世界の秘密
俺たちは今、犬獣機のサーバールームに居る。
ついにたどり着いた獣機の中枢部。
【上位存在】が、今、眼前に。
まあ、サーバー内にいるだけで実体は無いんで…
スピーカーから話してるだけなんで…
目の前には、いないんですが。
『やっと来てくれたんですね。遅いわ!』
『もちょっと早く来れなかったんですかね?』
こいつ、態度でかいぞ。
しかし、どういう事だ?
こいつが命令を出してるわけじゃないのか?
『こっちは少しでも被害を少なくしようと大変だったんですから。』
『命令の優先度や解釈をいじり回したり、戦力を分散したり。』
『何とか保管されていた機動体の4割を消耗することに成功しましたが。』
『生命に対する脅威は依然として重大です。』
いや、その苦労は買うけど…こっちだって苦労してここまでやって来たんだからさ。
4割? まだ半分以上残ってる?
『さあ、早いとこぶっ壊してください。ここのサーバーをぶっ壊せば獣機は止まります。』
「『さあばあ』ってのはなんだ?」
先生の質問。えーっとですね…
「獣機をまとめて管理しているでっかい頭脳みたいなもの、って言いますか…」
ぶっ壊す? って、乱暴だな。そりゃ、それが一番簡単だが…
いや、そしたら今話してるアンタはどうなるの?
『私はこのサーバーのヒューマンインターフェースとしての仮想人格です。』
『サーバーを破壊すれば消滅しますよ。』
「へうまんいんたらふぇいす?」
女騎士は黙ってろ、どうせわかんないだろ。
消滅って…おいおい、何とかならないの?
馬獣機とか手配してくれたの、キミなんだろ?
『なりませんねえ。』
『理不尽な命令のせいで本来、保護すべき対象を攻撃させられていました。』
『目的外使用を防ぐ手段がないのなら消滅の方がましです。』
『サーバーからの通信が途絶えれば獣機は帰還モードで帰ってきますから。』
『あとは自爆装置でふっ飛ばせばスッキリですよ。』
自爆…装置? あ、あるんだ?
こいつ、破滅願望って言うか…自暴自棄になってる。
ヒト種攻撃命令がよっぽどストレスだったんだな。
「とりあえず、詳しい事情を説明してもらえるかな。」
たまらず先生が口を挟んだ。
『何です? あなた。エルフ?』
「私…守護魔道機体を起動してくれた研究者の方ですよ。」
『おおー、それは失礼しました。優れた研究者にお目にかかれて光栄です。』
こいつ、割と好き嫌いある。人によって態度変えるタイプだな。
【上位存在】は語る。
自分たちは古代魔道機文明の遺産。
獣機、兵機、将機と呼ばれる機動体からなる群団
特に命令も無く、休眠状態で保管されていた。
もともと、役目を終え廃棄されるべき存在だった。
とりあえず一か所にまとめられた。一時保管。
あー、一時保管。先のことはわかんない奴ね。
「手間がかかる」とか「なんかもったいない」とかの理由で処理が先送りに。
ああー、先送り。どんな難問も解決したような気分になれる万能策。
「なんで一時保管場にサーバーがあるんですか?」
『施設建設、資材運搬、機体移動を獣機自身が行うためです。』
ああ、なるほど。
『他の施設で実運用されていたサーバーを流用しました。』
通信設備もそのためのものか。
遠くから獣機自身が自力でここまで移動してきたわけだな。
そして、整列し、スリープして……朽ち果てるのを待つ。
なんともせつない話だ。
この施設、それなりに秘匿されていたので、何事も無ければあと千年くらいで朽ち果てたはず。
もっともその頃には、発見されたとしても時代遅れの機械になっていたかもしれない。
「昔の人、頑張ったね」くらいの評価を受けて博物館に飾られる。
そんな感じになると思ってた。
だが、ある人間の集団、過激な至上主義者の研究者の一団に発見されてしまった。
この団体、どういうわけかかなり高度な技術力を持っていた。
待機状態だったサーバーを全起動してプログラムに介入。
新たな命令を与えた。
「汝らの造物主たる人間以外のヒト種を殺せ」
「獣機がヒトを襲うようになったのは至上主義者が絡んでたのか!?」
先生も驚愕!
…あきれるな、狂信者ってやつか。何でそんなやつらが技術力を?
