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レジスタンス


レガシの街にモアブ伯の軍隊が侵攻。

カロツェ家のお屋敷は制圧され、軍の監視下に置かれた。

ミネルヴァから情報が送られてくる。

4体の軍用獣機の内レガシに送られたのは3体。

大街道関所には1体が残された。

1体はお屋敷。2体が工房に配置。

タマちゃん状態のオレはお屋敷で軍の動向を探っていた。


関所側から追加で兵士がやってくる。

レガシの街全体を監視するとなるとかなりの人数が必要になる。

そのわりに、兵士たちの行動は抑制的だ。

至上主義者の集まりであることを考えれば、驚くべきことと言っていい。

もっとも身体能力は一般的に獣人の方が高い。

魔力はエルフ、ドワーフの方が高い|(と思われている)。

しかもこの世界の常として普通の住民もナイフや剣くらいは持ってる。

魔法を使えるものも多い。

傭兵、冒険者はガチ武装してるしね。

迂闊にもめると兵士の方がやられちゃう恐れが大きい。

迂闊なことが出来る状況ではない。


言っては何だが、このモアブ軍…

詰めが甘いっていうか、考えが足らないっていうか…

軍用獣機の圧倒的な威力におんぶに抱っこ。

人間兵士の方はひどく練度が低い感じがする。


兵士たちの中にはかなりの数の魔道士が含まれている。

魔法戦闘が当たり前のこの世界では当然だろう。

彼らの会話を聞くにマビキラ確保の際にかなりの怪我人が出たらしい。

何やってんだろうね。

ディスカムは工房の人質を気遣っておとなしく投降した。

ところがマビカ、キラすけにはそういった細やかな理屈は通用しなかった。

前後の見境なく、先生からもらった護符で大暴れ!

一応、貴族の娘なんで兵士たちも扱いに困った。

手加減してもらってるのに遠慮なし。

なんてひどいヤツだ、マビキラ。

ディスカム本人を連れて行って人質として見せつける事でやっと鎮圧。

なかなかやるじゃん、でももう少し考えような、物事。

モアブ兵士は治癒術の人手が足らず、救護院のお世話になることに。


お屋敷に報告が上がるたびモバリック卿は怒鳴りつけたり、事細かに指示を出したり。

ちょっと気の毒になるくらい忙しい。

そこへ生臭賢者エアボウド大導師が出頭してきた。

お屋敷にいた兵士、特に魔道士はパニックに。

王立学園前学長。七英雄の一人。大賢者。

実戦経験豊富な王国一の魔道士だ。

戦ったら勝てる気がしない。

「反逆者が出頭したというのに何をあわてておるんだ?」

開き直った大導師の態度に、モバリックも渋い顔。

「イオニア様に危害を加えるつもりなら、ワシが許さんからな。」

「あの、でかいヤツには敵わぬまでも死に物狂いで抵抗する。」

「生身の兵士にどれほどの被害が出るかのう?」

「大賢者と呼ばれたワシの本気を見てみるか?」

カッコいいぞ、エロジジイ!

しかし、怖いな、魔法。

護符なら取り上げればいい。

詠唱魔法なら猿轡さるぐつわをかませるなりすれば防ぐことが出来る。

だが、脳内に魔法陣イメージを展開する無詠唱魔法は発動を防ぐ方法が無い。

外部から抗魔法陣で押さえ込んでも相手が強ければ抑え切れない。

生臭賢者クラスになると抗魔法陣自体を無力化することが出来るという。

逃げててくれれば相手にしなければいいけど、出頭されちゃうとね。

扱いに困るよね。

ちょっと考え足りなかったんじゃないかな、モバリックさん?


