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魔王城伝説



アトラックさんと別れた俺たちは、馬獣機に馬車を引かせて大街道をひたすら突っ走る。

御者台にはハイエートお兄ちゃん。騎手にはデイエート。

女騎士はフリー馬獣機。馬車には先生だけが乗ってたけど…

「えーい、さびしいわ!」

とか言ってハイエートの隣、御者台に出てきた。


もうじき、獣機の基地局のサービスエリア内に入るはずだ。

ひとつ気ががりな事がある。

基地局の命令可能範囲に入ったときの、馬獣機やU-69の挙動だ。

馬獣機を送り込んだのが、味方の【上位存在】だとすればその辺の対策は打っているだろう。

そもそも調べた限りでは、馬獣機には攻撃能力が無い。

だが、U-69の方は捕獲したのが偶然だったとすれば…

命令を上書きされて再びヒトを襲ったりはしないだろうか?

ケルベロスの時はミネルヴァが大丈夫だと太鼓判を押してくれたけど…

それは、将機ボディを通じて命令が出来るからだ。

こいつはどうだろう?

「私が並走して警戒しておきますが…皆さんも注意してください。」

「もし、ダメだったらどうするの?」

「破壊するしかないでしょう。」

複雑な顔するのはデイエート。リボン獣機に感情移入したか。

「これを貼っておけ。」

先生が渡してくれたのは雷神槌サンダーボルト護符ディスク。

自爆装置みたいなもんか… 俺も複雑な気分だ。


念のために、俺と犬獣機はみんなとちょっと離れたところを走る。

馬獣機は馬車を引っ張っても快調だ。パワーには余裕があるようだ。

移動を始めて1時間ほどもたったころ…

次の基地局の電波をキャッチした。

受信強度表示のアンテナは1本。

だが、通信には十分な強度。

あれ、U-69、お前電波出してない?

双方向通信? うおっとタンマ、タンマ!

お前が電波出したら俺たちの位置がまるわかり!

「U-69、通信は禁止ですよ!」

「ピー!」

しまった。迂闊でした。先に言っとくべきだったよな。

『ぴろりーーーん!』

おおっと、メールが来た!

一斉送信メール。「強制力」のタグがついている!

『殺せ!』

『ぴろりーーーん!』

もう一通来た!

『早く来て!』

こっちは俺宛メール。

勝手な事言ってくれるぜ!


どうだ!? U-69?

戸惑ったようにキョロキョロするリボン獣機。

困ったように俺の顔を見上げる。

「メールの命令に従う必要はありません。私の命令にだけ従いなさい!」

「ぴー!」

大丈夫そうだ。

『再インストールの際にファイヤウォールをオンにしました』

『強制力の解除に成功』

おおっと、ヘルプ君、そゆの先に言ってよね。

初期化、再起動して本来の警護機能を回復した獣機は強制力を受け付けないらしい。

よかった。破壊しないですんだ。

もう大丈夫だぞ、U-69。ただし、電波出すのは禁止な。

「大丈夫だったか。」

先生、デイエートもほっとした様子。

馬獣機のほうは、そもそもメールを受診していないみたいだ。

電波も発信していない。通信機能そのものが制限されているのか?

味方の【上位存在】がうまいことやってくれたらしい。馬だけに。

「ただ、U-69の位置を特定されたおそれがあります。すぐに移動しましょう。」

夕方まで走って本日の移動は終了。

獣機の襲撃はなく予定通りの距離は稼げた。

ミーハ村の山頂から得た情報で作成した地図はここまでしかない。

ここから先は王軍の作った頼りない地図にしたがって移動する事になる。

そして案内役はポンコツ女騎士クラリオ。

ちょっと心配だ。


今夜も野宿。

しかもここは獣機の活動範囲内。

夜間でも油断はできない。

もっとも、獣機はもう俺と戦うことをあきらめているように見える。

基地局を襲撃した時も、反撃した奴はあくまで時間稼ぎ。

他の獣機を逃がすために最低限の機体を犠牲にしたように見えた。

だとすれば、勝ち目のない襲撃を行うだろうか?

俺たちが本拠地に近づいたときどんな行動に出るだろうか?

獣機が人間を襲う行為が本来の目的と矛盾しているとしたら…

行動が合理的である保証はない。逆に予測が難しいな。


夜が明けた。

今日も女騎士が馬獣機に乗って先導。

みんなどうも無口だ。さすがに緊張してる。

しばらく進むと分かれ道があったが、ここは通り過ぎる。

「今のところがミゾロギィへ行く分岐点ですね。」

ミゾロギィ…ダットさん、ベスタさんの村…

獣機に追われて放棄されたと言う。

故郷を捨てなければならなかった人たちは、どんな気持ちだったんだろうか。

チルタちゃんや村長さんのように肉親を失った人もいる。

いまさらだが、俺、ちょっと軽く考えすぎてたのかもしれない。


さらに1時間ほど進んだあたりで女騎士が声を上げた。

「あの、山の形…見覚えがあります。このあたり…ですね。」

大街道から見る限り分かれ道とかは見えないが…

偵察ドローン、トンちゃんを上空に上げて周辺の地形を確認。

わき道を発見した。大街道よりは狭いがけっこう広い道だ。

うん? この道、大街道につながっていないぞ。

途切れている?

