攻撃開始!
王城にエルディー先生と夢魔女王メガドーラさんを召喚。
先生たちの所にはカナちゃんズ1セットを残してあるので通信が可能。
俺とベータ君の第一目的は達成。
宴会も終わったみたい。
お姉さんたちも帰って来た。
庶民派だよね、ここの貴族。
「ま、ナビン王初め、ほとんどが成りあがりですしね、ウチも含めて。」
クラマスさんが説明してくれる。
おっさん王族貴族の相手を終えておつかれウンザリ顔のコンパニオンズ。
庶民派だけに品性は気高くないという。
パワハラは無いけど、セクハラはある的な。
「王子ちゃんが居たんで、下ネタは控えめでしたね、今日は。」
「ニュース殿下カワイイよ、殿下!」
人気だ、マニア王子。
「デュフフ……王子xエムディ嬢……」
意味不明なつぶやきに、ビクッとした、ベータ君。
デンソー家のアジトに戻った。
「どうだった?」
タモン兄貴が聞いてくる。
「すべて予定どうりです。」
「それはそれで怖いけどな…あの二人…」
エアボウド導師が不安げ。
まあ、加減てものを知らない人たちではある。
「ふうぅー、早く着替えたいです。」
エムディちゃんことベータ君。
まあ、男の子だってのはバレちゃったけど…
もうちょっといいんじゃないかなあ。
「すいません、元のお召し物は洗濯中です。」
デンソー家のメイド長。にっこり。
「乾くのは明日になるかと…」
「え? えええ?」
「じゃあ、しかたがないですな。」
クラマスさん。
「うむ、仕方ないのう。」
生臭導師。
「ま、しかたないな。」
兄貴。
「仕方ないですね。」
俺。
しばし、ベータ君のエムディちゃん姿を楽しむ事にしよう。
仕方ないですね!
一晩休んで次の日の朝。
もう少年姿だ、ベータ君。ちょっと残念。
「いや、これは、これで!!」
何言ってんのクラマスさん。
先生チームの睡眠学習魔法は構築に時間がかかっている。
決行は今夜。
兄貴と導師は決起に備えて出かけていった。
王軍内や魔道士組合に協力者を作っているのだ。
デンソー家も密かに傭兵ギルドと通じている。
あとは…
閉門されているバッソ家とエリクソン伯爵家。
何度か手紙を届けてはいるが、直接交渉は出来ていない。
バッソ家の奥方はエリクソン伯爵の娘。
今はエリクソン家に戻って事実上監禁状態にある。
他の家族もエリクソン家に入っているらしい。
今回の政変は名目上、王命ということになっている。
領主を人質にされた両家の私兵団は動けずにいるが、不満は大きい。
主に軍用獣機はそのエリクソン家、王城、あとは都市の城門に配置されている。
ドローンタマちゃんは軍用獣機の配置を確認するために飛びまわっている。
レガシでは王城奪還のための攻撃隊が編制されているはずだ。
準備は……まあ、だいたい整った。このいいかげんな感じがレガシらしいけどね。
その夜、先生と夢魔女王による洗脳…睡眠学習魔法が発動した!
あれ、夢魔族の立場が危険になるからとか…言ってなかったっけ? これ?
ああー、夢幻投影を使える夢魔族はもういないって情報もさりげなく混ぜ込んであるわ。
え? 俺にも効くの? ……いや、まあキラすけの夢幻投影が効くんだから、当然か。
しかしまあ、ぶちまけたなあ。
獣機の出現は至上主義者の行動のせいであること。
その一件にはモアブ伯が絡んでいること。
犬獣機は本来の機能を回復し、もう危害を加えないこと。
魔道機文明を創始した「人間」は異世界転移者で、今の人間とは別種であること。
ただし、今の人間が「人間」によって作られたことは伏せてある。
ちょっとショックが大きすぎるか?
あと、ナビン王鬼人ハーフ疑惑は証拠がないのでカット。
イオニアさんを神輿に政権転覆する計画はモアブ伯によるフェイクであること。
まあ、これは宴会の時の王族の愚痴を聞く限りではみんな知ってたけどね。
そして、イオニアさんを暗殺してタモン元将軍に罪を擦り付ける計画だったこと。
朝が来た。
夢、にしてはあまりに鮮明で、そしてはっきり記憶に刻まれた情報。
たいていの夢は起きるとあやふやになってしまうけど、これは違う。
もちろん、一人一人は夢だったと思っているだろうけど。
しかも寝ていなかった人にも伝わっている。
俺やベータ君、デンソー男爵たちはすでに知ってた話だから…
知らなかった王都の人々や王軍の兵士たちはどんな気持ちだったかは知る由もない。
モアブ兵だって知らなかったやつらが多いだろうし。
人に話した時、「自分の夢」のはずなのに他人も同じ情報を持っていると知ったら…
果たしてどんな反応を示すだろうか?
