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パックリマンゴーのゼリー

 説教されているリーンベルさんの姿を見続けたスズは、もう1度焼き鳥を持ってリーンベルさんの目の前で座った。


「お姉ちゃん、私と焼き鳥どっちが大事?」


「ス、スズだ……よ」


 なぜぎこちない。

 でも、今回は焼き鳥の方を見ずにスズを見続けている。

 ギルドの先輩と後輩に説教されて、心を入れ替えたみたいだ。


「この焼き鳥食べたい?

 本当に反省した?」


 無言で『うんうん』と頷くリーンベルさんは涙目だ。


 反省したと思ったのか、スズはリーンベルさんの口元へゆっくりと焼き鳥を近付けていった。

 リーンベルさんはそれに合わせるように、ゆっくりと口を開けていく。


 スロー再生しているような光景にじれったい思いを感じつつ、最後のチャンスがうまくいくようにと、僕達は手を合わせて願っている。


 焼き鳥がリーンベルさんの口へ吸いこまれるように近付いていき、もう少しで被り付けるような距離にたどり着いた時だった。


「マテ」


 飼い主であろうスズがお預けにしてしまう。

 天使という犬であるリーンベルさんは、口を開けてよだれを垂らしたまま、じっとスズを見つめて我慢している。


 失いかけていた理性を取り戻した決定的な瞬間である。


「妹と焼き鳥、どっちが大事?」


「……ス、スズ……だ……よ」


 やっぱりぎこちない、スムーズに妹の名前を呼んでくれ。


 縛られた姉と焼き鳥を持った妹が見つめ合っているシュールな絵面を、なぜこんなに心配な気持ちで見守っているんだろうか。

 マールさんは小声で「頑張って、ベル先輩」とエールを送り、アカネさんは「人に生まれ変わるのよ」と呟いていた。


 じっと見つめてくるリーンベルさんに心が折れたのか、スズは「はぁ~」と大きなため息をついた。


「今度やったら、2度と戻ってこない」


「はい……気をつけます」


 圧倒的に姉の方が弱かった。


 ロープをほどいてあげたスズは、リーンベルさんを座らせたまま椅子ごとテーブルの方へ運んでくれた。

 厳しい罰から解放されたリーンベルさんは、混乱してオロオロしている。


「スズ、本当にいいの?

