地底人、現る!
魔王城山地下の石切り場跡で一泊。
人影を追ったトンちゃんが行動不能になってしまった。
「偵察ドローンに問題が生じたようです。」
もう知らんぷりしてる場合じゃない。
全員警戒態勢。
「ほへ?」
女騎士、起動が遅い! メモリが不足してるのか?
「人がいるのか?」
先生、振り返って俺とかU-69、馬獣機を見渡して…
「うーん、このメンバー。怪しいぞ、私ら…」
「知らない人がむこうから声かけてくるって有り得ないパーティだ。」
「友好的である事をアピールした方がいいか…」
「ハイエート頼む。」
「え、ええ? 僕ですかあ?」
「お前が一番、安心感がある。」
「ええ? そうかなぁ…」
釈然としないお兄ちゃん。
「どなたかいらっしゃいますかあー!」
「僕らは旅のものですー、敵意は有りませんよー。」
「この魔道機はみんな人には危害を加えませんよー!」
拡声魔法つきでアピール。…反応が無いな。
「うーん、奥へ行ってみるか…」
馬獣機とU-69はここで待機。
君らがいると警戒されてしまうから…ごめんよ。
荷物からマントを出して羽織る。
人っぽい外観の方がいいだろってのもあるが、こいつは防具としても優秀。
いざって時、盾代わりになるからね。
トンちゃんが動きをとめた通路へと踏み込む。
例によって灯りは俺。カンテラマン。
「うわ! 何これ?」
「地下…なんですよね?」
通路の向こうは、ちょっとした体育館ほどもある地下空間。
「うーん…」
「誰かいるかー?」
かーぁ かーぁ かーぁ って反響したけど返事は無い。
お? 一瞬、光が見えた。やはり通路の奥。
「あっちに明かりが見えました。」
光の見えた通路へと向かう。
通路の向こうはこれまた別の空間。下方向に広がっている。
念のためPINを打つ! 音響測位。
やはり体育館ほどの空間だが、幅が狭く奥行きがある。
周囲にテラスのような張り出しがあるのか?
下りの通路がある。壁沿いに刻まれた階段
階段? いやステップとでも言えばいいだろうか。
一つのステップが60cmx60cmくらい。
縦の幅が広く、段差がきついんで階段みたいに駆け下りるのは無理。
横幅が狭いんで行き違ったり追い越したりする事も出来ない。
一つのステップに一人しか立てない。
なので、みんながタイミングを合わせて移動しないとスムーズに降りる事が出来ない。
一番前、あるいは一番後ろから順番に動かないとにっちもさっちも行かない。
なんか、すごく進みにくい階段だな。
先頭は俺、次が感知役デイエート。お兄ちゃん、先生、女騎士。
「お、ちょ、降りにくいな。」
先生も苦労してる。と、
「ちょ、これ、まずいですよ。」
女騎士が大声を上げた。
「多人数が一気に攻め込めないように考えられてます!」
「罠ですよ、ここ!」
え? マジ?
このパーティ、個々人の戦闘力は高いけど、ちゃんとした訓練を受けた兵士は女騎士だけだ。
なまじ強いだけに危機意識が希薄。安易に進みすぎた?
と、女騎士の声が聞こえなくなった。まさか落っこちた?
ライトを向けると…
居るじゃん。口パクパクさせて…まるで壁を叩いてるような…パントマイム?
あう! 先生も同じ状態に。お兄ちゃんも…
「お兄ぃ!」
妹エルフがとっさに手を出すと、何かにぶつかった。
「え?」
その足元に魔法陣! これ…被甲身?
被甲身に封じ込められた?
本来は本人自身が展開するはずのバリヤーを外から展開して、しかも固定した!
ステップごとに仕掛けられていたのか!?
いかん! デイエートと俺の足元にも!
とっさにデイエートを抱え込むとジャンプ!
ステップから飛び降りた! 床は10メートル近く下、3階建てのくらいの高さ。
俺は平気だが、デイエートには凄い衝撃が伝わる事になる。
ワイヤーシュート! ひも付きの前腕部を発射!
テラス状の出っ張りを掴んでぶら下がる。
落下運動を振り子運動に変えて衝撃を分散。
ワイヤーを伸ばしてゆっくり着地。便利だ、ワイヤー!
「大丈夫ですか? デイエートさん!」
「う、うん、だいじょぶ…でも、お兄ぃが…」
まあ、殺すつもりなら、被甲身を使ったりはしないだろう。
他に殺傷力のある魔法はいくらでもあるし、極端な話、突き落とせばそれで済む。
むしろ、怪我させないように注意を払っていたように見える。
「先生たちを助けないと…」
ありゃ、いない! ステップにいたはずの3人がいなくなってる。
封じ込めたまま移動…搬送が可能なのか?
初めて経験する本格的、高度な魔法戦法、エルディー先生を陥れるとは。
と、階段の上、元の通路の向こうから閃光と悲鳴が!
「ぎゃああー」
「うわああーなんだこのエルフ!」
「ひいいー!」
ああー先生、反撃してるんだな。
「大丈夫みたいね。」
「私たちも合流しましょ…」
え? すぐ後ろに人影? 全然気づかなかったぞ!?
「誰だ? あ ん た! い つ の 間 に?」
あれ? な ん だ こ れ ?