……あれ? レガシの識字騒動の時は犬まで字が読めるようになったって…
言ってなかったっけ? 大丈夫か? ワン太!?
だが、細かいことを確認している時間はない。
決起の時がせまっている!
戦いの時だ!!
ベータ君は飛行服を着用。
雀竜のウロコを使ってあるからもちろん防刃。
すでにデンソー家の庭で待機する飛行ユニット。
スカイアイザックで王城へ突入、引き寄せ魔法で攻略部隊と警護獣機を召喚する手はず。
もうじき予定の時刻、緊張する。
「あれ?」
クラマスさんが声を上げる。
「王城から…煙が上がっている?」
え? まだ時間は早いけど?
カナちゃん通信!
「先生、大丈夫ですか?」
『あー、ごめんごめん。ちょっと早いけど始めちゃったわ。』
え、ちょっ! 何やってんの、先生!?
『いやー、待つの苦手だわ。』
『あはははははー』
背景でメガドーラさんの笑い声が聞こえる。
あと、兵士の悲鳴。とか爆発音。
いかーん、この二人、徹夜明けでハイになってる!
「どうなって…何が始まったんです?」
あわてるクラマスさん。
「第三次世界大戦ですよ。」
お決まりのセリフ。いや、クラマスさんにわかるわけないが。
ベータ君、特に感想は言わず黙々とストラップを着装。
うん、まあ、先生だからね。そういうこともあるよね。
スカイアイザック発進!!
ベータ君とともに王城へ急行!
少年エルフの頭部を覆うのは、ダサいヘルメット…ではない。
かっちょいい兜、と仮面!
俺がデザインしたヘルメットは不評。とほほ。
正体を隠すのならこっちの方がいい! 絶対!
ということで男爵が貸してくれた。
鉄仮面と言うよりは、黒騎士? そんな感じ。
伝統的な美形仮面キャラ!!
「早く行かないと…先生が…」
愛弟子としては心配だよね、ベータ君。
「先生が、被害を広げてしまいます!」
ああ、うん。
『ミネルヴァ、ちょっと早くなった! コンテナ準備して!』
『了解、人員の搭乗を開始します。』
王城上空に到達。
えー? 正門閉めようとしてるよ、モアブ兵。
ゴリアテが巨大扉を押している。
閉めるのは敵が攻めてきた時だけ。普段は夜中でも開けっ放しだそうだ。
そこ閉められちゃうと兄貴や生臭導師の援軍が入れないんだけど?
先生の戦闘開始タイミングが早すぎるからー!!
正門の軍用獣機排除は引き寄せ魔法の後の予定だったのにー。
「仕方ない、正門を先に片付けます。」
「ベータ君は前庭で器機召喚を!」
「はい、アイザックさん!」
前庭に着陸! ベータ君をリリース。
『こちらは準備完了! ちょっと急いで召喚してもらえませんか?』
え? 何言ってんのミネルヴァ?
『いや、これ…ちょっと容量計算が……甘かったって…』
うん?
「召喚しますよ! キララさん。タイミングを合わせて!」
「5、4、3、…」
『デスグリップ!!』
ベータ君のカウントダウンに合わせてキラすけの闇魔法発動。
「…2、1、器機召喚ア・ゴー!!」
妙に発音のいいカウントダウン。
ベータ君の引き寄せ魔法発動!
王城の前庭にコンテナが出現した。
うわ、でかい。
ちょっとした小屋くらいあるからなあ。
コンテナNo.1
下側に蝶番、ハッチ自身がスロープになるようにパカっと開く。
一瞬、中は真っ暗、と言うか真っ黒。
ダークゾーン? いや冥刻界結鎖!
コンテナの内壁全面をコーティングしていたのか?
