ケロちゃんG!
次の日、先生たちの後を追うようにクリプス騎士がレガシにやって来た。
キツネっ娘クズノハさんも一緒だ! やったね。
欲を言えば、カフェ制服で来て欲しかった。
え、制服も焼けちゃった!?
あうううー、そんなあー。
指揮官であるモバリックは帰って来ない。
頼みの獣機も破壊された。
てなわけで関所のモアブ兵はクリプス騎士に投降。
兵士を尋問した内容をタモン将軍に報告するために、急いで訪問した。
急遽、ミーティングを催す。
メンバーはタモン兄貴、エアボウド導師、イオニアさん、ビクターさん、組合長、
おやっさん、先生、夢魔女王、そして俺。あと、女騎士。
モアブ軍の予定ではレガシを制圧後は軍用獣機整備のための拠点として利用する予定だった。
「イオニア様についてはどう言ってた?」
「クーデターの旗頭にされるのを防ぐために保護すると聞いていたようです。」
「さすがに暗殺のことは一部しか知らないか…」
「レガシに関して他には何か言ってなかったか?」
タモン兄貴の問いかけにクリプス騎士が聞き返す。
「え? 他にって?」
「モアブ伯、大迷宮のことは知ってるのかな?」
兄貴、エアボウド導師と小声で相談。
「そりゃ、ブレビーの息子だからな。さすがに本人は知ってるだろう。」
「レガシを軍用獣機の拠点にする計画は…その辺も織り込み済みですかね。」
「どうかな? 魔力の無い大迷宮なんて倉庫くらいにしか役に立たんだろう?」
「そしてー、非常にまずい話なんですが……」
王都を制圧し治安が落ち着いた時点で大部隊がレガシに送られてくる予定になっている。
それまでに受け入れ態勢を整えるのが今回の部隊の目的。
「うーん…モアブ伯はここを本格的に拠点化するつもりなのか…」
タモン兄貴が首をひねる。
「港湾都市のバッソ侯や旧首都市を攻めるには適しているとは思えんが…」
「工房にしたって、うちの規模なら丸ごと移すことだって出来るじゃろう。」
「まだ他に…ロスト地方に何か戦略的に重要な場所とかあったかな?」
どうにも情報が足りないな。
「あいつら結構レガシのことよく知ってたね。どうやって調べたのかな?」
組合長が問いかける。
そうだな、スパイとかいるとイヤだね。
「常駐の間諜と言うのは難しかったようですね。」
まあ、狭い町だしね。
「出入りの商人や傭兵に紛れ込ませていたみたいです。」
「その割には詳しかったようだが…」
「情報担当だったと言う捕虜が言うところによると……」
「『何でも知ってるダークエルフ』が居るんで、その娘とおしゃべりをするだけで大体OKだと…」
みんな、天を仰いだ。
「あ、うーん……」
憶えてろよ! デイシーシー!!
「王都の状況はどうだ?」
「いかんせん伝書鷹が運べる手紙には限界がありまして。」
「王城は軍用獣機に封鎖され、王族は軟禁状態。」
「エリクソン、バッソ、カロツェ家は閉門、封鎖されているようです。」
「王軍はモアブ伯に従っているのか?」
「いかんせん、王族が人質同然ですので。」
イオニアさんがうつむく。
「お母さま…おじい様、おばあ様。ご無事かしら…」
そうだよな。カロツェ家はイオニアさんの、バッソ家はキラすけの実家だ。
心配だよな…
「あと、報告には、王城の敷石を剥がしてるって書いてありました。」
「敷石?」
「何か改装してるのか?」
「詳しいことはちょっと…」
状況は良くない。
王都から大軍勢が派遣されてくればレガシはもちろん、ミーハ村だって危ない。
モアブ伯は犬獣機拠点の情報も持っている可能性が大。
ジョーイ君やだって危ないかも。
大街道関所だって軍用獣機に攻められたらひとたまりもない。
「軍用獣機さえいなければ、どうとでもなるんだが…」
先生がつぶやく。
ええ? どうとでもなっちゃうんですか?