 また縛ったりしない?」


「うん」


「あ゛り゛か゛と゛う゛こ゛さ゛い゛ま゛す゛」


 本日2度目の綺麗な土下座を決めたリーンベルさん。

 許してもらえたことが嬉しかったのか、号泣して何度も頭を下げている。

 土下座を求めていないスズの方が困った顔をするほど、全力で謝っていた。


 ようやく食事にありつけたリーンベルさんのために、アイテムボックスへ入れておいた焼き鳥と親子丼を出してあげる。

 スズの誘導で椅子に座ったリーンベルさんは、目の前に用意された料理を食べ始めようとせず、スズの方をチラチラと見ていた。

 謎の沈黙が5秒続いた後、スズが「よし」と言ったら猛スピードで食べ始めていく。


 もう完全に犬じゃん。

 さっきの「マテ」がまだ効いてたのかよ。


「ぼびびびー、ぼびびびー」


 もう何を言っているのかわからない。

 多分「おいしい」と言っているんだろう。

 誰も取り上げたりしないから、ゆっくり食べてほしい。


 ようやく僕も心臓が握り潰される痛みから解放された。

 これで4人の美少女を独り占めするという、幸せな時間にたどり着けるよ。



- 30分後 -



 相変わらずの大食いを発揮するリーンベルさんに、マールさんとアカネさんは驚いている。

 ノンストップで食べ始めて、早くも親子丼を20杯目。

 同僚がいきなり大食いになったら、誰だって驚くよね。


「ベル先輩って、ボクより食べる量が少ないはずだったんだけど、絶対食べすぎだよね。

 もう……ボクの知ってる先輩はいないんだね」


 あっ、マールさんの憧れていたリーンベルさんのイメージが完全に崩壊してしまった。

 百合的な展開も楽しみにしてたのに。

 そのルートが崩れてしまうのは悲しいから、リーンベルさんにはこれから頑張ってもらいたい。


 一応フォローしておこう。


「内緒にしてたらしいですよ。

 女性の職場でこれだけ食べても太らなかったら、反感を買うだけですし」


「確かにそうね。

 これだけ食べても太らなかったら、頑張ってダイエットしてる子は怒るわね。

 ……さっきの反省はまだ覚えているのかしら」


 それは言わない約束ですよ。

 スズがもう1度怒ることになりそうで聞けませんから。


「リーンベルさん、まだお昼ですから、これで最後にしてくださいね。

 夜も同じメニューにしますので、続きは仕事が終わってからですよ」


「は、はい、すいません」


 申し訳なさそうな顔で親子丼のおかわりを受け取った。

 さっきの出来事は覚えているみたいだ。


「もしかして、毎晩こんな感じで食べているのかしら?」


 僕はアカネさんに無言でうなずくと、リーンベルさんを見る目が鋭くなった。


 気付いてしまったんだね、真のリーンベルさんが怪物だっていうことに。

 不死鳥(フェニックス)のカイルさんなんて、『ボス』というあだ名を付けたからね。


「毎晩こんなに食べられたら、食費も作るのも大変だね。

 ……え、待って!

 ベル先輩と毎晩ごはんを一緒に食べてるの?!