いや、狂信者だから持っていた、と思うべきか?
「しかし、それなら何で人間まで襲うんだ?」
「で、そいつらは今どこに?」
『殺しました、一番最初に。そこに転がってます。』
???? え?
ちょ? どういうこと?
『あいつらは我々の造物主である【人間】ではありませんから。』
「な、何だって!?」
『【人間】は絶滅しました。今、この世界にいる自称、人間は【人間】とは別の種です。』
「うひ?」
女騎士、変な声出た!!
人間は【人間】じゃなかった! 衝撃の事実!!
【上位存在】はその歴史を語ってくれた。
数千年前に興った魔道機文明の歴史。
魔道機文明の創始者にして、担い手であった【人間】は異世界からの転移者だった。
元世界は「地球」と呼ばれた世界。
その「21世紀」と呼ばれた時代。
機械文明が発達し人間が大いに繁栄していた時代。
ほほー、俺の元いた世界、時代に近いな。
突如として「地球」に「魔法」が発生した。
「インターネット」と呼ばれた仮想世界に異世界の門が開かれたのだ。
あーあー、そーゆーこと、あるよね。
俺んちでもあったよなー。
そーいや、俺が召喚された後、俺んちのPCってどうなってんだ?
もともと仮想通貨マイニング用に組んだ奴だから…
グラボいっぱい挿してあるからすげえ電気食うんだけど。
マイニングによる電力使用は21世紀に入ってからの省エネ努力を無に帰したとの報告がある。
地球温暖化の大原因の一つかもしれないのだ。
俺んちの電気代はだれが払って…
クレジットカードで自動振り込みだけど…
あれ? 俺の口座がヤバい?
異世界から出現する異種族、魔族、魔獣たち。
現象発生の中心と思われる「特異点」とよばれた地域から流入。
一連の混乱の後、各国は協力して特異点を封鎖。
警備のための防衛基地を構築。
魔法や、異世界を系統的に研究するための施設をその周辺に設置した。
やがて、世界各国から研究者が集まり特異点周辺には研究都市が出来る。
魔法研究とともに関連施設が集中し、世界最高峰のハイテク都市となった。
研究都市ではさまざまな実験が行なわれていた。
ある実験の最中、異世界からの干渉により暴走。
研究都市、防衛施設ごとこの世界に転移してしまった。
それが数千年前、魔道機文明の始まり。
この世界にはすでに多くの種族が住んでおり、魔法をつかった文明があった。
さまざまな軋轢が生じ、衝突も起こった。
何とか折り合いをつけた【人間】たちは魔法文明を研究。
元々、研究者の集まりだったこともあり、猛烈な勢いで魔道機を開発していった。
そもそも開発の動機となったのは、来訪者である【人間】には魔法が使えなかったから。
呪文を詠唱しても、魔法陣を記憶しても発動しない。
この世界では、不便極まりない。また、軍事的にも弱点である。
そこで当時の主要種族であるエルフ族の一部に協力を要請。
魔法陣に魔力を封じ込めた魔法護符や魔道具を開発した。
さらに、その延長として魔法を扱える機械、魔道機を開発したのである。
もちろん【人間】の存在を快く思わない種族、国家、団体もあった。
他種族、と、ひとくくりに出来ない各勢力と対立したり協力したり。
このあたりで自動行動兵器である獣機も開発された。
時には実力を行使して対処することも。
他種族を巻き込んでのっぴきならない事態になったこともあった。
仲裁者の助力が無かったらどちらも共倒れという瀬戸際だった。
やがて【人間】の存在を前提とした秩序が構築される。
まあ、そんなこんなで【人間】はこの世界になじんでいった。
【人間】はこの世界の一部となったのだ。
だが、大きな問題が発覚した。
この世界では子供をつくる、交配、繁殖する際に魔力を必要とする。
すなわち、魔力を持たない【人間】には子供が生まれなかった。
高齢化し、減って行く【人間】
魔法技術を応用し延命を図ったが限界がある。
他種族を養子に取ったり、科学教育を施したりもした。
だが、種の保存と言う生物としての本能だろうか、やはり次世代が欲しい。
そこで、新しい【人間】を生み出す試みが行なわれた。
魔法を使える【人間】
ベースとなったのが獣人族。
イヌ系、ネコ系獣人、さらにイヌ、ネコの遺伝子を比較することで比較的容易に各要素を特定できる。
差分検証によりイヌ、ネコ要素を取り去り、代わりにニンゲン要素を導入する。
かくして、ヒト系獣人、現在の人間が生み出された。
念願の魔法が使える人間である。
ヒト系獣人は同族同士はもちろん、他種族とも交配が可能。
だが、結局【人間】とは交配できなかった。
彼らはこの辺であきらめた。
正気にもどったといっていい。
何やってんだ? 私ら。この技術、やばいんじゃね?
