王城潜入!
王都へ潜入した俺とベータ君。
変装して王城への侵入を図る。
俺とベータ君扮するエムディちゃんはデンソー家の馬車に乗って王城へ向かう。
馬車、と言ったけど引っ張っているのは…魔道機!
馬獣機より一回り大きい…というか太い。牛型魔道機だ。
あれ、てことはこれ、馬車じゃなくて牛車?
まあ、どうでもいいですがね。
さすが王都ともなるとけっこう魔道機見かける。
郊外のお屋敷から街中に入る。
この通りは? えーと、歓楽街?
何だかにぎやかな通りだ。
両側には飲食店とか、宿屋とかがいっぱい並んでいる。
人通りも多い。
何かこの道、デンソー家の屋敷から王都の中心部まで真っ直ぐ続いてる?
「モアブ軍が出撃して、締め付けが緩んだのでだいぶ賑わいが戻ってきましたね。」
同行してくれたのはデンソー家長男クラマスさん。
この馬車、護衛とか居ないけど大丈夫なのかな?
「この道の両脇の店はすべてウチの系列ですので…」
……え?
「我が家は飲食、接客、風俗業を生業としてきた家系です。」
「思いがけず男爵位などをいただきましたが…」
なるほど、クリプスチャラ男騎士が大街道関所を軍服カフェにしちゃったのは、そういうわけか。
するとこの道は事実上私道みたいなもの。
警備の必要は無いってわけだ。
「他の貴族と違い、武門はからきしなので今回の事態でもわりと警戒が薄くて。」
なるほど、物品販売、交易を生業とするカロツェ家は隊商警護のために兵士団をもっていた。
貴族と言ってもそれぞれかなり違うんだな。
「それでは武力集団とかはお持ちではないわけですか?」
それで大丈夫なのか?
「ま、こういう商売は民間の…まあ、そういう組織との付き合いがありますので…」
「それに、冒険者や傭兵の…ギルドと酒場というのは切っても切れない関係ですしね。」
うーん、表立って軍隊とかは持っていないけど、いざとなったら侮れない家だな。
「王城へはどうやって入るのですか?」
「いろいろ考えていたのですが…エムディ嬢とあなたの変装のおかげでうんと楽になりそうです。」
んん? どういうこと?
んー、この風俗街、街の中央へ進むに連れて高級そうな店が増えてきた。
グレードが上がっているっていうか…
なんかこう、格式のありそうな高級店の前で馬車を止める。
「準備はいいかね?」
クラマスさんの問いかけに店の責任者的な男がうなづく。
視線の先にもう一台の馬車が…
女の子満載!
妙齢の落ち着きのあるドレス姿のレディもいるけど、大半は若い娘。
いかにも健康そうな元気いっぱい系。
落ち着かなくなるスソの短いドレス衣装。
しかも、エルフや、獣人もいるぞ!?
リーダーらしいお姉さんが話しかけてきた。
「お言いつけ通りの娘をそろえました。」
「うむ、ご苦労。この娘を王城内に入れるのが目的だ。」
「詳しくは道々話す。」
お姉さんはクラマスさんの馬車に乗り込む。
ベータ君エムディちゃんを見てちょっと驚いた。
「こ、この子を?」
クラマスさんがあらためて俺の方に向き直した。
「王族の私的なパーティに参加します。」
「モアブ伯自身が出撃したので…ちょっと緩んできました、色々。」
ああ、この娘らコンパニオン的な…
「王様はこういうのお好きなんですか?」
「元祖がナビン王ですからな。わりと…」
あ、うーん。晩年になってイオニアさんつくったくらいだもんなあ。
でも、他種族の娘が混じってるけど?
「陛下や王族はそのへん気にしませんよ。」
「王城を抑えているモアブ兵士は人間至上主義者なのでは?」
「至上主義者なんてやつらは…」
「自分より弱い立場にいるんであれば他種族大好きです。」
あー、うーん…最低。
まあ、今の俺たちには幸いだけど…
「ここから先はちょっと警備が厳重です。」
歓楽街を出て王城へ向かう。
居た、軍用獣機。
王城へ続く大通りに配備されている。
以前、レガシを襲ったモバリックは軍用獣機を300体だと言っていた。
王都の広さ、王城のでかさを思うと…足りないな。
全域を警護するには全然足りない。
反対勢力がいれば各個撃破は出来ても、制圧するのは無理だ。
もちろん、軍用獣機を破壊する手段を持っていない相手なら、最終的には勝てるだろう。
だが、それは皆殺しにするしか選択肢がないってことでは?
