海竜退治
バッソ侯やエスブイ一家に説明するために、飛行ユニットを呼び寄せる。
警備の人がびっくりしないといいけど。
「城壁の見張り番は上空も警戒していたようですが…」
「空からの侵入や攻撃があるのですか?」
「空を飛ぶ魔物もいますからな。それに…」
「他国では巨大な鳥を操る飛空戦士もいると聞きます。」
ハチロウさんが説明してくれる。
そんなのが居るんだ!?
「まあ、実際のところ都市内からの伝書鷹の出入り監視が主目的ですな。」
なるほど、都市内に間諜が潜んでいる可能性もあるもんな。
まあ、俺も王都にタマちゃんたちを送り込んだしね。
「具体的に空飛ぶ敵を攻撃する手段と言うのは有りますか?」
「うーん、弓か…弩弓…? まあ、現実的なのは魔法ですね。」
ああ、生臭導師が使ってたマジックアロー…
「投石機とかは?」
「攻城兵器としては以前あったらしいですが…対空兵器と言うのは聞いたことがありません。」
「以前? 今は無いのですか?」
「大掛かりな装置は、まず魔法攻撃を受けますから…あまり意味がありません。」
ま、そうだよね。魔道機ならともかく、木造兵器じゃね。
雀竜相手に投石が有効だったのは俺だからだし。
あれ? もし…軍用獣機が…
そこへスカイエクソンが到着。
思考を中断して屋敷から庭に出て迎える。
ふわりと着地するスカイエクソン。
「おおおー?」
「こ、これは凄い! これも神代魔道機!?」
はっはっは、みんなびっくりしてますね。凄いでしょ。
ふふーん!
コイツのおかげで、マビカだって雀竜のエサにならずに済んだんですよ。
いや、これは言わない方がいいな。余計な心配かけてもいかん。
「これ、人が乗ることもできるのですか?」
「ええ、可能です。マビカ嬢やサンゴロウ騎士を乗せたこともあります。」
あ、ストラップ持ってきてないや。
遊覧飛行ってわけにはいかないな。
「ええ、マビカを?」
驚くエスブイ兄弟。
「大きくなったんでしょうねえ…マビカ…」
マビカママがしんみりつぶやく。
「わたしも…飛んで会いに行けたら…」
湾岸都市から王都までは遠い。
学園に入学してから、何年かあってないのか?
兄上たちは王都へ行くこともあったろうけど、ママはなかなか出かけられないよな。
せめて、写真とか動画とか見せてあげたい…
うーん、ビームランプが使えればプロジェクター機能でマビカの姿とか映写できるんだが…
『飛行ユニットのビームが使えます』
おっと、ヘルプ君。
え? ホント? 以前は出力高すぎ、精度低すぎとかでできなかったんだけど?
『高度接続モードを使えば精密制御が可能です』
おう! その手があったか。
ちょうど夕暮れ、暗くなってきたし。
じゃあ、試して見るか…
合体! スカイアイザック!! アサルトモード!
飛行ユニットと合体! 機首ビームをセット!
「おお! こ、これは!」
「こうやってレガシから飛んできたのか!?」
驚く一同!
……飛行するためでも、戦闘するためでもなく、映像映す為に合体するって…
大げさすぎるよなあ。
スクリーンは…お屋敷の壁、あの辺が白くてよさそうだ。
「ちょっとマビカさんの姿をお見せしましょう。」
「ええ!?」
テストパターン!
昔懐かしアナログテレビ風! いや、うろ覚え。
おお、映る映る!
『水平解像度240本ってとこですね』
VHSビデオ並みか…大画面向きじゃないな。
もちょっと頑張る! 集中!
『おお、400本くらいまであがりました』
うむ、レーザーディスクなみ。
え、レーザーディスク知らない?
よし、これならいける!
どんなのお見せしましょうか?
キラすけパパも居るしな。
えーっと?
痛い魔道士マント姿? 初対面の水浸し? ダメだな。
雀竜さらわれシーン? あかんわ。
先生宅お泊り? おヌードやん!!
しごかれてヘロヘロになってるとこ? ちょっとなあ…
あれ? いかん! マビキラのまともなシーンがないぞ、俺メモリー!
主にパンツとか、たてすじとか、ふくらみかけとか、そんなんばっかしだ!
ええっと…お、これがあった!
お嬢様夕食会のドレス姿、服飾工房でのファッションショー。
投影開始!
スカイエクソンの機首ビームを使ったレーザープロジェクター。
エスブイ家お屋敷の壁にプロジェクションマッピング的に投射。
ファッションショーの様子を最初っから…
「ええー? な、何だこれは?」
「絵? いや、影絵みたいなもの?」
「おお! 動いた!」
最初に出てきたのはキラすけ。
「あ、あれは…もしや…キララ?」
バッソ侯ベガ、10年も湾岸市に赴任中。
成長した娘の姿を見るのは、事実上初めてか…
「すっかり大きく…ちょぴり大きくなって…」
うん、メガドーラさんと同じ感想。
あー、キラすけの能力の事、パパには言ったほうがいいんだろうか?
