召喚! そして激闘
「器機召喚!」
獣機の本拠にいたはずの俺本体。
先生と【上位存在】ことジョーイくんに後を託すと……
一瞬の暗転。
『魔力濃度上昇、現在座標を見失いました』
ヘルプ君の警告が頭に響く。
ここは? あれ?
え? ベータ君!?
ここって…葬儀屋…組合長のお店……レガシの街?
って、組合長の胸に突き立てられた剣!
突き立てているのはいけ好かない顔の男。
顔認識システムから情報。
カロツェの隊商に紛れて工房を探ってた奴だ。
「な、何!? コイツ、どこから??」
突然出現した俺に気づいた。そしてがくりと膝をつく組合長。
何してくれとんじゃあーーー! こいつー!!
怒る! 剣を握っている腕を手首からビームで切断!
「ぎゃあああーっ!」
絶叫! 逃げ出した、店の外へ。
逃がすか、こらあー!!
『ピロリーーーン!』
『軍隊の侵攻による協定違反を確認しています』
『協定を破棄しますか?』
『ピロリーーーン!』
『外部接続機体の独立行動による分離記憶があります』
『記憶統合を開始します』
ちょっ? ちょっと待って! 今はそんなこと言ってる場合じゃ…
いかん! クソ野郎逃げちゃうじゃん。
『分離記憶からの情報、クソ野郎はモバリック』
おう、ヘルプ君、今そんなことはいいから。
後を追って表へ飛び出す!
そこにいたのは、鉄蜘蛛!
クソ野郎がハッチから鉄蜘蛛に乗り込む。
そして軍用獣機!
なんじゃあー、こりゃあー!
巨大な軍用獣機が立ちふさがる。
「何じゃあ?」と思ったのが悪かったらしい。
『ピロリーーーン!』
『軍用獣機に関する分離情報を統合します』
タマちゃんからの記憶情報やミネルヴァからの共有記憶が一気に流れ込んで来た。
おかげで、こいつが敵であることや、危険であることが認識できたが…
魔法講義の内容とかが含まれているのでやたら容量が大きい!
処理が追い付かない!
今はそれどころじゃないのに!
急ぎの仕事でPCを立ち上げたら、アップデートが始まってなかなか起動しない。
そんな感じ!
ゴリラ獣機が腕を振り上げる! やばい!
横殴りに振りぬいた。
とっさに、被甲身を発動!
もの凄い衝撃!
マンガやアニメによく見られる表現がある。
小柄な戦士がはるかに体格で勝る敵の一撃を片腕や指一本で受け止める。
力量の差を表すために使われるシーン。
でも、物理的には有り得ない、無理。
大きくて重いものと小さくて軽いものがぶつかったら、弾き飛ばされるのは軽いほう。
パワーとか、技量とかは関係ない。
吹っ飛ばされた! お隣の建物に突っ込む!
視覚情報にノイズが走る! こんなのは初めてだ。
痛い! 痛み? これは危険信号、警告か!?
崩れた建物の材木を押しのけて体を起こす。
『機体破損を確認』
『ビームガンが使用不能』
マジか! 最大の武器が使えない。
波長調整すれば耐光線装甲も貫けたかもしれないのに。
なら! これはどうだ!
拳骨シュート!
射出した前腕がゴリ獣機の顔面に…弾かれた!
装甲が犬獣機と全然違う!
考えてみれば、犬獣機は警備用。
言ってみれば白バイ。
そしてゴリ獣機は軍用、戦車だ。
白バイに勝ったからって戦車に勝てると思うのは馬鹿。
そして、それが今の俺。
巨大な腕が降ってきた。
かわして…運動機能に障害が? 足が思った通りに動かない!
被甲身を発動して受け止める。
バキン! と下半身から音とも衝撃とも知れない感触が伝わってきた。
やられ、た! 衝撃! 360度視界の一部が欠ける。
片膝をついた状態。動けない。
「脅かしやがって! どうだ、お前らの頼みの魔道機も敵ではないわ!」
「俺の手を…くそったれ! 工房以外は更地にしてやるぞ!!」
モバリックの声、鉄蜘蛛の拡声器を使ってるのか?
『自己修復のため行動の休止をお勧めします』
ヘルプ君、そう言われてもね。そういうわけにはいかないよね。
流れ込んで来たタマちゃんの記憶。
衝撃と破損のせいか、すごくランダムに情報が提示される。
いやこれ、いわゆるひとつの走馬灯? やっべえー!!
え? 何これ? 誰? 低学年メイド? アイリンクちゃん?
アトラックさんの娘さん? 何でメイド服?
ミニイたんも! 可愛いすぐる!!
おのれタマちゃん、こんないいものリアルタイムで見てたのか。
羨まし過ぎる!
動け! 俺! 立て、魔道機体!
