夢魔女王メガドーラ
地底女王にエルディー先生が反撃。
本気出す!
いや、先生が本気出すとまずい。危険人物! 大惨事!
女王の後を追う。他の住人たちはおろおろするばかり。
俺やデイエートを止めようって奴はいない。
俺の移動履歴は遅延魔法のせいで当てにならない。
デイエートも眠らされていたからわかんないだろ?
「出口はどっちだ?」
ああ、その辺のヒト捕まえて聞くのね、首絞めあげて。
見覚えのある空間まで出る。
ステップを駆け上がり、トンネルに続く出口を目指す。
トンネルだ。もどってきた。
先生は? 女王様は?
「なんてことしやがる! 子供や年寄りだっているんじゃぞ!」
「い、いや、こんなだとは思わなかったんだって…」
ええ? 女王様が先生に食って掛かっている。
「お前が攻撃したり、仲間をさらったりするから…」
「獣機を引き連れたようなやつを信用できるわけが無いじゃろ!」
「だ、大体お前、何でこんなとこにいるんだよ!?」
「それはこっちのセリフじゃ!」
先生、分が悪い。あれ? お知り合いですか?
女王が俺に気付いた。
「あれ? ええ? どうやって抜け出したんじゃ!?」
先生も気付いた。
「おう、アイザック、無事だったか。」
お兄ちゃんが飛んできた。
「デイエート!」
「お兄ちゃん!」
がし! 兄妹抱擁。
「なんじゃ、ずいぶんいい男を連れとるな。」
ハイエートお兄ちゃんに目をつける。目ざといぞ、女王様。
威嚇するデイエート、がるるる! しゃー!!
「おう! 悪かったって! 娘っ子。」
えーっと、先生? お知り合いですか、女王様と?
「ああ、コイツ、メガドーラ、例の。」
ええええー! 例の!!
「お祖母ちゃん?」
「誰がおばあちゃんじゃー!!」
蹴りましたね、意外と短気。でも硬いですよ、俺。
「あいたた!」
女騎士が口を挟んでくる。居たの、お前?
「めめめ、メガドーラ様!?」
魔王四天王筆頭にして、建国七英雄の一人。
大剣豪初代バッソ伯夫人にして現バッソ侯爵の母親。
黒き新月、無慈悲なる夜の女王【真黒の女帝】
夢魔族の女王にして地底の女王。あと、キラすけのお祖母ちゃん。
肩書多いぞ! このヒト
「しー、その名で呼ぶな! ここではジェネシスを名乗ってる!」
「何やってんだよ、お前。」
「色々あったんだよ!」
敵じゃあないって事で、改めて地下コロニーにご招待。
さっきのSMルームへ。
「ごごご、拷問室!?」
女騎士、びびる!
え? 待ってくださいよ。応接室? ここが?
「なんだよ、ここ?」
「部屋、余ってるってわけじゃないんだよ。」
「実験室兼私室だよ。」
うーん、そういわれてみると雰囲気似てる。北遺跡の先生の実験室と。
「何で三角木馬があるんだ?」
「違うわ! これはこうやって…」
床に落っこちてたクッションを拾うと木馬にセット。
「ほっ」
ひょいっと飛び乗る。内股に挟み込むように身体を支える。
身軽だ! というか、体重が感じられない?
なにやら起動呪を唱えると…揺れた!
あー、これ。ロデオマシーン! 体幹が鍛えられるやつ。
「地下にこもってるととと身体がなまってののの。」
そして揺れている! ぶるるんるん! 超エロムーヴ!
妹エルフと女騎士、貧乳チームが、羨望と嫉妬と憎悪の目で睨む。
顎を引いて上目遣い、ねめつける様な三白眼。怖い!
「締りもももよくなるぞぞぞ。」
ああそうですか。
「どうなってるんだここ?」
「道は崩れてるし…前は石畳…舗装されてなかったっけ?」
「ああ、道を崩したのはナビンたちじゃな。」
「何でまた、わざわざ崩したんだ?」
「聞いておらんのか? コウベン殿だよ。」
おやっさんが?
例の四天王騒ぎの後、しばらくは軍が駐留。
その後、王城建設の際に石材を調達するために調査を実施。
おやっさんの調査の結果、すでに限界まで採掘されている事が明らかになった。
「麓がスカスカ状態で、これ以上採掘すると、上の山の重みで…」
思わずみんな上を見る。ぞー! ぺしゃんこ。
山頂から順に採掘すればよかったんだろうが…
手っ取り早く手の届く所、ふもとから掘ってしまったために採掘継続が困難になってしまった。
太古文明のヒト族もけっこう行き当たりばったりだったんだなー。
おやっさんの提案で大街道からここまでの舗装路に使われてた石を回収して王城に使い、最後に道を崩した。
「ふーん、聞いてなかったな…なんで道まで?」
「『もう少しなら大丈夫だろう』って採掘する奴が必ず出る、ってことでな。」
「この山が横倒しに崩れたらすごい被害が出る。」
「搬出道路を壊して、少しでも予防しようとしたんじゃな。」
「実際、ここにいる奴らの半分は違法採掘者じゃ。」
マジか!?