しかも、大多数がロスト地方へ出動してしまった今、あまりにも手薄。
モアブ伯はいったい何を考えているんだ?
王城の城壁がせまる。意外と…低い?
まあ、王都全体が一つの城だと思えばここを高くしても仕方ないのかも。
ここで検問。王軍の兵士だ。
「クラマス様、お待ちしておりました。」
「話は通っているかね?」
「はい、ただ…」
兵士がちらりと視線を走らせる。
その先には、モアブ兵。
「全員、馬車から降りろ。一人づつ検査する。」
緊張感が高まる…高まってないな?
女の子コンパニオンズがわらわら降りて、きゃっきゃっ。
かしましい!
「王城に呼ばれるの初めてー。」
「お姉さんは何度か来てるのよねー。」
「学校で見学に来たことあるー。」
「兵隊さんカッキー!」
兵隊さん、身体検査するんですか?
色々触ってしまいそう。
セクハラ案件必至! 俺なら絶対しちゃう。
と、あれは!?
王軍兵士の中に混じって一人? 一匹?の異形が。
直立したヒト型、その頭部は犬。
軽装の皮鎧を着け、王城にふさわしい装い。
コボルトだ!
なるほど、湾岸都市でも見たけど、重要な検問には最適な人材…犬材?
コンパニオンズがきゃあきゃあ騒がしい。
「ワンちゃん? かっわいー!!」
「なでていい?」
「ダメです、仕事中なので…いや、だめだって!」
「はい、下がって下がって一人づつ調べますから。」
クラマスさんが囁いて教えてくれる。
「コボルトは一度嗅いだ匂いは忘れないので、ここで新しい娘だけ選り分けます。」
「香水とかはどうなのです?」
「そのあたりも区別できるんですよ、優秀な番犬です。」
凄い奴だな。
年上のお姉さんタイプは通されて、新人だけ止められる。
「憶えててくれたのね、カワイイわんちゃん。」
なでなで、羨ましい。
俺もなでてもらいたい。そしてなでたい! モフモフ。
お姉さんになでられても直立を崩さない。立派だ、ワン太。
尻尾はぶんぶん振れてるけどな。
選り分けられた新人コンパニオンをさらに詳しくチェック。
たぶん毒とか武器とかチェックしてるんだろう。
くんくん、くんくん。フェロモンチェック。
何だかエッチだ。新人コンパニオンズも恥ずかしそう。
「魔法護符のインクや羊皮紙の匂いもわかります。」
おう! すげえ。
護符は持っていけないって、デンソー家で言われたのはこのためか。
そして、ベータ君の番…あ、いけね。まずかったかな、女装。
ワン太くんがぐるるるとうなり声を上げる。
警戒とか、威嚇とかじゃなくて…困惑!?
「え? どうした?」
コボルトの担当官が何やら話しかけてる。
言葉通じるの? ワン太?
「え? 何? 男? ええ?」
困惑した表情でクラマスさんに話しかける担当官。
「クラマス様、えーっと、そのー」
「この娘がー、男だって言ってるんですけどー、コボルトがー」
いかん! ヤバい!!
クラマスさん、一瞬意表を突かれたような表情。
しかし、すぐに抑え込んだ。
堂々と言い放つ。
「ええ、もちろんそうですけど? 何か問題が?」
「ええ? えーっ? 男の娘?」
女装がばれてさらに羞恥の表情を浮かべるエムディ嬢。
うわはー、何とも色っぽい。
「い、いやクラマス様…なんでこの子、女装?」
身体を開き、エムディちゃんをエスコートするように見せつける。
「何でって…説明が必要かね?」
エムディちゃん、完璧な造形と白磁のようなエルフ肌。
中性的でありながら、わずかに少年的な凛々しさを加えた顔貌。
少年期の成長の途上に一瞬生まれる、時の神の悪戯か。
その頬を恥ずかしさにほんのりと赤く染め、うつむく。
凛々しさと儚さと羞恥と。
「ほおおおーーー!」
思わず大きなため息をつく担当官、頭を下げた。
「これは、無粋なことを申しました。陛下もさぞかしお喜びになられるでしょう。」
え? ちょっと待って!!
