王都解放
王城へ突入した俺たち。
カナちゃんズの情報収集で王族たちの所在は確認済み。
ベルちゃんやU-69に伝えているから、確保は容易だろう。
タモン兄貴将軍や、王軍の協力勢力も到着したし、ここはもう大丈夫。
飛行ユニットが向かった王都外壁の城門も開門済み。
上空から牽制ビームで攻撃する飛行ユニットに対しては軍用獣機は無力だ。
そして、門から突入してきたのは犬獣機。
いっぱい!
『いったい何体居るの? ジョーイ君?』
ロスト地方では骸骨塔ネットワークを借りていた俺たち。
でも今は逆にカナちゃんズネットにジョーイ君が相乗り。
『ええっと…いっぱいです。』
『レガシや、魔王城山で警備にあたっている以外で動ける奴は全員…』
『まだ、王都周辺に到達できていないやつもいますが…』
いや、もうこれ…もういいんじゃないかなあ…多すぎ。
この数相手では城門警備の軍用獣機もどうしようもない。
カナちゃんズがチェックしていた操縦者がたちまち制圧されて停止。
やはり、この操縦システム、鉄蜘蛛とセットで運用しなければあまりにも脆い。
よし、もういいだろう。市中制圧は任せたよ。ジョーイ君。
あと、操縦器を回収したら残りは速やかに城壁外に撤退してね。
スカイエクソンは次の目的地、エリクソン家邸宅に移動!
そう、次の目的はエリクソン伯、バッソ侯夫人の解放だ。
兄貴とジジイ導師が城内に入るのと入れ替わりで、先生と夢魔女王が出てきた。
「ひどいですよ先生、ちゃんと打ち合わせ通りにやってください。」
「ごめんごめん、てへ!」
反省してないな。
妙にすっきりした顔してる。
久々に攻撃魔法ぶっ放してスカッとしたらしい。
ベータ君も出てきてる。
あと、ハイエートお兄ちゃんも?
「ハイエートさん…デイエートさんは?」
「妹はイオニアさんについててもらいますよ。」
「ぼくはベータ君の護衛。イーディと約束したしね。」
いいのか? お兄ちゃん離れが進んでるのか、デイエート?
そこへミネルヴァも帰って来た。
「城内の軍用獣機操縦者は制圧完了です。」
「これ、操縦器。」
残り3体分の操縦器。
「さて、じゃあ、わたしらはベガの家族を助けに行くか。」
「ベータ、頼むぞ!」
「はい、器機召喚!」
再びコンテナが召喚! No.2
ハッチを開けると真っ暗。ダークゾーン。ゾーン?
中から出てきたのは馬獣機、4機。
先生用、夢魔女王用、お兄ちゃん用、デイエート…は、別行動だからベータ君用か?
ベータ君、馬獣機いける?
「練習しました。」
そうですか、俺ダメなんですけどね、馬獣機。
どうやっても乗れない感じ。
犬獣機も4体、獣機戦隊ハウンドファイブのメンバーだ。
その背中に…工兵機が4体?
え? 工兵機、何しに?
コンテナの奥の方になにやら部品が積んである。
作業台も作り付けてあるぞ。移動工房か?
と、まだ何か…人影? …ええ! キラすけ!!と、タンケイちゃん!?
No.2コンテナを召喚したら、キラすけとタンケイちゃんがついて来ちゃった!
「き、キララ! なんで?」
メガドーラさんも先生も狼狽気味。
こんな危ないとこへ、何で来ちゃったの?
「義母上たちを助けに行く!」
きっぱり言い切る!
「我がいれば軍用獣機を闇結界で無力化できるのだ!」
うーん、たしかにすべての電磁波を遮断できるダークゾーンなら…
「タンケイさんはなぜ?」
「犬獣機と操縦器を繋いでケロちゃんGみたいにするっす!」
「おやっさんがやるって言ってたけど、ウチの方が詳しいっす。」
それは確かにそうだけど…
しかし、危険だ。
「ミネルヴァ、ここを頼む。タンケイちゃんの警護頼むよ。」
「わかりました。」
「じゃあ、ミーちゃん。始めるっす。」
「ゴリアテと操縦器は今のところ3組確保しました。」
えーっと、お手柔らかにね、タンケイちゃん。
キラすけはどうする?
「よし、キララ、行くぞ! ベータと一緒に馬獣機に乗れ!」
ええ、先生! 認めちゃうの?
