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新たなる旅立ち



雷撃剣サンダーブレード!」

女騎士が突き込んだ剣に電光が走る!

標的になった立ち木が吹っ飛ぶようにへし折れた。

「おおお! 凄い!」

見ていた先生がうんうんうなづく。

「ふむ、対人なら雷神槌を直接当てたほうが早いが…」

「獣機相手ならこっちの方がいいだろう。」

「これなら、装甲の隙間に剣を突き込んだ時点で勝負がつきます。」

女騎士が意気込む。附与魔法エンチャントか。

「1回ごとに附与し直さなくちゃならんが…」

護符カード? 細長いナイフ状に作られている。

うん、カッターの替え刃。大き目のやつ。

「こいつで充填できる。」

「このカード自体を投げナイフ代わりにもできるぞ。」

感激、女剣士!

「すすす、凄い! 凄いですよ導師!」

こともなげに語る先生。

「まあ、攻撃魔法は簡単だからな。」

「電撃が剣士に伝わらないよう保護魔法を併用するのが難しかった。」

「うまくいって良かったよ。」

「……」

「……うまくいかなかったらどうなってたんです? 私?」

黒焦げになった立ち木を眺める女騎士。

先生、すっと目をそらしてスルー。

「弓のやじりにもやっておくか…あっちは飛び道具だし簡単…」


兄妹エルフの狩りは順調。

それなりに野獣の襲撃はあるようだが、みんな獲物に化けちゃう。

メガドーラさんの保存魔法があるので貯蔵にはリミットがない。

獲物運びには俺や馬獣機が役に立つしね。

「いやー、思う存分狩れましたねえ。」

「いつもは保存とか運搬とかで困るもんね。」

いい気分の狩人兄妹。

「狩猟神の化身…」

地下住民が崇めてるぞ。

ありがてえ、肉! ありがてえ。そんな感じ。

ここでも神話を作ってしまいそう。


俺のほうの実験も女騎士に協力してもらおう。

あと犬獣機ハウンドU-69にも協力してもらうよ。

「ききき、危険な実験はお断りですよ!」

先生のせいで警戒してるな。まったくもー。

「大丈夫ですよ。全然大丈夫。」

「ちょっとこれを羽織って見てもらえますか。」

俺のマント、雀竜のウロコ製。高級品だ。

「え? いいんですか? そそそ、それじゃちょっと失礼して…」

ぱさっと羽織る。

「おおお、軽い。しなやか!」

おやっさん入魂の一品だからね。

「でもちょっと長すぎます、私には。」

いいんだよ、やらないから、貸さないから。

「では、ちょっとこれを付けてから羽織ってください。」

細い竹っぽい材料を簡単に組んだフレーム。

地下住民からもらった籠の材料を編みなおしてつくった。

肩に乗っけると、その上からマントをかける。

よし、肩のラインが消えた。襟の穴から顔だけ覗いてる。

…うん、珍妙!

吹き出しそうになった。というか吹き出した!

ま、魔道機なので表には出しませんがね。

これはアレだよね。セーター着かけ脱ぎかけで顔だけ出して

「じゃみらー!」

初代ウルトラマン世代のお祖父ちゃんがいたら聞いてみな。

「あー、やったやった! 子供ん時。」

て言う。絶対言う!

さて、U-69。命令だ。その「ヒト」をつつけ!

…困惑! 困ってるぞU-69! 認識機能が混乱!

これ? ヒト? え?? ヘッドアームがウロウロしてる。

……実験は成功だ。

機能回復したU-69でさえ混乱するくらいだ。

ビースト状態の獣機にもかなりの効果が期待できる。

ただ、なんて言うか…ちょっとこう、釈然としない。

こんな事でごまかせるんなら…今までの苦労って何だったの?


