魔王城山、奪還!
飛行ユニットの空域制限は解除された。
高機能接続モードで合体。
スカイアイザックとなった俺は魔王城山採石場へと急ぐ。
魔王城山の魔法石は軍用獣機のエネルギータンクとして利用されていた。
モアブ軍は採石場確保のため軍用獣機を派遣。
地下の住民が獣人やドワーフ、エルフが多かったのを考えると扱いが心配だ。
大街道から採石場へ続く分かれ道。
隠蔽のため崩されて居た部分が修復され仮道が出来ている。
仕事が早いぞ!? ゴリ獣機がいるとはいえこの手際。
優秀な指揮官がいるかも?
あれ? ここに残してきたカロツェ家の馬車がない。
モアブ兵に接収されたのか?
道沿いに魔王城山へ。
上空から見ると壮観だ、この山。
手前で着陸。道から少し離れた所。
状況を確認せねば。頼むよ、トンちゃん。
翼端収納庫からトンボ型ドローンを射出。
……さて。飛行ユニット、分離!
『少々お待ちください』
おおおーい! ヘルプくぅーーーん!!
意外と厄介だった、高機能接続モード!
仕方ねえ、ユニットを背負ったまま地上を移動。
おう! 翼が木に! がつん!
避けようとして体を回すと反対側がぶつかった。ごつん! あうっ!
ちょっ! これ、どうすんの!?
そうだ、待機モードみたいに翼をたたんで…
そうそう、だいぶ楽になった。
でもこれ、不便。
しかも飛行ユニット、翼端の噴射ユニットが赤いからすげー目立つ。
紅の翼! 飛んでる時はかっちょ良かったんだけどねー。
ちなみに、機首はたたんで上げる感じで頭の後ろに。
あれ? これだと…飛行ユニットの機首ビームが前に撃てない?
このまま撃つと後頭部直撃。セルフフレンドリーファイヤ!
俺本体が四つんばいにならないと前に撃てないよ!
カメバズ○カかよ! ズーカァーッ!!
とか思ったら機首の根元が右へスライド。
右肩越し、頭の横にビーム発射口を突き出した。
おほっ、かっこよくね!? これ!
強襲型アイザックて感じ?
トンちゃんから採石場の映像が送られてきた。
石材搬出用トンネルの前に鉄蜘蛛、4機。
4機とも空荷。軍用獣機はすべて下ろされている。
道路の修復に使ったし、大街道からここまでは野獣の危険もあるからね。
クソでっかい荷車もあるな。
採石場に住民がいるとは知らないだろうから、食料も用意してきたのか。
カロツェ家の馬車もある。
回収して使ってるのか?
相手は見かけ上は王軍の兵士。地下住民は抵抗しなかったのかな?
何人もの住民が鉄蜘蛛とゴリラ獣機の間にいる。
見覚えのある顔、まあ、俺は一度見たら全記憶しているわけですが。
女の子ばっかりだな?
モアブ兵士がにやにや笑いながらエルフの娘を鉄蜘蛛の中に引き込もうとする。
泣きながら抵抗するエルフっ娘。
兵士に食って掛かるドワーフ娘、よくメガドーラさんに報告に来てた娘だな。
兵士に殴り倒された。
倒れた娘の腹を蹴る兵士。
身体をくの字に曲げ苦しむ。
周りの兵士がどっと笑う。
ああ? 優秀な指揮官? 能力と人格は別物なんだね。
乾いた怒りが湧き上がる。
お前ら死んだわ。
今の光景、全記録した。
笑ったやつらを顔認識記録、全員コロス。
ドローンからの映像を受信しながら全速力で現場へ急ぐ。
木に引っかかる? くそくらえだ!!
コレを使おう。
サイト1からお土産として持ち帰った高周波振動剣だ。
融合した飛行ユニットのマニュピレータに装備。
脚を背中側から回してちょうど腰の横にセッティング。
鞘は無いけど抜き放つようなポーズで右手に持つ。
スイッチオン! 人間では保持不可能な超振動。
軽く振るだけで豆腐でも切るように森の木をなぎ倒す。
トンネル前の広場に飛び出す。
「な、何だこいつ!?」
驚く兵士たち。
「ま、魔道機さん?」
住民達も気づいた。
「遅れて申し訳ありません。」
「私は女王様の使者です。狼藉者に制裁を与えるために遣わされました。」
ワイヤーシュート!
エルフっ娘を連れ込もうとしていた男へ発射。
喉のあたりをひっつかむと、巻き取り!
一瞬で手元に引き寄せる。
へし折って放り投げた、もろい。
兵士たちがあわてて武器を取る。
「指揮官はどなたですか?」
返事はない。
鉄蜘蛛は4機、うち1機は新型だ。
モバリックの時と同じ編成。
指揮官はあの中か?