「軍で使われていた地図には書かれていない分岐です。」

「何でだか…大街道から見える部分が崩れていて…」

「獣機の捜索をしていなかったら気づかなかったですね。」

まるでわき道の存在を隠そうとしたみたいだな?

「その先に獣機の痕跡を見つけました。」

「大街道へ出るための通路として使っていたようです。」

「合流点はこの先少し行ったところ…」

崩れているところは馬車が通れない。

先に俺と女騎士で現場を確認することにした。


女騎士は馬獣機、俺は徒歩。

馬獣機は不整地でも器用に入っていく。

崩れたところを越えて、わき道に入る。

けっこう立派な道だ。

さらに進むと。

「ここです、こっちの森から獣道が合流…うっ!」

獣道? 踏み固められて、もう完全に道になってる。

王軍の探索から4,5年経っていると言うから、その間に獣機が何度となく通過したせいだろう。

何にせよ、ここが女騎士の到達点。

その先は危険すぎて探索を断念した。

「大街道へ戻りましょう。」

いる、獣機が。電波発信体を確認。

大街道とは逆の方向に遠ざかりつつある。

U-69から収集した本拠の座標へ向かっている。

間違いない、この先が奴らの基地だ。


と?

帰ろうとした方向に何かいる?

熊? 猿?

いや、俺の知らない動物ですよ。

簡単に言うとひぐまサイズの猿。

狒狒ひひとか大猩々(だいしょうじょう)って感じ。

こっちに気付いた?

うわあああー! むかってきたあ!! 凶暴だコイツ!

ビームで…

ちょ! クラリオさん? 馬獣機で突進、迎え撃った。

掴みかかってきた手|(前足?)をざっくり斬り割る。

突進をやり過ごすと一刀のもとに切り捨てた!

「きえええーっ!」

首、すっ飛ばす。凶暴だコイツ!

「ふん、相変わらず変な獣がいますね、この辺。」

巨獣の突進をよけてから斬るのではなく、斬ってからかわす。

勇気とか度胸とかいうレベルを超えてる。

大街道に戻るまでさらに2匹の獣に遭遇。

オオトカゲっぽい奴。巨大カマキリっぽい奴。

喜々としてぶった切る凶暴女騎士。

「やはり、獣機より斬りがいがありますね。生身の獣は!」

こ、コイツ、普段はポンコツだが真正の狂戦士だ。

俺の出番がねえ!

しかし、大街道を外れた途端この遭遇率! 危険すぎる。

そういや、湯治場の大蜘蛛だって大街道の外だよな。

大街道には怪物よけの効果があるって言っていたけど、これほど違いがあるとは。


大街道にもどると先生に報告。

「確認しました。獣機の通路です。」

「けっこう立派なわき道があるんですが、どこへつながっているのかは不明です。」

「そうか…やっぱりな。」

何か心当たりがあるんですか? 先生。

「あーほら、あの山。」

先生が指さすのはわき道が向かう方向にある特徴的な岩山。

尖んがってる。

「やっぱりここ、アレだわ。」

あーほらほら、アレアレ。先生、それお年がアレな人な感じですよ。

「来たことあるわ、ここ。」

「200年前とかいってましたねえ。ほんとに憶えてるんですか?」

首をかしげる兄エルフ。

「そんなことより…」

「大街道を外れたら獣機だけじゃなく野獣も襲ってくるし…」

「どこか野営できるところ、探さないと。馬車も持ってけそうもないし…。」

デイエートが寝床の心配。

確かにさっきの遭遇率を考えると重大な問題だ。

崩れたところを越えればその先は馬車が使えそうだったが…

「わたしの記憶が確かならば…この先、あの山にいい場所がある。」

「しかし、あそこ、獣機の本拠の近くだったとはな…何か関係があったのかな?」

「あの頃は大街道につながってたはずだが。何で崩れたんだ?」

「隠蔽工作? ナビン達がやったのかな?」

いきなり、ナビン勇王の名前が出て来た。

あせる、王軍女騎士。

「ななな、ナビン王? いったい、どこなんです? 心当たりの場所って。」

「ああ、魔王城だよ。懐かしいなー。」

はあ? いきなりファンタジーな地名が出て来たぞ?