「な、何をやってるんだ?」

いつの間にか見物人が集まってる。

先生も困惑してるぞ。

「えーっと、そのー、獣機がどうやって人間と野獣を見分けているかの実験です。」

「こんなので?」

「遠目だったらごまかせるかもしれませんね…もしかしたら…」

正直、自信ない。

反応したのはメガドーラさん。

「なんとまあ! これが有効なら外での活動がずいぶん安全になる。」

「まだちょっと…検証が必要かと思いますが…」

「いや、やってみよう。うん、試す価値はありそうじゃ。」

女王はじめ地下住民の反応は好意的だ。

「えええ? 何? 何ですか?」

珍妙女騎士はわかってない。

あと、鏡があるわけじゃないから自分がどんな面白い格好してるかもわかってない。

ちょっと失敗したご当地ゆるキャラ的なあれ。

周りの反応が変だなーって感じで周囲を見渡す。

視線が合ってしまった人たちが、あまりの珍妙さに笑いをこらえて顔をそらす。

首をひねる、女騎士。かぶり物なので身体ごとくの字に曲がる。

珍妙!

「これで獣機がごまかせるって事ですか?」

お兄ちゃんも首をひねる。

こっちはカッコいい。

「あたしは嫌よ、こんな格好!」

デイエートは拒否。

「わたしもゴメンだなあ…」

先生もですか?

評判悪い!

「まあ、効果があるんなら試して見てもいいかもしれませんね。」

お兄ちゃんは消極的賛成。塩っぽい。

そういや、以前迷彩ギリースーツ着用してたよね。

あれも効果あるかもしれない。


何やかやと雑務をこなしているとあっという間に夜。

今日は地下住民全員のお風呂の日だったので、にぎやか入浴。

ちゃんと男女別。残念。

地下生活なのにみんな早寝早起きだな。

女王様が睡眠のプロだから色々きびしいらしい。

その女王様、お風呂は女性住民と一緒に入ってました。庶民的。


昨晩同様、先生はメガドーラさんの部屋で寝る。

俺はSMルーム研究室でちょっとした作業。

と、先生からお呼びがかかった。

「アイザック、ちょっと来い。」

はいはい。

寝室に入る。

部屋と言っても、石切り場の空間を利用したもの。

研究室との仕切りは吊るしカーテンだけだ。

うーん、これじゃ昨日のデイエートとのやり取りもまる聞こえだよね。

バレバレで、メガドーラさんが覗きに来るわけだよ。恥ずかしい。

そのメガドーラさんが「女王」なのは、あくまで便宜的なもの。

ストレスで不安定になりやすい地下住民を統治するために立場を刷り込んだ。

だから寝室は粗末。生活は女王様とは程遠い。

木組みの台に毛皮を敷いたベッド。ボロボロの毛布。

サバイバルな感じだなあ。

大きさだけは十分にある。

先生と二人、ベッドの上にのっていた。

先生は髪をほどいてモード3。ソバージュヘア。

あれ、ベッドひとつだけ?

先生と…一緒に寝たの?

そしてご存知のとおり先生は裸族。

夢魔女王も…裸…全裸ですね。

胡坐をかいて座るエルディー先生。

その横にうつ伏せ、肘をついて顔を起こして転がってるメガドーラ女王。

このリラックス感、肉体的にも精神的にも、すごく距離が近い感じ。


…そういえば…

デイエートに尋問(質問はなし)した時、ずいぶん御執心でしたよね?

もしかして女王様…百合系?

お風呂みんなと一緒に入ってたのも下心?

そして、お二人、そういう関係なんですか?

アダルトセクシー熟女系百合?

うーん、今まで俺のレパートリーには入っていなかったジャンル。

新しい扉が開くかも!?

