魔女召喚
デンソー家長男、クラマスさんの手引きで王城内に侵入成功。
王族主催のパーティが始まった。
……予想してたのと違う。
お貴族様の舞踏会を想像してたけど…
パーティ? 宴会ですよね。これ?
うん、忘年会とか新年会とか…
王族、貴族。ただし、おっさんオンリー。
長テーブルを囲んで、お膳。
「えー、麦酒は行き渡りましたでしょうか?」
「それでは、陛下…」
「うむ、」
ああ、なんかすごい既視感。
貴婦人とかはいない。だまされた感ある。
レディいない&ジェントルメンアンド酔っ払い。
王様ご挨拶に続いて乾杯。
王様の顔…ああ、四角いわー…
キレイどころの登場とかいってコンパニオンズ入場。
温泉慰労会。親戚の法事。優雅さ皆無。
畳じゃないのが違和感感じるほど。
そしてピッチ速いぞ、おっさんたち。
出てくるのは愚痴。
モアブ伯の悪口大会に発展。
「エリクソン伯の閉門はまだ解かれないのですか?」
「バッソ侯だって陰謀を企むようなお人ではありませんぞ。」
「あの魔道機さえなければ…」
「父親のブレビーは良かった…」
「バンカーのあのすまし顔がむかつく。」
「だいたいアイツは…外面ばかりで…」
盛り上がりの構図、と言うのがある。
「アイツにこんな事された。」
「俺もひどい目に遭った。」
「奴のアレがむかつく。」
という3人が集まったとしよう。
「アイツ」がやらかしたのは1人1回、合わせて3回。
だが3人集まって経験を共有した結果、3x3、合わせて9回。
悪行ポイントが3倍の9ポイントに。
さらに、その場になにもされてない人が2人居たら、これまた共有して3x5、15ポイントに増加。
本人の知らないところで悪行ポイントが増幅されて、とんでもない奴ってことになっちゃうのである。
ネットやSNSだけじゃなく、リアルにも「炎上」の仕組みは存在しているのだ。
くわばら、くわばら。
私的な宴会と言うことで、王族と親戚関係の貴族だけが参加しているらしい。
そう言えば顔の四角い人多い。
ナビン勇王の遺伝子強いな。
最初っから無礼講だ。というかグダグダ。
聴覚センサーフル稼働で参考になる話がないかサーチしていたけど…
そのうち嫁と姑の確執と板挟みの話に移行してしまったのであまり参考にならないな。
ベータ君は? っと。
王様にお酌してるよ!
お姉さまホステスがつきっきりで新人指導してるみたいな態勢。
王様、ご満悦。
そろそろ仕掛けないとまずいかも…夜伽とか命じられちゃうかも…
と? 俺、見られてる? え、男の子?
「ヒト型…魔道機?」
小学校高学年っぽい男子。いい服着てる。
こんなお酒の席にいてもつまんないでしょ?
醜い大人の酔っ払い見てたらお酒が嫌いになっちゃうよ。
ま、それはそれでいい事ですがね。
ポカーンと俺…今は女性型だからワ・タ・シ。
私を見上げている。
「ニュース殿下、いかがですか? 新しく手に入れた魔道機でございます。」
クラマスさんが話しかけた。
殿下? げげ、王子様?
…四角くないぞ、顔が! よかったね。
うーん、ちょっとイオニアさんに似てる?
なかなかのイケメン少年だぞ、プリンス。
「この関節…ふつうの魔道機とも、獣機とも違う……」
「普通の魔道機は回転軸やシリンダーを使ってる。」
「獣機は収縮駆動アクチュエーターとモノコック装甲を組み合わせた内外骨格併用構造だ。」
「コイツは外装甲に隙間がない。」
いかん、マニアだ、王子様。
いや、オタク?
マニアとかオタクとかって生まれた時から決まっているんだよな。
遺伝とか環境とかじゃなくて、そう、「運命」デスティニー!