使いこなしてるなあ、キラすけ。
持続する魔法効果、デスグリップのおかげでキラすけ自身が同行する必要がなくなった。
危険な目に合わせなくて済むし、何回でも人間を転送できる。
はらはらと薄皮がはがれるように闇結界が霧散。
そしてコンテナの中には…人がみっちり詰まっていた。
「ちょ、あ、せま!」
「しぬー! つぶれるー!」
「早く、出て! あんたデカいんだから!」
「順番! 順番ですわ!」
「降りまーす! 降りまーす!!」
「あ、引っ掛かってる! 弓が何かに引っ掛かって!」
「痛い痛い! それアタシのおっぱいだから!」
「当たっております、やらかい物がー! 押し付けないでくだされー!」
「天国? ここは天国?」
「ぴーーーー!」
わらわらとコンテナ内から出てくる。
イオニアさん、ビクターさん、アイワさん、クラリオ女騎士、デイエート、ハイエート。
サンゴロウ騎士、クリプス騎士、虎戦士ベスタさん、人狼戦士シマックさん、女豹戦士ウエイナさん。
パーンサロイドミネルヴァとケルベロ2号ベルちゃん、ハウンドレッドU-69。
そして、トンちゃんと…おやっさんまで!?
戦闘部隊なのに女性率高いな!?
満員○○電車!
ああ、サンゴロウさんとベスタさんの体のサイズを計算に入れてなかったのか…
そして、ウエイナさんとアイワさんの出っ張りも計算外。
デイエートと残念女騎士のマイナス分では相殺しきれなかったと見える。
「おお、ホントに王城だ!!」
「すげえ!」
チャラ男騎士と女騎士が驚く。
「王族の保護をお願いします、イオニアさん。」
うなづくお嬢様。
『イオニアさんを頼むよ、ベルちゃん、U-69。』
「参りましょう!」
イオニアさん、すでにリーダーの風格だ。
きりりとしたお嬢様、カッコイイ!!
デイエート、サンゴロウ騎士、ビクターさん、アイワさんが周囲を固める。
作戦会議の時、先生の言った言葉を思い出す。
「イオニアを担いでクーデターを企ててる…ってのがモアブ伯の言い分なんだろ!?」
「じゃあ、もうそれでいいんじゃないかなあ。」
そう、この王都奪還作戦。
結果的にモアブ伯が王都掌握する口実にした計画をそのまんま現実化しただけ。
と、その時。王城の尖塔の窓から轟音と閃光が!
つづいて黒煙が噴き出し稲光が走る。
「ひゃんっ!」
お嬢様が肩をすくめる。
「な、何をやっとるんだ? あいつら!?」
「すいません、おやっさん。ちょっとした手違いで…」
「今、先生とメガドーラさんだけで行動してるんです。」
「そ、そりゃいかん! 行くぞ! 早く合流せにゃ。」
頼みます、おやっさん。
「ベータ君、その仮面、カッコイイねえ。」
緊張感ないなあ、お兄ちゃん。
「行くわよ! お兄ぃ!」
言いながら連射するデイエート。
城内から駆けだしてきた兵士がバタバタ倒れる。
あれ? その矢…不殺の魔法処理か。
なるべく王軍兵士に損害を与えないようにみんなの武器に付与してある。
付与した当のエルディー先生はすっかり手加減忘れて大暴れしてるけどね。
みんなは王城内に駆け込む。
この辺を偵察していた担当はトンちゃん。
みんなと一緒に行動してもらう。
その間に、俺本体は城門を閉めようとしていた軍用獣機と対峙。
城門の警護についているは2体。
正門以外に配置されているのが3体。
『正門の2体は俺が片付ける。ミネルヴァは他の操縦者を片付けて。』
『了解しました』
カナちゃんズから送られてくる映像と位置情報。
操縦者を片付けるのが一番簡単だけど、正門のゴリアテだけは破壊する!
突入してくる王軍や王城内のモアブ兵に俺の力を見せつけるのだ!
手続きは抜きだ。飛行ユニットのビーム一閃。
2体の軍用獣機の間を抜いて城門の閂を切断!
鉄環で補強されたぶっとい閂棒が両断され、門扉の金具から外れて転がり落ちる。
閃光輝の護符を握ると拳骨シュート発射、上空へ!
狼煙だ! 城壁を超える高さで発光!
突入したことを兄貴たちに知らせる。
ここからはスピード勝負だ。
飛行ユニット分離、クロスアウト!
スカイエクソンは王都外壁の城門へ行け!
城門を開いて警護獣機の軍団を引き入れるのだ!
閂を破壊された正門をゴリラ獣機の1体が押さえている。
王城門番はすでに外部からの援軍に気づいているようだ。
先日も居たモアブ兵の人が指示出してる、頑張るな。
ああー噛まれてる。ワン太に!
ワン太は王軍所属かあ。
学習魔法でモアブ兵を敵とみなしちゃったのね。
【収納】から高周波振動剣を取り出す。
もう1体のゴリアテが俺の方に向かってきた。
突進、そして振り上げた腕を叩きつけてきた!