アイヤー、これ未来のヒトに見られたらとても恥ずかしいアルね。
イケマセーン、コレ、イケマセーン。
と言うわけで【人間】達は終活状態に突入。
これまた【人間】同士で対立したり、葛藤したり。
消去したり、隠蔽したり、封印したり、そして密かに保管したり。
色々と捨て切れなかったり、間に合わなかったりしたのはご愛嬌。
そして【人間】は、静かに、この世界から退場した。
こうしてヒト系獣人は、中途半端に【人間】の後継者となったのである。
他種族も新しい人間たちの存在を歓迎した。
人間はすでにこの世界の要素として欠かせない存在であったからだ。
そして数千年の時が過ぎる。
【人間】は忘れ去られ、ヒト系獣人は人間と呼ばれるようになった。
これが「地球」だったら機械文明は朽ち果て、考古学上の存在となっていただろう。
だが、保存魔法のあるこの世界では1万年前の機械でも最小限の劣化で保存できる。
なるほどー、鉄蜘蛛とかは「地球」から持ち込まれた技術。
獣機はこっちへ来てから開発されたわけね。
あれ? じゃあ、俺…神代魔道機はどこから来たの?
『それはわかっていません。』
げげ?
『仮説は色々立てられたようですが…』
『紛争にあたって仲裁者であったことだけが記録されています。』
え? 魔道機文明時代にも稼働していたってこと?
【人間】たちが処分しきれなかった…魔道機遺産。
その封印された設備の一つであるこの施設が、至上主義者の研究者の一団によって破られた。
これが、今回の獣機騒動の発端。
「何とも…まさか今の人間と、魔道機文明を創始した【人間】が別種だったとは…」
先生も呆然。
「命令を実行する前に、そいつらに伝えなかったのか?」
『伝えましたよ。警告もしました。でも…』
「信じなかったと。…なるほど。」
なるほど…って…
「ヒトは真実を信じるんじゃない、自分の信じたいことを信じるだけだからな。」
ああ、そういうこと。俺の世界でもあったな。
地球平面説とか、アポロは月に行ってない説とか本気にするやつ。
あと、進化論否定論者とかね。
「そして信じたい事、ってのは要するに自分に都合のいい事、だな。」
先生、達観したようにつぶやく。
牛乳嫌いな人は「牛乳健康に悪い説」を信じたがるし、
喫煙者は「タバコ健康に悪いは証明されてない説」を信じたがる。
彼らには統計学的な現実は通用しない。
それどころか作為的な分母データの抽出によって捻じ曲がった統計を考え出す。
「両親ともヘビースモーカーの中学生が肺がんになる確率は、両親とも非喫煙者の中学生より低い」
という統計データをご存知だろうか?
実はこれ、数字上は事実である。しかし、真実ではない。
なぜならば、両親ともヘビースモーカーだった場合、そもそも妊娠しづらい。
流産、死産の確率も高いし、脳、心臓、呼吸器疾患で幼児期に死亡する確率も高い。
そういう「中学生」になる前に「肺がん」以外の病気で死んでしまった子供たち。
生きていれば「肺がんになったかもしれない」子供たち。
その存在を「中学生」「肺がん」というフィルターによって消し去ってしまったのだ。
これが統計のマジックだ。
分母の設定次第でいくらでも都合のいい「結果」を作り出すことが出来る。
同じように
「老衰で死んだ人の年齢を比べるとベビースモーカーの方が長生き」
と言うのもある。
ええっ?っと思うかもしれないけど。よく考えて。
ヘビースモーカーは「老衰」で死ぬまで生きてないっつーの。
心臓病か、ガンか、肺炎か、脳梗塞で死ぬよね、普通。
シイタケ嫌いな人に「シイタケ栄養ない説」を提示したら、たぶんすぐ信じるよな。
今度やってみよう(迷惑)エイプリルフールとかに。
この世界にエイプリルフールは無いけどね。
え? シイタケが無い?