 まぁ、別にもういいけど」


 やっぱり愛が完全に冷めてしまってる。

 強烈な短所である大食いで、彼女の魅力が隠れてしまうというのは可哀想だ。


 食べる姿は可愛いし、面倒見もいいし、心配して泣いてくれるような最高のお姉ちゃん属性を持っているのに。

 なんだかんだで甘えさせてくれるし、不意を突いて時々ちょっかいを出してくれるところが刺激的で良いといいますか……。


 優しいだけのフィオナさんみたいな存在じゃなく、怒ってくれる辺りが堪らないんだよね。


 ……めちゃくちゃ怖いけど。

 でも、またあの頃みたいに叱られたいと思ってしまう。


「スズとパーティ組んでから、一緒にごはんを食べるようになりました。

 食費は冒険者活動で手に入りますし、足らないものはスズが出してくれています。

 リーンベルさんは食べる専門ですけど、スズも一緒に食べたがってますから問題はありません」


 最後の一口を食べたリーンベルさんは、皿に残っている焼き鳥のタレを箸で集めて口へ運んでいる。

 やっぱり20杯じゃ足りないみたいだ。


 アカネさんもマールさんもその姿に呆れていた。

 その視線をまだ怒っていると勘違いしたのか、再びリーンベルさんが怯えだしてしまう。


「ベル、私もマールも怒ってないから、もう少し落ち着きなさい。

 なんで1番年上のあなたが、妹とタツヤくんに世話をされているのよ」


「そうですよ、ベル先輩。

 2か月前までタツヤの面倒を見てたベル先輩と、立場が逆転しています。

 もう少ししっかりしなきゃダメですよ」


「は、はい、おっしゃる通りです」


 その後、なぜかもう1度説教タイムに入ってしまった。

 終始リーンベルさんが謝り続けていると、調子に乗ったスズが割り込んだ辺りから、微妙な空気になり始める。

 2人はリーンベルさんのことを思って怒ってるのに、スズだけは「顔をなめさせろ」「甘噛みさせろ」と、姉に欲求をぶつけだしたからだ。


 マールさんもアカネさんも賛同できなかったようで、スズも巻き込まれるように怒られ始めていった。

 僕はもう少しスズと特訓していこうと心に決め、怒られ続ける姉妹の姿を見守った。



- 30分後 -



 姉妹への説教が終わると、4人はいつものような雰囲気を取り戻し始めた。

 普段通り話せるようになったリーンベルさんの楽しそうに笑っている姿を見ているだけで、僕は自然と頬が緩んでしまうよ。


「もうそろそろデザートを出しますね。

 これを食べたらギルドに戻りましょう。

 1人1つずつしかありませんから、味わって食べてくださいね」


 パックリマンゴーのゼリー、モモパンティのゼリーを1人1つずつ渡していく。

 リーンベル姉妹に食べてもらう予定だったけど、マールさんとアカネさんという最高の2人にも食べてもらえてうれしい限りだ。


「ボク、こんな綺麗なデザート見たことないよ!」


「私もよ、透き通るような透明感があってすごく綺麗だわ」


 マールさんとアカネさんは、ゼリーの綺麗な見た目に驚いていた。


 ゼリーは果物の鮮やかな色合いを受け継ぐ、透明感のある不思議なデザート。

 液体を柔らかく固めるという食感が新しいニュータイプのデザートであり、プリンの兄弟分といえるだろう。


 リーンベルさんとスズは、姉妹仲良くゼリーをプルプル揺らして遊んでいた。


「なにこれ、プルンプルン」


「む……ほ……」


 スズはゼリーを自分で揺らしてプルンッとする度に、マネして一緒に揺れている。

 それを見たリーンベルさんまで、ゼリーに合わせて揺れるように遊び出した。


 この姉妹はたまに独特な遊びをするから困る。


「パックリマンゴー、モモパンティのゼリーです。

 倒れないと思いますけど、気を付けてくださいね」


 王都以外で食べられない果物は、スズ以外にとって初めての果物になるかもしれない。

 3人とも嬉しそうにゼリーを見つめている中、スズだけはひたすら揺れて遊んでいた。

 とても楽しそうに遊んでるスズの姿を、僕の頬は自然と緩んでしまう。


 君が揺れる度に、ゼリー以上にプルプルと揺れるおpp(自重


 スズのおっぱいに夢中になっていると、気付けばリーンベルさんがパックリマンゴーのゼリーを食べ始めていた。


「パックリマンゴーって、すごい甘いね。

 深い甘みで幸せが残るなー。

 なんだか私、パックリ開きそうだよ」


 リーンベルさん、ちょっと発言に気を付けてください。

 何がパックリ開くのか問いただしますよ。


「ボクはパックリしたよ」


 一口食べただけで、なぜパックリしちゃったの?!

 元気っ子のマールさんが言うと、禁断の領域に踏み込んでしまったみたいで困るよ。


「お姉さんもパックリしてしまったわね」


 色気の塊であるアカネさんは言わないでくださいよ。

 妙にリアルに聞こえるから、どういう意味なのか気になって仕方がないじゃないですか。


「パックリマンゴーの独特な甘みが口に拡がる。

 このまったりとした甘さが心に染みる。

 食感が違うゼリーと果肉の2つのパックリがまた良い」


 スズのたまに炸裂するナイスな食レポに助けられた。

 今日1番ホッとした瞬間だよ。

 君がいてくれて本当によかった。


 それにしても、マンゴー食べただけで『パックリ開く』って感想はどうなんだろうか。


 ……あっ、みんな閉じてた足がパックリ開いてるわ。

 な、なんだよ、焦らせやがって。


 さすがにしゃがんで確認することはできないけど、4人とも足をバンッと開いたままゼリーを楽しんでいた。

 可愛い女の子がそんなに足を開いたら、お行儀が悪いですよ。

 ちゃんと閉じてくださいね。


 和やかなままデザートの時間が進んでいくと思ったら、急にスズが立ち上がって睨みつけてきた。


 やはりスズとは決着を付けなければならないのか。

 王都で約束をした、因縁の対決の決着を。


 さぁ、モモパンティとモモTバック、どちらが真のパンt……モモか決める闘いを始めようか。

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