突然、周囲の見え方が変わった。
デイエートが高音で、ものすごいは早口でなんか言ってる。
早送り! すげえ早送り16倍速とかそんなもんじゃねえ。
タイムラプスビデオだ。
明かりがついた! 石切り場の空間が煌々と照らし出される。
こんな強力な灯り、どうやって?
そしてその光景。どこかで見たような形だなあと思ってたけど、わかったよ。
ショッピングモールね。巨大吹き抜け空間。
両脇にテラス状に張り出した通路と2階売り場。
アウトレットモール。
わらわらとものすごいスピードで人が出てきて、俺を担ぎ上げて運ぼうとする。
あー、これ。高速思考、加速状態の時の逆だわ。
周りが早くなってるんじゃなくて、俺が遅くなってる。
理屈はわかんないけど、たぶん魔法かなんかで遅くされたんだな。
よし、高速思考! クロックアップ!
周囲の状況がゆっくりになる。大体1倍速にもどったな。
『3600倍高速思考を実行中』
おう、ヘルプ君! それでほぼ等倍ってことは…
1秒間が1時間に引き延ばされてる感じか。
デイエートの声が聞こえる。
「こら、離せ! どこへ連れて行くつもりだ。」
「アイザックに何をした! 持っていくな!」
暴れる、ぶん殴る。
弓を振り回して肉弾戦!
どこからか湧いて来た人たちも、始末に負えなくなった感じで後ずさる。
周りを取り囲んで遠巻きに眺める。
何だ? この人たち?
特に種族に偏りなくいろんな人がいる。
エルフ、ドワーフ、獣人、人間…さすがに鬼人はいないが…
そして、戦士や兵士には見えない。一般人。
男も女も混じってる。
ところどころごっつい人もいるが…腕自慢のおっちゃんレベルだな。
それじゃあ、デイエートを取り押さえるのは無理だろう。
数を頼めば何とかなるだろうが…みんな腰が引けてる。
運ぼうとしてた俺のこともほっぽり出した。
横倒し、痛い。
動けない、というか、動きが遅い!
もとより、思考は加速出来ても行動や物理法則は加速できるわけじゃない。
カタツムリよりのろいぞ、今の俺。
デイエートが俺の上に四つん這いに覆いかぶさる。
鬼の形相で周囲を威嚇する。
「近づくな!」
「アイザック! アイザックっ!」
俺のこと守ろうと…必死だ。
胸が熱くなる。
くそっ、何か手はないか!?
「なんとも、けなげじゃな、女。」
何? 傍らに人影が立っている。え? いつの間に?
「女王さま!」
俺と妹エルフを取り囲んだ人垣から声が上がる。じょ、女王?
出現したのは黒いマントの人物…声からすると女だ。
黒マント、フード付き…い、痛い魔道士??
キラすけ好みの痛魔道士ファッションだ。
女王様って言うより、某銀河皇帝って感じのスタイル。
「何だお前! 近づくな!」
吠えるデイエートに向かって見せつけるように魔法陣を展開。
かくり、と力が抜け崩れ落ちるデイエート。
はっとするが…寝息? 今の今まで荒ぶっていたのが…すーすー寝息を立てている。
な、なに? 精神作用系の魔法?
「連れてまいれ。」
遠巻きだった人たちが一斉に寄ってたかって俺とデイエートを抱え上げた。
運び込まれたのは…何やら椅子やら寝台みたいなのやら…
えーっと、拘束台? そっちはまさか、それ…三角木馬的なものじゃないですか?
拷問室? ひえええー!
って、言うか…正直SMルームなんですけど?
鞭打ち磔台みたいなところに固定された。
ゴルゴダ状態。
デイエートは寝台型拘束台に寝かせられた。
「お前たちは下がれ。」
黒マントの命令に従ってそそくさと立ち去る人たち。
なんか、ちょっと変だな? 黒マントに対して質問もしないし…
女王様とか言ってる割には、そんなに敬っているって感じでもない?
かと言って怖がっている風でもない。
んん? 俺の正面にある机の上に、トンちゃん!
何やら護符みたいなものが貼り付けられている。
俺の時間を遅延させているのと同じ魔法だな。
痛い魔道士風の人物が黒マントのフードを下げた。
女だ! 声からもわかっていたが…
す、す、す、すごい美人!
黒髪、長い睫毛、白い肌、赤い唇。
ちょっと現実離れしたアダルト美女、濃いめ!
そして、マントを脱いだ。
……ちょあ? 女騎士みたいな変な声が出そう!
ゴージャスボディ!
黒レースのドレス! がっすんとせり出した胸!
深く露わになった谷間! おへそまで開いてる!
折れそうなほど引き締まったウエスト! ボリューム感あるお尻!
サイドスリットから覗くムッチリした太腿に、メリハリの利いた長い脚!
女豹戦士ウェイナさんもすごかったけど、それを超えるメガパワー!
ちょっと、もう物理的に有り得ないだろ、こんなの!
男の妄想が現実化したような、サキュバスボディだ!
…サキュバス? このヒト…似てる!
キラすけが夢幻投影したセクシーファンタジー版【黒き宝玉】
いや、生き写し。あの妄想夢が、今、現実の肉体となって眼前に!