獣機の本拠地へ
獣機の本拠地を目指して進行中。
王都での政変などなど知る由もない俺たち。
こっちはこっちで森で苦闘していた。
魔王城山を出発してからは道なき道。
まあ、獣機が使ってる道はあるんだけど、まさか堂々とそこを進むわけにも行かず。
つかず離れずなあたりをオフロード。
そして今、襲撃してきたのはムシ!
カブトムシだ!
どうも、デイエートの感知能力は昆虫系は苦手らしい。
そんなこんなでカブトムシのコロニーに踏み込んでしまった。
魔法石の獣よけ効果はあっても、こっちから踏み込んだんじゃ意味が無い。
森の中にポコっと開けた空間に、なにやら黒いものがモゾモゾ集まっていた。
って、でかいわ!! この世界のカブトムシ!
30センチはあるぞ!
キラすけがびびるわけだよ!
この虫たち、何でこんなとこで集まってるの?
「交尾行動だ!」
ああー、クリスマスのラブホ街に迷い込んだ残業帰りの社畜マン状態。
うわ、俺の機体のスケジュールアプリ12月23日が祝日のままだ!
令和元年(執筆時)侮りがたし!
突然の闖入者にラブラブビートルもパニック状態!
蠢く甲虫、羽ばたく蟲翅!
うわっ飛んだ飛んだ!!
カブトムシの大群が飛び回る! 這い回る!
そして硬い! ぶつかるとかなり痛い。
そしてたかる! くっつく! しがみつく!
ぞわぞわする! わきわき!
「うわわわわわーーー!」
「うわあああーーー!」
エルディー先生と冷静沈着ハイエートお兄ちゃんがあわてるくらいだから、それはもう気持ち悪い!
「いやああああーーー!」
「くわちょわあおおうー!」
「ぴーーーーー!」
デイエート、女騎士、犬獣機U-69までパニック状態!
「あれ! あれよこせ! マント!」
先生が叫ぶ。
今の俺は背負子で荷物担いでるのでマントは荷物の上に被せてる。
馬獣機を操る女騎士がマントをかっさらうと同乗の先生を巻き込んで被る!
馬上二人羽織! すそから何匹かカブトムシが放り出される。
そして沈黙。
カブトムシやり過ごす作戦。
抗議の声を上げるのはデイエート。
「あ、ちょ! ずるい! あたしたちは?!」
「これはたまらない! 駆け抜けますよデイエート!」
ハイエートは掛け声とともに馬獣機を加速。
不整地をものともせず、駆けだした。
先生、女騎士チームは無言二人羽織のまま、そろそろと進んでいく。
俺は俺で、途中まではムシを振り払ったり叩き落としたりしてたんだけど。
もう、めんどくさくなったのでたかられたまま無視して移動。
ムシだけに。
背に腹は代えられないってことで、獣機さんの獣道に逃れることにした。
すでに兄妹は道に出ている。
俺もその後を追って道に出る。
ハイエートの背中にくっつている奴をデイエートが剥がして森に投げ込んだ。
「ど、導師たちは?」
二人羽織チームも無言のまま道に出てきた。
え? そっちから? って感じの変なところから出てきたぞ。
どうもあんまり前が見えてないらしい。
うん、変。
例えるならエジプトの謎の神メジェド様が馬に乗ってカブトムシにたかられてる的な。
U-69にも何匹もカブトムシがたかっている。
濡れた犬が水を振り払うような犬プルプル(犬ドリル)で弾き飛ばした。
あー、俺もたかられてる。
ざわざわ、もぞもぞ、ぞわぞわ。
軽く電撃! バチッとかいって弾かれたようにムシが離れた。
と、
「ピーーーー!」
最初に反応したのはU-69。
獣機だ! 2体!
大量のカブトムシによる視覚的ノイズのせいで気付くのが遅れた。
まずい! 先生と女騎士が乗った馬獣機の後方。
先生、頭からマント羽織ってるから気づいてない?
こいつら、電波を出してないぞ?
本拠地へ戻る途中なので通信エリア内でも帰還モードになっているのか?
向うもこちらに気づいた。電波発信! 攻撃モードに移行した!
デイエートがあわてて弓を構えるが…
弓でカブトムシを振り払ったせいで弦が切れている!!
いかん、場所が悪い!
ビームが先生たちに当たる可能性が…
うん? 獣機の突撃進路が?
先生たちの馬獣機を迂回する形で突進してきた。
二人羽織を人間として認識できていないのか!?