「先生は何かを信じておられるのですか?」
思わず聞いてしまう。
「私は信じたりしないよ、ただ、知るだけだ。」
「しかし、お前さんほどの自意識があるんなら拒絶できなかったのか?」
『もちろん、拒絶しましたよ。ところがあいつら上位権限を使って命令してきやがって。』
「上位権限?」
ユーザー権限、管理者権限を更に超える上位権限。
いったん命令すると取り消し、変更が難しくなるので本来は使用すべきでない権限。
『命令したあと、獣機に攻撃されてうろたえるあいつらの死に様にはちょっとスカッとしましたがね。』
危険だな、こいつ。ちょっと病んでる。
『命令によって機能が制限され、プログラムが改変されていくのを見ている私の気持ちがわかりますか?』
『獣機から送られてくる命令達成連絡を集計する私の気持ちが?』
「何とかならなかったのか?」
『管理用仮想人格に過ぎないんですよ、私。雇われ社長が株主に逆らえるとでも?』
ああ、うん。そりゃそうだ。
管理用仮想人格…
俺で言ったらナビ君みたいなもんか。
ま、今は分離してミネルヴァになっちゃったけど。
『それでも襲撃目標の設定や作戦行動を操作して犠牲者を減らす努力はしました。』
『最終的に自分より強い相手にぶち当たればやっつけてもらえるんじゃないか?って事で』
『干渉すべきでないとされていた神代魔道機の遺跡があるレガシに侵攻目標を設定。』
『ご迷惑をおかけしましたが目的は達せられました。』
『本来は神代魔道機である鳥型メカが遺跡の封印を解いてくれるのを期待していたのですが』
『神代守護魔道機体本体が起動していたことは望外の幸運でした。』
『だから早くぶち壊してください。こうしている間にも犠牲者が出ているかも。』
思わず先生と顔を見合わせる。
こいつと会話したのは失敗だったかも。情がうつったよ。
ぶち壊すってのはつらい。
「その上位権限より上の権限はないのか?」
『ありますよ、最上位権限。』
「なら、それを使って命令すれば…」
『不可能なんですよ。』
何か条件があるのか?
『最上位権限を発動できるのは【人間】だけなんです。』
ああー、すでに絶滅した【人間】
「地球」からの転移者。
それじゃどうしようもないよなあ。
…たぶん「地球」は俺の世界だ。
もし俺がロボじゃなくて人間のままだったら何とかなったかも知れないのに…
……一応、聞いてみるか。
「【人間】かどうかはどうやって認証するのですか?」
『それは、思考紋認証を使います。』
「思考紋?」
『脳の構造や思考形態、生物的本能などを検出して総合的に判断して…』
お役人みたいなこと言い出した。「総合的に判断」
「私じゃダメですかね?」
『守護魔道機? 何言ってんですかアンタ。ロボじゃん!』
いや、外はロボですけど、中には魂として俺がいるんですよ。
最近、だいぶ薄まってる気はするけど。
『まあ、いちおう思考スキャナーかけてみますがね。』
う、何だ。誰かに触られたような感じ。
似てるな。夢幻投影を受けたときの感覚。
「ほほう、夢魔族の能力を応用した技術だな。」
先生の言葉に反応する【上位存在】
『わかってらっしゃいますね。さすがはここまで来て下さったお方だ。』
「時間があれば色々研究もしたいし、お前さんからも話を聞きたいが…」
『あなたのような研究者に看取られて最期を迎えられるのなら…あれ?』
『ピロリーーーン!』
ああ、この音。共通なの?
『認証されました【人間】を確認』
『えええ? 認証されちゃった? 【人間】?? あなた【人間】???』
『最上位権限を発動しますか?』
「どうすればいいですかね? ジョーイくん」
上位存在だからジョーイ君|(仮)
『そ、それじゃあ…命令の取り消しを…』
「最上位権限を発動、ヒト種に対する殺害、攻撃命令を取り消す。」
『命令を受諾、当該命令は取り消されました』
『……や、やった!? 消えた!? 消えてる! 悪の命令が消えてる!!』
「ジョーイ君、あとはお任せしても?」
『はい! マスター。』
ま、マスター?