ゴリラ獣機の弱点かあ…
「これ、私が持っていてもどうにもならないので…」
関所に戻る際に店長騎士が置いていったのが…ゴリラ獣機の操縦器。
あったわ、弱点。
お屋敷(丸焼け)に残ったゴリラ獣機は操縦器が破壊されたために停止した。
本体は無傷。
一方、大街道関所の方は本体は焼かれちゃったけど操縦器はそのまま残った。
(カフェは丸焼け)
店長騎士その操縦器をレガシに持参してきた。
箱型、ジョイスティック2本。
ミネルヴァと職人衆が解析。もちろん俺もね。
そうか、この操縦器、周波数が違うんだ。
犬獣機は800MHz帯、スマホと同じモバイル通信帯。
軍用獣機の操縦器は2.4GHz帯、無線LANだ!
IEEE802.11g! gかあー、ちょっと古い。
WiFi 6(802.11ax)とまでは言わないまでも、802.11ac(WiFi 5)ぐらいは対応して欲しい。
まあ、獣機を開発したのは地球の21世紀から転移してきた【人間】。
電波の干渉とか混雑とか気にする必要が無いから、使い慣れた枯れた技術を使ったわけだな。
電波だったら、【闇の岩戸】で遮断できる。
けど、キラすけ一人じゃなあ…
お嬢様の重力魔法は習得できたのに、闇魔法は習得できないの?
どうなの? ヘルプ君? けっこうアイツに攻撃されてるよ、俺。
『重力は物理学的な現象。大部分は科学的に解析可能』
『魔法学的に再現することも可能でした』
『闇魔法は全く正体不明、魔法的類似現象も報告されていません』
『関係すると思われる魔法論文、研究も皆無』
『解析はまったく進んでいません』
うわっ! 本人と同じくらい厄介だな。
操縦器と再ペアリングしてゴリ獣機が使用可能になった。
この操縦器、攻撃に関しては大部分が自動化されている。
目標をセンターに入れてスイッチでGOって感じ。
あとは対象を破壊するまで自動。
標的、真ん中ぁー的な。
それ以外の作業は手動でコントロールするが…
これ難しい。重機のオペレーターなみの技術が必要だぞ。
そこで試しに操縦器にミネルヴァがコネクトしたところ…
自由自在に動かせる。
将機ボディを失ったミネルヴァだけに新しい体に大喜び…
じゃ、なかった。
「いやですよ! こんなの!! ボクはゴリラじゃありません!」
「絶対ボクのボディとは認めません!」
うーん、そうね。優美さには欠けるかな。
作業に協力してもらいたかったけど接続したがらない。
うーん、わがままなヤツ!
「だったら、これ、繋いでみたらどっすか?」
タンケイちゃんが持ち出したのは自律CPUユニット。
あれ? 自律演算装置は残ってないんじゃ?
「これ、ケルベロ1号…ケロちゃんのっす。」
「お屋敷から拾ってきたやつ…動くかどうかわかんないすけど。」
ミネルヴァ、職人衆が協力して操縦器にユニットを接続。
おお、動いた! しかも自律行動!
もっとも最初はまっすぐ歩くことも出来ず、転んでばっかり。
微笑まし…くはないな。巨体すぎる!
転倒するたびに地響き! 職人衆から悲鳴が!
だけど1時間もしたら、逆立ちが出来るくらいに最適化。
犬獣機の自律ユニットは優秀だ。
もっとも、破壊された状況でも合体して移動するくらいだからね。
学習能力、柔軟性が高い。
自分で動くゴリ獣機。
お前…1号…ケロちゃんなの?