住民たちとモアブ兵の間に飛行ユニットからビーム一閃、線を引く!
両者が後ずさって距離が離れる。
剣を構えた兵士たちが向かって来る。
こいつら、獣機や魔道機と交戦した経験がないのか?
魔道機と言えば、荷車を引いてるのしか見たことがないのだろう。
女騎士やタモン兄貴ならともかく、平兵士が戦闘魔道機にかなうものか。
物理攻撃を、避けも、かわしもしない。
兵士たちが振り下ろす剣にも、突き立てる槍にも一切構わない。
カチン、カチンとむなしく響く剣戟音。
何事もないかのように歩を進める。
苦痛をこらえながら起き上がったドワーフ娘に声をかける。
「中へ戻っていてください。地下に兵士は?」
首を振る娘。
「みんな、こっちへ!」
他の子たちとともにトンネルへと駆け戻る。
「な? お前ら、どこへ…」
そんなこと言ってる場合じゃないってわかってないのか?
さっき殴った奴だよな、お前。
「これはあの子の顔を殴った分のお返しだ。」
ぶん殴る。
この後、「これは腹を蹴った分」と続けるつもりだったんだけど。
頭がなくなっちゃったので続けられなかった。
さすがに頭の悪い兵士たちも目の前にいるのが怪物だと気づいた。
弩弓を持った兵が前に出てきた。
一斉射撃。跳ね返る矢。避ける気にもならない。
おっと、火炎魔法! 護符が仕込んであったのか。
生憎だが、俺は工房では素手で鍛冶の手伝いをしてたんだよ。
重力魔法!
機体の重量が十倍に増す。
脚が地面にめり込む感触。
身体を固定しておいて、翼端推進ユニットからパワーファイヤを噴射!
その気になればマッハまで加速可能な推進力が兵士たちを吹き飛ばす!
軍用獣機が起動! 掴みかかって来た。
高周波振動剣、一閃! 親指と小指を切り落とす。
あ、二閃かあー。
前回、戦った時とは違う。ベストコンディション、俺。
翼を展開、噴射、上昇。
上空からゴリ獣機、鉄蜘蛛を見下ろす。
この、万能感。ちょっぴり高層マンション民の気持ちがわかった。
でも、俺は絶対3階より高いとこには住まない!
絶対だ!
停電でエレベーター止まったらどうすんの、そうでしょ?
た、高いとこが怖いからじゃないんだからね!(ツンデレ)
上昇する俺を見上げるようにゴリ獣機の頭部が追尾するのを確認。
コイツの視覚センサーは頭部にある。
目がそのまま視覚センサーだな。
飛行ユニットの機首からビームを発射する。
プロジェクタービームとまではいかないが頭部にまんべんなく照射。
視覚センサーを焼かれたゴリ獣機の動きが鈍る。
降下! 肩口に高周波剣を突き入れる。
超頑丈な軍用獣機の装甲が融けたように切れた!
冷えたアイスが食べやすいというアルミ熱伝導スプーンを突っ込んだような感触。
うん、まあ、けっこう力要る。
えぐり取るように腕を切り落とす。
再び上昇、ぽっかりと空いた穴にスカイエクソンパルスビーム!
装甲の隙間から煙を吹き出して停止。
まず1体!
実は俺、ゴリ獣機の相手をしている間にも護符を放っていた。
消磁魔法!
すでに1機の鉄蜘蛛が走行不能になっている。
あと3機?
これまた実は、もう1機の内部にはトンちゃんが侵入している。
そう、ゲス野郎がエルフっ娘を連れ込もうとしていたヤツ。
ハッチが閉まる前に侵入した。
そして、外部接続機体の拡張機能。
協定破棄に伴ってサポートが有効になった機能。
放電スタンガン。地味ーな機能だがすごく有効。
攻撃力の無かったトンちゃんが人間なら無力化可能になった。
鉄蜘蛛の搭乗者は3人。
後ろから順に麻痺。鉄蜘蛛停止、あと2機。
操縦者が一人片付いたんで、ゴリ獣機も1体停止して…
してないじゃん! 3体とも動いてるよ!?
ああー、そうか、自動攻撃モード。
目標設定が完了してたんだな。
仕方ない。でも上空からだとすごい楽勝。
拳骨シュート! 被甲身!
大車輪拳骨シュート!! ぶち抜く!
2体目撃破!
拳骨シュートには一時腕が使えなくなるという弱点がある。
だが、安全域である上空からだとそれも問題なし。
アサルトスカイアイザック、最強!