動作が速い。おそらく自動攻撃モードに入っている。
操縦者はオートマ限定免許と見た。
熟練者は進攻軍に回されたのか?
すでに高速思考オン!
振り下ろされた拳をギリギリのところでバックステップでかわす。
腕が地面にめり込む。
ダッシュ! その腕を駆け上がる!!
足の裏には滑り止めのスパイクがある。
魚のうろこ状に角度を変えて踏ん張りがきく仕掛け。
そこへ高周波振動、ゴリ獣機の装甲にスパイクを突き立て摩擦力最大。
肩まで駆け上がると同時に頭部を薙ぎ払う!
ごっつい首が切断! 太すぎて完全切断とはいかない。
それでもケーブルは切断したらしい。
視覚センサーからの情報が途絶。
軍用獣機にも独立連動システムがある。
頭部が無くなっても致命的とは言えないが、明らかに動きが鈍る。
肩を踏んでジャンプ、オーバードライブ!!
パワーファイヤ、ブースト!
一気に門扉を押さえている2体目に迫る。
慌てたように振り返るゴリアテ。
こいつはマニュアル操作中だな。
門を押さえるような作業動作は自動ライブラリ化されていないはずだ。
ターゲットをセットしてロックオンすることで自動攻撃モードに移行するはず。
振り返って俺に視覚センサーを向ける。その瞬間…
サイドブースト! 一瞬で進行方向をずらす。
ロックオン指示を出すのは人間の操縦者。
反応が遅れた。ロックしたのは…
1体目のゴリアテ!
一方、その1体目は頭部センサーを失いながらも標的の俺を追尾しているらしい。
こちらに向かってきた。
俺は位置取りを変えて2体目の後方に降り立った。
結果として、ゴリアテ同士討ち!
俺を襲おうとする1体目と標的設定をミスった2体目が激突!
剛腕を振り回して殴り合いを始めた。
けっこうな欠陥品だよなあ…この自動モード。
5、6発どつきあった後、動きを止めた。
操縦者が我に返ってオフにしたらしい。
この機を逃さない!
ブーストジャンプ!
拳を突き出して突進する!
2体目の背中めがけて!
被甲身強化された拳骨シュートは軍用獣機の装甲をぶち抜ける。
だったら、その応用で…
空力バリヤー魔法! バンパー形状を円錐形…ドリル型に!!
オーバーブースト!!
パワーファイヤ噴射で前腕部だけをきりもみ回転!
ドリルプレッシャーパン……きりもみ拳骨アターーーーク!!
背中に突っ込む! と同時に拳骨シュート発射!
ひしゃげた装甲板を貫いて胸板まで突き抜けた。
普段、ゴリラチックな前傾姿勢な軍用獣機。
まるで激痛に悶えるかの如く、反り返った。
装甲板を捻じ曲げ、めくり上げ、力任せに引きはがす!
背骨っぽい中央フレームを破壊されたゴリアテ。
全身の関節からテンションが抜ける。
機能停止。
もう一体、残りは頭部を失ったゴリ獣機。
再び高周波振動剣を取り出す。
肩口に突き込むと関節部を切断! 左肩!
左腕ばっかり余ってるって職人衆が言ってたからね。
右腕は温存。
ああー、でもスパイクで駆け上がったから傷だらけだよ。
飛び降りて着地。
脚に取り付くと再びブースト!
飛竜竜巻投げ《ドラゴンスクリュー》!!
膝関節を破壊する!
こんなもんかな。
センサーオン! 2.4GHz帯の電波を感知。
操縦者は兵士詰所か。
王軍兵士は俺に向かって槍を構えいちおう詰所を守る態勢。
「たわけ! 守る相手を間違えるな!!」
一喝! 洗脳…学習魔法によって事情は伝わっているはず。
戦意喪失、槍を持つ手を下げて棒立ちになった。
よし、拳骨シュート!
電波発信源めがけて鉄拳を叩き込む。
詰所の壁がぶち抜かれ、二人のモアブ兵が飛び回る鉄腕に追われてころげ出てきた。
そこへ、王軍の一隊、騎馬隊が駆けこんできた。
先頭は…タモン兄貴!
「アイザック!」
「タモンさん!」
エアボウド導師も一緒だ。
「イオニア様は?」
「すでに王城内に突入しました。」
顔を見合わせる頷きあう二人。
「わしらも行こう、陛下を説得しなくてはな。」