「我は一人でも乗れるけどな。」
俺の方を見て、ふふーんって顔。
ぐぬぬ!
「待って! 待ってくだされ!」
駆けて来たのはサンゴロウ騎士。
「バッソ侯の奥方様を助けに行くのなら私も!」
ミネルヴァを残していくから、戦力的にはありがたい。
だが、馬獣機に乗れるのか、この巨体?
「よし! ベータはハイエートと乗れ!」
「キララはこっちじゃ!」
騎乗! 巨漢騎士。
重量的には問題なし。後は…
「動かせますか? サンゴロウさん?」
「む、う…? 大丈夫、馬と変わりませんな。」
メガドーラさんの前にキラすけが乗る。
ベータ君は…手綱って言うかハンドルを握るのはベータ君。
ハイエートはその後ろに。
大弓を背負っているから、必然的にその配置。
左手には小弓、ちっさ! サブウェポン弓。
デイエートが使ってるのより小さいぞ。
右手をベータ君の腰に回してつかまる。
ぎゅっ! とね。邪念あるね、その表情。
よし、出発!
先頭は俺。案内しますよ!
その頃、先行したスカイエクソンはエリクソン伯爵家上空に到着。
ご立派豪邸屋敷の周りを囲む塀。
すでに門の前に軍勢?が詰め掛けている。
いや、鎧はつけているけど武器を持ってるのは少ない。
門内の軍用獣機やモアブ兵と対峙、にらみ合い状態。
何? この兵士たち?
ああ、エリクソン家とバッソ家の私兵か。
「伯を開放しろ!」
「奥方様をかえせ!」
「卑怯者!」
「魔道機頼みの腰抜け!」
「自意識過剰のクソ至上主義者!」
「何だとーー!」
「い、いや…エリクソン伯爵の事言ったんじゃないからー」
「お嬢様ーー!」
「ぼっちゃーん!」
「バッソ侯の女たらしーーー!」
「モアブのケチー!」
「ボーナス出してくれー!」
「ピーーーー!」
「ギリギリ、ギーーー!!」
いかんな? かなり混沌としている。
元々、バッソ家は融和派。エリクソン家は理想至上主義。
その私兵団同士もいろいろあるようだ。
親バカ伯爵とモテモテ夢魔侯爵との確執もあったみたいだし。
しかも、どうやら閉門中にボーナス支給日があったらしい。
自宅謹慎とか、武装解除とかされた上にボーナス無配。
もしかして、武装って自費?
切れるわ! そりゃあ。
不満が溜まっていたところに昨夜の洗脳…学習魔法。
忠誠心やら不満やら将来への不安やら暴発寸前でカオス。
さらには王都内に突入した犬獣機の一部がなぜか合流している。
あっさり受け入れられているのは、学習魔法のおかげだろう。
やっぱり数多すぎたんだよ、ジョーイ君。
ヒマな獣機が一緒になってモアブ兵を威嚇、騒いでる。
こいつら犬獣機なのに野次馬獣機に。
そうは言っても軍用獣機が本気出したらかなわないだろう。
攻撃力しか取り柄のないゴリアテ。
死傷者を出さずに制圧とか器用なことは無理。
かなり悲惨な状況になる。
早めに停止させなければ。
周りに操縦者は見当たらない。
電波可視化できるのは俺本体だけだから、飛行ユニットじゃ操縦者の位置がわからない。
屋敷を見張っているはずの小型ドローンカナちゃんに聞いてみよう。
どう? 操縦者はどこかわからない?
屋敷内にいるのは間違いない?
ひとん家にいきなりビームぶち込むのはまずいよね? やっぱ。
「道を開けろーーー!」
大音声はサンゴロウ騎士。
到着! すでに馬獣機を乗りこなしている。
「湾岸侯バッソ侯爵が騎士! サンゴロウ・エスブイ推参!」
でかい声! 通信機のないこの世界では命令は大声頼り。
隊長クラス以上の武将なら大声と拡声魔法は必須なのだ。
馬上から小弓で護符矢を放つのはハイエート。
鉄柵門の蝶番部分に命中! 吹っ飛んだ。
「うお! すごい!」
驚く兵士たち。すかさず門扉を押し込んで倒す。
「サンゴロウ騎士!!」
「海竜殺し!!」
バッソ家の兵士から歓声が上がる!
