表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

120/371

マビキラ救出



工房へ入り込んだ俺はおやっさんの事務所へ。

工房を囲んでいる塀の一部が取り壊されている。

鉄蜘蛛で軍用獣機を搬入するのに広げたんだな。

軍用獣機は2体。1体は工房の入り口、受付前に。

もう1体は工房の中庭に配置されている。

何をするでもない職人たちが周りをうろうろ。

ゴリラ獣機の周りにいる何人かの兵士たちが近づかないように追い払ってる。

興味津々だね、分解大好き職人衆。


中庭に面した事務所の入り口には見張りの兵士2名。

事務所の壁に取り付くと入口の上側をさささっと這って屋内に。

居た、おやっさん不機嫌そうな表情で腕組みして座ってる。

天井からワイヤーを使ってぶら下がるとおやっさんの耳元へ。

「おやっさん、私です。」

「おう、タマちゃん…アイザック?」

手短に状況を説明。

「なるほど、人質は何とかなるか…」

「そうは言いましても…あの軍用獣機がある限り、街の住人全員が人質みたいなものですから…」

「あれ、どうやって動かしておるんだ?」

え?

「自分で考えて動いとるようには見えんし…」

「もちろん人が乗ってるふうでもない。」

「どうやって命令しとるんだ?」

そうだ、モバリックは直接命令してなかった。

周りにいた兵士に合図してた。

兵士が何らかの方法でゴリラ獣機を操作しているのか?

操縦器みたいなものが有るんだろうか?

良いも悪いもリモコンしだい?

「外にいる職人共にに聞けば、もうわかっとるかもしれんな。」

あー、じっくり観察してたからね。

「何にせよ、こっちも人間の兵士は何とでもなる。」

あれ? でも武器とか取り上げられてるんじゃ?

「ああ、でも一つだけ残っとるぞ。一番すごいヤツが。」

え? ああー、アレかあ!


「おやっさんの許可が無きゃだめなんだよ!」

おっと、事務所に誰かやって来た。

職人衆の一人だ。

「軍隊さんだって決まりが有んだろ? 工房もそう決まってるんだ!」

そう言われちゃうと兵士も弱い。

面会を許可された職人がずかずかと入ってきた。

「おやっさん、炉の火力をぎりぎりまで落とすんで許可を下さい。」

「どうした?」

「石炭が足りねえんでさ。」

でかい声だな。

「んん?」

「兵隊さんたちがあの鉄蜘蛛に積んで持ってっちまったんでさあ。」

「火力触媒に石炭、油、クズ粉炭までもって行きやした。」

急に声をひそめて小声でささやく。

「あいつら、どこかに火をつけるつもりですぜ。」

おやっさんがわざと見張りの兵士に聞こえるように答える。

「それじゃ仕方ないな、火力落としても火種が消えないように気ぃつけろよ。」

「わかりやした。」

職人衆が出ていく。

「アイザック…まずいことになった、時間ないぞ。」

やばい! 奴ら、カロツェ家のお屋敷に火をかけるつもりだ!

イオニアさんもエアボウド導師も焼き殺しちゃうつもりか!


あわてて、事務所から飛び立つ。

見張りの兵士はでっかい虫にびっくり!

『ミネルヴァ! 聞こえる? タモンさんに知らせて。お屋敷へ行って警告して!』

『了解、すぐ向かいます。』

こうなれば人質奪還を強行するしかないか。救護院へトンボ返り。

まあ、トンボなのはトンちゃんの方なんですけど。

いや、先に組合長に相談しないと…

葬儀屋へ飛び込む。

軍用獣機がいる以上、街に危険が及ぶ可能性が高い。

「ここに至っては是非もないですな。」

うなる組合長。店の女の子に何か指示した。

『アイザック、俺だ。』

おっとその声、タモン兄貴。ミネルヴァ経由通信か。

『話は聞いた。だが、奴らが火を掛けるとしたら夜だ。』

おう! そうか、そうだよな。

確実にやるなら寝静まったころ火をつけるはずだ。

人質救出と、お屋敷脱出。

タイミングを合わせてやりたいところだが…

「それなら大丈夫、これがあるよ。」

組合長が上を指さす。

あー、それあったね。


それからが忙しかった。

工房、救護院、お屋敷を行ったり来たり。

タマちゃんボディはどこへでも侵入できるし、ミネルヴァと通信も出来る。

情報伝達に関しては、いちいち伝令が走らなくてはならないモアブ軍より有利。

そして、その存在は敵に知られていない。

夜までに手筈を整える。


救護院でのディスカム救出はアイワさんに。

見張りの兵士たちは彼女のこと、婦長さんだと思ってる。

俺もそうだったけどね。

鬼人剣士としての実力は知らない。

そしてたぶん、隠れ巨乳だってことも知らない。

まあ、アイワさんが居れば兵士の5人や10人は誤差の範囲だからね。

あれ、でも武器は?

