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魔王城ロマンス


次々襲ってくる野獣たちを打ち払いながら進む、俺たち。

これじゃあ大街道以外の探索が進まないわけだよ。

俺たちはトンちゃんとU-69、さらにデイエートの感知能力があるんで、さほど危険とは感じないけど。

普通のヒト族には無理ゲーだ。

「まあ、ヒトが暮らしてるエリアならこれほどじゃありませんからねえ。」

やっぱり、獣機に追われて人がいなくなったせいで野獣たちの活動範囲が拡大してるのか…

日本の里山問題と同じだな。


たどり着いたのは岩山のふもと。

ある程度遠くから見てたときは、尖がった景観が人工物っぽくてお城っぽかった。

でもこれだけ近づくと圧倒的。断崖絶壁。

三角定規を見てると45度ってこんなもんかーって思うでしょ。

でも現実にスキー場とかで斜度40度のゲレンデとか眼前にすると、これはもう絶壁。

いやいや無理無理、リフトで降りるよ俺、的な。

スキーのジャンプ台でさえ約35度に過ぎないんだから。

この山、60度はあるんじゃね。

エギュイユクルーズ、奇巌城|(南洋一郎)だ!

魔王城山と呼ばれるにふさわしい。

…こりゃあ山頂にお城を作るとかは無理。とても登る手段がないしね。

道なりにふもとに近づくとトンネルがあった。

洞窟みたいなとこかと思ってたが、もろトンネル。

アーチ形、きちんと形が整っている。

なるほど、切り出した石を搬出するための道路ね。

トンネルの中は電波が届かないので、獣機の心配はない。

野獣たちもトンネル内には入ってこないみたいだ。

今夜はここで泊まりだな。


入口すぐのところに陣取ると食事の支度にとりかかる。

煮炊きとかがあるので、あんまり奥へは行かない。

狩ってきたラグビー猪を兄エルフが手早く解体。

俺が集めて来た焚き木を触媒魔法で燃やしてバーベキュー状態。

「野菜が足りませんねえ。」

お兄ちゃんは不満そうだが、女性陣は文句を言わない。肉食!

脂が焼けるいい匂い。食事できないこの機体が恨めしい。


食事が終わったあと、もう少しトンネルの奥に進んでキャンプを設営。

「さて、王都の話を聞こうか。どんな尾ひれがついてるか興味あるぞ。」

先生、デイエートが興味津々。

女騎士が語ってくれた魔王城の伝説とは…


大陸に出現した魔王のもとには多くの魔人たちが集い、配下に加わった。

その中でも強力な力を持った4人が四天王を名乗った。


「魔人とは?」

「生まれながらに強力な魔力を持っていたり、魔道を極めた末に人のことわりを超えた者だな。」

「あと、人間・エルフ・ドワーフ・獣人以外の、ヒト族とは異なる半分霊的な存在…」

「例えば妖精フェアリー族とか、吸血鬼ヴァンパイア夢魔サキュバス族とか…も魔人扱いされることがある。」

「この辺はどっちかって言うと、数が少ないんで能力が珍重されるって感じだな。」

「人狼族も元は魔人扱いされてたらしい。」

「イヌ系獣人と相性が良くてすっかり混じっちゃったんで事実上絶滅したが。」

いや、それだと……先生も十分【魔人】なんじゃないですかね?


女騎士の話は続く。

都市国家の軍兵を糾合したナビン勇王は陥落した旧首都市を奪還。

大街道の拠点を制圧、奪還しつつ魔王の大迷宮へと進攻した。

その前に立ちはだかったのが四天王が立てこもる魔王城。

四天王の筆頭だったのが、強力な夢魔族の魔女、【真黒しんこく女帝エンプレス】メガドーラだった。


いや、【魔王】より偉そうですやん、それ。

え? キラすけのお祖母ちゃん? 魔王方だったの?


ナビン王は四天王のうち三人を倒したが、力を使い果たし、魔女に圧倒される。

同行していた魔導師エルディーと魔女とはかつてともに魔道を学んだ親友だった。

エルディーは魔女を説得しようとするが拒否される。

実は、同族たる夢魔族を魔王に人質に取られていたのだ。

悲しみとともに勇王と親友を葬らんとするその時、駆けつけたのが大剣豪プロフィル。

魔導師エルディーの魔力附加エンチャントを受けた剛剣をふるって、魔女を打ち倒す。

だが事情を知った大剣豪は魔女にとどめを刺すことが出来なかった。

生き残ることは夢魔一族を見捨てることになるとして、自分を討つことを懇願する魔女。

その悲しい境遇と美貌に触れた大剣豪は彼女に心惹かれる。

ナビン王は賢者エアボウドの提案で魔女の戦死を偽装。

同行していた名工コウベンは石を刻んで魔女の遺骸を偽造する。

それは、魔王をも欺く出来栄えであった。

姿を変え、名をジェネシスと変えて、大迷宮に囚われた同胞救出のため同行する魔女。

後に七英雄の一人として、大魔女メガドーラと呼ばれることとなる。

そして、魔王を打倒し、大迷宮を封印したのち、大剣豪と大魔女は結ばれたのでした。

めでたし、めでたし。どっとはらい。


ええ話や。

「すてきねー。」

「ロマンチックですねえ。」

兄妹エルフには好評だ。

そして、先生は渋い顔。

「親友ぅう~?……うーん…」

「えーっと…四天王の残りっていうのは…?」

「魔獣使いのドワーフ、ダークエルフの暗殺者、爆殺卿と呼ばれた魔導師です。」

「どこまでホントなんです?」

「いや、あんま…夢を壊しても…思ったよりいい話になってるし…」

言いよどむ先生。

「まあ、いいじゃないか、いいじゃないか、夢があるのは!」

「まあ、いいじゃないか、いいじゃないか、明日あるから寝よう!」

うやむや化しようとしてるぞ!

