兄、来たる
飛行ユニットの輸送モードで北遺跡に帰還。
格納庫に着陸すると先生とミネルヴァ、タンケイちゃんがお出迎え。
え? タンケイちゃん?
「ええっと…飛行ユニットと合体したって聞いたんすけど…」
見物に来たのか。
兄弟子職人衆とか黒エルフとかの悪い影響を受けてるな。
「ちょっと、まだ不具合が残っていまして…」
また外れなくなると困るからね。
『修正済みです』
え? そうなの? ヘルプ君。
『修正済み、修正済みです』
わかった、わかりました。次の機会には利用するから、きっと。
ミネルヴァが通信に割り込んできた。
「ふ、だらしないですね。不具合で本体を危険にさらすなんて。」
「先ごろの軍用獣機との戦闘時におけるビジー状態と言い…」
「ボクが担当だったときはそんなことありませんでしたよねえ。」
『……』
沈黙、ヘルプ君。
ミネルヴァ?
ヘルプ君をディスるとか。最近とみに性格が悪くなっているぞ。
「鉄蜘蛛の運転研修は順調ですか?」
「もう、何人かは一人で運転ができます。特に…」
「タンケイさんはもう、完璧ですね。」
ほほう、
「さすがですね、タンケイさん。」
「えへへー」
照れるタンケイちゃんかわいいのう。
おっと? キラすけ、マビカも居たのか。
「お祖母ちゃんは?」
あ、そうか。
「メガドーラさんはしばらく魔王城山にとどまるとのことです。」
ありゃ、下向いてしゅーんとなっちゃった、キラすけ。
そうだよな、まだ甘えたかったよな。
「まあ、仕方ない。頼りにされとるしな、あいつ。」
先生もちょっと残念そう。
「元気出して、キララちゃん、またすぐ会えるよ。」
「ねっ。」
って、俺に言うのマビカ? まあ、飛んで行けばすぐだしね。
? マビカさん? スカートはいてますよね、あなた。
ダットさんですね、勧めたのは。
そう言えば髪もずいぶん伸びたし…
すくすく成長してますな、いろんなとこが。
それに比べて……キラす…
ガン! 痛た!
蹴りましたね、キラすけ。
「なんか失礼な事、考えたな!!」
とりあえず、向うの状況を先生に報告。
「消磁魔法は回復できるんですか?」
「ああ、ちょっと複雑だが元通りになる。」
そうすると鉄蜘蛛は新型を含む3機がほぼ無傷。
部品を組み合わせれば、職人衆なら軍用獣機2体は再生できるだろう。
「今、レガシにある鉄蜘蛛で物資を魔王城山へ運びましょう。」
「向うの鉄蜘蛛と軍用獣機も回収したいですし。」
「そうだな、兵器としてはともかく、運搬用としては役に立つ。」
地下住民にも服とかいろいろ必要なものが有るだろう。
幸い、魔王城山は骸骨塔ネットワークが生きている。
ジョーイ君経由でこことなら通信が出来るしな。
あっと、先生。これ、ミーハ村の村長さんからお土産です。
「ソープ液か?」
「何か、新品種だそうですよ。」
「ほほう?」
「そうだ、先生。ミーハ村のウェイナさんがお客さんを連れてこっちへむかっています。」
「客?」
その頃、イオニアお嬢様は工房から北遺跡へと向かっていた。
実はイオニアさんも鉄蜘蛛の運転練習中。
最近は防御魔法の上達が認められて外出が自由になった。
て、ゆーか、お屋敷が燃えちゃったので結果的に。
とはいえ、さすがに護衛も無しと言うわけにはいかない。
ビクターさんは色々奔走中なので、非正規雇用隠れ巨乳鬼人剣士アイワさんの出番。
いや、すでに隠れてない!
ダットさんが開発したブラジャー(俺の提案で名称が正式採用)
一般発売はまだだがオーダーメイドで発注したアイワさん。
やはりいちいちサラシ巻くのは大変だったらしい。
この特注品は革と布のハイブリッド。
どっちかっていうとタンケイちゃん愛用のオリジナル、革製防護ブラに近い。
オーダーメイド乳カバー、鬼人剣士スペシャル。
硬度があるので揺れはしないが、もう大きさは隠されていないのだ。
お嬢様の護衛をしつつ、アイワさんも鉄蜘蛛の運転研修する感じ。
そして、オレことタマちゃんとケルベロ2号ベルちゃんも行動をともにしている。
本来、お嬢様警護は1号ケロちゃんの役割だった。
だが、さすがに軍用獣機になっちゃったケロちゃんGはでかすぎるので交代になった。
さて、お嬢様。お召し物は先生のお下がりと服飾工房の古着。
自分のはみんな焼けちゃったからね。
庶民スタイル。白いブラウス革ズボン。動きやすい格好だ。
と、街を囲う壁の正門を出ようとしたところでウェイナさんが連れてきたお客さんと遭遇した。
ボンキュッボン女豹魔法戦士ウェイナさん。
只者でない気配を感じてアイワさんが緊張する。
一方、街中をのんびり獣機が歩いてることにウェイナさんが緊張!
