表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

141/371

引き寄せ実験


次の日、エルディー先生はなにやら実験を始めた。

北遺跡の前。

集合メンバーはイオニアさん、ベータ君、マビカ、キラすけ。

そしてOBのエアボウド導師、ディスカムも。

エルディー門下の魔道士|(見習い含む)勢ぞろい。

ちなみに、マビカ、キラすけのテストの採点結果は。

「赤点ぎりぎり」で一応合格、とのこと。


そして、なぜかアイワさんとサンゴロウ兄上。

もちろん俺|(本体)。お嬢様警護のベルちゃん(ケルベロ2号)。

そして、ゲストメンバーは…箱!

何? この箱、木箱? でかいわ。

人が何人も入れそう。

どこかで見たな、これ?

ああー、デイシーシー率いる男風呂覗き隊が使っていた箱だ。

デイエートが刺した矢のあとが残ってる。

そして、クラリオ女騎士?

「ななな、何ですか? アルバイトって?」

……ああ…モルモットか…


「よーし、今日は【器機召喚アポーツ】についての実験を行なう。」

「ベータ、頼むぞ。あと、キララにも協力してもらうぞ。」

「ひふっ?」

静かにうなづくベータ君。

キラすけは聞いてなかったの?

まず二手に分かれる。

俺とベータ君、ジジイ賢者チームは10mくらい離れる。

「よーし、この箱を引き寄せるんだ。」

「はい、先生。」

一瞬、でかい箱がふっと揺らぐように消えると、俺とベータ君の目の前に出現。

凄いな。こうして見ると圧倒的な魔法感。

「うーん、素晴らしい!」

感動してるエアボウド導師。

「よーし、戻してくれ。」

俺が箱を担いで元の場所へ。

「ベータはしばらく後ろ向いてろ。」

んん? 何?

ベータ君にわからないように、そーっとベルちゃんが箱の中に入る。

「よし、アイザック、元の位置に戻れ。」

俺がベータ君のとなりに戻ると、もう一度器機召喚。

箱が引き寄せられる。

箱の中からベルちゃんが出てくると…

「え? あ、ベルちゃん入ってたんですか?」

驚くベータ君。

「うーん、箱の中身を認識して無くても引き寄せられるのか…」

うなる、ジジイ導師。

なるほど、この辺がひどくあやふやだ。

先生が言っていた「魔法ってのはすごくいいかげん」てのはこの事か。

ベルちゃんがなんだか戸惑ったようにイヌプルプル。

『慣性センサーが現在位置エラーを出しています』

なるほど、トンネルに入ってGPS信号の途絶えたスマホナビみたいな感じか?


再び、箱をもどして、今度はベルちゃんの代わりに俺が入る。

ベルちゃんは箱の陰でベータ君から見えないように…

今度は箱と俺、ベルちゃんも一緒に引き寄せられた。

「あれ? アイザックさん? ベルちゃんじゃなくて?」

「てっきりベルちゃんが入っていると思って…」

その後、何度か試したがあまり再現性が無い。

「どうも…ベータの認識に左右されるようだな…やはり。」

エルディー先生、次の実験を指示。

エアボウド導師が懐から何枚もの護符を取り出す。

「これは、以前王軍で使っていた…【箱】を認識しやすくするためのものだ。」

箱の6面に貼り付ける。

護符に描かれた魔法陣をベータ君に見せた上で再実験。

今度はきちんと箱と箱の中身だけが引き寄せられた。

「あー、やりやすい。すごく楽です。」

「うむ、箱に番号を振ると正確に必要な装備を引き寄せる事が出来る。」

これは良い。某国際救助隊2号機のコンテナみたいな運用が出来るぞ。


「さて、これからが問題なんだが…」

「キララ、闇の堕界(ダークワールド)でこの箱すっぽり包めるか?」

「このくらいなら…できるけど?」

闇結界で包まれた箱、ベータ君が引き寄せようとすると…

「あれ? 【見えない】」

見えないって言うか、感じられないってことか?

「なるほど…じゃあ…アイザック。」

「こんどはアイザック全体を包んでくれ。」

ええ?

