情熱強すぎ問題
- 翌日 -
国王に呼び出されてたので、スズと一緒に会議室へ向かう。
部屋に着くと、すでに不死鳥とアンリーヌさんが座っていた。
ぽんっぽんっ
あっ、はい、久しぶりにシロップさんの膝の上にお座りできますね。
当たり前のようにシロップさんの膝の上に座ると、いきなりトップギアで攻めちぎってきた。
3週間以上もクンカクンカを我慢してきたシロップさんは、従来のように1か所を集中的に嗅いでくることはない。
腰・背中・肩甲骨・首元など、高速に顔を移動させながらクンカクンカしてくるんだ。
まるで、分身したシロップさんが全身を嗅いでくるような感覚に陥ってしまう。
全身がゾクゾクするような高揚感に溢れ、僕の心臓は早くもヒートアップ。
会議が始まる前だというのに、僕達2人は目をギラギラさせていた。
とても会議向けじゃない2人は放置され、国王が会議を進めていく。
「ワシは2つのパーティと個人的に話をしているが、改めて例を言う。
今回のスタンピードは、お前達6人の活躍が大きかった。
不死鳥は1,500体以上の魔物を討伐。
ショコラは敵の真意を見抜き、強大な力を持つ黒幕を討伐。
本当に感謝している、ありがとう」
国王は頭を下げ、お礼を伝えてくれた。
続くように、アンリーヌさんが立ち上がる。
「不死鳥の活躍は騎士団および冒険者の目撃者が多数だ。
ショコラに関しては、王族が活躍を認めている。
お前達6人は、今や英雄と呼ばれているような状態だ。
まぁ、国王がそう発表したのが原因だがな」
僕なんて味噌しか出してないんだから、英雄って呼ばれるのは申し訳ない。
でも、そっちの方がフィオナさんと結婚しやすいのかな。
一般市民よりも英雄と結婚の方がいいもんね。
どういう形で民に公表するか知らないけど。
「そこで、不死鳥の4人はAランクからSランクに。
スズはBランクからAランクに、タツヤはEランクからCランクに昇格してもらう。
次回依頼を受ける時で構わない、ギルドの受付で更新してくれ」
いきなり醤油戦士がCランク冒険者に昇格してしまった。
嬉しいけど、実力が伴ってなさ過ぎて辛い。
これからもスズさんに全てを任せていこうと思う。
「カードの更新はフリージアでもいいですか?」
「あぁ、構わない。
王都で冒険者活動をする予定はないのか?」
「そうですね、早くフリージアに帰りたいです。
カードの更新も、気心知れた受付の方にやってもらいたいですし」
またブーブー言われそうだけどね。
でも、リーンベルさんにお願いしたいんだ。
「そうか。また王都の冒険者ギルドにも足を運んでくれ。
もう1つ、報酬については国と冒険者ギルドで合わせて支払うことになった。
各パーティに白金貨100枚だ。
異例の額ではあるが、国王と何度も話し合って決めた結果だ」
白金貨100枚って、1億円だぞ?!
スズが王族の命を救ったといっても、貰いすぎじゃないだろうか。
報奨金に困って、ホットドッグ祭りをやったはずなのに。
ありがたくいただきますけどね。
その後もアンリーヌさんと国王の話は続いていった。
簡単にまとめると、英雄なんだから頑張ってねって感じ。
1億ももらったら、しばらくはのんびり過ごすと思うけどね。
うちのスズさんのぐうたら具合をなめないでほしいよ。
話し合いが終わる頃には、お昼ごはんの時間になっていた。
王妃様とサラちゃんとも合流して、そのまま食事会を行う。
アンリーヌさんはギルドを抜け出したこともあり、急いで帰っていったよ。
仕事嫌いのはずだから、相当忙しいんだろうなー。
席に座ると、料理長とメイドさんが料理を運んできてくれた。
出されたのは、『ホットドッグ(マスタードなし)、タマゴサンド、豚汁』だ。
おい、料理長。さりげなく味噌の開発にまで成功したのか?
どうやって3週間で味噌なんて作ったんだよ。
うまくいっても、普通は1年近くかかると思うんだけど。
この料理長、恐ろしいほどの才能があるんじゃないのか。
今まで作り方を知らなかっただけで、最強の料理人かもしれない。
近くにいた料理長を見てみると、ドヤ顔をしていた。
あっ、ダメな意味でゾクってする
あの顔を見ると、ハートのケチャップを思いだすんだ。
料理を食べてみると、完璧に仕上がっていた。
作り方を見せただけの『豚汁』まで再現してくるとは。
参加者の皆も喜んで食べているから、非常にいい食事会だと思う。
僕が料理を食べ終えると、料理長が近付いてきた。
「料理長、もう少し離れてください。
いつの間に味噌できたんですか?」
顔が近すぎるよ、やっぱりそっち系なんですか?