いや、まあ、その辺は先生と夢魔女王に任せよう。
続いてマビカの登場。
「ええー!! マビカー!」
「スカートだ!! ドレスだ!!」
「うおあー! カワイイ!!」
ダット姐さん渾身のコーデにエスブイ家一同大興奮!!
「こんな…素敵な…」
マビカママ、口元を押さえて、目が潤んでいる。
うん、やって良かった映写会。
おっと、映しっぱなしでエルディー先生が出て来ちゃったぞ。
大人げないエロドレスだ。
「おおーう!?」
男どもから微妙な声が漏れる。
家族でテレビ見てたらいきなり濡れ場がありました的な気まずさ。
「こ、このヒトは?」
「エルディー導師です。」
「ええ? このヒトが七英雄の?」
「こんなエロ…美しい方なんですか?」
「エルフとはいえ…全然お変わりないですね…」
バッソ侯もつぶやくけど…いや、変わらないで言ったらアンタの方が?
おっと、デイエートまで出て来ちゃった。
そろっと終了だな。
「あ、ああ、ちょっと! 今のエルフの方は?」
え? 何。ハチロウさん?
長男イケメンが食いついた。
「いえ、レガシの地元の女性ですが…」
「も、もう少し見せていただけますか?」
いや、いや、もうマビキラ出て来ませんし、関係ないですし…
「こんな美しい方が…」
貧乳マニアか? ハチロウさん。
あー、終了終了。
あれ、何で俺、イラっとしてるの?
結局、泊まっていくことになった。
明日、海竜退治に協力すると言うことで侯爵、子爵とも相談。
夕食会とかパーティとか歓待とかされようがない。ロボだから。
扱いに困る、なんとも微妙な雰囲気ですがね。
とりあえず部屋をあてがってもらって一晩待機することにした。
おやすみなさいを言って別れ際、マビカママが俺の手を握った。
「娘の姿が見れて…ありがとうございました…」
いえ、いえ、少しでも喜んでいただけたならよかったですよ。
ぎゅーって、握力むっちゃ強いよね!? ママ?
ちょっと気になったのでカナちゃんを放つ。
一組2体だけ連れてきてたんだよ。
エスブイ家では家族会議が行なわれていた。
議題は「ディスカムって誰だ!?」
怖くなったので聞くのはやめた。
一方、バッソ侯ベガ様もお泊り。
わりとよく来ているらしい。
もう専用のお部屋があるという。
若いメイドさん達がお部屋の前をうろうろ。
さすが夢魔侯爵、並みのフェロモンじゃない。
サキュバスイケメン、いやインキュバスって言うの?
発情メイドさん達、ベテランメイドさんにたしなめられていた。
「無理無理、ベガ様は他家のメイドに手ぇ出したりしないよ。」
あきらめきれずにお水をーとか、お茶をーとか、暖かいミルクをーとか。
ウロウロするメイドさんたち。
朝までやってた。
モテモテだよ、キラすけパパ。
さて、次の日。
俺は海竜退治に協力することになった。
というか、退治するのは俺。
ここで湾岸都市に力を見せておけば、その後の協力関係を確かなものに出来る。
王都への作戦の如何では力を借りることになるかもしれないしね。
あと将来、ディスカムのために発言力を高めておかないと…
もっとも、囮の漁船を出して今日中に出現してもらわなければならない。
で、なければいったんレガシに帰ることになる。
そう都合良く行くかどうか…
囮として出漁してもらったのは3隻。
一隻にはスカイアイザック、残りにはカナちゃんを配備。
海竜に気取られずに連絡を取るためだ。
理想を言えば俺の居る船を襲ってくれれば一番都合がいい。
すぐ攻撃に移れる。
通常通り漁を行ってもらう。
漁師に扮したエスブイ兄弟が一人ずつ乗り込む。
うーん、重臣の息子さんが最前線てのはどうなの?
本業の漁師さんも猛者が乗り込んでいる。
海獣狩りもこなす海狩人と呼ばれるメンバー。
筋肉もりもり、陽に焼けてカッコイイ。
俺は舟に伏せ、網とかをかぶせて隠されてる。
夜明けとともに出漁、3時間ほど経ったろうか…
来た! カナちゃんから通信。海竜出現!
「行きます!」
俺と一緒に乗り組んでいたのはサブロウさん。
四男なのにサブロウさん。
ハチロウ、ゴロウ、サンゴロウ、サブロウ、ジロウ、ジップロウ。
わけがわからないよ。
発進スカイアイザック!
「おお!」
驚くサブロウさんを後に現場へ急行。
通常、海上で漁船を探せば時間がかかる。
だが、俺本体はカナちゃんの位置を正確に認識できる。
即座に海竜に襲われている漁船上空に到達。
舟はまだ無事。
…あれは5男のジロウさん?
あれ? 次男のゴロウさんだっけ?
よくわかってない俺。憶えてないんじゃなくてそもそも聞いてない。
手紙のごたごたで紹介されてないよ。
その兄上戦士が舟の櫂を振るって応戦しているのと熟練の海狩人の操船技術とで持ちこたえている。
海竜を逃がさないことが重要。
ここで逃したら、経験を積んだ海竜はますます狡猾になる。
確実に仕留める!