詠唱といえばイオニアさん。

猿轡シーンを妄想してちょっとキタ。

拘束され、猿轡を噛ませられたお嬢様。

後ろ手に縛られたため突き出される胸。

薄いブラウスを押し上げる先端突起。

必死に呪文を詠唱するけど言葉にならない。

猿轡の隙間から押さえられないよだれが零れる。

ブラウスが濡れて、薄桃色が透ける。

「くくく、何を言っておられるかわかりませんな。」

とか言う感じでいやらしい視線を向けるモバリック竿男優。

うん、そんな感じで。


「何を言っておられるかわかりませんな。」

あ、これは妄想じゃなくて、大導師に対するモバリック竿男優卿の答えね。

「我々はこの街が落ち着き次第、イオニア様には王都にお戻りいただく所存。」

「危害を加えるなどとはありえない話です。」

苦虫を噛み潰したようなモバリック卿。不敵に笑う大導師。

「では、ワシもおとなしく捕まっておるとしよう。」

「拘置場所はここでいいんじゃろ?」

「あ、サジーちゃんワシにもお茶欲しいなー」

天井に張り付いてる俺のほうをチラッと見た。

なるほど、ここはお任せしますよ。

オレはディスカム、マビキラの救出に取り掛かろう。


『ミネルヴァ、どこ? 兄貴の居場所わかる?』

『ボクは今、工房上空です。タモンさんは遺跡に潜伏中。』

どうやら、兄貴は逃げ延びている。

というか、探してない、モアブ軍。

おっかないから。

肉弾戦闘になったら勝てる気がしないから。

驚くべき腰抜けっぷり。

奥さんのダットさんを工房で人質にしているから大丈夫、という理屈。

なんでも、自分たちに都合がいいようにしか解釈していないな。

他にも、救護院ではイーディさん、アイワさんが通常勤務。

イーディさんはエルディ先生仕込みの魔道士。

たぶん戦闘もできる。いや、絶対できる。

アイワさんに関しても剣士とは気付いていない。

お屋敷のビクターさんといい、危険人物を野放しにしてるな、モアブ兵。

『ベータ君はどこにいるの?』

『救護院で手伝いをしています。』

お姉さんと一緒。組合長のお店のとなり。

マビキラの家も近い。いいポジショニング。

そつがないなベータ君。

『3人は?』

『マビさん、キラさんは自宅に監禁中。』

『ディスカムさんの居場所は不明です。』

マビキラは曲がりなりにも貴族の娘。90度くらい曲がっているが。

迂闊な扱いはされないだろう。

一番まずい立場にいるのがディスカムだ。

どんな扱いを受けているか心配だ。

早く居場所を確認しなくては…


まず、兄貴と相談しよう。何か情報があるかも。

北遺跡へと飛行。途中先生の家上空を通過。

あー、しばらくほうりっぱなしだよねー。

ベータ君も講義で忙しかったし。

帰ってきたら掃除しないとねー。


北遺跡は放置されている。

モアブ軍もまだそこまで手が回らないらしい。

遺跡につくと入り口の伝声管に……

あっれー? 入り口、こんなだっけ?

簡単なドア型だったはずなのに…

両開きの開き戸になってる。

崩れた土砂を取り除いたついでに取り替えたのかな?

まあ、これなら物資搬入とか楽になるかな。

伝声管に声をかける。

「アイザ…タマちゃんです。誰かいますか?」

「あ、タマちゃーん!」

え? その声。タンケイちゃん?

こっちで作業してる間に工房が占拠されちゃったのか。

「今あけますー」

ググンって感じの音がして扉がわずかに開く。

隙間から入ると…

通路広くなってる! 遺跡感なくなってるよ。

あれ? 通路には誰もいない。戸開けてくれたの誰?

え? 自動ドア? って言うか遠隔操作。

中に進むとー。

何これ? ごちゃごちゃした先生の研究室だった空間が広々してる。

自社ビルのロビーみたいな感じ。

俺が座っていた拘束台は無くなってた。

そこに格納庫に上がる梯子もつながってたはずなんですけど?

今、そこにあるのはエレベーター!

エッレヴェートゥワァー!!

そして地下に降りる縦穴があった場所。

下りエレベーター!

えっれぶぇーとぅわぁー!!

「どっすか? タマちゃん!?」

にまにま自慢顔のタンケイちゃん。

「滑車と重り、巻き上げ機を使った昇降機っす!」

「かさばる荷物や梯子が使えないケルベロスも昇り降りできるっす!」

すっげー! うん、すごいすごい。

「すごいですね。で、タモンさんは?」

冷静に。今はそれどこじゃないからね。

ケルベロ1号が破壊されちゃったこと、どう伝えよう?