「ままま、魔王城!! あの伝説の!?」

「ええ? ここ、近くなんですか? 知らなかった!」

意気込む、女騎士。俺には全然話が見えてこない。

「魔王城ってのはどういうものなんです?」

「おおお、王国の建国前、大陸中央に現れた魔王の居城です!」


女騎士がつらつらと王国建国に関する歴史を語ってくれた。

ざっと要約するとこんなこんな感じ。

都市国家間を結ぶ大街道。どの都市の支配下でもない古代の遺構だ。

その大街道の領有を宣言して都市国家間の交通網を分断、文明の脅威となった魔人がいた。

大迷宮を作り上げ、強大な魔力を持ち、魔獣を操って各都市の軍隊を撃退。

最大勢力だった旧首都市を陥落させ、全都市に従属を命じた。

その危機に、各都市の敗残兵をまとめ上げ、魔王に対抗したのが若き日のナビン王。

四天王の立てこもる魔王城を打ち破り、ついには魔王の力の源である大迷宮を封印。

その後、魔王出現前は対立を繰り返していた各都市国家をまとめ上げる。

後に王都となる都市を建設、王国の建国を宣言した。

「勇王が魔王城を破壊した後、封印された大迷宮とともにその所在地は秘密とされたのだ。」

「第二の魔王の出現を防ぐための処置だったと言われている。」

そそそ、そんな壮大な物語があったのか!?


「ナビン王や七英雄の伝説、建国由来の地と聞いては、血沸き肉躍る!」

踊る肉は筋肉ばっかりですがね、熱血女騎士。


わき道の崩れたところ、俺が馬車を担ぎ上げて渡れないか、と思ったけどちょっと無理。

パワー的には問題ないけど、足場が悪すぎる。

馬車もろとも転がり落ちる未来しか見えない。

馬車はここに置いていくしかないか…

馬獣機1号には女騎士と先生。2号にはデイエート、ハイエートが二人乗り。

荷物は俺が担ぐ。U-69とトンちゃんが先導だ。

ここで、困った事実が判明した。

荷物運び用には以前使った背負子しょいこを持ってきたわけだが…

マント羽織ってると背負子が担げない。

今頃なに言ってんだって話ですが…

「ま、他人がいるわけじゃなし、見た目を隠す必要は無いんだからマントはしまっとけ。」

うう、せっかくかっこいいマントなのに。


「伝説に伝わる魔王城をこの目で見れるとは!」

うるうるしてるぞ女騎士。歴女れきじょ騎士か!?

「いや、言っとくけどあの山に魔王城って城は無いぞ。」

あっさり否定する先生。

「は?」

「期待してるところを悪いが…」

「魔王城って…魔王が出現する前からそう言う地名だったんだよ。」

「は?」

魔王城山まおしろやま」「そう言う地名」

「は?」

「地元の人が山の形が城っぽくてかっこいいからそう名付けたらしい。」

「【魔王城山】に砦を作ったから【魔王城】って呼ばれてるけど…」

「城ってほどのものは無い。」

「は?」

馬獣機から転げ落ちた、女騎士。あぶねえな。

「そ、そ、そ…」

「魔道機文明時代以前から使われていた石切り場があって、地下に空洞があるんだ。」

「そこを魔王の配下を名乗るやつらが根城ねじろにしててな。」

「自称、四天王。」

自称かよ!

「大街道に敷かれているブロックはそこから切り出されたんじゃないかなー。」

「詳しく調べたわけじゃないから、知らんけど。」

「だからたぶんこの道、それ用の産業道路だったんだろうな。」

「石で舗装されてたような気がしたんだが…記憶違いかな?」

なんか期待してたのとずいぶん…

「生乾きの焚き木を積んで煙を焚いて、送風魔法で燻してやったんだ。」

「使役してた魔獣がみんな逃げだしちゃってな。」

「四天王とか言ってたやつら、泣きが入ってたわ。」

衝撃の事実にぐらんぐらんしてるぞ。女騎士。

「じゃ、じゃあ、ししし四天王筆頭の魔女と、大剣豪のラブロマンスって言うのは…」

半泣き、女騎士。

「え? なに? そんな話になってんの? 王都では。」

「いやいや、まずそっちの話聞かせてよ。」

先生、興味津々。

「あたしも聞きたい!」

デイエートも食いついて来た。好きだねえ。

「いやいや、とにかく落ち着けるところまで行きましょうよ。」

お兄ちゃんが、森から滑空して襲ってきた巨大モモンガ的野獣を撃ち落しながら言う。

「そうですね、ちょっと話を聞く状況では…」

道のわきから飛び出してきたラグビー猪(やや小型)を受け止めながら俺も同感。

頭部を凍らせて仕留め、全体を冷やす。

「晩御飯はコイツでいいですかね?」



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