いつからどうしてそうなったか本人にもわからないのだ。
「もしかしたら神代魔道機かもしれないぞ! クラマス。」
ビクッとするクラマスさん。
「ま、まさか…地方から送られてきた発掘品で…」
ちょっとうろたえ気味。
子供を甘く見てはいけない。その知識欲は貪欲。
大人のマニアと知識量では差が無いのだ!
「いや、これは…魔道機文明時代のものとは違う。」
「関節の作りが、以前モアブ伯に見せてもらった神代魔道機にそっくりだ。」
なんだって!? モアブ伯が……神代魔道機を持っている??
王子様、重大発言。
問いただしたいけど、今しゃべるわけにはいかない。
「でも、ちょっと変だな。」
私のこと撫でまわしている王子。スリスリあふん。
「プロポーションと頭部のバランスが不釣り合いだ。」
「身体と頭、別の機体を継ぎ合わせたんじゃないかなあ?」
う、鋭い。
身体は大幅に変形出来るけど頭部の変形はごくわずか。
デザインまで変えられるわけじゃないからね。
こういうバランスってすごく気にする人と全然気にならない人が居るんだよね。
昔、アナログ放送がパソコンでコピーフリーで録画できた時代。
同じ4:3の画面でもPC画面は640x480ピクセルなのに対し、DVD用録画ファイルは720x480。
変換に失敗して縦長とか横長とかになったビデオファイルが散見された。
まあ、アニメの場合「こうゆう絵柄?」って思えば思えないこともないからね。
俺はすげー気になったんだが、意外と気づかない人も多い。
そう言うもんなのかなあ、と不思議におもったものだった。
うめ先生の某入浴EDアニメとか「え、横長?」とか混乱したもんだ。
この王子、俺と同じタイプの人間だな。
掛け軸とかポスターとか、真っ直ぐかどうか気になっていつまでも直し続けるタイプだわ。
おっと、エムディちゃんことベータ君が王様の相手を終えた。
お姉さんホステスがクラマスさんに合図。
よし、俺も…
「ピー、魔力収集低下、護符ニヨル補充ヲ要請」
「い、いかん。こんなところで止まられても困る。」
クラマスさんがあわてて見せる。
「馬車に戻っていなさい。おーい。」
お姉さんホステスとベータ君に声をかける。
「魔道機を馬車に戻してくれ。」
「この娘、お酒の匂いに酔っちゃったみたいで、気分が悪いの。」
「ちょうどいいから一緒に連れていくわ。」
ナイス!
会場を出て、隠し部屋へ行く!
と思ったけど王子様がついて来ちゃったよ!
まずいー! 俺の歩行プロセスに興味津々。
「意外と関節可動域が狭い? 装甲に余裕が無いのか…」
「ぼ…わたしは大丈夫です、一人で戻れますから…」
ベータ君が助け船を出してくれた。
「そう? 気をつけてね。では殿下、会場に戻りましょう。」
未練たらたらの王子を連れて戻るお姉さん。
別れ際にウインク。
「ふううー、緊張しました…」
「お疲れ様です。急ぎましょう。」
変形! 元のプロポーションに戻る。
バキバキ!
「すごいですね、アイザックさん。」
「縮んだままだと関節の可動域が狭いんですよ。」
王城は広いが、あらかじめタマちゃんがルート検索してくれているので一気に進む。
警備や人通りもチェック済み。
王城の一番高い塔部分。展望台っぽい場所。
見張りは…昏倒中。タマちゃんスタンガン。
ごめんね。
そこへ上る階段を途中まで上がる。
踊り場部分で魔法光を照射。魔方陣が浮かび上がった。
けっこういろんな魔法陣が刻まれてるぞ? ものすごく複雑!
「あー、これ、認識阻害。こっちのは人避けですね。」
「なんとなく立ち止まる気が無くなるって言う、高度な精神魔法ですよ。」
「凄い魔法なんですけど…」
サボるためだけにそんな魔法を? メガドーラさん……
開錠魔法!
壁の一部が開いて、くぐり戸になる。
身を低くしてもぐりこむと…
ここがサボり部屋…隠し部屋か!?