オレの塩対応にちょっとガッカリしたっぽいタンケイちゃん。

「俺はここだ。」

ガーっという音とともに地下行き昇降機が上がってきた。

エレベーターの囲いは金属枠に金網を張った素通し。

でっかい回転ハンドルが付いている。

タモン兄貴、ぐるぐる回しながら上がってきた。

ああ、動力は人力なのね。

「やっぱり、アイザックなのか?」

おっと、演技忘れてた。まあ、もうそれどころじゃないしね。

「一部だけタマちゃんの中に残っている感じです。」

「そうか。」

伝声管から声が、

「ミネルヴァです、ただいま。」

おかえり、全員揃ったな。


兄貴、ミネルヴァと情報交換。

「大導師がいてくれるんならとりあえずイオニア様は大丈夫だな。」

「工房には軍用獣機2体がいます。」

「今のところ、平常どおりに操業しています。」

「工房を占拠したのは…どういうことなんだ? 単に人質とは違うみたいだけど?」

それに関してはオレに考えがある。

「むしろ、この遠征の主目的は工房なんじゃないでしょうか?」

「んん?」

「モアブ伯は軍用獣機を大量に手に入れたわけですが…」

「この先、運用していくとなれば整備、点検、時には修理が必要になります。」

「そうか! エアボウド導師も言ってたが、王都の工房は技術的には大したこと無い。」

「レガシの工房と…おやっさんを手に入れたいってわけだ。」

「だったらおやっさんは大丈夫なんすね?」

「大丈夫だろう、職人たちを敵に回したら意味が無いからな。」

タンケイちゃん、ちょっとほっとした。

そうなると、あとはディスカムの居場所だな。


その前に、上部離発着デッキにちょっと用事がある。

タンケイちゃんと一緒にエレベーターで上がって…あれ? 何だこれ?

ドーム内の設備が掃除され、灯りが設置されたことで設備の細部が明らかになった。

「これなんすけど…何だかここだけ材質が違うんすよね。」

「まるで絵の入ってない額縁って感じなんすけど…」

スクリーン? モニターか?

そうか、管制室だもんな。

これ、接続できる? ミネルヴァ?

『いえ、ロックされてるみたいですよ。通信施設もロックされてます。』

動くのはハッチだけか…「古の協定」か?

『状況の変化を確認、施設稼働制限の変更には権限者である守護魔道機体の承認が必要です。』

え? どういうこと? ミネルヴァ?

『え? ボク何も言ってませんよ。』

え? じゃ、今の声、誰?

この遺跡、エルディー魔道研究所、まだまだ謎が深いぞ。


タンケイちゃんにちょっとしたお願いをしておく。

使うことになるか? そもそも使えるかわかんないけど。

あくまで念のため、ですよ。


オレは工房でおやっさんと、救護院でベータ君と繋ぎをつけることにした。

屋内まで入るとなるとミネルヴァじゃ無理だからね。

先に救護院へ行くか。


救護院に入り込んだところで、いきなりアイワさんに叩き落された!

ホウキで一撃! おおうっ! 痛い!

「でかいムシ!」

「タンマタンマ! 私! 私ですよアイワさん!」

「ええ?」

つんつん突かれる。

蜘蛛モード、女性陣には評判悪いんだよなあ。

声をひそめて会話。一応、兵士の見張りがいるからね。

球体モードに変形。

「アイザックなの、キミ?」

「ベータ君いますか?」

「あ、ああ。イーディの手伝いしてる。」

「連れて行ってください。」

いやいや、箸でつまむんですか?

オレ、メカですから。ムシじゃないですから。

診察室に行くと、イーディさんとベータ君がいた。

さすがにこの状況では一般患者さんはいない。

診察を受けているのはモアブ軍兵士ばかり。

これみんな、マビキラにやられたのか?


ちょうど患者さんが途切れたところ。

「イーディ…」

アイワさんが耳打ち。

オレをそっと机の上に置く。

「タマちゃん!」

ベータ君、しーっ!

「無事でしたか? イオニアさんは?」

「お屋敷にはエアボウド導師が入っています。とりあえず心配は無いかと思います。」

「そうですか、良かった…」

「あれ? タマちゃんそのしゃべり方…?」

「やっぱり、アイザックなのね。」

「えーっと、そのー…一部だけ残ってるって感じで…」

「何で隠してたのかなあー?」

「いや、それはそのー…」

イーディさんの追及にしどろもどろなオレ。

「どうして浴場あたりをうろうろしていたのかなあー?」

「あー、うー」

「まあ、まあ姉さん。」

ベータ君が助け舟。ごめんなさい反省してます。

(反省はしたが、やらないとは言ってない)

救護院内では職員の武器携帯は禁止された。

ベータ君も護符は取り上げられちゃったとのこと。


ディスカムの監禁場所を探してると言う話をすると。

「ここよ。」

は?

「ディスカム君ならここ。」

ええ? 救護院ですか?

「地下に牢屋があるのよ。」

ああー、そういやそうだった。

イオニアさんを襲った暗殺者とかぶち込んだわ。

「それとなく、牢屋があることほのめかしたら、乗ってきたわ、あいつら。」

なーるほど、ここならディスカムの待遇も監視できる。

策士だな、イーディさん。

「あれ? 先住者はどうしました?」

二人くらいぶち込んだよね、暗殺者。

「あいつら? 脱走しようとしたからとっくの昔に…」

処分されちゃったんですね。

ま、しかたない。メンドくさいのは嫌いだからね、この町の人。

「ディスカム君けっこうやられてたわよ。治療はしておいたけど…」

イーディさんの言葉に怒気が混じる。


人質の居場所は知れた。

問題はあのでかぶつ獣機だな。


次はおやっさんだ。工房へむかう。




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