『分離処理が完了しました』
は? え? ちょっ!
ああー、そういえば命令したわ。
到着直後に出した飛行ユニット分離命令が忘れたころに発動。
分離!
って、そりゃないがーあ! ここ、空中!
空なのお別れですか? あんなに一緒だったのに!
ヘルプくぅーーーん!
なんてこったい!
戦闘の真っ最中、しかも空中で分離!
『ファームウエアの更新と、協定破棄による機能拡張の競合が原因による遅延と推定』
オーマイガッ!
これだから自動アップデートってやつは!
落ちるうううー!
オーバードライブ!
全身の装甲がスライドして拡張!
スリットからパワーファイヤをバーニヤ噴射!
軟着陸!
そこへ殴りかかって来たゴリ獣機!
重力化被甲身!
巨大な腕の一撃を片腕ガードで受け止める。
グラビトン解除! パワーブースト!
一気に踏み込んで獣機の脚に取り付く。
再びグラビトン! 自身を固定!
掴んだ脚を持ち上げ、巻き込むように回転!
飛竜竜巻投げ! ドラゴンスクリュー!!
バキバキと膝関節が破損する音が聞こえる。
地響きをたてて転倒する獣機。
パワーブーストジャンプ!
よし、このまま…落下、ニードロップだ!
重力魔法で加速! 見かけ上の質量が増大した俺の膝を叩きつける。
メテオストライクドロップ!
ところが、もう1体のゴリ獣機が空中の俺に横撲りに腕を叩きつけてきた!
ゴリラ獣機ラリアット!!
うわっ、やべえええーー!
分割並列思考中の飛行ユニットからビーム発射!
耐光線装甲のない肘関節に集中照射!
切断された腕が遠心力で吹っ飛ぶ。空振り!
俺本体もグラビトンをキャンセル。
転倒した獣機の胸板に着地。
蹴って再びジャンプ!
空中で飛行ユニットの脚を掴む。
そのまま移動だ、鉄蜘蛛の上空へ。
手を離すと鉄蜘蛛の荷台部分へ着地。
ああー、これ、いいポジション。
荷台は広々してて平らだし、軍用獣機は攻撃できない。
それぞれ、片足、片腕を失ったゴリ獣機2体。
操縦者の乗った鉄蜘蛛を攻撃するわけには行かないからね。
って、おい! 攻撃してきたぞ!?
片腕獣機が突進してきた!
そうか、コイツ、自動攻撃モードになってるやつだ。
見境がないぞ! 攻撃対象の俺しか見えてない。
しかも、担当操縦者はトンちゃんにやられて昏倒中! 解除不能。
慌てたのは鉄蜘蛛の操縦者! 後退しようとするが間に合わない!
荷台に乗った俺に残った片腕を叩きつけてきた!
当然避ける俺。ブーストジャンプ!
正常稼働、高速思考中ならこんな攻撃を受ける俺じゃない。
ぶん殴られる鉄蜘蛛! 大きく傾ぐ!
二体の大型メカのぶつかり合い! 大怪獣決戦! すごい迫力だ!
鉄蜘蛛自体はダメージを受けていないようだが、搭乗者は無事では済まないだろう。
ああー、いい事思いついたわ。
消磁魔法護符! 鉄蜘蛛の動きを止める。
そしてもう一度、荷台の上に。
カモーン、ゴリ獣機カモーン!
俺の意図が鉄蜘蛛搭乗者にもわかったらしい。
まだ動く脚で必死に機体を揺らし俺を振り落とそうとする。
殴る!ゴリ獣機! かわす!俺! 殴られる鉄蜘蛛!
殴る! かわす! 殴る! かわす!
鉄蜘蛛が動かなくなった。
衝撃で乗員がダメになったらしい。
もういいよ、ゴリ野郎。おまえの役目も終わりだ。
トンちゃんアイ。先ほどの鉄蜘蛛の中。
スタンガンで昏倒している操縦者の傍らに操縦器がころがっている。
スイッチOFF! ポチっとな!!
片腕獣機が動きを止める。
あれ? もっと早く止めとけばよかったんじゃない?
まあ、忙しかったしね。
鉄蜘蛛はもう1機、新型が残ってますね。
膝を破壊された獣機がナックルウオークで身を起こす。
だが、移動速度半減以下。
新型鉄蜘蛛はうろうろしている。
そりゃそうだ。2.4GHz帯の電波で操縦しているんだから、距離を取ったら獣機が停止してしまう。
自動モードの危険性は今見たばかり。
もしかしたら自動で操縦者に追随する機能とかあるかもしれない。
だけど、どっちみち離れるわけにはいかない。
今となっては、どんな馬鹿でも俺本体に勝ち目がないことくらいわかるだろう。
軍用獣機を捨てて逃走するか? 決断できずにいるようだ。
まあ、逃がさないけどね。
オーバードライブ、終了!