「試行錯誤して、1週間で完成しました。
師匠にサンプルもらったあの日から、すべての料理人は1日2時間しか寝ずに頑張っています。
もうそろそろ醤油も完成が見えてきたところです」
いや、頑張りすぎだろう。
情熱強すぎ問題だよ。
倒れる前に寝なさい。
そもそも、頑張ってできるようなものじゃないんだよ。
味噌も醤油も短期間じゃ作れないから。
「ホットドッグ祭りも評判が良かったらしいですね」
「師匠に教えていただいたホットドッグのおかげです。
あの祭りのおかげで、働いている全ての料理人が食べてもらえる喜びに目覚めました。
今はケチャップの販売と同時に、レシピの配布を検討しています」
この料理長、すごいできる男じゃないか。
師匠と呼ばれる自分が恥ずかしいよ。
最近はおっぱいを覗き込むことしか考えてなかったのに。
こんな短期間でケチャップの製造まで話を進めるなんて、どれだけ料理に情熱を持っているんだ。
他の料理人達も頑張り屋さん過ぎるぞ。
料理人達の頑張りに感化された僕は、急に師匠っぽいことをやりたくなってしまう。
「料理長、そこで満足しているわけじゃありませんよね。
今から特別に、真のハンバーグをお見せしましょう。
ここから先は口で語りません。
語るのは……料理だ!!」
その言葉に、料理長はビシッと敬礼を決める。
僕は食事会が中盤に差し掛かっている中、いきなり会場で料理を作り出す。
明らかに空気が読めていない、場違いな奴だろう。
それでも、無言で『オーク肉のハンバーグ』を作り始める。
1.オーク肉を挽き肉にする
2.金タマネギのみじん切りにして、飴色になるまで炒める
3.オーク肉に炒めた金タマネギ、卵、パン粉を混ぜていく
4.塩コショウで下味を付けながら揉み込む
5.空気を抜いて形を作っていく
6.フライパンでハンバーグに焼き色を付けたら、水を入れて蒸し焼きにして完成
4つのフライパンをフル稼働をして作っていく。
豚肉だけでハンバーグを作るのは苦手なんだよね。
やっぱり牛肉がほしいなー。
ノリと勢いとだけで作ったので、ハンバーグ用のソースがなかった。
ここはオーソドックスに、ケチャップとソースで食べてもらおう。
出来上がったハンバーグを、みんなの前に差し出していく。
もちろん、料理長にも手渡してあげた。
以前に作ってもらった料理長のハンバーグは、肉汁が一滴も出ないパッサパサのスポンジハンバーグ。
でも、今回作ったハンバーグは肉汁が滴り落ちる。
こっそりオークエリートの肉を混ぜておいたのも、効果的だっただろう。
料理長はハンバーグを切った瞬間、早くも倒れそうになっていたよ。
もちろん、食べた瞬間に「ハァ~~~ン」といって倒れたけど。
他の人も迷わず食べ始めた。
サラちゃんなんて、子供っぽく無邪気に食べているよ。
そのせいで、服がソースまみれになっているんだ。
ハッハッハ、洗濯が大変だね。
スズも「ふぉぉぉぉぉぉ」と言って、目をキラキラさせている。
久しぶりに奇声が聞けて嬉しいよ。
これは相当気に入ったパターンに違いない。
一口食べる度に「ふぉぉぉぉぉぉ」と言ってるんだ。
田舎の子みたいに思われるから、もう少しだけ静かに食べようね。
他のみんなもどんどん食べ進めていく。
カイルさんは言う、「なんで同じオーク肉なのに、料理の仕方で味が変わるんだ」
国王は言う、「料理長のスポンジハンバーグはなんだったんだ」
フィオナさんは言う、「さすがタツヤさんです、スポンジではありません」
サラちゃんは言う、「お兄たん、おかわり!」
そうだね、サラちゃんは僕の義理の妹になっちゃうよね。
もう1回「お兄たん」って、言ってもらってもいいかな。
脳内メモリーに保存して、いつでも聞けるようにしておきたいんだ。
サラちゃんの『おかわり』という言葉で、事態は急変する。
当然のように、みんながおかわりをしてきたんだ。
「あの~、ハンバーグって、見た通り時間がかかるんですよ。
サラちゃんのお願いですから、もう1個ずつ作りますけど、それ以上はやめてくださいね」
結局、もう1度料理をする羽目になってしまった。
義理の妹の願いを断るなんて、優しいお兄ちゃんの僕にはできないから仕方ない。
もう1度作り始めようとすると、国王は料理長を叩き起こす。
その理由は簡単で、「料理長、見て覚えるんだ」と言っていた。
多分、国王が大好きな味だったんだろう。
ホットドッグが好きなら、こういうのも大好きだもんね。
でも、僕の感化された師匠スイッチはここで止まらない。
「料理長、調理したハンバーグを作った料理、照り焼きバーガーをお見せしましょう。
味噌を開発したことに対する、ささやかなお祝いみたいなものです」
同じ要領でハンバーグを作っていく。
そして、出来上がったハンバーグを進化させる!