鬼人巨乳対女豹巨乳!
だが、問題はこのお客さん! でかっ!
タモン兄貴や虎戦士ベスタさんを超える巨体。
その巨体を運ぶ巨大馬!
ごっついご面相と肩当付きの軽装鎧もあいまって世紀末覇者!
日に焼けてきらめく巨体! お前の拳法を見せてくれ!
プロポーション的には均整が取れているので、ちょっと見、でかさがわからない。
間近で見て、スケール感狂って、あれー?って感じだ。
「こ、これがケルベロス?」
女豹戦士はレガシの話を聞いてたから、予備知識はあるか。
「あのー、娘さん。すいませんがエルディー導師…」
ウェイナさんの問いかけをすっ飛ばして巨漢が大声を上げる。
「娘御! この街にマビカ・エスブイが来ておると聞いた!」
「どこにおる!?」
無礼な馬上からの問いかけに、むっとするアイワさん。
ビクターさんほどではないが王族であるイオニアさんへの敬意は人並み以上に持っている。
目線で鬼人剣士を制したお嬢様。
にっこり微笑んで対応。
「マビカさんのお知り合いの方ですか?」
「知っておるのか!? 俺の妹だ!!」
ええー!?
「マビカさんでしたらエルディー先生のところだと思いますわ。」
「ちょうど、私も向かうところですのでよろしければご一緒に。」
お嬢様、余裕の立ち居振る舞いに気圧された感のある、巨漢戦士。
イオニアさんの後をついて馬の歩みを進める。
「マビカさんのお兄様ですと…エスブイ子爵家の方ですわね。」
「エスブイ子爵家3男、サンゴロウ・エスブイだ。そなたは…いったい…」
これだけの巨漢である。
対峙した人間のほとんどは威圧されるのが常だろう。
あまりに泰然としたお嬢様の態度に、さすがに只者でない気配を感じたらしい。
「あら、失礼、私、名乗っていませんでしたわね。」
「カロツェ男爵家の縁者でイオニア・カロツェと申します。マビカさんとは…」
最後まで聞かずに下馬した。って言うか転がり落ちた。
「イオニア様!」
平伏! 土下座!
「しし、知らぬこととは言え、ご無礼を!! お許しください!」
「こここ、こら! そなたも馬から下りんか!」
「ナビン勇王のご息女様にあれせられるぞ!」
言われたウェイナさん。きょとんとした顔、ぴんと来てない。
まあ、そもそも国民じゃないしね。
それでも、馬を下りて片ひざをつく。空気の読めるレディだね。
「ご、ご尊顔を拝し教悦チュ至極にございますぅー!」
巨漢戦士、ちょっと噛んだ。
「この街ではそういう堅苦しい身分の話はなし、と言うのが決り事ですわ。」
「き、きまり...ですか?」
カラリと笑みを浮かべるイオニアさんを見上げる巨漢戦士。
まぶしそうに目を細めた。
ああーこれはもう、ラヴですわ。
こっちは北遺跡。タマちゃん経由でお客さんの情報が届く。
「マビカさんにお客さんみたいですよ。」
「え? ボク…ワタシに?」
おお? 一人称変更努力中?
すっかり女の子だなあー。
その成長に一抹の寂しさも感じるよ。
いや、俺が感じる筋合いじゃないですがね。
「じゃあ、降りるか。」
エレベーターの手動ハンドル、俺が回しましょう。
え? キラすけ、やってみたい?
とか言って手を出したが、下りなので逆に振り回されてる。
「お、おお、お。おおう? おうおう、おおお!」
あぶあぶ、危ない! エレベーター急降下!
遺跡の前に出て客人を待つ。
お兄さんはどこまで事情を知っているんだろうか?
いかんせん、通信手段の限られるこの世界。
まだ、誘拐疑惑で止まってる可能性もある。
イオニアさんの後について坂を上ってくる巨漢戦士。
「でか!」
「でかいっす!」
こら、キラすけ、タンケイちゃん失礼ですよ。
「でかっ!」
先生…
「あ、兄……上?」
マビカが駆け出した。
あ、こら! スカート、スカート!
「サンゴロウ兄上ーーー!」
おお、王都の学園に入ってからだから、何年ぶりかの再会なんだろう。
うれしそうに駆け寄るマビカ。
だが兄上のほうは戸惑ってるぞ?
「え? あれ? ま、マビカ?」
「兄上?」
「いや、だって…女の子…」
「ボク…ワタシは元から女の子だよ!!」
「いや、そ、そうなんだけど…こんな可愛くなっちゃって…」
「もう!」
「マビカ…無事でよかった。よかったーー!」
抱き上げて振り回す。
「ひゃーあ!」
だから、スカート、スカート!
感動の再会。
だけど、妙に大人っぽいパンツがすげー気になるんですけど?