魔王復活!
「ああ、びっくりした!」
死んだと思った組合長、そう言っていきなり起きた!
「うわあああーー!」
「ふひいいーーー!」
「うぶあー!!」
「えええー!?」
悲鳴が上がる、びっくりしたのはこっちですよ!
ええ? 生きて…る?
「そ、そんな完全に死んでた……」
イーディさんも愕然!
心臓、刺されましたよね? って言うか、まだ刺さってますけど!
柄に手首がくっついてますよね、モバリックの。
「ひどいヤツだな、いきなり刺すんだもの。」
ずるずる、剣を抜いた、自分で。
ちょっ! どういう事なんです?
「いやいや、久しぶりに死にましたよ。えーと200年ぶりくらい?」
おやっさんは平然としてる。
「200年前、って言うと、ナビンか?」
「彼とプロフィルくん…ですね。二、三回殺されましたからねえ。」
硬直してるみんなに向かって、おやっさん。
「心配いらん、組合長はヴァンパイアだから、」
「不死身だ。」
えええええーーー!
知らなかったよ! そんなこと。
キラすけの目がきらーん!
「ヴァンパイア! カッコイイ!」
ああ、好きそうだよね、おまえ。そーゆーの。
「人呼んで、闇の大公爵…だっけ?」
ジジイ導師がちゃかす。
「やめてくださいな、エアボウド導師。その二つ名、若気の至りですから。」
キラすけ驚愕!
「闇の大公爵って…ヴァンパイアロード?」
「魔界の黒き覇者!? 深淵なる大迷宮の征服王!?」
大声で中二病っぽい異名を連呼!
「『秩序を騙る混沌を廃し、混沌という名の秩序を打ち立てる為、我は降臨せり!!』」
決め台詞まで完全再現! ポーズ付き!!
組合長、煩悶! 羞恥に身をよじる! 中二病黒歴史暴露!
「や、やめて、キララさん! そ、それ言わないで!」
「ななな、ナビン勇王と闘ったと言う…ままま、魔王!!」
呆然とするタモン兄貴。
あんまびっくりしたんで、女騎士みたいになってるぞ。
マジ! 魔王!? とんでもないぞ、組合長!!
苦笑い、顔の前で手を振る組合長。
「いやいや、ナビン王に迷宮の魔力核を破壊されたんで…」
「すっかり魔力、無くなっちゃったから。」
「大迷宮!!」
大興奮! 意気込むキラすけ!
「深淵なる大迷宮【冥刻界の女王神殿】!」
「魔王城同様、ナビン王以下七英雄に封印された。」
「その場所は厳重に秘匿されたと言われているのだ!!」
詳しいな、お前。趣味丸出し。
そして組合長にダメージ。心臓刺されたより深刻。
青春の甘酸っぱ苦塩辛い、思い出。
認めたくない若さゆえの過ち!
「い、いや、当時はね、そーゆー風な濃い名付け、流行ってたんだよ。普通に…」
言い訳でごまかそうとする。
「え? 秘匿? そうなの?」
おやっさんを振り返る組合長。自分ちのことでしょ。
「ああ、そんな事、言っとったような、ブレビーが…」
「なんせ昔のことだから…どうだったかな?」
おやっさんもけっこういいかげんだ。
「知ってるの? 大迷宮の場所!?」
キラすけ、アドレナリン全開! 泡吹かんばかりの前のめり!!
そんなにすごい場所なの? 世界遺産?
組合長とおやっさんがハモった。
「「ここ。」」
指差したのは下。
あー、あったね。そーいえばこの下、いろいろ。
「いやいや、教えちゃいかんですよ、おやっさん。」
「秘匿してるんだから、いちおう。」
エアボウド導師があわてる。
「まさか、組合長が元魔王……」
放心状態のタモン兄貴。
「おやっさんと大導師は知ってたんですね。」
「まあ、当事者だからな…」
「エルディー導師は知ってるんですか?」
「さあて、どうだったかな?」
おおらかだわ、この人たち。
ただ…その他の面々、兄貴とキラすけ以外は反応薄い。
魔王とか……まったく、ぴんと来てない感じ。
特に若いもんが冷えた反応。
マビカ
「ふ、ふーん…」
ベータ君
「まあ、生きててなによりです。」
ディスカム
「教科書で読んだことあります。」
ちょっと…世代が違うっていうか……。
200年前の話じゃねえ。
歴史マニアとかじゃないとねえ、興味ないよねえ。
まあ、そんなこんなで故障した俺の身体をどうしようかってことになって。
とりあえず、箱にいれて荷車に乗せて遺跡まで運ぼうってことに。
組合長のお店にあった箱…まあ、棺桶なわけですが。
おやっさん、組合長は色々とやることがある。
イーディさんも救護院に戻る。
モバリックの野郎が色々ぶち壊してくれたせいで、けが人も出てるからね。
アイワさんも救護院に。エアボウド導師も手伝いよろしく。
あー、お屋敷…放置しちゃったんで丸焼けだよ。とほほ。
ダットさんも工房へ。
ディスカムも工房へ戻ろうとしたけど、さすがにこれは止められた。
もう2、3日、入院だってイーディさんが。
まだ顔とか腫れてるしな。
お前が一番ひどい目に遭ったな、ディスカム。
マビカ、キラすけお前ら付いててやれよ。
どうせ、行くとこないだろ。
自分ちはいろいろ切っちゃたしな。
と言うわけで、オレ(タマちゃん)、ベータ君、兄貴。
棺桶(俺入り)を載せた荷車を引っ張って北遺跡に向かう。
引っ張ってくれるのはケルベロ2号、ベルちゃん。
力持ち。力の2号!