あいつをぶっ倒さなきゃ、このカワイ子ちゃんたちはどうなっちゃうの?
「守護」魔道機体なんだろ!
運動機能の破損部をチェック。伝達系統の異常。
バイパス回線を使用、稼働可能機関のバランスを調整。
かろうじて、よろよろと立ち上がる。
アラームが鳴りっぱなし。
「ほほう、まだ動けたか。」
「だが、この一撃で終わりだ! 地の果てまで吹っ飛ばしてやるぞ!」
『緊急修復中』
くそ、間に合わないか!
『ピロリーーーン!』
おう?
『重力魔法の解析が完了しました』
『重力魔法が使用可能です』
重力魔法? イオニアさんの?
お屋敷脱出でお嬢様が獣機の攻撃を防いだシーンが再生される。
そんな使い方があったのか!
いや? 俺、お嬢様から攻撃受けたことなんかないですけど?
受けてみたい! ぜひ。
いやいや、そうじゃなくて。
そうか! キャンプの時、滝から落っこちた。
あれか!?
「重力魔法!」
発動! 横殴りの獣機の腕を受け止める!
実際には被甲身で受け止めてるんだけど、はた目には片手で受け止めたように見える。
このシーン! かっこいい、俺!
戸惑ったように一歩後退する獣機。
演出的にジャストなタイミングで解析が完了したよね。
タマちゃんから魔法理論の講義内容を受け取ったから。
キャンプの時から進めていた解析が新たな知見を得て一気に進展した。
お嬢様が使ってるシーンも参考になった。
理論的にはそういう事。
でも……
俺の危機にイオニアさんが力を貸してくれたんだ!
そんな気がする。そう思いたい!
単なる思い込み? それでもいいじゃん!
くらえ! 拳骨シュート!
実は今まで、全力でシュートしたことはない。
拳自体が破損してしまうからだ。
ナビ君やヘルプ君から何度か警告された。
だが、今は違う。
握り込んだのは被甲身のマジックスティック点棒型護符。
強化した拳骨シュートを全力でぶち込む!
バンパー強化拳骨シュート!!
炸裂! ゴリラ獣機の顎に命中、頭部がのけぞるように吹っ飛んだ!
そのまま上昇、大きく弧を描いて上空へ。
ぐるりと輪を描いて下降、パワーファイヤ噴射でさらに加速!
ジェットコースターのループのように空中に軌跡が描かれる。
大きなリング状、車輪。
大車輪拳骨シュート!!
胸板をぶち抜く!! 装甲がばらばらに吹っ飛ぶ!
胸から腹にかけて粉砕、腕も肩も外れて明後日の方へ飛ばされた。
残ったのは下半身だけ。
バランスを取ろうとしてよろよろと2、3歩進んだがパタリと倒れる。
「ななな、馬鹿なあー!」
おいおい、スピーカー切れよ、モバリックさん。
他の兵士の悲鳴も聞こえてるぞ。
そうだろうとも。
モアブ家がやりたい放題始めたのは軍用獣機の圧倒的武力があったから。
その、獣機が破壊されちゃった。
「く、くそ! もう一機にやらせろ! 奴はボロボロだ!」
鉄蜘蛛内の様子、スピーカーで垂れ流し。
だが、言ってることは事実。
ヤバい、もう1体のゴリラ獣機を相手に出来るか?
『行動停止してください』
『破損状況が深刻です』
ヘルプ君、そんなこと言われても…
こちらに向かってくる、獣機。まずい!
足が動かない!
もう少し、もう少し時間があれば、アレが間に合うのに!
その時、俺と獣機の間にベータ君が飛び込んで来た。
うわああー危ないよ、ベータ君!
右手を獣機に向けて突き出す。
「器機召喚!」
ベータ君の手の先から護符が飛び出した!
隠し持っていたの?
いつものディスク型じゃない。
やや長めのカード型、ちょっと小ぶり。
投げる動作とかしてないのにすごいスピードで飛んでったぞ?
「雷神槌!」
電撃魔法! だが、軍用獣機には通用しない。
ちょっぴり焦げ目がついた程度。
「ははは! なんだそりゃ! 健気さは褒めてやるぞ。」
モバリックがせせら笑う。
「器機召喚、雷神槌!」
続けて護符が放たれる!
連発! 2枚目、3枚目、4枚目! え?
ちょ、ちょっとベータ君? どこに持ってたの?
「器機召喚、雷神槌!器機召喚、雷神槌!器機召喚、雷神槌!」
5枚、6枚、10枚! ええ? えええ?
前に突き出していた腕を左右に広げる。
「器機召喚!」
両方の手のひらの前に6枚の護符が出現!
リボルバー拳銃の弾倉のように回転しながら次々に打ち出される!
