三日月状の弧を描いた炎の大波が地を這って俺と背後の王軍を襲う。

後方に控えて、俺とゴリアテの決闘を見守っていた兵士たちに動揺が走る。

もちろん歴戦の兵団として魔法戦闘の対応も準備していたが…

まさか軍用獣機から放たれるとは思っていなかった。

俺も、予想外!

まともに炎を浴びる。

まあ、俺はどうってことないんですが、後方にいる先生、キラすけは…

…どうってことなかった。

先生と夢魔女王が被甲身バンパーを展開。

それも炎を弾き返す「壁」じゃなくて、「斜面」。

王軍の前面に幅広く発生したバンパーの坂を火炎魔法の熱波が駆けあがる。

そのまま兄貴率いる王軍兵士の頭上を飛び越して拡散。

いかに先生と言えどもバンパーを幅広く展開すればそれだけ強度が下がる。

強度不足を斜面で受け流すことで補ったのか。

さすが先生。さすが夢魔女王。

「うわっち! 熱ちちち!」

ちょっと火の粉かぶってる兵士もいるみたいだけどね。

「ちちち、熱っつーーーいぃいいい!」

うん、間の悪い女騎士とかね。


高温の火炎魔法をものともしない俺に驚いた(んじゃないかな)モアブ騎士団。

続けて第2波、第3波を放とうと、残った3体のゴリアテ達が腕を振り上げる。

グラビトン!

自重を増加させ、足を地面に固定!

スカイエクソン、パワーファイヤ噴射!

以前、魔王城山で兵士を吹き飛ばした暴風機能。

そして、水精竜ウオーターシュート

くらえ! ビッグウインド!!


1990年に勃発したイラクによるクウェート進攻。

サダム・フセイン率いるイラク軍はアメリカを中心とした多国籍軍の反撃を受け撤退した。

その際、クエートの油田地帯に火を放った。

燃え盛る油田火災の高温は消火作業を阻み、炎上する原油により史上最大の環境汚染が発生。

「100年は消えない」と言われた油田火災に投入されたのが「ビッグウインド」

ハンガリーのチームが開発したと言われる。

旧ソ連製の戦車の上にこれまたソ連製戦闘機のジェットエンジン2基を据え付けた消火兵器である。

ジェット噴射による強風で大量の水を噴射、油田火災を吹き消した。

そして今の俺はビッグウインド!

水精竜によって発生した水が飛行ユニットの噴射に乗って吹き付けられる。

発生する火炎魔法を片っ端から吹き消す。

魔法対物理! まあ、水精竜もパワーファイヤも魔法ですけどー。


ゴリアテの魔法攻撃は種切れか?

いや、消火放水によって獣機だけじゃなくモアブ騎士団もずぶぬれ。

結果的に電撃系の魔法が使えなくなった。

お風呂入れられた猫みたいな無力感が漂う騎士団。

行くぞ! オーバードライブ!!

パワーファイヤが獅子のタテガミのごとく噴き出す。

飛行ユニットの翼端噴射ユニットまでが装甲板スライドして赤いラインが走る!

【収納】から取り出したのは、高周波振動剣じゃなく頑丈剣、おやっさん製。

ぶっつけ本番だが、試して見るか。

ゴリアテ相手じゃなきゃ使い道のない大技。

ジャンプ! 飛行ユニットによって舞い上がる。

空中で剣を構える。大上段!

被甲身バンパー、空力バリヤー、水中で使った強化バリヤーだ。

剣にまとわせる形で展開。

剣先に展開したバリヤーをイメージする。

マッハ飛行で先端を尖らせたあのイメージ。

細く、薄く、もっと鋭く!

落下! グラビトン発動!

ゴリアテの頭頂部に叩きつける!

兜割り! いや、脳天唐竹割り!! あぽっ!

被甲身の形状はイメージにより形成される。

もしかしたら物理的な刃物よりはるかに鋭く、ナノスケールまで鋭角化されたのかもしれない。

もの凄い切れ味、俺自身びっくりした!

一刀両断!!

脳天から股間まで切断されてしまった。

ぱっかりと二つに割れて両側へ倒れるゴリアテ。

あれ? ここは「天空無双剣!次元両断!!」とか、技の名前叫んだ方が良かったかな?

でも、キラすけじゃあるまいし…恥ずかしいよね、そんなの。

さすがのモアブ騎士団も動揺した。

ゴリアテに続いて進んでいた隊列が乱れる。

軍用獣機、残り2体。

『破壊しちゃだめですよ、モアブ伯が戻って来た時に防衛用に使うんですから。』

おう、そうだった。ミネルヴァに怒られた。

でも、そんなこと言われても…

対応に迷っているうちに掴みかかって来た。

グラビトンで自重を増加!

巨大腕を受け止める。力比べ!

パワー自体は負けてないんだよ、俺本体!

さて、これじゃ身動き取れない。どうしたら…


頭上を何かが通過した。

え? 今のは…ミネルヴァ?

分離した鳥メカじゃなく、将機ボディと獣機ボディの合体したパーンサロイド形態。

そのまんま飛んでったぞ!?

ええ? ジャンプ? そんな跳躍力は無いだろ、いくらなんでも?

360度視界に見えるのは投球終了ポーズのハウンドゴリアテ。

アンダースローから残心のポーズ。

投げたのか!? ミネルヴァを。

格闘中の俺とゴリアテの頭上を飛び越えて、着地!

斜めに進入して衝撃を逃がし、そのままのスピードで駆ける!

動揺していたモアブ騎士団を唖然とさせたまま置き去り。

一気に鉄蜘蛛トーチカに駆け寄った。

解錠魔法オープンセサミ! 護符を突きつけてハッチオープン!

突入! 内部で閃光と轟音が!

閃光輝ライトニングと拡声魔法を組み合わせたスタングレネード護符。

たちまち内部を制圧。

力比べゴリアテも動きを止めた。

もう1体は…ダメか? まだ動いてる。

操縦者は別のトーチカだ。

あわてて引き返し、鉄蜘蛛トーチカを守ろうとする騎士団。

2台目のトーチカに向かったミネルヴァに突きかかった!

飛行ユニット機首ビーム発射!

騎士っぽい槍、ランス? を打ち抜く!

同時に矢が飛んできた!

いつの間にか、エルフ兄の馬獣機が接近。

長距離援護!

次々と馬のお尻に矢が刺さって棒立ち、騎士がバタバタ落馬。

普通の矢? ああ、兵士から借りたのね。

難なく2台目のトーチカを制圧するミネルヴァ。

軍用獣機の制圧は完了だ。

あとは…人間のモアブ兵士たちは兄貴たち王軍に任せよう。



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