相棒の技の1号、ケロちゃんを失って、ちょっとさびしそう。
「アイザックさん…本当に大丈夫なんですか?」
ご心配ありがとう、ベータ君。
「大丈夫です、しばらく動かずにいれば治ります。」
たぶんね、ホントに大丈夫なの? ヘルプ君
『修復実行中、順調です』
大丈夫だそうです。
ミネルヴァは一足先に遺跡に行ってイオニアさんたちに報告。
上空を飛行ユニットが通過。北遺跡に帰る。
「モバリックと鉄蜘蛛は片付きました。」
うなずく、兄貴。ベータ君に話しかける。
「聞いてもいいかな?」
「アイザックを呼び戻したの…物品引き寄せ?」
「……そうです。」
「獣機を融かしたのも、ベータ?」
「……はい。」
「アポーツのこと知ってるのは…」
「姉さんと先生だけです。」
「そうか。」
器機召喚がベータ君の固有魔法か。
女騎士も言っていた。貴重な能力だと。
それだけに、軍からは強制徴用されることがあるとも。
「能力者が居れば、前線に苦も無く物資を送れる。」
「兵站…荷駄隊や、その護衛にかかる人数を戦闘に投入できる。」
「永遠に兵糧の尽きない籠城戦だってできる。」
「たった一人で戦況をひっくり返せる能力だ。」
だが、「引き寄せ」だから常に前線にいることになる。
その危険は先生も女騎士も言っていた。
「エルディー導師が隠すわけだな。」
「他の魔法が使えるようになって、自分の身が守れるようになるまで秘密にしろって…」
「その通りだ。以前、軍にいた能力者も結局、暗殺されたんだよ。」
「その人、エルフですか?」
「あ? ああ。…まさか?」
「たぶん、僕と姉さんの父親です。」
「そうだったのか…」
しんみり。もっともベータ君はあっさりしたもの。
「まあ、エルフは子供が生まれた後は、女たちだけで子育てするんで。」
「父親は一緒に暮らさないですし、結婚するわけじゃないんで。」
「僕も父親のことは憶えてませんし…」
「僕と姉さんみたいに兄弟で父親が同じってのは珍しいらしいですよ。」
「子供が出来たら、それっきりっていう女の人が多いですね。」
「え?」
兄貴、固まった。いまさら?
子供出来たらダットさんに追い出される未来?
その可能性に思い至った!
そう、女騎士もそんなこと言ってたよ。
用済み。
青くなって黙り込んじゃった兄貴はほっといて、ベータ君に尋ねる。
「あの連発魔法はどうなっているんですか?」
凄かったよね、あれ。
「いつか、器機召喚を使って戦うときが来たら、」
「どういう手があるかって普段から考えていて…」
「雷神槌に送風魔法を組み合わせて自力で飛ぶ護符をつくったんです。」
護符ミサイル!
「暇なときに作って貯めておいたやつを召喚して飛ばしました。」
しかも無限ミサイルだよ!
「他のも何百枚かずつ貯めてありますけど…」
他のも!!
先生、自分の身が守れるようになるまで……って、もう充分いけるんじゃ?
「引き寄せ魔法にそんな使い方が…?」
気を取り直した兄貴も絶句。人間兵器だ、ベータ君。
北遺跡、エルディー魔道研究所にはお嬢様たちが避難中。
ミネルヴァの先駆けで、外に出て俺たちを待っていた。
そこへ棺桶!運んで来たもんだからみんなびっくり。
「ええ? 誰が死ん…」
死んでないですよ。
タンケイちゃん、あわてて棺桶の蓋を開けた。
「あああ! アイザックさーん!」
いや、死んでないから。いや? そもそも生きてた?
「アイザックさん! 私を助けるために…こんな…」
死んでませんちゅうに!
タマちゃんボディを通じて事情を説明。
「お屋敷が心配です、私は戻って様子を見てきます。」
ビクターさんとアトラックさんは馬車にのってお屋敷へ引き返す。
……丸焼けですけどね。あと、ミネルヴァのビーム銃掃射で死屍累々。
どうすんの? これから。
猫耳メイドーズは残った。
まあ、この二人の実家は無事だから、いつでも帰れるしね。