空中からのビーム攻撃がどの程度の効果があるかわからない。
ここは…水中からだ!
一気に降下、バンパーバリヤーを展開して海中へ突入。
斜めに飛び込んで海竜の下に回る。
捕鯨に使われるモリは先端が尖っていない。
先端が切り落とされたように直径10センチほどの平らな円形になっている。
「平頭銛」と言うそうだ。
先端がとがったモリは水中で不安定で容易に方向を変え海面上へ飛び出してしまった。
物理学者平田森三先生は先端を平らにしたモリを考案した。
最初は誰もがみんな「そんな馬鹿な」と思ったと言う。
しかし現実に、直進性、命中率は飛躍的に向上した。
凄いぜ! 科学の力。
そして俺もバリヤーの先端を平面に調整して突入!
効果があったかどうかは不明だ(笑)
とにかく成功! 海龍の下に回り込んで退路を塞いだ。
初の水中戦闘! ヒーローが乗り越えなくてはいけない試練!
海竜が俺に気づいた。
間近で見るとでかい!
水中メガネで見るとでかく見えるけど、俺のセンサーは補正が効いてる。
それでもでかいわ!!
胴回りは軍用獣機のウエスト並み。
長さは10メートル越え。
海竜っと呼んでるけど、竜っていうより棘のあるウナギ!?
そんなプロポーションだ。
俺の事、シルエットから人間と勘違いしたのか?
大口開けて突っ込んできた。
思うつぼ!
ワイヤーシュート!
前腕部をワイヤー付きで発射!
指を伸ばした貫手状態で発射した拳骨シュートを海竜の口中へぶち込んだ。
ネイルオープン! 鉤爪をひっかけて釣り針状態に。
上昇だ!
パワーファイヤを噴射して一気に海上へ出る!
このまま釣り上げてやる!!
と、思ったけど、重い!!
海面まではひっぱり上げたけど、一本釣りってわけにはいかないわ。
暴れる海竜に振り回される状態。
おおう、引っ張られる!
潜らせないようにするのが精一杯。
海上を引き回される。
ええい! ならこれだ!!
重力魔法軽!
お嬢様に持ち上げてもらった経験から軽量化魔法を習得済み!
ワイヤーでつながっているから拳骨シュートの先でも魔法が使える。
軽くなった海竜を一気に空中に釣り上げる!
エラ呼吸ならこれで動けなくなるはずだが…
まあ、そこまで待ってられないや。
水上へ引き上げてしまえば…こうだ!
氷雪虎!!
冷凍マグロならぬ冷凍海竜一丁上がり!
このまま陸へ運んでやる。
水揚げ。
水産市場はどこですか?
漁船が停泊しているそれらしい施設に到着。
エスブイ子爵や兄弟たちが駆けつけてきた。
バッソ侯までいるぞ。
「おお、すごい。この巨大海竜をぶら下げて飛ぶとは。」
「こ、これは氷雪虎魔法? 魔法戦闘もできるのですね。」
「この巨体を一気に凍らせるなんて…なんて魔力量だ。」
え? 魔力量?
これってすごいの?
ふだん、エルディー先生とか見てるから。
ちょっと常識がね、わかんないんだよね。
ここまではカッコ良かったんだけど、拳骨シュートをぶち込んだまま凍らせたから…
外れねえ! 腕が!!
釣り上げたはいいけど、釣り針が外せなくて
「針が外れないー、うわあー血がああ!」
とかやる初心者釣り人状態。
水産市場の人が数人がかりで海竜を解体。
腕を取り出してくれた。
ありがとう!
「美味いんですよね、海竜。」
「サンゴロウ騎士が獲ってくれたやつも好評でした。」
俺とバッソ侯を交互に見て、期待に満ちた視線。
「お任せします。」
と俺が言うと、バッソ侯も笑って漁師たちに
「処分は組合に任す。売り上げ配分は被害に遭った漁師を優先するように。」
「ははー!」
いたずらっぽく付け加えた。
「私のところにも一切れ、頼むよ。」
結構、庶民派だな侯爵様。
バッソ侯やエスブイ子爵に引き止められたけど、俺は今日の内にレガシに戻る事にした。
手紙を届けるという予定は果たしたしね。
侯爵から協力の約束は取り付けたけど、地理的にレガシへ直接の助力は難しい。
他都市への外交的な働きかけをしてくれるとの事。
その辺はおまかせしますよ。
漁船に乗っていたエスブイ兄弟の帰還。
カナちゃんを回収して別れを告げる。
イナメン美形夢魔侯爵ベガ様が…
「その…母上とキララによろしく。」
照れたような、はにかんだ様な。
そんな顔、女性たちに見せたら大変な事になりますよ。
あと、兄上たちがワヤワヤ言ってたけど、マビカにまとめてよろしく言っとくよ。
長兄ハチロウさんが
「レガシに行ったらあの女性を紹介して……」
とか言いかけてたのを無視して、スカイアイザック上昇!
それでは皆さん、さよなら、さよなら、さよなら。