2号のベルちゃんが周りをぴょんぴょん跳ね回ってるからそうなんだろうな。
良かった、良かったよ。ちょっとほろっと来ちゃうよ。
「頭をなでるにはちょっと大きすぎますわね。」
お嬢様もうれしそうだ。
「これ……操縦器じゃなくて直接つなげばいいんじゃないですかい?」
あっし君のいうことももっともだ。
操縦者こそが軍用獣機の弱点。
モバリックは鉄蜘蛛とセットで運用することで弱点を補っていた。
新ボディのケロちゃんも頭脳は操縦器の方にくっついている。
操縦器を直接攻撃されたらひとたまりもない。
内蔵できればいいんだけど…
いかんせん、ゴリ獣機をバラして調べないとどこにつなげばいいのかわからない。
まあ、今後の課題だね。
その、ゴリラボディケロちゃん(ケロちゃんGと命名)。
最適化の効果か並の軍用獣機より移動速度が速い。
下手すると鉄蜘蛛なみのスピード。
山の向こうに以前破壊して埋めた鉄蜘蛛の部品を回収。
お屋敷襲撃で破損した鉄蜘蛛の部品とあわせて稼動可能な鉄蜘蛛が1機出来上がった。
「ニコイチ号」と命名。
操縦法はミネルヴァが知ってるけど、今はボディがない。
職人衆を集めて運転講習会を実施中。
ニコイチ号の修復には5体の工兵機が大活躍。
職人衆と意気投合!
いや、工兵機の方は何も考えてない(たぶん)けど、職人衆は感情移入しちゃった。
1体1体名前を付けてる。
ジェシー、バーンズ、メイスン、デビット、ハワード。
ちなみにどれが誰だかは混ざっちゃうとわからない。
勤務体制としては2体が北遺跡に、3体が工房に配置。
U-69を始めとしたハウンドファイブとベルちゃん、最初はどうも葛藤があったみたい。
どっちが主導権をとるかでもめた。
だが、工兵機の輸送やお嬢様の警備を交代で務めたりしてるうちに和解したようだ。
追加戦士はここにいたよ。ベルちゃんはブルーってことになった。
あ、目印のスカーフはちゃんとしたヤツをダットさんが作ってくれた。
いつまでも先生の○○○のお古じゃちょっとね。
北遺跡の管制室で飛行ユニットの爆装ユニットをチェック。
うーん、飛行ユニットそのものが小型サイズだから…
積載能力が低い。ミサイルは4機、爆弾は3発しか積めない。
もっとも、格納庫にあった在庫は各24発しかない。
ミサイルは一発使っちゃったけどね。
これでは300体の軍用獣機を相手に出来ないなあ。
飛行ユニットのビームガンは波長変更可能。
雀竜ウロコも打ち抜けるのは確認済み。
バラバラになった軍用獣機の装甲で試したところ、パルスビームでの貫通は難しい。
0.5秒、連続照射すれば貫通可能だった。
けっこう厄介だわ。
大迷宮には、いざと言うときシェルターとして使用するために備蓄物資を運び込む。
「こんな良い場所、隠しとくなんてひどい。」
と、組合長に批判が殺到。
「ひんやりしてて良いよね。」
野菜とかお酒とか持ち込まれて、おやっさんの予想通り倉庫状態に。
「冥刻界の女王神殿が倉庫……」
キラすけがかなりがっくりしてたけどね。
ところがどうも、迷宮への入り口がお店の奥、組合長の住居の地下室にある。
重たいものを搬入するにはすごく不便。
北遺跡から運び込む案もあったけど、遠すぎる。
迷宮に入ってから地下を引き返してくると距離2倍。
しかも遺跡までは上り坂。
「あー、そうだ。もう一か所入口が…川べりに…」
組合長、思い出した。川べり?
ああ、ディスカムたちが野宿してたあそこ。
でも、魔力切れでふさがってたよ。
試して見ようってんで川べりまで行ってみると……
ホームレス女騎士いた!
「何やってるんですか? クラリオさん。」
「ななな、何って! 宿が半壊して…泊まるところがないんですよ!」
ああ、他にも壊された家とかあるからどこの宿屋も満員だしな。
「ディスカムくんからテントを借りてここに…」
「ちょっと失礼しますよ。」
宿無し女騎士は無視して洞窟の奥へ。
「どうです? 組合長?」
「あー、魔力切れだな。こっちから開けるのは無理か…」
「迷宮の内側からなら開けられると思うよ、暇なときにやってみよう。」
「そいじゃ、お邪魔しました。クラリオさん。」
何か言いたげだったアウトドアライフ女騎士はそのままに引き上げた。
メガドーラさん、いつまでもディスカム追い出してるのは気が引けるとのこと。
北遺跡の地下に部屋を作ってもらった。
「落ち着くのー、って地下生活に順応しちゃってる? 儂。」