今の王様、いけるクチなの?
まずい、ベータ君が別のピーンチ!
そして、俺の番。
「コニチハ・ヨイ・オテンキ・デスネ」
渾身の魔道機演技! ロボコップ第一作的な動きで!
「新しく仕入れた、ヒト型魔道機です。」
「王子はこういうのお好きと聞いたので…」
え、そうなの? 王子さま、お幾つ?
女性型とか、胸盛ったとかまずかった?
教育に悪い? 歪んだ性癖を植え付ける怖れ!
わからない人には全然わからないから、警戒しないけど。
そういうこと、あるんですよ。
人形偏愛症とかね。
ちょっと判断に困ったらしい。
担当官、モアブ兵を見る。
これ、大丈夫かな? エロくね? CEROレーティング的にどうよ?
いや、教育に悪いかどうか判断を求めたわけじゃなかった。
何やら手元の書類を見るモアブ兵。
「身長2メートル…筋肉質の男性型…」
なにやら手配書と言うか、人相書きみたいなものが出回っているのか? 俺機体!?
ま、今の俺は身長170センチくらいの女性型。
「問題ないだろう。」
セーフ!
二重になった城門の内側を通過して中に入ると…
軍用獣機が2体。
「ひゃー! スッゴーイ!!」
「とても大きいのですね。」
「こんなに近くで見たの初めてー!」
「かっわいー!」
女の子に受けてるぞ、ゴリアテ。
ゴリラっぽくて愛嬌があるといえば…あるかも?
周囲を確認、センサーオン!
俺本体のセンサーは電波が見える。
2.4GHz帯の電波を可視化。
兵士詰所内からの発信を確認。
いちおう操縦者は隠れているのか。
鉄蜘蛛はいない、となれば、操縦者は剥き身。
自動モードを設定される前に処理すれば制圧は容易だ。
おしゃれウエストポーチからタマちゃんがはい出す。
先生と夢魔女王の秘密の部屋の位置を確認してもらう。
あともう一つ、役目があるんだよ、タマちゃん。
それもお願いね。
クラマスさんが俺に話しかけてきた。
「エムディさんの性別の事…話しておいてほしかったですな。」
「申し訳ありません、身元を隠すことを優先していたので。」
「ううう、恥ずかしいですぅ…」
エムディちゃんことベータ君、女装がばれちゃって真っ赤だ。
うろたえもせずに切り抜けたクラマスさん。
並みの胆力じゃないな。
他のコンパニオンズも大盛り上がり!
「うっそー!、マジ男? 受っけるー!」
「こんな美形が実在するなんて…」
「クラマスx女装美少年…でゅふふふ…」
「エルフ少年、繁殖に興味はありませんか?」
この場にイーディさんがいたら炎縛鎖で焼き払ってたかも知れないな。
コンパニオンズにはエルフやネコミミが含まれているので、ベータ君もエルフ耳隠すのはやめちゃった。
ウィッグの下にたたんでおくのはけっこう負担になるらしい。
うん、カワイイ。やっぱ、長耳はエルフのチャームポイントだよね。
「しかし、そうですかぁ…男の子でしたかぁ…」
がっかりした?
いや、むしろなんだかうれしそうだよ、クラマスさん?
「パーティ中、一時離れますがかまいませんか?」
「大丈夫、こちらでごまかします。今日連れてきた女の子は…」
「皆、その手の娘たちですので、頼りになります。」
その手?
「クリプスのところでクズノハに会ったと聞いておりますよ。」
なんと!
キツネっ娘クズノハさんはチャラ男騎士専属の従者にして密偵。
忍者並みの能力の持ち主だった。
この娘たち、くのいちコンパニオンズ!?
侮れねえ! デンソー家!
まあ、そのくらいじゃなきゃ男爵位とかもらえないか。