「武器はアイツらが待ってるでしょ。」

ああ、奪えばいいですもんね。

日本刀はどうしたの?

「あれは隠してある。大事な奴だから。」

ああ、そもそも使うつもりがないのね、雑魚相手に。


お屋敷脱出はビクターさん。

応援に兄貴、ミネルヴァとケルベロ2号。

工房ではおやっさんと職人衆。

軍用獣機についてはまだ対応策は見つからないけどやるしかない。

とにかく、獣機の周りにいる兵士を片付ける方針で。

操縦者なり命令者なりを排除出来る可能性に賭ける。


あとはマビキラの救出だが、これは俺が担当。

でもタマちゃんボディには戦闘力がないしなあ。

「僕が行きます。」

ベータ君? でも護符は取り上げられちゃったんじゃ?

「それは何とでもなります。」

なんとでも?

「仕方ないわね。人命が掛かってるし。」

何なんです? イーディさん?


そして、夜。

各員は予定の場所に待機した。

奴らがお屋敷に火を放つと同時に仕掛ける。

イーディさん、ベータ君は今現在、救護院の空き病室で寝泊まりしている。

まあ、いちおう軍の監視下にある。

「タマちゃん…アイザックさん…」

ん? 何、ベータ君?

「アイザックさん本体に帰ってきてもらった方がいいんでしょうか?」

ええ? いや、そんなこと言っても連絡する方法がないし。

それに今から帰ってきても何日かかるかわかんないよ。

「それに、向うは向こうでかなり危険なことをやってるはずですし…」

「そうですよね…」

何だろう? 妙に歯切れが悪いなベータ君。

「救護院の警備が片付いたら、キララさんたちのところへ向かってください。」

「まずは彼女たち独力で脱出できないかやってみます。」

そろそろ頃合いだ。

救護院を出て、組合長のところへ。

夕方頃から救護院の警備が減ってる。

人手をお屋敷に回したのか。

工房の方も手薄になってるかもしれない。

正直、お屋敷の兵士が増えるのはちょっと想定外。


普通なら人々が寝静まった頃、オレはマビキラが閉じ込められている家へ侵入する。

二人の状態を確認しなくては。

組合長|(大家さん)から聞いた侵入経路。

煙突から暖炉へ。

ここか?

いたいた。二人とも寝巻き姿。ベッドでゴロゴロしてる。

まだ起きてたのかよ。子供は早く寝ろ。

いや、今は起きてもらわないと困りますがね。

「お腹減ったね、キララちゃん。」

「宿屋から取り寄せておるらしいから味はまあまあだが…」

「量が足りん!」

「あんな盛りでは我の魅惑のボディが減ってしまう…」

どこに魅惑が?

「せっかくおっぱい膨らんだのに…」

「我も、我も膨らんだ!」

ウソつくな、キラすけ。

今、メモリーと照合したけど有意差はない。誤差の範囲だぞ。

うーん、緊迫感がないな、お前ら。

「キララさん、マビカさん。」

「え? その声…アイザック? どこ?」

マビカがきょろきょろ。

ぶーんと飛んで蜘蛛モードで着地。

「タマちゃん?」

「やっぱり中のヒトがアイザックだったんだな。」

キラすけ、今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ。

「脱出しますよ。」

「護符とか全部取り上げられちゃったよ。」

「我の魔恒星インフェルノスターはレジストされてしまった。」

ウソつけ、鎧の上からじゃ効かなかっただけだろ。

「それに、これ…」

ええー? 足枷?

木の板に穴をあけた感じの足枷。

一旦切り離して金具でくっつけた作り。

片足がけっこう太いロープでベッドにつながれている。…厳重だな。

えーっと、カッター…ってタマちゃんボディにはついてなかった!

「外からも、鍵かかってるー」

「何のつもりか、でっかいカンヌキ棒を取り付けおった。」

そりゃ、お前たちが捕まる時、暴れたからだろ。

固有魔法だけで何とかするしかないか。

前から考えていた水精竜ウオーターシュートの応用。

俺、アイザック本体は試して成功してる。

マビカは出来るかな?

