スカイエクソン改良
俺本体が実験を手伝っている間に、タマちゃんは王都についてのレクチャーを受けていた。
タモン兄貴、クリプス騎士、ビクターさんから。
新型ドローンカナちゃんズとともに王都に赴き、情報収集の任に当たるため。
王都に着いてから人に聞くわけにはいかないからね。
「すいません、バッソ家ってどっち行けばいいんすか?」
とか、いきなり蜘蛛型メカに聞かれたら驚くよね、たいていの人は。
カロツェ家、バッソ家、あとデンソー家には紹介状を書いてもらう。
向うの事情も聞かないとね。
イオニアさんのお母さんとか、キラすけのお義母さまとかいるんだよな!?
…最初だけでも俺本体がご挨拶に行った方が……
ムシ型メカとかじゃ失礼じゃないかな?
魔道機体じゃ大して変わらない? そうですか? 傷つくわー。
王城や、モアブ家のことはカナちゃんズに潜入して調べてもらうとして…
俺の方は飛行ユニット単体で独立自律行動が可能かどうか確認しておかなければ…
今のところ、トンちゃんとの合体状態でしか試してないしな。
トンちゃんタマちゃんの時は偶然発見したようなもんだし。
えーっと、どうしたら…
「アイザック。」
おっと、何でしょう? 先生?
「メガドーラにも来てもらった方がいいだろう。」
「王都に行く前にアイツを迎えに行ってくれ。」
「わかりました。」
よし、いい機会だ。
トンちゃん+飛行ユニットで魔王城山まで行く。
トンちゃんだけ先に帰ってきてもらって、飛行ユニットの自立行動を確認する。
魔王城山ならユニットが動けなくなっても見張っててもらえるしな。
通信が効くから経過報告もしてもらえる。
明日さっそく行ってくるとしよう。
実験を終えた俺本体と先生たちはタマちゃん班と合流。
「湾岸市までは行けませんかね?」
サンゴロウさんが申し訳なさそうに切り出した。
「バッソ侯にも報告と応援依頼を…あと、うちにも連絡しないと…」
「手紙を届けてもらえるとすごくありがたい…」
そうだよなあ、マビカの実家にキラすけのお父さん。
心配してるよな。
マビカ、お前も手紙書けよ。
あとキラすけ、お前はお義母さんにも手紙書け!
届けてやっから。
イヤそうな顔すんな!
イオニアさんも書いてくれるんだから。
さて、採石場に…
いや、考えてみれば明日まで待つ必要ないな。
飛行ユニットの夜間飛行性能も試して見よう。
工房の食堂で食事をとる先生たちと別れて北遺跡にもどることにした。
うん、中庭にタンケイちゃんいたぞ?
「あれ? タンケイさん、今日はお休みでは?」
「あ、そっす!」
「せっかくのお休みなんで、前から考えてた細工を試そうと思って…」
それじゃ、休みとは言えないのでは?
まあ、タンケイちゃんがいいならいいですけど…
北遺跡に戻ると、格納庫に上がる。
ジョーイ君を通じて女王様に連絡、明日迎えに行きますよ。
え? 兄妹エルフ、まだそこにいるの?
ずいぶんゆっくりしてますね。
狩り過ぎで採石場周辺の魔物、絶滅しちゃうんじゃないの?
明日の朝出発? じゃあ、トンちゃんは二人と一緒に行動してもらうか。
飛行ユニットに乗客用のベルトを装着。
女王様用のハーネスをバスケットに入れてっと。
トンちゃんは翼端に収納。
ゲートを開いて発進。
意識共有状態でしばらく飛行すると本体との接続が切れた。
そして、今のオレはトンちゃん。
トンちゃんの意識が飛行ユニットを操縦してる状態。
魔王城山に着くのは明朝でいいんだから…ちょっとその辺を周回していくか。
もうじき暗くなるけど、夜間飛行もオツなもんだよね。
ユニットのセンサーは俺本体と同等だし、望遠能力はそれ以上かも。
月明り、星明りがあれば十分な視界が得られる。
あー、空域制限が解除されてから自由に飛ぶの初めてかも。
だいたい人をぶら下げてたり、急いでたりだったもんな。
お、う? これ、電波? 800MHz帯?