「細々と石を切り出してはこの辺の村や町に売ってた。」
「さすがに王都には持っていけないからな。」
「負い目があるんで獣機騒動の時、王軍と一緒に避難するのをためらって取り残されたんじゃ。」
「うーん…半分?」
「村や町の…まとまった人数は避難したが、小さい集落の取りこぼしがあったんじゃろ。」
王軍騎士、当事者の女騎士クラリオが小さくなってる。
「我々も手一杯でしたので…」
「そんな奴らが命からがら集まってきての」
「こんな人数になったというわけじゃ。」
「なんでか、獣機は地下に入って来んしな。」
電波が届かないからね。
「それに、ここには野獣も近づかない。」
「?周りにはうじゃうじゃいたぞ?」
にやり、と笑う。メガドーラさん。
「大街道の石畳にはここの石が使われている。」
「と、いうことは…」
「大街道に獣が入ってこないのは、この石のせいか!」
先生、驚愕!
「てっきり、魔法結界みたいなものかと思っていたが…」
「魔法には違いないが、ここの石そのものが魔法を帯びておる。」
「獣避けも、保存効果もこの石の効果じゃな。」
「魔獣クラスでないとここの内部には入ってこれん。」
「大発見だな!」
「200年前はそんなこと考えもしなかったが…。」
「何百年生きていても新しい発見はあるのう。」
「まったくだ。」
仲いいな、先生&夢魔女王。
「で? お前はなんでここに?」
「あー実は…」
メガドーラさん、魔王討伐後、王城建設に従事。
結婚、出産後はしばらく王都にいたが、その後出奔。
「王都で貴族制が整備されると…居づらくなっての。」
レガシに身を寄せたが、先生と一緒にやらかした。
睡眠学習事件。夢魔族の評判悪化を恐れて逃亡。
その後は夢魔族再興を目指し、同族をさがしてあちこちを回った。
用事があって王都に立ち寄ったあと、再びレガシを訪れようとしてこっちへ。
ちょっと旧魔王城の様子でも…と思って近くまで来た所で獣機騒動に巻き込まれた。
この地下に逃げ込んで今に至る。っと。
「脱出しようにも、獣機どもはヒト族を目の敵にしておるからな。」
「この人数で移動すると絶対襲ってくるじゃろ!?」
そんなこんなでずっと地下で暮らしてたってことらしい。
メガドーラの名は有名すぎるので、一時使っていた偽名ジェネシスを名乗ってると。
「ここのやつら…お前の事、【女王様】とか呼んでなかったか?」
じろりと睨みつける先生。
「お、おう…、まあ、便宜的な称号っていうか…」
目が泳いでるぞ、メガドーラさん。
「まさかお前…洗脳魔法とか使ってないよな?」
「い、いや、そんなたいそうなものではなくてだな…」
使ってるんですね。
「何をやっとるんだ! 人道的に許されることでは無いぞ!」
「何言ってんだ! 8割がたお前の作った魔法じゃぞ!」
「無断で改造したのか!」
「お前が人道的とかいうな!」
「お前がー」「お前がー」
仲悪いぞ、先生&夢魔女王。
「まあ、まあ、何か事情があったんですよね?」
お兄ちゃんエルフが割って入った。仲裁。
話が進まないしな。
「仕方なかったんじゃ。」
「最初からいた奴と後から来た奴が対立してなー。」
「食料不安や閉塞感から自暴自棄になる奴も…」
「しまいにゃ殺し合いを始めそうになってなあ。」
「めんどくさ…やむにやまれず精神魔法を使ったんじゃ。」
めんどくさくなったんですね…
先生と同じ種類のヒトだな。
「とりあえずなじみのある【女王】という概念を刷り込んで、命令を守るようにしての。」
悪人の手に渡ればとてつもなく危険な魔法だ。
……悪人じゃないよね? 女王様?
「食料はどうしてるんだ?」
「主食はキノコじゃな。マンドラタケの亜種。地下でも育つ奴、栽培してる。」
「…あれ、長期間食べ続けると…キノコになるって言ってなかったか?」
マタ○ゴ!! ひいいぃー!
