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先生たちの帰り道



やあ、オレ、トンちゃん。トンボ型ドローン!

何言ってんだ? と思うでしょ。

うん、オレもそう思う。

俺の魔道機本体が獣機本拠のサーバールームから消えた瞬間、オレはトンちゃんになってた。

分割思考の一部が残っている?

傍らにはハイエート、デイエート兄妹。

いざと言うときにアンテナを破壊するために待機中。

すでに夜が明けて明るくなっている。

「あう!?」

「どうしました、アイザックさん!?」

ハイエートお兄ちゃんはオレの声、本体からの通信だと思ってる。

「獣機の攻撃は解除されました。もう大丈夫。」

「中に入ってきてください、私が案内します。」


先生、女騎士と合流するために施設内へ。

兄妹、馬獣機2体、犬獣機4体。大世帯だなー。

獣機戦隊はこの辺で待機。

地下に向かうと…おっとU-69だ。

通路の途中で遭遇した。

無事だったか?…あんま無事じゃない。

脚引きずってるぞ。

「ピー」

「大丈夫? レッド?」

デイエートに甘えてる。

もうちょっと、辛抱してくれよ。ついて来てね。


サーバールームに入る。

「導師、無事でしたか!?」

お兄ちゃんの問いかけに先生が答える。

「ああ、なんとかな。獣機は無事に停止した。」

「順次、ケルベロスやU-69みたいになるはずだ。」

「それは良かった。さすがにもう、壊すのはつらいですからねえ。」

お兄ちゃんもすっかり情が移ったね。

「あれ? アイザックは?」

デイエートが俺の姿を探すように周りを見回す。

「奴はレガシに送った。」

「はあ? 送った?」

首をひねるデイエートに対して、ハイエートの方は驚きの声。

「まさか……ベータ君の固有魔法? 使ったんですか?」

「ああ、レガシで何かあったらしい。」

いやいや、どういう事なんですか?

「あれ? でも、そうするとトンちゃんが話してるのは?」

「え? どういうことだ?」

とにかく、お互いに事情を話さないとね。


ベータ君の物品引き寄せ魔法アポーツ

それでか、俺の身体洗ってくれた時、じっくり確認してたのは。

引き寄せる対象を認識しておく必要があったわけか。

お守りプレートは通信機替わり。

一枚目のプレート転送で「引き寄せてもいいいですか?」

二枚目のプレートに先生が印をつければ「いいよ。」

印がついてなければ「今は無理」

て感じで意思疎通。

お兄ちゃんは知ってたんですか?

「最初にベータの能力に気づいたのはハイエートだからな。」

「まだ、ベータが赤ん坊の時だが。」

「ベータ君はぼくが知ってるってこと、知らないけどね。」

そうか、ハイエートがベータ君のこと気にするのは、そういう事情もあったからなのか。

「ベータ君の種親、ハイファイさん。軍人だったから…僕も弓とか習ったんだよね。」

その人も引き寄せ能力者。軍に入って前線に配備され、ひどい死に方をしたと言う。

それで、ベータ君の能力をあんなに秘密にしたのか。

先生もお兄ちゃんも女騎士の方を見る。

「いいい、言いません! だだだ、誰にも言いませんんー!」

あわてて、顔の前で手を振り回す女騎士。

「でも、ベータ君がアイザックさんを呼び戻したってことは、よっぽどのことですね。」

「うむ、すぐレガシに戻ろう。」


『分割思考?』

トンちゃんボディのオレに上位存在ジョーイくん、面食らった。

『本体とは通信は出来ていないんですよね?』

この状態で命令するのは無理?