これって…向こう山からだぞ。
あわてて向こう山の山頂へ向かう。
あれー? 警護獣機、工兵機それに新型鉄蜘蛛だ。
『ミネルヴァですか?』
『アイザック? どうしたんですか?』
最近、俺の事呼び捨てだよね、ミーちゃん。
タマちゃんトンちゃんはちゃん付けなのに。
骸骨塔ネットワークの再建工事か。
ご苦労さん。
『まったくですよ、あなたは何やってるんですか?』
『いや、ちょっと遊覧飛行をね。』
『いい御身分ですね。』
『こっちはミーハ村基地局の再建を済ませて、休みなしでこっちに取り掛かってるって言うのに…』
嫌味言われたぞ。
『今夜中にはここの工事を済ませて、明日からレガシ直通基地局に取り掛かります。』
『ミーハ村とここは前の基地局の土台が残ってましたけど…』
『この先は完全な新規工事ですからちょっと手間がかかるかも…』
頑張って、よろしくね。
『あ、こら! 手伝わないつもりですか。』
いや、だってオレ、飛行ユニットだし。
『じゃあ、明日からの南山基地局建設に本体とケロちゃんGをよこしてください。』
げげ! 俺本体もですか?
わかりました、ミネルヴァ親方。
仕方ないな、いったんレガシ上空に戻って本体と再接続。
情報を共有。そっちはよろしくね。
さて、飛行ユニットはそのまま飛行を続ける。
よし、ちょっと全速力を試してみるか。
ブースト! 上昇! 加速!!
実のところ、ユニットは空力学的には無茶苦茶な代物。
謎のクラフトで浮遊して、正体不明のパワーファイヤで加速する。
空気抵抗はクッソ大きいし、翼には揚力とか無いし。
正直、時速150キロくらいからすごく不安定になる。
推力自体はものすごく余裕があるんだけど、300キロが限界だった。
実のところ、人を乗せてる時は風が当たるから時速40~50キロくらいしか出してない。
実際、魔王城山までは一日ががりだ。
直線だから早いけど、実速度は下手すると馬獣機より遅いくらい。
マッハまで行けそうなくらいある推力は全くの無駄になってる。
魔道機本体と合体したり、空爆装備とか輸送のために必要なのかもしれないけど…
そう言えばメガドーラさんを乗せた時は…
風よけに被甲身使ってたな、夢魔女王。
被甲身?
イオニアさんは被甲身を前方に展開して矢を防いだり、後方に障壁を展開して追跡する兵士を激突させたり。
夢魔女王は、カプセル状にして人を閉じ込める使い方をしてた。
もしかして、被甲身を使えば…
そんなこんなでナイトフライトを満喫。
明け方には魔王城山に到着。
みんなが起きて来るまで山頂で待機しよう。
巨大な岩塊である魔王城山の山頂から見る日の出。
ご来光ってやつですな。
うーん、絶景。
明るくなると、例によって体操のために住民たちがトンネルから出てきた。
女王様に兄妹エルフもいるな。
広場に着陸するとデイエートが駆け寄って来た。
「アイザックの…飛ぶやつ? 何で?」
「おはようございます、デイエートさん。メガドーラさんを迎えに来ました。」
トンちゃんを射出。
「おっと、トンちゃんも一緒ですか?」
ハイエートお兄ちゃんも近づいて来た。
トンちゃんはすっかりおなじみだからね。
「レガシへの帰り道はトンちゃんもご一緒させてください。」
朝食をすますと兄妹エルフは馬獣機に乗って出発。
レッドことU-69も一緒だ。
レッド先輩の指導を受けた警護獣機はすっかり地下住民となじんだようだ。
飛行ユニットは地下に降りるのは難しいので、トンネルの入り口で待機。
遠ざかるエルフ兄妹とトンちゃん。
やがて外部接続機体の接続が切れる。
独立分割思考が起動した。
スカイエクソン単体での自律活動は可能だった。
「どうじゃな?」
メガドーラさんが聞いて来た。
「独立行動が可能ですね。」
「便利じゃなあ。身体が二つ…いや、あの小さいのも合わせれば四つか。」
「うらやましい、儂も身体が二つあればのお…」
魔王城山とレガシを行ったり来たり、けっこう大変だしね。
こっちは急いで出発することもない。
飛行速度アップについて夢魔女王に相談してみよう。
「なるほどの。風よけじゃな、要するに。」
「被甲身の形を自由に設定できるのなら、それでスピードアップできるはずなんですよ。」
「そりゃあ、まあ、できるけど…どんな形にするんじゃ?」
なるほど、形かあ。
流線型…エアロダイナミクスな形…戦闘機みたいなのがいいのかな?
