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職人衆がんばる



荷物を満載したニコイチ号、工兵機も乗せて出発。

搭乗者はタンケイちゃんら職人衆4名。

操縦席は狭いので小柄なドワーフから選抜。

俺は徒歩。ハイエート、デイエートは馬獣機で並走。

俺も馬獣機で、と思ったんだけど北遺跡の格納庫から先生んちまでの間に2回落馬したので断念。

どうも…相性悪いのかな?

「相性の問題ではないでしょう。」

冷たく言い放つミネルヴァ。

ミネルヴァは大街道関所との定期連絡を再開したからけっこう忙しい。

新型鉄蜘蛛や軍用獣機の解析、再起動のために魔王城山へも来てもらう。

後から飛行ユニットと一緒に来てね。


鉄蜘蛛ニコイチ号と馬獣機2体、そして俺本体。

大街道へ出ると大幅にスピードアップ。

関所ではクリプス騎士への挨拶もそこそこに魔王城山にむけてひた走る。

実は蜘蛛型タマちゃんを連れてきている。

タマちゃんは鉄蜘蛛の中で通信係。

中から外へは拡声器が使えるけど、外から中へは人間の声じゃ伝わらない。

鉄蜘蛛自身がかなり騒音を立てるからね。


鉄蜘蛛はのぞき窓とかは無いので、モニタースクリーンを見ながら運転する。

俺は普通に受け止めていたんだけど、この世界の住人には未知の技術。

「これって、遺跡の管制室にあったのと同じやつっすね。」

「足元とか見れるのはいいすけど、馬車と違って走ってる速さが掴みにくいっす。」

御者台みたいな直視型コックピットとは感覚が違うか。


半日走って途中休憩。

「あああ、これ、結構疲れるっス…」

ハッチから出て腰を伸ばすタンケイちゃん。

職人衆やエルフ兄妹も思い思いに体をほぐす。

ロボキュートで熱湯を出してお茶を入れる俺。

「ええ? 便利でやんすね!」

そう、メンバーの一人はあっし君。

大街道の上でゴザを引いて休憩。

高速道路上でお茶会をしてるような変な気分だ。

「えへへー」

タンケイちゃんが俺のとなりに座る。

「ウチ、レガシからこんなに離れたの初めてっす。」

ええ!? そうなの?

そうかー、危険極まりないこの世界。

旅をするのは命がけだもんな。

ある程度の人数がいないと出発すら出来ない。

護衛も必要だから経費もかかる。

軍隊や商売以外で観光や一人旅なんてのはめったにないわけだ。

タンケイちゃんだけじゃない。

一生、自分の集落から出ない人とか結構いるんだろうな。

「あっしもそうでやんすよ。」

いや、あっし君はどうでもいいが。

「うーん!」

タンケイちゃん、体を大きく伸ばして大の字。

空を見上げる。

「空の色も違うみたいな気がするっす…」

うん、そそり立ちますね、胸が。

う? 反対側のとなりに座ったデイエートが睨みつけている。


「しばらくは平らでまっすぐだから運転手交代だ。」

兄弟子が指示を出す。

ビクッとしたデイエート。

平らなのは大街道だからね、お前のことじゃないからね。

「タンケイは後席でしばらく休んでな。」

「はいっす!」


休憩終了、出発。

夕方まで走って一泊。

今夜の宿泊は大蜘蛛がいた湯治場。

バンガローがあるからゆっくり休めるしね。

前回と変わってない。

湯治場のご主人、まだ再建には着手していない模様。

無断でお借りする。

「蜘蛛とか…いないよね?」

デイエートがキョロキョロ、周りを見回す。

タマちゃんパトロールで警戒してるから大丈夫ですよ。

……たぶん。

さすがに川原のお風呂に入ってる余裕は無いよなあ。

明日も夜明けとともに出発だ。



一方、レガシに残ったオレことトンボ型トンちゃん。

次の日の朝、飛行ユニットと合体してスカイエクソン状態に。

前方格納扉開放フォースゲート・オープン

発進!