「いやいや、気になりますから。」

「気になるわよ、そんなこと言われたら。」

「ちょちょちょ、気になります。私だって。」

気になりますね、俺も。


「ううむー、四天王ってのは実は魔王の配下じゃなくて…」

「え?」

「混乱に乗じて好き勝手してたならず者って言うか…かたり者って言うか…」

「まあ、あちこちから手配とかされてたんで、ここの地下を根城にして…」

「まあ、メガドーラは知り合いだったんで説得して…報酬を約束して雇ったって言うか…」

「魔獣使いは獣人とドワーフのハーフでなかなかのやつだったが……」

「ダークエルフは元軍属で、夜戦専門だったのでガングロ化粧してたんだ。」

「爆殺卿って奴は詐欺師だったし…」

「メガドーラが裏切って、煙でいぶして魔獣を片付けたら泣きが入って…」

「魔獣使いは野獣避けに途中まで同行してもらったけど……」

「地元出身だったんで大街道に出たらすぐ国に帰ったし…」

ジモティ四天王。

「ダークエルフと詐欺師は逃げ足が速くて…」

「まあ、メガドーラは夢魔族らしくエロかったんで、プロフィルがたらし込まれて…」

「あいつ、剣術ばっかでオンナに免疫が無くてな…」

先生がため息。

「メガドーラはあちこちでやらかしてたんで、しばらく偽名を使うことにしたんだ。」

みんなも渋い顔になっちゃった。

「夢魔族の同胞って話は…」

「いや、別に人質になってたわけじゃなくて…」

「魔王のところで、たまたま働いてるのがいたって言う…」

「メガドーラが強かったのはあくまで魔道士としてであって、夢魔族自体には戦闘力は無いからな。」

「そいつらは夢魔能力も発現して無かったし…メイドさんとかやってたんだ。みんな美人だから。」

大剣豪プロフィルは今のバッソ侯爵家の初代。

「結婚はしたんですよね? プロフィルさんと。」

「ああ、その後おやっさんが王城の建設にかかりきりになって。」

「私らも手伝いで、一緒にいたんだが。」

「まだ田舎町だった今の王都で、ごちゃごちゃやってる間に出来ちゃたんだ、ベガ坊主が…」


出来ちゃった婚かあー…


「まあ、旧首都市が陥落したって言うのも、兵糧攻めだし。」

「大街道を封鎖されて食料や燃料が入ってこなくなったんで音を上げたんだよな。」

「実際には、都市で交戦した訳でもないし…」

「陥落って言っても魔王の街道領有を認めるって宣言を出しただけで実際の被害は無かったんだわ。」

「魔王討伐に派遣された各都市の軍隊は補給が来なくなって野盗化してて…」

「ブレビー…先代のモアブ伯が村々に頭下げて回って物資食料を調達してなあ。」

「メシでつって、軍を統合したんだよ。一番頑張ったのはあいつかもな。」


女騎士が息をしてないぞ。

その幻想をぶち砕かれたっぽい!


いつの間にやらトンネルの外は真っ暗。

時計があるわけじゃないから地下にいると時間がわからない。

まあ、俺は内蔵時計がありますけどね。

「まあ、英雄譚なんてそんなもんだ。」

「寝よ、寝よ。」

先生の掛け声でごろ寝体勢。

「この奥は凄く広いんでな、うっかり入ると迷子になる。」

「この辺がいいだろ、一夜の宿には。」

見張りは俺、トンちゃん、U-69がいるんで全員就寝だ。

触媒灯りの光量を絞って…

うん? 今…360度視界が灯り?を捕らえた!

一瞬、トンネルの奥のほうに光が見えた。

直接の灯りじゃなく、分岐した通路の奥から漏れた光。

今は見えない。消した? 隠れたのか? 誰かいる!

トンちゃん、確認に行って!

ぴくり、と身を震わすデイエート。

「今…」

「動かないで…気付いてないふりで…」

こんな所に人が? なぜ、隠れたんだ?

もっとも俺たち、犬獣機に馬獣機、と俺。

都合4体も人外機体を連れた一行だ。

圧倒的な怪しさ!

見かけたら隠れるよな、そりゃ。

刺激しないよう、ここはトンちゃんに任せよう。


トンちゃんアイから映像が送られて…いや、意識共有。

今、俺はトンちゃん。光が見えた場所に着くとホバリング。

ここか! 角になった部分、通路が分岐している。

広い! むしろトンネルよりも広い空間につながっている。

石切り場…宇都宮の大谷石おおやいし採石場跡を彷彿とさせる。

広すぎて迷宮って感じは無い。地下宮殿…いや…

なんだろ? もっと別のもの…

いかん、広すぎる。途方にくれる広さ。

増感処理したトンちゃんアイでも奥まで見通せない。

ライトを点ければ見えるだろうけど、それじゃこっちが丸見えだ。

あう? 落ちてる? トンちゃん落ちてるよ! 羽ばたきが遅…

意識共有が切断。トンちゃんからの通信が途絶えた!

いや? 途絶えてない? ええ? 何これ!

通信速度…が…お  そ   い    ぞ・  ・    ・



とうとう100話を超えました。

何でこんなに長くなっちゃったの?

すいません、まだまだ続きます。


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