いかんな俺、知識がないぞ、この分野。
変な形にしたらかえって不安定になるかもしれないしな。
自動車のボディでも空力は重要だ。
ハイブリッドカーのトヨタ2代目プリウス(2003年)は当時としては驚異的な燃費を叩き出した。
実はその好燃費の半分は「ハイブリッドだから」ではなく独特の「空力ボディのおかげ」だったという説がある。
真夜中湾岸道路的マンガが有名な自動車のチューンナップ。
この分野に「ステッカーチューン」と言う「伝統」がある。
車体にレーシングチームとかラリーカーとかのステッカーを貼ると性能が上がる!(ような気がする)と言うヤツ。
ある時、トヨタ自動車が「車体にアルミテープを貼る」と挙動が安定したり、燃費がよくなったりするとか、言い出した。
みんな、「ステッカーチューン?」「オカルトか?」とか混乱したんだけど。
実は走行時に周囲を流れる空気は車体に静電気がたまると、引き付けられて離れづらくなる。
理論どおりに空気が流れなくなった結果、車体後方に乱流が発生して挙動が不安定になると言うのである。
アルミテープは空気中に静電気を逃してこれを防ぐのだという。
実際に販売されている自動車にも取り入れられて、見えないところに貼ってあるらしい。
そのくらい空力と言うのは複雑かつ重要だ。
それだけに、被甲身で空力バリヤーを発生させるにしても慎重にならざるを得ない。
下手すると逆効果になりかねない。
「空気の抵抗か…」
「空気はわかりにくいから水にたとえたらどうじゃ?」
んん? どういうことです?
「儂が湾岸都市にいたときに、港に水揚げされた魚を見たことがあるが…」
「中にはものすごいスピードで泳ぐ奴がいると言っていたぞ。」
「こんな形のヤツ。」
図に描いて説明してくれた。
マグロか! マグロいるのか? ここの海。
ホンマグロは最高時速100キロを超える、という説がある。
ま、実際には普段は時速7キロくらいで泳いでるそうですが。
マグロ型バンパーを展開すれば飛行ユニットの最高速度が上がるだろうか?
「よし、儂が調整してやろう。」
夢魔女王もノリノリ。
魔法陣を構築して板に木炭みたいな筆記具で書き込んでいく。
「ふむふむ、単独で飛ぶときと、人を乗せるときの2種類必要じゃな。」
「形状変化の要素を…試しに3段階くらい用意して…」
内装三段変速。
「魔法陣のここのところが分岐してるのが変化の…」
机に向かって作業しながら、俺にも説明してくれるんだけど…
すいません、前かがみの胸の谷間が気になって頭に入ってきません。
後で再生して学習します。
「お前さん、その姿では魔法使えんのか?」
「本体と合体して無いと無理なんですよ。」
「じゃあ、護符として魔法石に彫り込むか…」
夢魔女王が構築した魔法陣を縮小して、ビームで石製カードに彫り込む。
「見かけによらず器用じゃな。」
首…っていうか機首? に掛けたバスケットに入れてもらって…
って、それじゃ自分で取り出せないじゃん!
不便! スカイエクソン、不便!!
手が欲しい! えーっとどうしたらいいんだ、これ?
「さっき、トンボ型が入っとったところはどうじゃ?」
お、そうか。トンちゃん、タマちゃん格納スペースに護符を収納。
これなら「俺が直接持ってる」扱いで発動できる…できるよね?