「亜種、亜種、品種改良した奴! 大丈夫、大丈夫! たぶん。」
「外に小さい畑もあるし、後はたまに獣を狩ってくるくらいじゃな。」
「外に出る事もあるのか? 畑? 危険だろ。」
「獣に関してはこれがある。」
メダル? 小判みたいな感じ。紐がついてて首から下げる。
「ここの石か?」
「完全じゃないが、ある程度は獣避けになる。獣機はどうしようも無いがな。」
「あと、あー…」
先生が言いよどんだ。
チラッとハイエートの方を見る。
お兄ちゃんのほうは察してくれた。
「それじゃ、ここでは肉は貴重ですね。昨日の猪の残りがあるから取ってきましょう。」
「デイエート、クラリオさん、手伝って。」
「えええ、私もですか?」
女騎士は七英雄ファン。二人の話に聞き入っていたので不満そう。
あと、察しは悪い。
しぶしぶお兄ちゃんについて席をはずした。
俺も…と思ったけど先生が腕を掴んでる。
あ、そうか、キラすけのこと…
「獣機討伐の頃に…王都に用事ってのは、孫娘のことか?」
ああ、そういえばキラすけのお母さんが亡くなったとき、お見舞いに来たって…
「キララを知っておるのか?」
「今、レガシにいる。弟子にした。」
「ほほう! 何でまた…? いや、願っても無い話だ、ありがたい。」
「で、どうじゃお前から見て…孫娘の出来は?」
「こんな事言うのは癪に障るが…」
「さすがはお前の血筋だ、有望だな。ちゃんと学べば一廉の魔道士になるぞ。」
「固有魔法持ちなので、今はまだまだ、だがな。」
メガドーラさん、意表を突かれたようだ。
「固有魔法?」
「夢魔族で固有魔法というのは…聞いた事が無いぞ?」
今度は先生が驚いた。
「え? そうなの?」
「私も初めて見る魔法を使うぞ。闇が出せる!」
「闇?」
先生が説明するが上手く伝わらない。
「煙幕とか、遮断魔法とかとは違うのか?」
「光をさえぎったり吸収するんなら熱が出るはずだが…まったく発熱しない。」
「ちょっと、原理がわからん。」
考え込むお祖母ちゃん。
「闇の岩戸…」
あれ、キラすけの名付け、知ってたの?
「夢魔族の伝説…おとぎ話だな…」
「太陽女神アマテラスが明るすぎるんで他の神々が不眠症になって…」
「困った神々が眠りの専門家である夢魔族の巫女に相談した。」
「巫女は夜の世界から闇を呼び寄せて闇の岩戸を作り出した。」
「神様たちは交代で岩戸に入って安眠できたってお話。」
「ほほう!」
「その後、ディスられてすねたアマテラスが闇の岩戸に籠もってしまって…」
「引っ張り出すのに苦労したってオチがつく。」
天岩戸伝説のバリエーションか。
「過去に同じ固有魔法をもつ夢魔族がいたのかも知れんな。」
キラすけ、この話知ってたのか? 母親も夢魔族だって言ってたもんな。
「それから…」
「なんじゃ?」
「キララは幻夢投影が出来る。」
「ほほう、やはりな。」
あれ? 驚かない?
「知ってたのか…? あ! ベガの所に夢魔族の側室を送り込んだのはお前か!?」
「うむ、夢魔能力の発現には両親ともに血を引いている必要があるのではないか? と考えてな。」
「私の知る限り男の夢魔族はベガだけだしな。」
「種が取れれば上出来、くらいの気持ちで女を押し付けた。」
「まあ、思いのほか相性がよくて、ベガと仲良くなったのはうれしい誤算だったがな…」
「まさか早死にするとは…気の毒な事をした。」
「その…なんだ。孫は元気でやっとるのか?」
ふふ、お祖母ちゃんの顔ですね。
「ああ、王都では色々あったようだが…いい友達に恵まれとる。」
「そうか。」
メガドーラさん、俺のほうを見る。
「ここに残したってことは…この魔道機もキララの事知ってるんだな。」
「さっき、儂をお祖母ちゃん扱いした所を見ると仲いいのか? キララと。」
あう! 魔道機演技とか通じる相手じゃなさそうだ。
まあ、警戒する必要もないか。
「キララさんは大切なお友達ですよ。」
俺が普通に会話することにちょっと驚いたみたいだけど、
「孫をよろしく頼む。」
ペコリと頭を下げる夢魔女王。情の篤いヒトだな。
「はい。」
先生に匹敵する魔道士だとすれば、一人ならここを脱出することだって出来るだろう。
住人を見捨てていけないから何年もここに残っていたんだな。
住人の【女王様】は、たぶん洗脳のせいだけじゃない。そんな気がするよ。
「しかし、神代魔道機…これほどのものとは…」