エスブイ家の人々
キラすけのパパ(バッソ侯爵)やマビカのお父さん(エスブイ子爵)やお兄さん。
その赴任先である湾岸都市にやって来た俺本体&スカイエクソン。
偉い人に繋ぎをつけてもらうことになった。
待つことしばし、現場長らしいオジサンがあわててやって来た。
一通り同じことを説明。
どこでも同じだね。手続き大変。
サンゴロウさんの紹介状を預かると大慌てで飛び出していった。
さらにしばらく待たされる。
その間に分割思考中のスカイエクソンは…
ええ? 勝手に離陸? 海上へでてのんびり遊覧飛行中。
こ、こいつ!
独立思考が出来るようになってから、みんな結構好き勝手してるよな。
半島に囲まれた大きな地理的な湾。
その一番奥に作られた湾岸都市。
河口を利用して作られた人口湾を取り込んだ城壁都市だ。
川が運河的な役割も果たしてるわけか。
あれ、でもこれ防衛上も防災上も弱点でもあるよね?
海上には結構な数の船が行き来している。
大型船は少ないな。
どっちかって言うと漁師の船が多いのか。
魚を捕る漁師と、海獣を獲る海狩人がいるって言ってた。
あの辺の船は網を積んでるから、漁師だな。
ほほう、大漁?
甲板に魚が山と積まれている。
氷魔法で冷やしてあるのかな?
ん? 船の下に何か…
海面の色が変わる。水中から何か大きな影がせり上がってきた!
うわあああーーー!
突然、水中から巨大な塊が飛び出した!
全身をウロコに覆われた魚? 巨大魚?
シーラカンスを引っ張って伸ばしたみたいな…竜?
サンゴロウさんが退治したって言う海竜!?
漁船に体当たりしやがったぞ!
マジかよ! こいつ!!
漁船に積まれた魚を狙ってるのか!?
こいつ、漁船の何倍もでかいぞ。
これなら魚でも人間でも、えり好みする必要は無いよな。
体当たりされた漁船がひっくり返る。
投げ出される漁師!
こりゃいかん!
急降下!
海竜は海に投げ出された魚をがぼりと一飲み。
続いて方向転換すると漁師に向かった!
貪欲、かつ悪食!
やらせはせんぞぉー!
ビーム一閃、海竜と漁師の間に連続ビームで線を引く!
水中に高熱による沸騰水の泡の壁が出現。
高温の壁を避けて海竜が方向転換した。
そのまま、潜行! 姿を消した。
? 何の未練もなく逃げたな?
こちらも追撃はしない。
水中へのビームの効果は不明だし、高温化した海水が転落した漁師に与える影響も判断しかねる。
まずは人命救助だ。
降下し、転覆した漁船のへりを掴んでブースト。
船体を回転させ姿勢を回復。
木造船だから沈みはしないようだ。
転落した漁師数人を掴んで船体に取り付かせる。
奇妙な鳥型メカにつかまれてパニックになる人も居たが、まあ、仕方ないよね。
周りにいた船が救助に近づいている。
後は任せよう。
再び上昇して周辺を警戒。
あの海竜がまた襲ってくるかもしれない。
あの海竜…漁師が捕獲した獲物の横取りを狙ったのか?
せこい! そいでもってずる賢い。
サンゴロウさんが倒した奴も知能があるっていってたな。
相手の正体が不明となればためらわずに逃亡した。
用心深い所を見ても、そいつの同類だろう。
『あの海竜が最後の一匹とは思えない。第二第三の海竜が…』
山根博士のセリフが脳裏をよぎる!
一方、俺本体。
スカイエクソンの活躍をだまって受信。
もどかしい!
でも、海上の敵には手が出ない。
ビームランプも修理中だしね。
そこへ、知らせを受けたお偉いさんがやって来た。
軽装鎧を身に着けた戦士と、正装の文官?
ああ、たぶんエスブイ家の…
似てる、マビカに、文官のヒト。優男イケメン。
そして戦士の方は、サンゴロウさんタイプ。でかっ!