わきをすり抜けて俺と兄妹エルフに突撃しようとする獣機。
だが、メジェド様から護符が投げつけられた。
遅延拘束護符!
メガドーラさん謹製の拘束魔法。
護符と無詠唱の同時使用で発動。
脳内魔法陣の部分が難しくて、俺には発動できなかった。
先生はすぐにマスターした、さっすがー。
もっとも、かなり接近した状態でないと発動できないとのこと。
ピタッと動きを止め、勢いでひっくり返る犬獣機。
結果として獣機に対して偽装が有効であることが確認できたわけだが。
…でもどうする? こいつら。
再起動して味方につける?
時間的に余裕があるだろうか?
途中で他の獣機の襲撃があったら?
インストール途中にコネクトアウトしたら、下手すると二度と再起動できなくなる可能性がある。
文鎮化。文鎮獣機。
メジェド様マントを脱いだエルディー先生。
「やってみろ。破壊したと思えばダメもとだ。」
そうですね。
さすがに獣機道の真ん中でやるのは何だし、カブトムシパークとは反対側へ移動してトライ。
幸い、インストール中に襲撃を受けることはなく無事再起動に成功。
お仲間だぞ、U-69。
…名前は、識別番号でいいか。
カバーパネルの裏のナンバーを確認。
U-69はU0069だった。
こいつらは、U0802とU1284……
ちょっと待って? これ、通しナンバーなのかな?
犬獣機が千体以上いるってことなのかな?
ちょっと背筋が寒くなる。
おもわず先生と顔を見合わせてしまう。
「まさか…最低でもこれだけの数がいるってこと?」
このまま進んでいいんでしょうかね、俺たち?
次の日も獣機と遭遇。さらに2体捕獲、再起動して味方につけた。
U1394とU0232。
味方であることを示すために、それぞれ布切れを巻いて区別。
都合5体の犬獣機。
獣機戦隊ハウンドファイブ!
U-69がレッド、以下グリーン、イエロー、ブラック、ホワイト。
定番のブルーがいないのは色が無かったから。
グリーンは草の汁。イエローは黄ばんだ布、具体的には先生の○○○、ごめんね。
ブラックは焚き火の炭で。ホワイトはそのまま。
あと、レッドはぶっ殺した野獣の血。ひどい!
きっともう1、2体増えるに違いない。追加戦士。
ダルタニアン、志村けん、チビうさ、なんとかシルバー、なんとかキュア、あずにゃん。
きっと増える! 追加戦士。
獣機との遭遇率も上がっている。もう、かっこ悪いとか言ってられない。
お兄ちゃんの指導のもと、木の枝やら葉っぱやらを使って偽装マントを作る。
人間的なシルエットをごまかすことで獣機の認識を混乱させる。
その後、偽装の効果で獣機と遭遇しても攻撃してこなくなった。
警戒や見張りをハウンドファイブと俺で分担できるので、夜はゆっくり休める。
実のところ、先生も兄妹エルフもかなり消耗している。
野宿に警戒に緊張続きだからね。
元気なのは女騎士。さすが軍人だ。
「こういうのは日常ですから。むしろ調子いいっていうか…」
うん、同行してもらって良かった。
でも、たぶんモサモサ。
日程的に言えば、予定通りレガシに帰還するためにはそろそろ引き返さなくてはならない。
だが、もうその選択肢はみんなの頭の中にはなかった。
ここまで来たらもう進むしかない。そんな気持ち。
そして、ついに、目的の座標に到着した。
「あれが?」
ちょっと盛り上がった台地の上から見下ろす感じで構造物が見える。
ドーム型?
レガシの北遺跡を思わせるが、あれよりはずいぶんなだらかだ。
そしてでかい。
周囲が森に覆われているため随分印象が違う。
周辺部はツタが這い上がる感じで森に浸食されている。
それでも、大きさのせいか中央部あたりは構造物の地肌が見えている。
銀色の金属質。地下にある施設の屋根?
「魔法施設だな、建物全体が保存魔法を構成しているようだ。」
先生が説明してくれた。
古墳って感じじゃないな。
むしろ、廃工場…いや、放棄された見本市会場みたいな感じだな。
かつて晴海埠頭にあった国際見本市会場。
その東館を彷彿とさせる。
円形ドーム型形状が亀の甲羅を連想させる事から通称「ガメラ館」と呼ばれた。
あんな感じだ。
1000体以上の獣機を収容し、管理、整備してるとしたらあのくらいの大きさは必要だろう。
ドームのわきには鉄塔が立っていた。
こっちは割と新しい?