「ほほう?」

何でうれしそうなんだよ、キラすけ!

「我の新しい力を見せてやろう!」

ええ!? なんかヤバい事するんじゃないだろうな?

「黒き宝玉の呪いに依りて、この者を閉ざせ!闇の堕界(ダークワールド)!」

まとわりつく闇、なんも見えない!

「冥界の黒き呪い、常世たる闇の鎖。縛れ【冥刻界結鎖デスグリップ】!!」

なんだ? 新しい中二呪文!?

「おおー! これは!!」

「ああ! カッコいい! キララちゃん!!」

「なんじゃこりゃあーーー!」

周囲の驚く声! いや、俺は全然わからないんですけどね。

光も電磁波も遮断された。

タマちゃんトンちゃん、ぼんやりと感じていたベルちゃんの存在も消えた。

なんだろう? 通信的静寂とでも言うべき不思議な感覚。

たぶん魔力も遮断されてるんだろうけど、タマちゃんのときと違って特に影響は無いな?

『本体の魔力召喚機能が闇結界の次元シールドのさらに高次元由来であるためと推定』

え? ちょっと? 何か凄い設定出てきてない?

とりあえず周りが見えないと不安だから…

音響測位エコロケーション

闇結界は音は遮断しないからね。

「箱の中に入れるか? 見えないか?」

はいはい、大丈夫ですよ。

「え? 見えてるの?」

キラすけの声。

「音を聞いて位置を測っているのです。コウモリみたいに。」

「ぐぬぬ…」

攻撃が通じなくて口惜しがってるな、キラすけ。

表情まではわからないのが残念だ。ふふーん。


俺が箱の中にはいると器機召喚アポーツ

うん? どうなの?

箱から出ると…いや、なんも見えないのには変わりない。

冥刻界結鎖デスグリップ解除!」

キラすけの声が遠い?

おう! 視界が戻った。

すぐそばにベータ君。

引き寄せ成功!?

【箱の中身】としてなら闇結界ごと引き寄せられるのか。

しかし…

「何だったんですか? デスグリップって?」

「何? 我の新能力、見てなかったのか!?」

「いや、見るも何も。ダークワールドで何も見えなかったですから…」

「ぐぬぬぬ……」

まったくもー、勝手なんだから。


「うむ! これならいけるぞ!」

なんですか? 先生。

「いよいよ、最終実験だ。」

「クラリオ、こっちこっち。」

手招きする先生、おずおずと近づく宿無し金無しモルモット女騎士。

「あああ、あんまり危険な実験はお断りししし、」

「だいじょぶ、だいじょぶ。ちゃんと安全対策はしてあるから。」

ちらっとアイワさん、サンゴロウさんの方を見る。

重々しくうなづくサンゴロウさん。

二人とも、たたたっと走ってベータ君のとなりに。

エアボウド元学長大導師が何か言いかけたけど…

…やめた。

箱の中に女騎士を座らせる。

「よし、キララ、さっきのアイザックみたいにみたいにやれ。」

「闇の堕界!」

発生する黒い闇。

つむじ風に引き寄せられるような、幾条ものすじとなって女騎士の体に巻きついていく。

「この手続き、必要なんですか? キララさん?」

「う、うるさい! 演出、演出だ!」

BLACK箱入り女騎士にむかって開いた手を突き出す。

「冥界の黒き呪い、常世たる闇の鎖。縛れ!冥刻界結鎖デスグリップ!!」

手首を返しながら引き寄せて、ぐっと握る!

たぶん、このセリフもアクションポーズもホントは必要ない。

女騎士にまとわりついた闇が、「デスグリップ!」の掛け声とともに収縮。

まるで漆黒のコーティングのように全身を覆った。

まったく光を反射しない動く影法師。

99.8%の光を吸収し、世界一黒いという暗黒塗料、ベンタブラックで塗装されたような状態。

もっともこの塗料、ある芸術家が使用権を独占した事でひんしゅくを買った。

別の芸術家はこれに対抗する塗料、BLACK2.0、BLACK3.0を開発。

「アイツにだけは売らないように」と言う条件付で販売するという。

大人げねえ!!