立ち上がって挨拶。
唖然とする両者。
報告は聞いているだろうけど、実際目の当たりにすると、やっぱり驚くよね。
「ほ、本当に魔道機!?」
「中に人がはいっているんじゃないのか?」
「建国七英雄が一人、エルディー大導師の使いとしてレガシより参りました、アイザックと申します。」
もう、魔道機演技はいいや…アレめんどくさいし。
先生のネームバリュー、利用させてもらいますよ。
むこうも気を取り直した。
「こ、これは失礼。私はエスブイ子爵家長男、ハチロウと申します。」
「こちらは4男のサブロウ。」
「よろしくお願いします。サンゴロウ騎士より…」
「バッソ侯及びエスブイ子爵へのお手紙をお預かりしてまいりました。」
「バッソ侯へ!?」
二人とも身を正す。
持ってきた手紙、バッソ侯へは先生と、イオニアさんの手紙。
エアボウド導師とタモン将軍の手紙。
そして、メガドーラさんとキラすけの手紙。
子爵家へはサンゴロウさんの手紙と…マビカの手紙。
「マビカ!?」
「あの子が手紙!?」
「元気なのか? 兄者、開けて開けて!」
「待て待て! 宛名は父上宛だ。勝手に開けるわけにはいかん。」
一番食いつきがいいぞ、マビカの手紙。
「あなたは…マビカの事知っているのですか?」
「マビカ嬢はレガシの町でエルディー導師に師事し、元気でお暮らしです。」
「おおー!」
「ぜひ、我が家へ来てお話を聞かせてください!」
末っ子、女の子、大事大事なんだなあ。
ま、サンゴロウさんを見てればわかってたけどね。
だがそこへ兵士が駆け込んできた。
長男ハチロウ氏の耳元にささやく。
ま、俺のデビルイヤーには丸聞こえですが。
「また例の海竜が出ました。」
「何? 被害は?」
「漁船一隻が転覆、人的被害はありません。」
「そうか。」
「それが…同時に奇妙な怪鳥が目撃されております。」
「目撃者の話では漁師を救助していたと…」
「?」
この後の対応に迷うハチロウ氏。
こっちから助け舟を出そう。
「その怪鳥については、私から情報を提供できます。」
「え?」
その後、お貴族様な感じの馬車に乗って、エスブイ家に移動する。
ご立派なお屋敷。
ここがマビカのご実家だと思うと、びびる!
ああ、ディスカムが悩むわけだよな。
俺も帰ったらマビカ様へのご態度をお改めなさる方がおよろしいかしら、ですわ?
お父上のエスブイ子爵、すらりとしたイケメンオジサン。
サンゴロウさんのイメージでごつい人かと思ってたけど、ちがった。
マビカは父親似か、遺伝子的に。
わらわらと兄上たちも集まってきた!
出かけていた人もあわてて駆けつけてきたようだ。
長男のハチロウさんは父親似だけど…
それ以外の兄上は……でかい、ごつい!
サンゴロウ超えの兄上もいるぞ!!
男の子は母親に似るって言うけど……え?
「マビカから手紙!?」
「父上、開けて!! 早く早く!」
「押すな!」
「お、こら見えない!」
俺への対応もそこそこにシスコン兄貴たちの肉弾戦。
子爵が開いた手紙に殺到。
サンゴロウさんの手紙はほっぽり出されてる。
手紙の文面がチラッと見えたけど…短か!
もちょっといっぱい書けよ! マビカー!!
「え、そんだけ?」
「イオニア様って…王息女さま?」
「エアボウド先生って…王立学園の前学長だよな?」
「エルディー先生?」
「キララちゃん?」
「バッソ侯のお嬢様じゃないか?」
「ディスカムって誰だ?」
うん、いろいろ書き足りないと見た。
王都近くまで行っていたサンゴロウ騎士に比べて、実家では情報が少ないみたいだな。
「ディスカムって誰だ!?」
「ディスカムって誰だ!!?」
「ディスカムって誰だ!!!」
兄上たちの意見はそこに集約されたようだ。
いかん! ディスカム危うし!!
さすがに俺も口を出す。
「サンゴロウ騎士の手紙に事情が説明してあるかと…」
いや、待てよ?