『いえ、すでにエルディー先生に従うよう指示を受けていますから問題ありません。』

そっか、良かった。

とにかく、急いで帰還することに。

ジョーイ君が馬獣機を追加で用意してくれることになった。

「4人分…いや、5人分にしてくれ。」

先生が指示。テキパキ。

「途中でメガドーラを拾っていく、戦力は多い方がいい。」

『U0069は修理完了しました。ほかの4体もお連れになりますか?』

「ああ、連れていく。」

『では、ジョイントを用意しますので工兵機サテュロスもお連れ下さい。』

『色々役に立つはずです。』

ジョーイ君、なかなか気が回る奴。

工兵機は単体では長距離の移動は難しい。

そこで、犬獣機の背に載せて運搬するためのジョイントが用意されている。

工兵機自身がジョイントを持ってきて、次々と犬獣機の背に乗っかる。

身体を丸めるとびっくりするほど小さくなる。

先生、女騎士、ハイエート、デイエート。

それぞれ一人ずつ、馬獣機に騎乗。

メガドーラさん用にもう1体。

5体の犬獣機ハウンドの背には工兵機サテュロスを積載。

出発準備は完了した。

鉄蜘蛛は使えないのか聞いたけど、操縦できる将機、兵機がない。

さっきのガンマン将機じゃだめなの?

アイツは時間遅延で止まってるだけで壊れてないよ。

頭が悪いから無理? そうですか。

あー、トンちゃん状態の俺じゃ操縦は無理だしな。


ジョーイ君、何とかレガシから連絡する方法はないかな?

『短波通信を使えば、アナログ音声通話は可能かと。』

『工兵機の受信機にこちらからの音声は伝えられますが…』

『電波出力が弱いので工兵機からの送信をこちらが受信するのは難しいと予想されます。』

一方通行か、ラジオ放送と同じだな。

あんまり役には立たないか?

あー、あとお土産に「コレ」もらってもいいかな?

どうぞどうぞ? サンキュ!


俺たちは、本拠地を出発。

馬獣機で突っ走る。

わずか1日で魔王城山に到着。

メガドーラさんを説得。

レガシには孫のキラすけも居るからね。

獣機の心配がなくなったので、住民にも同行を承知してもらった。

メガドーラさん、乗馬の心得がある。

そー言えば三角木馬ロデオマシンでシェイプアップしてたっけ。

たちまち馬獣機を乗りこなす。

そして、走る、駆ける、揺れる! 揺れる! 揺れまくる!

デイエートとクラリオ騎士の羨望と嫉妬の眼差し。

わき見運転は危ないですぞ。

借り物のカロツェ家の馬車。

大街道にそのまま残ってるのを見たけど、回収してる余裕が無かった。


さらに1日で大街道の関所、軍服カフェ付近に到着。

だが、様子がおかしい。

途中、大街道で馬車の一隊と行き会った。

獣機を引き連れた俺たち一行に仰天!

前衛の傭兵たちが攻撃してきた!

どうやら商人の一隊らしいが、もちろんかなうはずも無い。

軽く女騎士にあしらわれた。

「あー、待った待った!」

後方から駆け寄ってきたのは…シマックさん!

ミーハ村の人狼戦士だ。

「なんだ、お前か。」

「みんな、落ち着いて! レガシのエルディー導師だよ!」

「え、エルディー導師? ここ、これは一体? なぜ獣機が?」

雇い主らしい商人があわてて馬車から降りてきた。

「ま、色々あってな。獣機はもう人を襲わないから大丈夫だ。」

「は、はあ?」

シマックさんから、関所が封鎖されていることを聞いた。

レガシにむかっていたが、関所で追い返されたと言う。

「それなら、ぼくらは森を通って行きますか?」

お兄ちゃんエルフはいつもそうしてるらしい。

「いや、レガシに起こっていることに関係あるはずだ。」

「近くまで行って様子を見よう。」

先生の提案で関所を偵察することになった。

シマックさんはついて来たそうだったが、仕事中だしね。


途中で大街道を外れ、森を通って関所の建物に近づく。

「それじゃあ様子を見てきます。」

この辺はトンちゃんボディならでは。

上空を飛行して接近すると、一気に急降下。

関所宿屋に侵入した。

なんだ? 王軍とは違う鎧、装備を身に着けた兵士が多い。

チャラ男店長騎士、クリプスはどこに?

軍服カフェはどうなってんだ?

厨房の換気口からカフェに侵入。

休業中? 中にいるのは兵士ばっかりだ。

ウエイトレスさんたちは? どこ?

むさい男しかいないってなんだよ!(怒)

おっと、居た。一人だけ。

前回来た時、夜這って来たキツネっ娘だ!

思わずおヌードシーンを再生…

出来ないじゃん! トンちゃんボディでは無理なのか!?