今度はこれだ! クロックアップ!
高速思考! 走る! グラビトン発動!
なんで重力魔法? と思うかもしれないけど…
高速思考で加速した時、加速できないのは重力加速度。
遠心力や摩擦力はある程度制御で対応できるけど、落下時間だけはどうにも変わらない。
うっかりジャンプすると加速主観的には、空中でふわふわモタモタしてる感じになる。
すり足で移動しなくちゃならないから、走行速度はそれほど加速できないんだよね。
そこで重力魔法!
空中にいる時間を短縮することで真に「加速装置」と言える性能を引き出す。
エ○トマン! サイボ○グ009! 仮面ラ〇ダーカ〇ト! 今、憧れの加速そぉーちっ!
ま、奥歯とかは無いんですけど。
新型鉄蜘蛛の下部にもぐりこむ。
ダミーアイ発光、魔法センサー!
目的のものを発見。
爪状モールドが跳ねあがる。ネイルオープン!
爪の下から鉤爪が出てくる。
ヴェロキラプトルの脚についてるヤツみたいなの。
超振動! 高周波振動剣の振動をコピー。
鉄蜘蛛に飛びつき、外壁に打ち込んで張り付く。
蜘蛛男マン!
目標は浮かび上がった角型魔法陣。
ハッチのロックだ。
先生から出かけに習った詠唱魔法。
開錠魔法!
先生曰く「たいていの鍵なら開く」やつ。
そして最初の鉄蜘蛛でも検証済み。
下部ハッチが開く。
操縦室内に滑り込む。
中にいた操縦者が振り向く。
「ば か な ど う や っ て 」
ああ、ごめん。加速装置OFF。
「…中に入った? 貴様、一体なんだ!?」
「魔王城の女王様の使いですよ。聞いてなかったんですか?」
3人の搭乗者のうちの一人がナイフで突きかかって来た。
勇敢だな。やけくそ?
かわすまでもないが、ここは敬意を表してガードする。
ナイフを突き出した腕の手首をつかむ。
超振動モード!
ぎゃっ! と悲鳴を上げて手を引く。
右腕が見る見る赤黒く変色、糸巻ハムのように膨れ上がる。
超振動によって毛細血管が破裂して内出血したのだ。
激痛にのたうち回る男を無視して、他の兵士に手を差し出す。
「操縦器をいただきましょうか。」
怖気づいた他の一人がおずおずと箱型操縦器を差し出す。
はい、スイッチオフ。ポチっとな。
10年くらい前に、小学生が「ポチっとな」と言ってボタンを押すの見て驚愕したことがある。
ええ? 何でキミそんなこと知ってるの?
タ○ムボカンシリ○ズ見てたヤツはもうオッサン、ジジイになってるはずだよね?
「ケ○ロ軍曹が言ってた。」
ああ、そうですか…なるほどこうやって世代を超えて「文化」が継承されるんだなー。
ポチっとな!
「指揮官はどなたです?」
震えてる兵士が指さしたのは腕を押さえて苦しんでるヤツ。
コイツか。
そうだよな、一人は鉄蜘蛛を、もう一人は獣機を操縦してるんだからコイツだよね。
搭乗者を外へたたき出す。
軍用獣機も鉄蜘蛛も無力化が完了。
飛行ユニットは生き残りの兵士を監視中。
トンネル、地下住居へ逃げ込もうとした奴はビームで焼き払う。
人質とか取られると厄介だからね。
まだ、元気な奴は抵抗する姿勢を見せている。
最初の怒りが冷めてくるといちいち対応するのがめんどくさくなって来たな。
水精竜放水!
程よく濡らしたところで雷神槌!
全員昏倒した。
残りの鉄蜘蛛を開錠して乗員を引きずり出す。
トンネルから地下住民がおそるおそる出てきた。
「ま、魔道機さん…」
ドワーフ娘だ。顔が腫れている。
「大丈夫ですか? 遅くなって申し訳ありません。」
「い、いえ…」
「すごいですね、魔道機さん…」
凄くはない。
治癒魔法すら使えない。
「ケガをした人は?」
「そ、それは何人か…」
言いよどんだ。怪我ですまない人が居るのか…居たのか…
乱暴されそうになっていたエルフ娘。
彼女が最初の一人だったとは限らない。
「こいつら…殺しますか?」
ビクッとする、住民たち。そこまでは踏み切れないか。
指揮官とほか何人かは連行してクリプス騎士にでも預けるとして。
残りはどうする?