工房ではサンゴロウ騎士や、マビキラがスタンバイ。

マビカがあくびをし、キラすけがぐしぐし目をこすってる。

昨日、夜更かししたな。遠足前日眠れない状態。

ディスカムが見送りに来てる。

おやっさんは飛行用のハーネスを調整中。

飛行ユニット側のベルトは問題なく装着完了。

三人には厚着してもらう。

魔王城山までとなるとけっこう飛ばさないといけない。

風のあたり具合が違う。

マビキラは体が冷えないように防寒用ツナギ的な服を着込む。

キラすけのはちゃんと黒い。ダット姐さんだな。

おっと、風よけ帽子に風防メガネもあるんですか?

似合うぞ、キラすけ。プール授業の小学生みたいだぞ。

巨漢騎士は自前のコートっぽい奴をてきぱきと着用。

ハーネスのサイズが心配だったけど問題なし。

まあ、タモン兄貴用に作ったやつだから。

ちょっとの調整でサンゴロウさんにも着用可能。

苦労してるのはキラすけ。体の大きさの関係でちょっとゆるい。

「も一つ、穴を増やさないと…」

おやっさんがそっちにかかりきりになったせいで、ディスカムが無防備に。

兄上騎士のとなりに並んだ状態で放置。

となりから放射される圧力に、冷や汗だらだら。

不機嫌そうな眼差しで身長差からディスカムを見下ろす兄上。

見られている!

視線を感知するディスカムだが、もちろん目を合わせたりはしない。

殺られる!

ま、兄上騎士、そんだけマビカのことが大事だってことだ。

ほほえましいね。(他人事)

……待てよ、他にも「兄上」がいるんだよな……あと5人も…

さらに「父上」も? やっと出来た女の子?

…………頑張れ、ディスカム。


重心的な問題でサンゴロウさんが真ん中なのは決定。

マビカはびびって後方を選択。

いやいや、お前経験者じゃん。

そすっと先頭はキラすけか?

「あ、う…ほひっ…」

困ってる、困ってる。

ここで素直に怖いっていえないのが中二マスターのつらいとこだよね。

お祖母ちゃんとこ行くって言い出したのはお前だからな、頑張れ。

そろそろ出発するか。

飛行ユニットの吊り下げ金具にハーネスのカラビナを取り付ける。

あ、サンゴロウさんしゃがんでくださいな。

身長差ありすぎ。

3人分の金具をつけ終わると、兄上騎士が立ち上がった。

まだ離陸して無いのに、すでにキラすけとマビカが宙吊り。

ぶらーん。

特に、先頭のキラすけが首をつかんでぶら下げられた黒猫状態。

ぶらーん。にゃー。

見物していたダットさんや職人衆、笑いをこらえて顔をそらす。

「それじゃあ行きますよ。」

出発! 上昇開始。

「ひふーーーー!」

「ひゃあああーーー!」

奇声を上げながら兄上の背中にしがみつくマビカ。

おまえら、うるさい!

サンゴロウさんを見習って……

兄上? なんかつぶやいてますが?

あう! お祈り! というか念仏!!


離陸してしばらくは緊張していた3人。

それでも、街の上を一回りしてから魔王城山へ進路をとる頃には落ち着いた。

景色を楽しむ余裕も出てきた。

「ひゃあーーーすごーーい!」

「くくく、人がゴミのようだ…」

調子出てきたな、キラすけ。

「いかがですか? サンゴロウ騎士。」

「これは、爽快ですなー。」

楽しんでいただいて光栄ですよ。

「大街道が見えますな…そしてあれが関所…」

「あっちが王都で…湾岸都市が…」

「軍が進攻するとすれば、あちらから…」

うーん、職業病っぽい。

「偵察に関しては圧倒的に有利ですよ。」

「偵察だけでは無いでしょう…その気になれば司令部を急襲…」

まあ、焦げ臭い話は後にして、空の旅を楽しんでくださいな。


風圧の関係で、あんまり飛ばすわけにはいかないからね。

それなりに時間はかかる。

途中、トイレ休憩。

マビカとキラすけの位置を交代。

昼過ぎには魔王城上空へ到着。

「ふえええー」

マビカが驚いたような、気の抜けたような声を上げる。

魔王城山の絶壁と威容はインパクトあるからね。


トンネル前に着陸するとすぐに地下住民が迎えてくれた。

獣機に襲われる心配が無くなってから、地上で過ごすことが多くなってるそうだ。

知らせを受けてメガドーラさんも上がって来た。

こちらの予定は、北遺跡→サイト1→工兵機で連絡してあるしね。

「お祖母ちゃーん!」

「おお、キララ! マビカちゃんも!」

駆け寄る二人、抱きしめるお祖母ちゃん女王。

サンゴロウ騎士に気づいた。

「でかっ!」

アンタもかよ!