あんま、教えたくなかったんだけど、危ないから。

「切りましょう。」

「ええー? 道具なんかないよ。」

「マビカさんの水魔法、太さ調節できましたよね。」

「出来るけど?」

「じゃあ、細くしてください。」

「どのくらい?」

「髪の毛みたいに細く。」

「ええ? そんなの水貯まらないよ?」

チョロチョロ水を出すとだんだん細くしていく。

「その細さで目いっぱい強く出してみてください。」

「えーっと、こう?」

「それをロープに当てて切る感じで! もっと強く!」

マビカの水流は最初でさえ自分自身が振り回されるほどの強さ。

さらに、先生の特訓とドーピングで爆上がり。

それを超極細ノズルから高圧噴射。

ウオータージェットカッター!

いい感じだ。

うおう! 切れた! すごいぞマビカ。

「ええ? ロープ切れた? 水なのに?」

「キララさんのも切ってください。」

「足に当てないように…切れちゃいますからね。」

「ふひっ!」

よし。

その時、大音響が!

拡声魔法、町内放送。

「ぴんぽんぱんぽーーん、ざざざ」

「こちらは町内組合です、ぴー」

「ただいま、カロツェ家お屋敷で住宅火災が発生しました!」

「ぶつぶつ、ぴー、消防団はただちに出動してください。」

合図だ!

火の見櫓にエルフの戦士が待機。遠目の良さでお屋敷を監視。

放火の火を確認すると同時に閃光輝ライトニングで組合長に合図。

町内放送が救出作戦開始の合図だ。

救護院と同時に工房でも職人衆が蜂起しているはず。


「今度はドアのすき間からカンヌキを切断しましょう!」

「ロープより太いですから、思いっきり強く…」

「わ、わかった。がんばる!」

ドアが切れた。

あ、ちょっと待てこら! まだ早い早い!

「ええええええ、おおおお? しゅわわわわ!」

作用、反作用の法則。強力水流の反動。

ふらつくマビカ、いや、止めなさい! 水、止めなさい!

あ、こら、振り回すな! 危ない!

切れる! 切れる!

切断され崩れ落ちるドア、と壁。

危ない! 危ないいいーーぃ!!


「あああ、死ぬとこだった。」

キラすけ、かろうじて無事。

「ご、ごめん…」

あれ? モアブ兵の見張りがいたはずだけど…

切れた壁の後ろ見たら…切れてた。すっぱり!

うああああー! モザイク!モザイクかけてーって感じに。

「マビカさん、キララさん無事ですか?」

救護院の兵士を片付けたアイワさんとベータ君が駆けつけてくれた。

惨状にあぜんとする。

マビカ本人に見えないように、切れた兵士をそっとドアの板で隠すアイワさん。

うん、まあ、見せない方がいいかな。

これ、絶対大家さん(組合長)に怒られる。


アイワさんが足枷を破壊。

マビキラとともに救護院に駆けつける。

ディスカム、無事だったか。

服はぼろぼろ、あちこち血がついてる。

「ディスカムー!」

マビキラが抱きついた!

よかった。

「大丈夫? ケガしてない?」

「無事か? 仇は取ったぞ! マビカが。」

うん、キラすけ。お前は何もしてないな。

もっとも、いざとなったら闇の堕界(ダークワールド)で兵士を無力化してもらうつもりだったんだが。

その前にマビカが切っちゃったからね。

「僕は大丈夫、イーディさんに治療してもらったから。」

お姉さんの怒りを見るにかなり痛めつけられていたようだ。

「こっちの治療した奴はだいぶ無駄になっちゃったけどね。」

イーディさんの言葉に頭をかくアイワさん。

ああ、モアブ軍の兵士のことね。

まあ、仕方ない。

何人かは投降したのでディスカムと入れ替わりで牢屋行き。

うん、何人か、ね。かなり少人数になっちゃった。


おっと、工房の方から職人が走ってきた。

全力疾走! おう、あっし君。使いっ走り人材。

「工房の兵士は片付いたでやんす!」

「ただ、例のデカブツ獣機は2体とも合図の前にお屋敷の方へ行っちまったんでやす。」

「おやっさんとダットさんが【穴あけ器】を持って向かいやした!」

ええ? しまった!

じゃあ、軍用獣機は3体ともお屋敷に?

これは、まずい!

アイワさんが駆けだす!

いつの間にかどこから出したのか、日本刀を持っている!

「箱でやんす! タマちゃん! あの獣機、兵士が持ってる【箱】で動いてるでやす!」

操縦器か! それなら兵士を倒せば止められる!

オレもお屋敷へ! 飛行モード!

ミネルヴァ、どうなってる?

圧縮転送! データが送られてきた。

お屋敷での状況映像記録がミネルヴァから転送されてきたぞ!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