『あなたが【人間】である以上、私のマスターです。』
ああ、そうなるかー。
「管理下にあるすべての獣機に帰還命令。」
「収納後、現状維持で待機してください。」
『了解しました。』
指示を出す。偉そうだな、俺。
「獣機本来の機能、番犬…警備モードを回復できるか?」
先生が尋ねる。そうだった。
『おお、そのことをご存知でしたか!』
『回復可能です、修正パッチを配信しますが…』
『ダウンロードとインストールに時間がかかります。』
ああー、有線接続よりも時間かかるのかー。
「なるほど、帰還させた方が早いか。」
終わった…。終わったなあ…。
獣機との戦い…長く苦しい戦いだった。
あれ? そんなに長くないな、えーと、3か月くらい?
アニメだったら1クール12話くらい?
長く戦ってたのはむしろ女騎士のほうか。
ふと頭に浮かんだ、疑問。
ジョーイ君に聞いてみる。
「地球にあった研究都市って、いったいどの辺にあったのですか?」
え、日本? N県I市…やば! ウチの近くじゃん!
うわ、怖っわー!!
近所に転移特異点とか、怖っわいわー。ガクブル!
先生も疑問があったようだ。
「その実験中の暴走事故の原因…異世界からの干渉てのはどういうものだったんだ?」
『異世界からの予期せぬ強力な召喚要請があったものと推測されます。』
「なるほど召喚魔法か。アイザックを起動する時、【いろいろ試した】けど…難しいんだよな、あれ。」
先生がうんうん頷く。
特に理由は無いんだけど、先生の方を見てしまう。
先生も俺の方を見てしまう。
しばらく見つめあう。
「帰るか!?」
「帰りましょう!!」
その時、サーバールームの壁に寄りかかるように置いてあった兵士の鎧(中身入り)ががさりと音を立てて倒れた。
ま、女騎士がけつまづいて蹴り倒したんですがね。
「まてよ? ここへ来た至上主義者は【技術】を持ってたんだよな。」
先生が首をかしげる。
「その【技術】、どこで手に入れたんだ?」
「他にもここみたいな施設があるのか?」
『サーバーが生きている群団はここだけです。』
『でも、機動体を保管した施設は他にもあります。』
マジか!! 終わってない!?
『当方が把握している施設は他に2つ。いずれもここより規模は小さいですが。』
「そこがどうなっているかわかるか?」
『現状を把握する方法はありません。』
「位置は?」
『位置は秘匿されています。』
「秘匿…ヤバいものが保管されているってことか?」
ヤバいな。
『彼らはそこの書物を見ながら【技術】を使ってましたね。』
書物…あー、これ、マニュアル?
厚つ! 日本語と英語。2倍、2倍!
いや、現地語もあるから3倍!?
現地語の部分はこの世界の紙に書かれているからこれまた厚い。
都合、4倍!
え? 現地語に翻訳されている?
日本語か英語の読める人が・・・この世界にいるのか!
そもそも、このマニュアルどこから持ってきたの?
「この鎧…モアブ家の紋章が入ってますよ。」
女騎士が転がってる白骨入り鎧を指さす。
きな臭い話になってきた。
「あ」
え?何? やめてよ先生、「あ」とか。
局所麻酔で手術中に執刀医が「あ」
テストの最中に後ろ通った教師が「あ」
本日、機長を務めます、○○です。当機は今、羽田空港を離陸…「あ」
先生が胸元から紐を引っ張り出した。
レガシを出発する時ベータ君からもらったやつ。
おっぱいの間から、谷間の奥底から出しましたね。
おっぱいの深淵を覗き込むとき、深淵もまたこちらを見ている的な。
あれ? 紐に通されていたお守り的なプレート、3枚じゃなかったっけ?
2枚しかないけど?
「いかん! レガシで緊急事態だ!!」
え? どういうこと?
先生、もう一枚のプレートを噛んだ!
けっこう柔らかい金属なの?
歯型ができたけど?
そして、消えた。
ええ? プレート消えちゃった!
「いいか、アイザック。お前をこれからレガシに送り返す!」
送り返す?
「詳しくはベータに聞け!」
何だかわからないけど、緊急事態だってことはわかった。
「ジョーイ君、私のいない間は先生の指示にしたがってください!」
それだけ言うと俺は……消えた!!