ま、今は99.4%吸収の塗料が普通に買えるけどね。


「あああ、暗い、暗いいいー!」

暴れる! まっくろクロスケ女騎士、パニック!

落ち着け! さっきの俺、見てただろ?

「うるさいな! フタしろ、アイザック。」

フタをかぶせて押し込む。

器機召喚アポーツ!」

引き寄せられる箱!

「いくぞ! お前らはここに居ろ。」

イオニアさん、マビキラを制して、先生もエアボウド導師も全速力でベータ君のところに駆けつける。

もちろん俺も後に続く。

やっぱ、危険なんじゃん。ま、人選の段階でわかってたけど…

箱の中から転がり出る女騎士。真っ黒。

「どうだ、気分は? クラリオ?」

「えええ? ななな、何がですか? どうなったんですか?」

顔を見合わせる先生とジジイ導師。

「成功したようじゃな。」

「うむ、予想どおりだ。」

うん? BLACK女騎士の様子が変だぞ。

「それは良かったですね…それに比べて私は…失敗ばかり…」

「王都からは見放され…タモン将軍は結婚してたし…」

「ゲロ吐いて、魔道機さんに迷惑を…」

「しかも、あんなことしてるの見られちゃったし…」

「どうせ腹筋だけのオンナ…くっ、殺せ!」

あわてる先生!

「い、いかん。解除、解除! キララ!」

あわてて、ダークワールドを解除。

「は!? 一体何が? なんか、すごく嫌なこと思い出したんですけど!?」

「うーむ、アポーツの実験は成功だったが…ダークワールドに副作用があったか…」

「よーし、お疲れー。今日の実験は終了だ。」

鬼人剣士アイワさんと兄上騎士、ほっと息をついた。

「出番がなくてよかったです。」

え? どういうこと?


エアボウド導師が説明してくれた。

実は引き寄せ魔法アポーツ。人間には使われない。

兵士を転送できれば非常に有効なので、かつて軍で実験が行なわれた。

重犯罪者や死刑囚を使った実験。

ところが、転送された人間は例外なく変になる。

単純に、錯乱とか凶暴化とかというのとは微妙に異なる。

気が大きくなるって言うか…暴走するって言うか…

「オラが最強だ!」「うまいぞおおおーー!」「我こそは魔王なり!」

「ふーじこちゃあーーん!」

ってな感じで暴れたり、走り回ったり、メシ食いまくったり、女の子にルパンダイブしたり。

「魔力酔い」と診断された。

どうやら、転送の過程で非常に濃い魔力にさらされるらしい。

通常の何倍もの魔力を吸収して脳が混乱する。

1週間もするとすっかり元に戻る。

だが、これによって兵士には使えない事がわかった。

武装した兵士の一隊が錯乱状態で転送されてきたら、目も当てられない。

しかも、急いでるから転送したのに1週間使い物にならないんじゃ意味が無い。

「ややや、やっぱり危険だったんじゃないででですかー!!」

抗議する人体実験女騎士。ごもっとも。

「いや、いや、暴れても大丈夫なように、取り押さえ要員としてアイワとサンゴロウ騎士を用意しただろ。」

「そそそ、それは、ベータさんの安全で、私の安全ではないですよね!」

女騎士の抗議はスルーだ、先生。

「まあ、今日の実験で…」

「ダークワールドで遮断しておけば魔力酔いは起きないことがわかった。」

「遮断による魔力不足でうつ状態が起きるのは予想外だったが、」

「ま、すぐ回復するようだしな。問題ない!」


「しかし、冥刻界結鎖デスグリップには驚いたぞ。」

ふふーん、ドヤ顔のキラすけ。そっくり返ってるぞ。

「あの状態だと、どのくらい継続出来る?」

「一度発動させれば、フォローなしで10分くらい続くのだ!」

「フォロー…追加の魔力や集中が必要ないって事か…凄いぞ、キララ!」

「ふふーん! ふふふーん!」

先生ぇ、あんまりほめると天狗になりますよ、こいつ。

「だが、これで移動のめどがついたな…」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