あー、これ、階と階との間の物置か納戸をふさいで隠したんだな。
天井は低い。
約2メートルの俺だと体をかがめる必要がある。
ベータ君は立ったままでも大丈夫だが、思わずかがんでしまう。
けっこう広い。
ベッドがあるぞ。ダブルベッド。
「では、ベータさん。」
「はい。」
引き寄せ魔法で先生と夢魔女王を呼び込む。
タマちゃん、そっちは大丈夫?
王城には魔力感知装置がある。
城内で強力な魔法が発動すると警報を発する代物。
王城建設時に先生が考案し、おやっさんが作った。
凄い仕掛けだが…電子ブザーのないこの世界では警報はベル。
金属製の鐘を魔法で振動するハンマーが叩く。
どんなにすごい仕掛けでも最終的にハンマーを押さえてしまえば、ベルは鳴らないのである。
押さえるのはタマちゃん。
すでにスタンバイ。
カナちゃんズネット通信接続。
「こちらアイザック、召喚準備完了です」
「先生、準備はよろしいですか。」
『あ、おおう。ちょ、もんぐ。んがぐぐ!』
なんか食べてましたね、先生。
『ぬ、ふ、んぐ! ぷはー!』
『キララ、頼むぞ。』
『冥刻界結鎖!』
お、キラすけの声。
『よし、いいぞ。』
器機召喚!
隠し部屋に先生と夢魔女王が入った箱が出現!
まあ、箱って…この前俺が使ってた棺桶なわけですが…
蓋を開けると…
先生とメガドーラさん。
デスグリップ状態、真っ黒。
黒い膜がはらはらと剥がれ霧散すると二人の姿が露わになる。
がっくりと膝をついた状態|(OrL)
「な、なるほど、密着すると隙間が無い分だけ魔力が不足するわけじゃな…」
「あああ、火あぶりにされそうになった時のこと思いだした…」
うーん、鬱っぽい。
「ご苦労…ベータ…おおおう!!」
女装ベータ君、はっけーん!
「こ、これは! うほっ!」
「なんとっまあ! 眼福じゃのー、濡れる!」
下品ですよ、おばさんたち。
「うああー、先生、見ないでくださいぃ。」
羞恥に身をよじるベータ君がカワイイ!!
元気回復!
棺桶の中にお菓子とかいっぱい詰め込んでありますね。
もう、手が付けてありますね。
我慢できなかったんですね?
うん、警報装置は作動しない。
いや、作動しているけど音は出ない。
タマちゃん、非常ベルのハンマーにしがみついて止めている。
あぶぶぶぶぶぶぶぶぶって感じで。ご苦労さん。
通信が入る。ミネルヴァだ。
『アイザック、そちらの状況は?』
「無事、転送に成功。先生もメガドーラさんも問題ありません。」
『ふっふっふ! 我の秘術の冴えを見たか!』
そこにいるな、キラすけ。
いや、すごいのはお前じゃなくてベータ君だろ、これは。
今現在、俺の視覚はカナちゃんズ通信を使って北遺跡のモニターにつながっている、はず。
この状況はレガシでも見えているって事だ。
つまり、ベータ君のエムディちゃん状態が!
『ベータ! ふー、ふー、ふー…』
『ベータ君! おおおーーー、おおおーーー…』
通信のバックグラウンドで荒い鼻息が聞こえる。
そこにいるんですね、イーディさん、とハイエート。
『暗い……暗い……暗ぁあああぁいぃ………!』
隠し部屋は暗いからね。よく見えないんですね。
怖いですよ、イーディさん。
「それじゃ、わたしらはここで洗脳…学習魔法の準備をする。」
「お前らはタモン殿と合流してくれ。」
よし、ベータ君馬車へ戻ろう。
「正門前に行くならこれを使え。」
隠し部屋の壁にいくつかの…穴?
これって? シューター?
「一番左のが正門行きだ。」
す、すごい大掛かり!
ん? ここっておやっさんに内緒で作ったんだよね?
どうやってこんな大仕掛けを?
「い、いや、王様ともなれば秘密の抜け道とか、必要だろ。」
「そ、そうそう、一応作っとかないとのう。」
でも、そんなの作らせたらおやっさんにバレるよね?