同じ騎士団としてその勇名は伝わっているらしい。
屋敷敷地内に突入され、たじたじとなるモアブ兵。
人間兵士は後退して軍用獣機が前面に出る、2体。
続いて門内に入ったのは夢魔女王。
ひょいっと馬獣機の背に立ち上がった。
体重を感じさせない体さばき。
突然現れた女性に兵士たちの視線が集まる。
羽織っていたマントを脱ぎ捨てた。
うん、エロボディ。いつもの胸開きドレス。
このマントはダットさんが仕立てたもの。
公序良俗を乱すから羽織ってろっておやっさんが厳命した。
「バッソ侯ベガの母! 七英雄が一、魔女メガドーラじゃ!!」
「息子の嫁と孫を返してもらうぞ!!」
どよめく、兵士たち。
「大魔女!」
「魔王四天王にして建国七英雄!」
有名人だよ!
満足げ、自慢げなのはキラすけ。にまにま顔だ。
今度は先生のほうを見た。
ベータ君も見た。
ハイエートと俺も見た。
「え?」
あわてる先生。
「わたしも名乗らなきゃダメなの?」
期待のこもったキラすけの目。
「あー、う、ごほん!」
「七英雄が一、魔道士エルディ! 義によって助太刀いたす!」
「おおおー!! 大魔道師エルディー!!」
うーん、盛り上がる!!
「おおー! おおおーー!」
鬨の声を上げる兵士たち。
武装は少ないけど士気旺盛。
そして…逃げてる逃げてる。モアブ兵。
屋敷内に駆け込もうと必死。
入れ替わりに進み出る軍用獣機!
こちらも、サンゴロウ騎士と俺が前面に出る。
かかってこいやあ!
うん? メガドーラさんの真似をしてすっくと立つキラすけ。
おっと、馬上でよろめく。手を振り回して必死のバランス。
「う? あ、ほっ! と。」
あぶあぶ危ない! 無理すんな。
後ろからお祖母ちゃんに支えてもらった。
「黒き宝玉の呪いに依りて、この獣機を閉ざせ!闇の堕界!」
突如として湧き上がる黒い霧、いや蠢く闇!
地を這って流れると、軍用獣機の足元にからみつく。
まるで浸された半紙に墨液が染み込むように獣機のボディが漆黒に染まる。
「冥界の黒き呪い、常世たる闇の鎖。縛れ【冥刻界結鎖】!!」
手首を返しながら腕を引き寄せこぶしを握る。
全身を覆っていた黒が収縮し、装甲の隙間から内部へもぐりこむ。
電波を遮断され停止するゴリアテ。
そのまま前のめりに転倒し動かなくなった。
「こ、これは?」
びっくりした! 思ってたのと違う。
てっきり、操縦機のほうを闇結界で遮断するんだと思ってたのに。
「キララさん、工房へ通ってゴリアテのアンテナの位置を調べてたんですよ。」
ベータ君が解説してくれた。
なるほど、アンテナだけ遮断すればいいわけか。
全身を覆う必要はないんだ。
キラすけ、意外と獣機システムに詳しい。
闇結界は物体には作用しない、って事は本当は壁も装甲もお構いなしって事だ。
表面を黒く染めたのとか、装甲の隙間からもぐりこんだのとかは…
全部演出かよ!
「ふふーん!」
すげー、自慢顔!
「ふふふーーん!」
馬獣機上からどや顔で俺を見下ろしてマウント!
イラっとする! うざい!!
その間に邸内に逃げ込もうとした兵士はもれなく転倒。
ハイエートが放った矢が、ふくらはぎや腿に的確に命中。
十数人ばかりの兵全員が移動力を失ってもがいてる。
「な、なんと!」
サンゴロウさんもびっくり!
お兄ちゃんの腕前、初めて見る人はそりゃ驚くよね。
「小さい矢は使い切っちゃいましたね。」
そういいながら、背負っていた大弓に持ち替える。
大弓用は金属矢。ラグビー猪の頭蓋骨を貫く剛弓だ。
人間相手に使ったら…ちょっと怖い。
転倒した屋敷外の兵士は他の兵士に任せた。
スカイエクソンは離脱。
イオニアさんの実家であるカロツェ家に向かってもらう。
カロツェ家にはゴリアテは配備されていない。
タマちゃんと犬獣機にスカイエクソンが加われば問題ないだろう。
俺達は邸内へ突入する。
一応、モアブ兵の反抗はあったけど、剛力巨漢騎士の前には問題外。
ちぎっては投げちぎっては投げって感じ。
「こちらです。」
カナちゃんからの情報で誘導され屋敷の一室に踏み込む。
「ちちち、近づくなあーー!」
ここの現場長?