ますます、ディスカムの立場が危うくなるような事が書いてあるかも…
……書いてなかった、何も。
ディスカムに関しては何も。
サンゴロウさぁーん!
まあ、確かに王都の情勢とか、重大なこと多いから…
個人的な事柄は後回しなのはわかるけど。
その割りにマビカに関してはいっぱい書いてある。
「スカート!?」
「一人称がワタシに!!」
「髪が伸びてすっかり女の子らしく?」
「ディスカムって誰だ!!??」
矛先が俺のほうに向いてきた。
「君はレガシでマビカと一緒だったのか?」
「元気だったか?」
「マビカの手紙に書いてあるカロツェ家の夕食会って…」
「ドレス着たって書いてある!」
「どんなだった? どんなだった?」
「ディスカムって誰だ!!!???」
いや、いや、重要な事、書いてあるでしょ。王都の事とか。
バッソ侯にも手紙届けなきゃだし…
「いいかげんになさい!!」
一喝! 母上登場!
あ、うーん。予想通りだ。堂々たるがっしりタイプ。
肝っ玉母さん!
子爵よりでかい! 筋骨隆々と言っていい。
貴族の奥様とは思えないズボン姿。
まとめた髪が武士!
旦那&息子、しゅーんとなった!
となりに一人の男性を伴っている。
はっとなった面々。
「バッソ侯!」
え? キラすけのお父さん? このヒト?
キラすけパパ登場!
初代バッソ家当主は【大剣豪】と呼ばれた勇士。
そのイメージがあったから戦士タイプを想像していたけど…
考えてみれば、当代は夢魔族の血を引くお人。
メガドーラさんの息子だ。
美形! 若い! 青年と見まがうばかり…って言うか青年。
若作りとかじゃなく老いのかけらも見当たらない。
メガドーラさんが王都にいたころの子供…
アラウンド200歳くらいだよな?
白い肌、つややかな黒髪。長身痩躯。
整った顔立ちはどっちかって言うと中性的。
夢魔女王に通ずる妙な色気がある。
ハイエートお兄ちゃんの清潔感とはちょっと異なるなまめかしさ。
あー、そして黒い。
貴族っぽさのない黒一色のスーツ。
そしてマント。
だが、よく見ると黒地に黒糸で恐ろしく凝った刺繍が施されている。
この感覚、血筋を感じる。
キラすけパパだわ、間違いなく。
別ルートで報告が行ったらしい。俺を見やる。
「あなたがレガシからの使者ですね。」
「はい、エルディー導師に仕える魔道機、アイザックと申します。」
「エルディー大導師、以前お会いしたのは100年以上前ですが…お元気ですか?」
うん、元気。危険なほど元気ですよ。
「神代魔道機…稼働しているのを見るのは初めてです。」
ん? 前にも言われたな?
稼働していない神代魔道機が…他にあるのか?
「エルディー導師、王息女イオニア・カロツェ様からのお手紙を預かってまいりました。」
驚いたことにバッソ侯爵、一礼の上、ひざまづいて手紙を受け取った。
お嬢様の方が格上ってことか? その使者だから俺の方が偉い?
「こちらはタモン・ギャザズ元将軍閣下、大賢者エアボウド導師連名の現況報告となります。」
「それと…こちらは…」
最後に出したのは…
「お母上メガドーラ様、ご息女キララ様よりの私信でございます。」
「母上とキララが?」
「今はともにレガシにご滞在しておられます。」
「一緒に?」
バッソ侯、ちょっと気まずそうに受け取った。
「拝見させていただく。だが、その前に…」
子爵達の方を見て
「例の海竜が出たようですね?」
一度はサンゴロウ騎士の活躍で退治された海竜。
だが、ここひと月ほど前から同種とみられる個体が出現。
港で被害が出ている。
軍が退治できないほどの怪物ではないが、いかんせん用心深い。
武装軍船と民間船を見分けて襲撃する船を選んでいる。
たちの悪い相手だ。
「今回は別の怪鳥が目撃されたと聞きましたが…」
「あ、実はそれにつきまして…」
ハチロウさんが俺の方を見る。
事情を説明。
「レガシから、飛んできた???」
「えええ? 出発したのは今朝!??」