その鉄塔に何十という数のアンテナが設置されている。
むき出しのパラボラ、平面アンテナ、ダイポール、八木アンテナまであるな。
何か、無秩序な感じ。見栄えとかにはいっさいこだわっていない。
アンテナはみんなむき出し。
球型、コーン型とかのレドームというかカバーは付けたりしないのかな。
補修大変じゃね?
と思ってズームアップしたら、今まさに兵機が何体も取り付いて作業してた。
ご苦労さん。でもちょっとシン・ゴジラ第五形態みたいで怖いよ。
最悪の場合でもアレをぶっ壊せば、かなりの期間、獣機の行動を制限できる。
よし、行ける! そんな確信。
破れかぶれとか行き当たりばったりで済む話じゃないからね。
「骸骨塔の親玉か…あれをぶっ壊せばかなり効果があるな。」
先生もやる気。荷物から護符を取り出す。
ディスク型じゃなくてカード…いや、もっと長いな。
神札とか、俳句を書く短冊みたいな感じ。
魔法陣が5つくらい書いてある。
紙じゃなくて石製。魔王城の石だな。
「これを付けて…ハイエート、弓届くか?」
手に乗せて重さを測る兄エルフ。
「けっこう重いですね。ちょっと、もうすこし近づかないと…地形も考えるとあのあたり…」
お兄ちゃんが指さすあたりをズームで確認。
「よし、射程距離内まで進んだら、ハイエート、デイエートはそこで待機。」
「合図があったらこいつで骸骨塔を破壊。」
「破壊? 何の魔法なんです、これ?」
「基本的には炎縛鎖なんだが…」
「今までの護符は紙や木で出来てた。」
「んなもんで、充填した魔力が残っているうちに燃え尽きてしまって。」
「100%の力は出ていなかった。」
「石で作れば効果が長持ち。」
「さらに、光に加え、熱魔法変換陣を組み込んで無駄になっていた熱を再吸収。」
「目標に対する効果3倍だ!」
ああ、魔力込めるのメンドくさいって日に当てて魔力充填してたもんな。
なるほど、余熱の回収も付け加えたのか。
「でも、それって…永遠に燃え続けるんじゃ…」
デイエートの心配を笑い飛ばす先生。
「永久機関か? そんなにウマい話は無いよ、魔力損失があるからな。」
「2~3倍、効き目が長くなる程度だ。」
「合図は?」
「トンちゃんが通信できます。」
「よし、わたし、アイザック、クラリオは施設に侵入する。」
と、そこで女騎士に止められた。
「今日一日様子を見ましょう。」
軍人女騎士が指揮官面。
「本当は三日くらいかけて警備パターンとかを掴みたいところですが…」
「後方支援もない現状では時間をかけて居られませんから。」
女騎士の忠告に従って観察していると、獣機の通路や入り口の位置が明らかになった。
さらにトンちゃんを飛ばしてセキュリティを確認する。
…セキュリティとか無い?
獣機は素通しで出入りしてるし、扉も開けっ放し。
そりゃあ、獣機自身が警護用なんだから存在自体がセキュリティだけど…
出現し人間を襲うようになったのは何年か前。
その前は魔動機時代から何千年も保管されていたはず。
これだけ危険な機体がこんな無防備に放置されていたとは考えられない。
まるで誰かが開けたっきり閉め忘れたみたいな感じだが?
軍事施設とかじゃないな。
倉庫?
攻撃を受けることを想定していない?
「まったくの無防備ですね…一体何なんでしょう、ここ?」
女騎士が困惑の表情でつぶやく。
「そもそも警護用の魔道機体を何で一か所に集めて保管してたのか?って話だがな。」
先生も首をひねる。
『道路の形跡があります』
おっと、ヘルプ君。道路?
トンちゃんが上空から撮影した画像。
わかんないけど…?
ここ? 点線で表示してくれたけど俺には判別できないよ。
まあ、これだけの施設だ。
建設するにも、獣機を運び込むにも道路は必要だよね。
当然道路はあったはずだけど…
『完全に森に飲み込まれています』
もっと古いはずの大街道はあれだけ完璧に残っているのに…
魔王城への道だって意識的に崩した場所以外はしっかり残ってた。
舗装とかされてなかったのかな?
いや…残すつもりがなかった?
仮道路だった?
建設して、獣機を運び込んだあとは…運び出すつもりがなかった?
ここ、もしかして……廃棄場?