ちょっと立派な鎧を身につけたおっさんが居た。
女の子をタテにとって剣を突き出している。
へっぴり腰で涙目!
必死の防戦って感じ。
ところがこの女の子が暴れている。
「こ、こら、おとなしくしろ!」
「うがーーーー!」
振り回した女の子の手が当たって兜が落っこちた。
鎧兜は厚そうだったが頭髪は薄かった。
サイドの髪を工夫して必死の防戦。
いわゆるバーコードな感じ。
そのバーコードは乱れて読み取り不可。
「なんなんだよう!? お前らーーー!」
「あんなん反則やん! ありえへんやろーー!」
「近づくなー!」
いかんな、パニくってる。
人質になっているのは小学生? くらいの女の子。
いい服、栗色の髪。ちょっと逆立ってる?
後ろで束ねた髪を腰くらいまで細長く編んで、先端はフサフサになっている。
シッポっぽい。
ネコ系獣人でもないのにライオンのシッポっぽい。
似ている、キラすけに。
真っ黒キラすけに対して、ちょっと色を薄くした感じ。
その後ろにはさらに数人の人影。
「姉上!」
キラすけが叫ぶ。
姉上?? ええ? キラすけと…サイズ的にかわらないんですけど!?
姉上さん、キララに気づいたらしい。
「うががーーーキララ! 助けろーー! コイツぶち殺せー!」
助けを求めているくせに上から目線。もがく暴れる。
「そのイカ臭い手離せー! イ○ポ野郎! ハゲー!! 歎称! 火星方形! 四郎と同定!!」
そして、ストレート暴言! 危険球! 一発退場!
翻訳システムまでもが配慮する感じの問題発言。
いや、この状況で刺激するような発言はまずいだろう?
貴族の娘さんにあるまじきお下品スピークにドン引き。
あまりの見苦しさに一同の動きが止まる。
ハイエートは小弓用の矢を使い切っちゃたし。
巨漢騎士も先生も攻撃力が強すぎるし。
人質の巻き添えを恐れて攻撃をためらっている。
「キララさん!」
「よ、よし! 闇の堕界!」
ハ…スキンヘッド隊長の頭部と目が闇結界に覆われる。
「なな? 何? 暗い? 目が?」
あわてるおっさん隊長。
見かたによっては増毛されたようにも見える。黒髪フサフサ!
おっさんなのに目隠れ内気っ子ルック! ただしアフロ。
「ぷーっ!」
あまりの珍妙さに吹き出すキラすけ! おま、自分でやっといて…
すかさず俺が打ち込んだのは指弾!
【収納】から取り出した鉄球を親指で弾いて飛ばす!
横山光輝先生直伝!|(嘘)
以前から考えて、密かに練習していた忍者殺法!
まあ、ビームが使えている間はまったく意味が無かったわけですが。
ちょうど故障中だしね。ここでね、使っておきたいね。
せっかく練習したしね。
結構な威力。全力なら鎧をぶち抜くくらいは出来る。
剣を持った手と闇に包まれた頭部に打ち込む!
ぎゃっとわめいて剣を取り落とし、手で顔を覆うハ…頭部寂しい隊長。
ダークワールドが霧散。
顔は覆ったが、頭部は覆われていない。
今まで闇結界で黒かった所が肌色に。この寂寥感。
暴言姉上令嬢すかさず逃げ…逃げない!
後ろに回りこむと蹴った! 蹴り上げた! 股間を!! 後ろから!!
ああ…、この辺、血統を感じる。
異母とはいえ、姉妹。
デビルキックは金的蹴り!
悶絶して声もなく倒れこむバーコードをさらに蹴る!
背中をサッカーボールキック! 猛虎蹴撃!
さらに踏む! 踏みつける!
頭部ストンピング!! マシンガンキック!
「ウガッ! この!! よくもこのワタシにぃいいー!」
「剣など突きつけおって!! 無礼者めがぁああーーー!!」
凶暴! 凶悪! 非情! 苛烈!
ラーテルとかグズリとかタスマニアデビルとか。
凶暴小動物系アニマル女子!
あと、アライグマも凶暴。
あわわ! どーすんのこの子!? オロオロ!!
「おやめなさい! ルミナ!」
背後から声がかかった。
進み出たのは上品な貴婦人。