「いやほら、秘密だから…」
「…のう!」
……職人さんをだまして作らせて…その後記憶を消したんですね…
やりたい放題!!
目線をそらして「~♪」みたいなおとぼけ、しらんぷり。
「い、いそがなくていいのか?」
はいはい、追求はしませんよ。
「いきましょう、ベータさん。」
「だ、大丈夫なんですか? 200年くらい使ってないんじゃ…」
「私がガードします。」
ベータ君を後ろから抱える感じでシューターに入る。
彼女と一緒にウオータースライダーっぽい。密着!
ま、そんな事したこと無いですがね。
マンガでは良くあるシチュだけど…
現実のプールじゃ安全上認められないよね?
「一人ずつ、間隔を開けて滑ってくださーい!」
係員さんに言われちゃうよね?
ま、そんな彼女はいないので確認のしようが無いですがね。
「行きます。」
ゴー!
ロボ出撃シーン定番の発進プロセス。
うん、バンクシーン。尺が稼げるってヤツ。
元祖は某救助隊?
滑り降りるにしたがって底面、側面に魔法陣が浮かび上がる。
「あ、摩擦低減魔法陣! 被甲身も!」
ベータ君が指摘。
大きな石材を引いたりする時に使う魔法らしい。
「ヒトが通過するのを感知して順番に自動起動するんですね!」
「凄い魔法装置ですよ!」
興奮気味、そんな凄い魔法をサボリ部屋のために…
「ひゃあああーー!!」
結構なスピード出るぞ!
カツラを押さえるベータ君。
でも、服のスソは押さえないんですね。
そうだよなあ、スカートはくのはまだ2回目だもんね。
そこまで気が回らないよね。
スカートはね、風でめくれちゃうんですよ。
あー、ほら、下着がね。
ダット姐さん気合入れたから、下着にもね。
かわいいおパンツ丸見えですよ。
ま、あえて注意したりはしませんが。
そこはほら、男の子だからね。
ちょっと、そこんとこがふっくらとね。
ちょっと盛り上がってるのが、すごく盛り上がりますよ、気分的に!!
無事、正門前に到着。
王城外壁の支えみたいに張り出している部分の影。
人目につきにくい場所がどんでん返し。
前庭に到着。
「ここにも認識阻害魔法がかけてあるんですね。」
感心したように魔法陣をチェックするベータ君。
スカートまくれっぱなし。
下着おしりが見えたまま。
おっとと!
ちょっとぶつかったようにして、そっと直す。
「え?」
振り向いて小首をかしげるベータ君エムディちゃん。
ああー、もう! 可愛い!
「さあ、急いで馬車に戻りましょう。」
もう一度女性形態に変形! ガキゴキボキ!
前庭には警備の兵士たちが居た。
王軍の兵士に混じってモアブ兵が一人。
受付時の兵士とは別人だな。
美少女|(♂)エムディちゃんに目じりを下げて近づいてきた。
「どうしたんだ、お嬢ちゃん。」
「魔道機の調子が悪くて…馬車に乗せないと…」
「停止スル・オソレガ・アリマス」
「ちょ、こんなとこで停止されたら困る! おい、お前ら!」
王軍兵士に指示して俺ボディをデンソー家の馬車に押し込む。
命令された王軍兵士はむっとした顔。
エルディちゃんも馬車に乗り込む。
「あんたはどうしたんだね? 会場に戻らなくていいのか?」
「お酒に慣れていないので、気分が…」
「そりゃ大変だ。」
下卑た笑いを浮かべながら馬車に乗り込んできた。
「俺が介抱してやろう。」
この、セクハラ兵士が!
「作動異常・作動異常・ピーーーー」
とか言って水魔法プラスヒートボディで水蒸気を発生!
プシューと関節の辺りから噴き出す!
「うわちちっ!」
馬車から転げ出たモアブ兵。
周囲の王軍兵士のあきれたような視線に気付いて引き下がった。
「ふううー」
ミッションクリア、かな!?
あとはお任せしますよ、魔女チーム。