メガドーラさん匍匐前進みたいにずいっっと肘で進む。

巨大な胸がベッドの毛皮にすれて変形しては、弾力でプルっともどる。

そして先生の胡坐の膝にあごを載せた。

先生は女王のウエーブした黒髪に指を差し込んでなでる。

開いた! 開いてしまいましたよ新たな扉が。


…まあ、お二人とも200年前の時点ですでに知り合いだったらしいし。

そもそもエルフには基本、結婚という概念がない。

夢魔族に至っては半分霊的な存在だっていうし。

恋愛とかパートナーシップとかに関する考え方は、俺の「常識」が通じるところではない。

デイエートに対する女の子たちの熱狂とか、お兄ちゃんのベータ君に対する気持ちとか。

そして、関所やミーハ村で目撃した優秀な遺伝子に対する渇望とか。

俺の「理解」とか「解釈」なんてまるで的外れなものなのかもしれない。


「お呼びですか? 先生。」

マッサージですか? メガドーラさんですか? やりますよ! リベンジ!

「そこ、座れ。」

えーと、椅子がないんですけど? 胡坐ですか? そうですか。

床に座る、胡坐ではなく正座。こっちの方がしっくりくる。

ベッド上の二人全裸美女から見下ろされる形に。

この体制、ぐっとくるものありますな。ぐっと!

全裸美人教師に説教食らうのぞき生徒っぽいエロマンガシチュエーション的エキサイト!


「お前もわかってると思うが…夢幻投影のこと…」

「あれは非常に危険な能力だ。」

「そして、危険にしてしまったのはわたしだ。」

む、睡眠学習魔法のことですね。

「使い方次第ではここみたいなことが出来る。」

「為政者にしてみればこれほど欲しい魔法はないだろう。」

そして、これを使うためには夢魔族の能力が必要だ。

そうか、下手をすると種族全体の危機につながる恐れもあるか…

「わたしの考えが足りなかった。」

うつむく先生の隣でメガドーラさんが身を起こす。

「考えが足らなかったのは儂もじゃ。」

「能力が発現する可能性を知りたいために、息子を利用した。」

「そして、キララに能力を与えてしまった。」

うなづく先生、視線が厳しい。

「幸い知っているのはわたし、メガドーラ、マビカ、そしてお前だけだ。」

「キララのこと、お願いできるかえ?」

キラすけの顔が脳裏に浮かぶ、…っていうかメモリが再生。

へっぽこファイヤボールとか、ふふーん顔とか。

たてすじとか、ぷしゃーとか。ロクなシーンがないな?

「キララさんは…」

そうだな。お祖母ちゃんから言われるまでも無い。

「私にとっても大事な方です。もしものことがあれば…」

もしもの事? 想像しただけでクロックが上がった!

あやうくオーバードライブするとこだった。

そうか、こんなに大事だったか。

「全力でお守りします。」

「よろしく頼むぞ。」


まあ、そのあと揉みました。二人とも。


二人が寝たあと、作業を再開。

トンちゃんが集めてきた地形データ。

エルフ兄妹の獲物回収のついでに確認した電波状況。

魔王城山まおしろやまは一枚のでっかい岩石で出来ている。

地上に露出している部分だけでも高さ300メートルはある。

これだけ高くて急峻な山なら、基地局からの電波を遮っているはず。

住民たちはもちろん電波が見えないし、そもそも移動体通信システムと言う概念自体を知らない。

結果的に獣機に対する警戒は不必要に広範囲にならざるを得ない。

地形データから作った地図に電波の届かない安全域を書き込んでいく。

この地図はここの住民たちの役に立つはずだ。

今、俺のできる事はこのくらいだ。

獣機本拠地探索の結果がどうなるかはまだわからない。

だが、ここの住民たちの救出にはまだ時間がかかるだろう。

脱出できたとしても受け入れ先が必要だ。

元々、違法採掘で暮らしていたとすれば仕事もさがさなきゃならない。

とても、異邦人でロボの俺がどうこう出来ることじゃない。

レガシの組合長、おやっさん、関所のチャラ男騎士、ミーハ村の村長さん…

リーダーってのはそういうことだ。すごいよあんたら、尊敬する。

うん、俺は俺で頑張るよ。


魔法石を使った新兵器、地底女王から提供された新魔法。

装備がかなり充実、レベルアップだ!

明日早朝出発。いよいよ敵地のど真ん中に踏み込むことになる。



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