デイエートとの帰り道
さて、ちょっと時間は戻ってトンボ型ドローントンちゃん状態のオレ。
ハイエート、デイエート兄妹とともに魔王城山から馬獣機でレガシに向かった。
先導するのはハウンドレッドことU-69。
風になびく赤いマフラーカッコいい。
オレはデイエートの馬獣機の首無し部分にとまってラクチン。
なんかもう、魔王城山まで何回も行ったりきたりしてるよな。
飛行ユニットとかトンちゃんとかタマちゃんとかの記憶、経験が統合されるのでよけい回数が増えてる。
大街道との合流点目指してわき道を進む。
この辺、野獣とか魔物がいっぱい出るんだけど…
兄妹は余裕綽々だ。
「この辺の野獣の習性はだいたいわかりましたからね。」
「この前の大蜘蛛みたいなとんでもないヤツがいなければ大丈夫ですよ。」
とか言ってる間に、お兄ちゃん、モモンガ的なヤツを打ち落とす。
「あいつ、食べるとこ少ないのよね。」
デイエートの感想。
そりゃまあ、空飛ぶには軽量化が必要ですからね。
食用前提なのはどうなんだろう?
順調に大街道に到着。
「やれやれ、やっと大街道に出ましたね。」
舗装に使われた魔法石の効果で、大街道には野獣は近づかない。
余裕があるようでも、やっぱり楽な方がいい。
兄弟もオレもほっと肩の力が抜けた。
「大街道にはよっぽど強力な魔獣でもなければ踏み込んでこないですからね。」
しかもこっちは奇妙な走行機械のチームだからね。
向うから絡んできたくなる集団じゃない。
U-69も一緒だし、馬獣機の扱いにも格段に慣れた。
のんびり進んでいるようだが、移動速度そのものは本拠地探索の時より速い。
このまま進めば常宿の湯治場バンガローどころか関所の旅館まで行けるかも…
と、街道上に何かあるぞ?
前、通った時あんなのなかったよね?
岩? いや、灰色っぽい…モコモコしてるような…
でかい熊ぐらいの大きさがあるぞ。
馬獣機が止まった。
ため息をつくハイエートお兄ちゃん。
「よっぽど強力な魔獣ですねえ。」
「なんでこんなとこに…」
デイエートもぼやく。
でもすでに弓には矢をつがえ、臨戦態勢。
U-69を制した。
「だめよ、レッド。うかつに動かないで。」
警護獣機でも警戒が必要な相手か!?
先生のとこで読んだ図鑑にあんなの居たっけ?…わからないな?
「鉄毛スライムよ。」
ああー、メモリーと照合。
あの図鑑、絵がへたくそ。
該当する魔獣が該当しないぞ!
要するに装甲人食いスライム。
スライムは実はでかいけど単細胞生物。
筋肉とか無いのに移動できるのは魔法を使ってる。
細胞のミトコンドリアにあたる小器官が魔力を吸収。
ゲル状細胞質を流動させて形態を変化、行動する。
細胞質の形態を維持するために常時魔法を発動している。
ベーシックな外観のわりに意外と高度な魔法生物だ。
普通のスライムは半透明で細胞核の位置が丸見え。
防御力が皆無なので脅威とはならない。
動物の排せつ物や落ち葉とかを吸収する無害な生物。
分裂して増殖するが寿命は短く、また、野獣にも食べられたりする。
ごくまれに分裂せずに巨大化するやつがいる。
魔力の強さが原因とされている。
そのまたごく一部、たまたま鉄鉱脈のある場所で育ったやつ。
酸で鉄を溶かして吸収し、その鉄分を細胞外壁に析出させる。
桁外れの防御力を持つようになったためにどんどん巨大化。
それに伴って必要な栄養も増大。
動物や人間も襲うようになると言う。
外殻が丈夫になったので形態維持に使っていた魔力を運動能力に回している。
意外と素早いらしい。
「鉱山にしかいないんだけどね、普通。」
「矢も、剣も通らないし…スチールウールがクッションになってて…」
殴っても効かない? どーすんの、これ。
獲物を消化して吸収するために下側、お腹?の部分は柔らかいらしい。
ひっくり返してそこを狙うと。
「気をつけて、酸を吹き付けてきますよ。」
鉄を溶かすために強化された酸性体液を獲物を狩るのにも使ってくるのだ。
距離を取って、じりじりと回り込む兄妹。
向うは立ち去る気はないようだ。
こっちをロックオンしてる。
スチールウールの外皮が厄介だな。
鉄…か。
「ハイエートさん、トンちゃんは電撃が使えます。」
ドローンの拡張機能。
スタンガン程度の電力だけど、表面が鉄ならよく電気を通すだろう。
「そりゃあ、いいですね。初撃はお願いしますよ。」
「レッド、ひっくり返すの、お願いね。」
兄妹は二手に分かれる。
鉄毛スライムを中心に、時計の針で言ったら5時くらいの角度でちょっとずらして正対。
お互い矢を使うから絶対に完全180度にはならない。
特に指示もなくごく自然にフォーメーションをとる。
「行きます!」
トンちゃん出撃!
巨大金ダワシの表面に取り付く。
うわ! この鉄毛、薄いリボン状がくるくる丸まって出来ている。
そのリボンの両側は十分皮膚を切り裂くほど鋭利だ。
人間や小動物なら触れただけでズタズタになるぞ!
防御だけじゃなく攻撃用器官でもあるわけか。
うお! 次の瞬間、跳ねた!
コイツ、細胞の変形だけでジャンプしやがった!