仕方ない、おぼろげな記憶に頼るしかないか。

いや、これはこれで! なかなか、おもむきがある。


軍服風制服姿じゃない。私服にエプロン。

兵士たちに給仕をしている。

一人が、お尻を触った。

下品な笑い。

前回もいた元の軍服を着た兵士がいきり立つ。

2派にわかれて対立してるのか?

キツネっ娘がなだめた。

「クリプス様のためよ、我慢して。」

「し、しかし…クズノハさん…」

なるほど、どうやら敵味方ははっきりしたな。

キツネ娘が食器を回収して厨房へ。

周りに人がいないことを確認して天井から声をかける。

「もしもし、娘さん。」

「え?」

ぴくんってキツネ耳が動き、すぐに視線を上げ俺の方を見た。

声だけで、正確に方向を感知した?

この娘、ただものじゃないぞ?

「あ、あなた…な、何?」

「先日、美形エルフと一緒にお世話になった魔道機です。」

「守護魔道機のこと? アイザックっていう…」

事情を聞いたのか? 俺のこと。

ますます、ただものじゃないな。

「関所はどうなっているんです?」

「それが…クラリオ様はご一緒じゃないんですか?」

クラリオ様? 女騎士の名が一番に出てくるって…王軍の軍人なのか? この娘。

事情を説明するために女騎士や先生のところまで案内することに。

彼女はただのウエイトレス扱いになっている。

特に見張りがついているわけではないとのこと。

カフェを抜け出して走る。足速い!

そして、足音立てない! 忍者か!?

さすがに、獣機がうじゃうじゃ居るのにはびびったが、すぐ気を取り直した。

女騎士クラリオの前に片膝ついてかしこまる。

「私はクリプス様付のデンソー家従者、クズノハと申します。」

「モアブ家の兵士が見えたが、どうなってるんだ? クリプスは無事か?」

女騎士、兵士の装備でわかるらしい。

「関所はモアブ軍に制圧されました。」

「クリプス様は軟禁されています。」

「モアブ軍の本隊はレガシへ入りました。」

女騎士が驚く。

「モアブ軍がそんなに強いなんて話は聞いたことがないぞ。」

「あれのせいです!」

キツネっ娘が指さす方に、ちょうど今、建物の影から巨体が姿を現した。

ゴリラ型軍用獣機!

ゆっくりとナックルウオークで移動する。

向かう先には…鉄蜘蛛!?

なんてこった!

「なんじゃ? ありゃーっ!?」

全員驚愕!! 獣機ゾロゾロの俺たちも大概だけど、インパクトでは負けたね。

周囲の兵士たちがワイヤーとカバーシートを用意している。

今まさに、鉄蜘蛛に乗せられようとしているところ。

まあ、自分で動いて乗っかるんですけどね。

「あれと同じものが3体、レガシに配備されました。」

「なんだとー!?」

「あの1体も追加で送られるようです。」

先生がうなる。

「見過ごすわけにはいかんな。」

「鉄蜘蛛に乗るってことは…長距離を自分で移動は出来ないんだな。」

「あるいはかなり時間がかかるってことですね。」

お兄ちゃんも珍しく表情をこわばらせている。

「鉄蜘蛛だけでも足止めを…あれ使ってみるか。」

「ハイエート、お前の射程ぎりぎりまで下がろう。」

「兵士たちが出てくると厄介だ。」

「仕掛けて足止め、そのまま我々はレガシに戻る。」

関所から距離をとる。

「あんなもの相手に、どうするんじゃ?」

さすがのメガドーラさんも思案顔。

「この距離からじゃ遅延拘束タイムラプスは使えんぞよ。」

「鉄蜘蛛には弓は通じませんよ。」

「トンちゃんボディでは打つ手がありません。」

「えーい、うるさい! ちょっと待て!」

先生、魔法石の護符に魔法陣を書き始めた。

「ええ? フリーハンドで魔法陣を?」

キツネっ娘がびっくりしてる。

え? 普通は出来ないもんなの?