だがデカ兄上騎士、言われ慣れているらしく全然気にしない。

「ご母堂さま。」

メガドーラさんの前に片膝ついた。

「私、バッソ侯爵にお仕えしております、エスブイ家3男、騎士サンゴロウと申します。」

「ほ、そんなことはどうでもいいが…マビカちゃんのお兄ちゃんとあれば歓迎するぞえ。」

兄上騎士、忠誠の挨拶を「そんなこと」扱いされてちょっと、むっとした感があったが…

「で、あれ(ベガ)は元気でやっとるかの?」

「ははっ、ご壮健であらせられます。」

「さよか。」

照れ臭そうに、ことさらにぶっきらぼうなメガドーラさん。

兄上騎士もほほ笑んだ。


夕刻には鉄蜘蛛と俺本体、ハイエート兄妹が到着。

先輩職人がメガドーラさんに挨拶。

「お世話になります。」

「じきに暗くなるので作業は明朝から…とりあえず荷物だけ降ろしちまいましょう。」

「狩りも明日ですねえ。」

ハイエートも周りを見回してつぶやいた。

「ピー」

おっとU-69、兄妹が来たのがわかったのか?

トンネルから飛び出してきた。

デイエートになでられてよろこんでるぞ。

他の犬獣機は?

パトロールに出てる? そうですか。

大急ぎでニコイチ号から物資を降ろす。

住民から喜びの声。

まあ、サバイバル状態が長く続いてたわけだしな。


驚いたのは、投降したモアブ兵士たち、普通に地下施設をうろうろしてますね。

閉じ込めたりして無いの?

鉄蜘蛛を奪還して脱出とか企てたりしない?


…まさかまた洗脳魔法を?

「人聞きの悪いことを言うな。」

メガドーラさんが否定。

「たっぷり飯を食わせてやっただけじゃ。キノコ汁をな。」

「まあ、後から『今食ったのマンドラタケだから、儂の治療を受けないとキノコになる』とは言ったがな。」

ひど! だましてるのか。

改良種なんだから大丈夫なんでしょ?

「う、うん。たぶんな。」

ちょ! 大丈夫なの、地下住民!?


レガシから持参した食料をつかって夕食会。

「え、おめえ、生きてたか!?」

「おおーひさしぶりー」

地下住民の中には職人衆の知り合いもいたみたいだ。

マビキラは、女王様と一緒に寝るし、職人衆と兄上騎士はトンネル内でキャンプ。

明日に備えて休みましょう。


次の日、夜明けとともに住民も地上へ出て、例によってアマテラス体操。

動的ストレッチ運動で体をほぐし血行改善。

職人衆、なじんでる。工房でもやってるからね。

意外なとこではモアブ兵もサンゴロウさんも違和感ない。

軍人だもんな。

グダグダなのはマビキラ、とデイエート。

集団行動は苦手っぽい妹エルフ。

そこへ犬獣機ハウンドの一団が到着、工兵機サテュロスも乗っている。

他にも荷物を担いだ奴も。

使えそうな部品を運んできた。

昨日のうちに近くまで来てたけど、朝まで待ってたそうだ。

気配りのできる奴、ジョーイ君。

「よし! 始めるぞー!」

朝飯をかっこんだ職人衆、起動。

まず消磁魔法で動けなくなった鉄蜘蛛を回復。

これは俺が担当。先生から教わった手順でモーターを復活させる。

タンケイちゃんは鉄蜘蛛に乗り込むと動かして整列。

「こっちのは新型なんすね。あ、乗りごごち全然違うっす!」

レガシに来たやつはバラバラのバラで吹っ飛ばしちゃったからなあ。

軍用獣機にぶん殴られた奴は?