飛び掛かった相手は、デイエート!
させるかよ! 電ショック!
電流火花が身体を走る!
びくん! と丸くなる鉄毛玉。
デイエートは馬獣機を巡らせて回避。
お兄ちゃんもそれに合わせてフォーメーションを維持したまま移動。
「レッド!」
U-69が突進、ヘッドアームを開いてスチールウールを掴む。
ジャンプして自分も回転しながら丸くなったスライムを転がす。
前足も使って腹を上に見せたまま固定。
デイエートが素早く連射、3,4本の矢を打ち込んだ。
回るように移動すると今度はハイエートがとどめの一射!
核が砕かれたらしい。
魔力を失ったスライム細胞の中身がドロリと流れ出した。
「ふう! うまくいきましたねえ。」
「いいコンビネーションだったわね。」
U-69も誇らしげ…うわあ、スライムドロドロまみれだよ。
酸は大丈夫?
え、早めに洗わないと錆びる? うわあー!
水筒護符くらいじゃ洗い流せそうにない。
U-69を洗うためにとにかく湯治場まで急ぐことにした。
鉄スライムは道のわきに転がしておく。
「けっこう重宝する素材なんですがね。」
そうなの?
スチールウール部分が革加工の肉そぎや鉄製品磨きに役に立つんだそうだ。
「コウベン工房長へのお土産にしたかったですが…」
まあ、後で飛行ユニットで回収に来よう。
湯治場に着いたのはお昼過ぎ。
暗くなるまでは十分余裕がある。
前日に俺本体やタンケイちゃんたちが宿泊しているのでバンガローはすぐ泊まれるし。
「とにかく、早く洗わなきゃ。」
大急ぎで川べりに。
おや、以前来た時の河原風呂が残ってる?
「あれ? あのまま残ってたんでしょうかね?」
河原から自噴する温泉と川の水を混ぜて温度調節する露天風呂。
川の水は流しっぱなしなので、砂が積もったり石が崩れたりしてると思ったけど?
「いや、これ…修理というか…掘り直されてますよ。」
「タンケイたちがやったのかしら?」
「いやあ、ドワーフチームの体格じゃ難しいんじゃないかな?」
「もしかして、ミーハ村の…」
女豹戦士ウエイナさんや虎戦士ベスタさん、人狼戦士シマックさん。
時々、ひとっ風呂浴びに来てるのかもしれないな。
オレも呼んでくれよ、と思っちゃうよ。
「まあ、何にせよ幸運ですね。もちょっと熱くした方がいいかな。」
お兄ちゃんエルフは湯加減を見て石積みを直し始めた。
「あたしはレッドの事、洗ってるね。」
「私は周辺を警戒しています。」
トンちゃんは上昇。
やはり獣機騒動以来、人間の活動が縮小したせいで野獣の活動域が広がっているんだろう。
さっきの鉄毛スライムだって、本来こんなとこにいる種類じゃないって言うし。
こないだの大蜘蛛みたいなすごい奴はいないと思うけど。
いちおう、警戒しとかないとな。
上空から見まわしていると…
川べりに近づいたデイエートとU-69。
「レッド、先に水に入って軽く流しちゃって。」
妹エルフのお肌に酸がついたら大変だ。
川に入ってちょっとした深みまで進む犬獣機。
全身を水に沈めたままイヌプルプル。
あー、お前水に浮かないんだな。金物だもんな。
スライム酸を流してすっきり。
岸に戻ろうとしたら、水流に足をとられて倒れそうになってよたよたした。
気をつけろよ、川の水流は真ん中ほど速いからな。
「あはは」
それを見て笑うデイエート。
…脱いでる?
脱いでますね、すっかり。全部。
そりゃ、濡れますからね。脱ぎますよね。
「お前は漏電してなくて良かったわ。」
ハウンドレッド、リーダーの印、赤いスカーフを外してU-69のボディを拭く。
それ使うのかよ?
付着したスライム粘液に土埃がくっついて水中プルプルだけじゃ落ち切ってない。
背中や装甲の汚れを念入りに拭きとっていく。
まるでバイク水着洗車ガール!
これはもう一つのジャンルとして確立されているんじゃないだろうか?
ま、水着は着てませんが。
あと胸がね(笑)
河原大自然大胆全裸獣機洗浄貧乳乙女露出。
関節のつなぎ目当たりを丁寧に流す。
立ったりしゃがんだり、前かがみになったり。
露天と言うシチュエーション下での視線警戒感ゼロの仕草がたまりませんわ!
おっと、警戒警戒! 凝視するほど警戒してますよ。
一方、お湯の温度調節を終えたハイエート兄エルフ。
これまた服を脱いで湯船に入った。
「デイエート、こっちはオッケーだよ。」
「はーい」
U-69のボディを拭き上げたデイエート。
石ころ河原、足元にに気を使いながら、駆け寄った。
「やっぱり、水冷たい。」
湯船に身を沈める妹エルフ。
美形エルフ兄妹入浴。
アポロン神とディアーナ神の神入浴。
ミーハ村の人たちが見たら、失神ものだよね。
キレイになったU-69も満足そう。
バンガローで一泊。
デイエートがトンちゃんを手招き。
え? 何?
近づいて、差し出されたデイエートの手にとまる。
「見てたでしょ、トンちゃん。」
おおっと、気づいてた?
「周辺警戒はしていましたよ。」
そらっとぼける。
「アイザックと合流したら…記憶を共有するのよね?」
ええ、まあ、そうなんですけど……
「ふううーーーん。」
悪戯っぽく妖艶に笑うデイエート。小悪魔か!