先生、当たり前のようにやってるから…

「これ、同じの作って。」

一つ、見本を渡すと、メガドーラさんも協力して作り出す。

もちろんフリーハンド。

常識の外側にいるんだね、この人たち。

あっという間に何枚も出来上がった護符。

矢にセットしてハイエートに渡す。

「これで鉄蜘蛛の脚の関節を狙え。片側3本ダメにすれば走れなくなるだろ。」


常識の外にいる人はここにもいた。

お兄ちゃんエルフが弓を構える。

「え? 何?何? 弓の届く距離じゃないんですけど?」

キツネっ娘、まあ見てなって。


突然、飛んできた矢に驚くモアブ兵たち。

鉄蜘蛛の周りで作業中の兵士が矢が飛んで来た方向を指さす。

次々に矢が飛来。

常識をはるかに超えた射程外から矢が飛んできた。

ごく一部の兵士、弓の心得がある者は絶句した。

あの距離から届く? しかも当てる? 脚、一本ずつ?

だが、ほとんどの兵士はせせら笑った。

鋼鉄の塊である鉄蜘蛛に対して、弓矢による攻撃はあまりに非力。

関節部に命中した矢は乾いた音を立てて跳ね返った。

なんとも滑稽な攻撃だと。

だが、その笑いはすぐに凍り付いた。

当たった場所に魔法陣が発生する。

消磁魔法マグセーフ

磁力を失ったモーターは駆動力も制動力も失ってへなへなと崩れ落ちた。

鉄蜘蛛が大きくかしぐ。

転げ落ちる軍用獣機。

巨大な機体の転落に巻き込まれて何人もの兵士が悲鳴を上げる。


「あ、間違えた。」

さらに矢を放ったハイエートがすっとぼけた声を上げた。

え? 何を?

「違う矢を射てしまいました。」

「違う矢?」

「ほら、大きな骸骨塔を壊すの用にもらったやつ。」

ああ、炎縛鎖ファイヤワイヤの改良型とか言ってたヤツ。

回収してなかったのかよ。

当然、その矢も命中。お兄ちゃんの弓にハズレ無し。

鉄蜘蛛の脚にぶつかった矢から、炎が噴き出した! 炎縛鎖!

おおう! その名の通り、まとわりつくように鉄蜘蛛と軍用獣機を覆いつくす。

だが、ゴリラ獣機に炎は通用しない。

両腕を振り回して炎を振り払う……振り払えないな?

次々と吹き出す火炎。衰えることを知らない。

「あれ? 思ったより…長く続くな…」

先生がつぶやく。

「おかしいな。そんなに効率がいいはずはないんだが…」

「魔法石の護符を使ったんじゃろ? 石が持ってる魔力は計算に入れたのかの?」

「あ、そか!」

まだ、消えない。

超高温。装甲が白熱化してるぞ。

やらかしちゃった? 先生。

「暴れてる、もがいてるよ、あの獣機。」

とデイエート。

「あ、いかん。建物の方へ行くぞえ…」

とメガドーラさん。

「あああ、関所が…」

と女騎士。

「ぼ、ぼ、ぼくのせいですか?」

とハイエート。

「ちょっ、カフェに火があああー」

とキツネっ娘。

軍用獣機は関所の飲食店棟に倒れ込むようにして動きを止めた。

耐熱限界を超えたらしい。

軍用獣機を、足止めどころか完全破壊。

うーん、さすが先生ですよ。

でも軍服カフェ、物理的に炎上!!

SNSがあったら原因である先生も炎上する案件。

飛び出してきた兵士が必死の消火作業。

「うああああー!」

俺たちも、あわてて消火作業に参加!


「お礼を言うべき…なんでしょうか…ここは…」

何とか鎮火した現場で、クリプス騎士が複雑な表情。

どさくさ紛れにキツネっ娘が助け出した。

ゴリラ獣機を失い、鉄蜘蛛は行動不能。人質も失ったモアブ兵。

たちまち、王軍兵士に制圧された。

「モアブ兵から情報を引き出したらレガシにお伝えしますので…」


丸焼け、軍服カフェ。

何とか宿泊棟、関所本館への延焼はまぬがれた。

人的被害が無かった(モアブ兵は除く)のは不幸中の幸い。

ここは店長騎士に任せて、俺たちはレガシに向かう。



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