あ、動く? 頑丈だな鉄蜘蛛。

「あれ? 鉄蜘蛛、全部動くでやんすね…」

「そうするとニコイチ号と合わせて全部で5台? 運転手が足りねえぞ。」

「まあ、いい。あとで考えよう。」


そこは飛んできたのがミネルヴァ、フクロウモード。

「お待たせしました。」

何やってたの? 遅いよ。

「色々あったんですよ、クリプスさんが来たりとか…」

え? チャラ男店長騎士が?

何か情報が引き出せたのかな。

「よし、ミネルヴァ先生も来たことだし…次行くぞ!」


職人衆が次に取り掛かったのは軍用獣機の修理。

飛行ユニットのビームで片腕を切り落とされた奴。

俺がドラゴンスクリューで膝を破壊した奴。

まだ動くコイツらを使って他の機体やら俺がぶち壊した奴の部品とかを集める。

「よし、この腕が使えるな。交換しよう。」

「ロビン、ケン、頼むでやんすよ。」

工兵機が数体がかりでゴリ獣機の腕を運んでくる。

職人衆は工兵機に名前を付けている。

ただし、見分けはついてない。

しかも、こないだと名前違ってるし。


肘を切り落とされた片腕を肩部分からはずして、取り換える。

鉄蜘蛛の脚っていうかアームを巧みに使って、ロープや滑車で重い腕部品を吊り下げ。

肩に接続するとボルトを締め、コネクタをつないでいく。

これは大車輪拳骨シュートでぶっこわした奴の腕だな。

「左腕ばっかり余ってる。」

「困るでやんすね。も少しバランスよく壊してもらわないと…」

無茶言うな。

交換終了。

ゴリ獣機1体が完全体になった。

部品交換してもそのままだと動かないらしい。

ミネルヴァがコネクトして解析、部品を登録、認識させないといけない。

犬獣機の時は自動だったになあ。


この間にもう一体は今度は足を交換。

たちまち2体の軍用獣機、修理完了。

まあ、俺も見物してたわけじゃない。

重いもの運んだり、支えたり仕事していたわけですが。


唖然として眺めているのはモアブ兵士。

どこからかやって来たドワーフ職人たちが、自分たちが使っていた軍用獣機をあっという間に修理。

たぶん自分たちがやってたのより手際がいい。

いや、そもそも修理など出来ていたのか?

修理するような事態になったこともなかったんだろうな。

破損して修理不可のゴリ獣機はどんどん分解。

部品は荷造りして鉄蜘蛛に載せちゃう。

「よし、こんなもんか。」

「おーい休憩すんぞー!」


「さすがはおやっさんとこの職人じゃのー。」

見物していたメガドーラさんもあきれるほど。

「モアブの小僧が工房を欲しがるわけじゃな。」


さて一方、ハイエート兄妹はお肉調達のため森に入っていた。

こっちも次々と成果を上げている。

猪みたいなやつとか、うさぎっぽいのとか、鹿的なものとかを狩っていく。

犬獣機が数体がかりで運ぶようなでっかい獲物も。

こっちは魔王城山の住民たちがどんどん処理していく。

「肉や!」

「肉やで!」

「届いた物資の中にスパイスもあったし…」

「あううぅーーーお酒があるぅ!」

宴会ですかね、今夜は。


ゴリ獣機の修理が早く終わったので、飛行ユニットに職人衆を吊るして魔王城山上空を飛行する。

遊覧飛行ってわけじゃなくて、魔法石採掘再開の方策を探るため。

ふもと付近はすでにスカスカ状態で、これ以上採掘すると危険。

山頂付近から採掘できればいいんだけど…

「うーん、おやっさんから話を聞いたときは、古代人、考え無しだなあと思ったけど…」

先輩職人さん、難しい顔してる。

「これじゃあ、どうしようもないもんなあ。」

「傾斜がきつすぎて搬出路どころか足場すら組めない。」

「そもそも、登れない。」

「これじゃあ、ふもとから採掘するしか方法が無かったわけだわ。」

「鉄蜘蛛や軍用獣機のパワーで何か…うーん…」

なかなか難しいね。

他の職人衆も交代で遊覧飛行。

「うひゃあーー、すごいっす!!」

タンケイちゃんも大喜び。

え、ハイエート、デイエートも?

はいはい、どんどん飛びますよ。



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