「器機召喚、雷神槌!雷神槌!雷神槌!雷神槌!雷神槌!雷神槌!器機召喚、雷神槌!雷神槌!雷神槌!雷神槌!雷神槌!器機召喚、雷神槌!雷神槌!雷神槌!雷神槌!雷神槌!雷神槌!器機召喚、雷神槌!雷神槌!雷神槌!雷神槌!雷神槌!雷神槌!器機召喚、雷神槌!雷神槌!雷神槌!雷神槌!雷神槌!雷神槌!器機召喚、雷神槌!雷神槌!……」
うわあああああーーーー!
凄まじい! 電撃の嵐。雷光で何も見えない!
ゴリ獣機も白光に包まれて形すらもわからない!
雷神槌連撃射!
「ベータ! もういい!」
イーディさん? いつの間に。
お姉さんの声に、我に返ったベータ君。
連撃射停止、構えを解いた。
そこに立っていたのは…もう、獣機じゃないね。
ぶすぶすと煙を上げる金属の塊。
すべての装甲板も関節も融けて溶接されたように固まっている。
恐るべき、物量攻撃!
「ひいいぃあああぁあえぇーーー!」
「に、逃げろ、逃げるんだぁー」
奇声を上げながら逃走を図る、新型鉄蜘蛛。
「逃がすかあー!」
「ベータさん、もう大丈夫ですよ。」
興奮気味の少年エルフ魔道士に声をかける。
「助かりました。あとは、あれに任せてください。」
「え?」
上空を指さす。
「あ!」
逃走を図ったモバリックと新型鉄蜘蛛。
あちこちぶつかって街並みを壊しながら一目散に逃亡。
大街道関所に戻ろうとしたらしい。
飛行ユニットが追い付いた。
タマちゃん状態のオレがタンケイちゃんにお願いしておいたこと。
爆装ユニットの装着。ミサイル装備。
俺魔道機本体が居なければ操作できないユニットだったけどね。
帰還とともに起動していたが、ドーム開口に時間がかかって出撃が遅れた。
それに、街中では使えないよ、これ。
レガシの街を出たところを見計らって、周囲の安全を確認。
ロックオン! ミサイル発射!
さしもの新型鉄蜘蛛も一撃で破壊。爆炎とともに吹っ飛んだ。
破壊力強すぎ。うーん、街中じゃ使えないわ、これ。
片膝をついた、俺本体。動けない。
『自己修復に専念します』
『当分の間、行動不能』
ベータ君が駆け寄る。
「アイザックさん!」
俺本体はもう返事すら出来ない。
焦るベータ君。
おう、視覚情報も停止した。
タマちゃん頼むよ。ドローンのスピーカーを通じて声を出す。
「大丈夫です、ベータさん。自己修理できますから。」
「しばらく動けないだけです。」
「え、タマちゃん…?」
「いまは、完全にアイザックですよ。」
「タマちゃんを通じて話をしています。」
「そ、そうなんですか?」
ややこしい! このシステム。
あ、そうだ。
「ただいま帰りました。」
「お、お帰りなさい。」
泣かないで、ベータ君。
「組合長が…僕がもう少し早く決断していたら…」
ベータ君、イーディさんと一緒にタマちゃんでお店に戻る。
組合長は床に寝かせられていた。
モバリックの剣がまだ刺さったまま
「姉さん…」
ベータ君の問いかけに、イーディさんが首を振る。
「心臓を一突き、死んでしまっては回復も…」
お店の女の子が、嗚咽を上げる。
傍らにはアイワさんの姿が。
お屋敷へ向かったが、途中で鉄蜘蛛を見て引き返してきたのだ。
「ワタシがここに残っていれば…」
唇をかむ。
おずおずと出てきたのは、マビキラ、ディスカム。
救出後、軍用獣機が近づいたときに救護院に隠れていた。
事態が収まったのを見て出て来たのか。
組合長を見て、息をのむ。
「く、組合長!」
「お、大家!」
「お、お、大家さん、死んじゃったの?」
そこへ、鉄蜘蛛の後を追ってきたおやっさん、兄貴たちが駆けこんで来た。
エアボウド導師もいる。
あれ、ジジイはイオニアさんたちと一緒だったんじゃ?
馬車に置いてかれたらしい。
「ど、どうなっておるんだ?」
「外のありゃあ、一体? アイザックがいるのは何でじゃ?」
「声かけたけど、動かないぞ!」
「鉄蜘蛛はどこいった!?」
床に寝せられた組合長を見て凍り付いた、兄貴、ダットさん。
「く、組合長!」
「そ、そんな…」
うろたえる。
「ありゃ? やられたのか?」
その言い方、デリカシー無いですよ、おやっさん。
「大丈夫? 組合長?」
ええ? ジジイ導師? 何聞いてんの? だから死んでるって。
認知症の初期症状出てる?
声かけたって、答えないよ。
「ああ、びっくりした!」
いきなり、組合長が上半身を起こした!