1.醤油、みりん、砂糖を混ぜておく
2.出来上がったハンバーグにタレを絡ませ、照り焼きハンバーグにする
3.パン、ハンバーグ、小悪魔レタス、マヨネーズ、パンの順番でサンドして完成
まず最初に食べてもらいたいのは、サラちゃんだ。
お腹いっぱいになってないか心配だったけど、手渡した瞬間にかぶり付いていた。
「もいみいー!」
王女なんだから、食べながらしゃべっちゃいけませんよ。
ちゃんとお兄ちゃんの言うことを聞くんだぞ。
ほらほら、ほっぺたにマヨネーズが付いてるよ。
お兄ちゃんが取ってあg……あ、うん、王妃様が取るよね。
サラちゃんが食べてくれたので、僕は順番に手渡していった。
スズは「むほっ……むほっ……」と、むほりだした。
今日は「ふぉぉぉぉぉぉ」と「むほっ」を同時に聞けて嬉しい。
カイルさんはやっぱり「なぜなんだ…」と悔しがっている。
他の人はおいしそうに食べて喜んでくれていたけどね。
え? 料理長? そこで倒れてるよ。
その後、国王はハンバーガーを気に入り過ぎてしまった。
すごい勢いで土下座してきて、「頼むから料理長にこれだけ教え込んでくれ」と言ってきた。
一国の王がこんなことで土下座しないでほしい。
これから義理の父親になると思うと、ちょっと心配になっちゃうよ。
その姿を見たサラちゃんが、「サラもまた食べたーい」と言ってきた。
僕は料理長を叩き起こして、急いで厨房に向かっていく。
全力で厨房に向かう僕を、フィオナさんが後から追いかけてきた。
「サラのことが好きなのですか?
私よりサラの方がいいのですか?」
「フィオナさんが好きに決まってるじゃないですか。
義理の妹の喜ぶ顔が見たいだけです。
だって、フィオナさんの妹ですからね。
大切にするのは当然ですよ」
「そ、それなら構いません。
頑張って作ってきてくださいね」
フィオナさんから応援されたら、変態エンジン全開で頑張っちゃうよ。
なんたって、世界一単純な男だからね。
黄色い声援には全力で応えるタイプさ。
調理場へ着くと、早速料理人を集めて、照り焼きハンバーガーを作り始める。
そこには、さっきまでのできる料理人達はいなかった。
「なんでタマネギのみじん切りを今度はスライスしちゃうんですか」
「いや、やっぱり目が……」
「目なんて犠牲にしてください」
さっき見直した料理長どこにいったんだ。
「肉と混ぜ込むときは手でやるって言ったじゃないですか」
「つ、冷たくて……冷え性なんですよ」
「肉の脂が手の温度で溶けませんから、冷え性の方がいいです」
ここの料理人は保身に走りすぎだよ。
さっき言ってた『料理を食べてもらう喜び』はどこにいったんだ。
「形にこだわらなくても大丈夫なんですけど、すごい綺麗な正方形ですね」
「すいません、角度が89度と91度で正方形じゃないんです」
あっ、なんかすいません。
「ハンバーグを焼くのはうまいじゃないですか。
どうして焼くのだけうまいんですか?」
「料理人なんで、焼くのは任せてください」
「あ、はい」
この人はホットドッグの時にウィンナーを焼かずに茹でようとした人だ。
すごい説得力がないんだけど、ちゃんと中まで火が通ってて完璧だな。
保身に入らなければ、上手に作れるのか。
醤油が未完成だったため、スキルで大量の醤油を提供する。
しっかり作れるようにするため、照り焼きバーガーを夜になるまでガンガン作っていった。
作りすぎたハンバーガーは、騎士達にまで提供されるほどだ。
城にいた全員が喜んで食べてくれた。
でも、人気が高すぎて途中で足らなくなってしまい、料理人達はヒィヒィ言いながら作ることに。
いい練習にもなるし、頑張って作ってほしいと思う。
ちなみに、サラちゃんは3つも食べてくれたよ。
ロリコンじゃないけど、それだけは報告しておくね。






