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吊り橋効果って本当ですか?

 5体のウルフに囲まれながらも、自分と女の子の命を救うことに成功した。


 これってすごいことだと思うんだよね。

 剣も槍も魔法も使ってないのに無傷で勝利したんだ。


 腐った卵で女の子を守り抜いたんだ!


 それなのに、女の子は僕を軽蔑するような顔で見てくる。

 言ってやりたい、君はこの臭いニオイのおかげで助かったんだぞって。

 腐った卵がなかったら死んでたんだぞって。


 助けたら好きになってくれるパターンって嘘だったのかな。

 吊り橋効果といって、ピンチの時は恋愛関係になりやすいはずなんだけど。


 さすがにニオイもキツかったので、女の子と一緒にその場を後にした。


「助けていただいてありがとうございました……臭かったですけど」


「命があっただけでも良かったと思ってくれると嬉しいです」


「それはもちろんです……臭いですけど」


 めっちゃ嫌そうな顔で話す女の子。

 ずっと『こいつマジ臭いんだけど』って顔をしている。

 助けたのに嫌われるパターンってあるんだね。


「どうしてあんな森にいたの? 名前は?」


「……いえ、大丈夫です。臭いですし」


 会話が一切弾まない。

 語尾には必ず「臭い」を付けやがる。なんて失礼な女の子だ。

 もうニオイはしないのに、ずっと鼻をつまんでるし。


 助けを求めてきたのはそっちだぞ。

 別にお礼の金とか、お礼の品物が欲しいわけじゃないんだ。


 話し相手になってほしい!

 名前くらいは教えてほしい!


 そのまま2人で街まで歩いていったけど、当然のように会話はなかった。

 女の子は疲れているみたいだったから、何度か休憩を入れてあげた。


 関わってしまったんだから、街まで護衛くらいはする。

 途中で死なれても後味が悪いからね。


 ……ギルドに戻ったらリーンベルさんに癒してもらおう。



 街に着く頃には、日がほとんど落ちていた。

 女の子のペースで歩いたから、帰りが思ったより遅くなってしまった。


 門に着くと同時に女の子と別れ、急いで冒険者ギルドへ向かう。


 昨日より1分でも早くたどり着くために走り続ける。

 リーンベルさんに怒られないようにするために。


 ギルドに戻ると、昨日よりギリギリ明るかったので冒険者が10人ほどいた。

 ちなみに、1人だけ猫耳の女の人がいたよ!

 とりあえず報告だけしておく。


 リーンベルさんが腕を組んで待っているから、ジックリ見る余裕がないんだ。理解してほしい。


「リーンベルさん、ただいま戻りました。

 昨日より明るいですね!(ギリギリ)」


「ふ~ん、言い訳するんだ」

「ごめんなさい」


 誤魔化せなかったので、即行で頭を下げる。

 いきなり激オコなリーンベルさんだった。


「ほんとにもう!

 先に解体しに行くよ、閉まっちゃうから!」


「はい、お願いします」


 なんだかんだでリーンベルさんは、僕の手を引っ張って連れていってくれる。

 あの女の子に付けられた心の傷が癒されるよ。

 精神32万の強靭なメンタルってなんなんだろうなー。



 解体場に着くと、昨日と同じように片付けをしている最中だった。


「ヴォルガさん、この子がまたギリギリに戻ってきたのでお願いします」


「昨日の坊主か」


 解体屋のオッサンはヴォルガさんという名前だった。

 自分で解体したくないから覚えておこう、お世話になるからね。


「また遅めにすいません。解体お願いします」


 ゴブリン15体とウルフ5体を取り出すと、ヴォルガさんの目つきが変わった。


「おい、ガキ。いや、名前なんだったか?」


「タツヤです」


「タツヤ、お前はどうやってウルフを倒したんだ?」


「気絶させて……パカッとですね」


 卵を割る仕草をしてみる。


「「「 ……… 」」」


 だって「卵を割って倒しました」なんて言えるわけないじゃん。

 絶対アホだと思われるよ。頭おかしいと思われるよ。

 実際に見せたら、臭すぎてリーンベルさんに嫌われるかもしれないし。


「ベル、こいつをEランクにあげてやれ」


「ヴォルガさん?!」


「ウルフをよく見てみろ、傷1つ付いてねぇ。

 5体もいるなら群れで出会っているはずだ。

 それを1人で倒せるやつがFランクなんておかしい。

 若くても冒険者だ、Eランクに上げてやれ」


 リーンベルさんがジト目で見てくる。

 やめてください、あまりジト目って好きじゃないんです。

 でも……リーンベルさんのジト目、嫌いじゃないですよ?


 何かが目覚めてしまいそうですけど。


「このウルフは毛皮がきれいに取れるから、買取価格もプラスしてやる。

 後はそうだな。今日は長いことベルお嬢ちゃんに怒られないようにな、ハハハ」


 ヴォルガさんは笑いながら解体場の奥へ向かって行った。

 僕はリーンベルさんの不敵な笑みに冷や汗を垂らして、受付カウンターまで戻っていく。



 リーンベルさんは激オコだ。昨日より怒っている。

 だって、ニッコニコなんだもん。


「タツヤく~ん、昨日は明るいうちにちゃんと戻るって約束しましたよね?

 ウルフもEランクだからやめましょうってお話しましたよね?」


「はい、おっしゃる通りです」


「君は戦闘スキルがないのに、なんでウルフと戦っているのかな? しかも5体!

 知ってる? ウルフが5体で群れてたら、Eランクパーティで戦うことを推奨しているんだよ?」


 リーンベルさんが言いたいことはわかる。

 ウルフ5体を見たときは、僕も後悔したからね。


 でも理由があったんだ。女の子を助けたんだ。

 そのことを伝えたら、リーンベルさんも褒めてくれるはず。


 きっと「きついこと言ってごめんね? 頑張ったんだね」と、頭を撫でてくれるかもしれない。

 ふっ、妄想が広がるぜ。

 ここは地雷を踏まないように丁寧に説明し、お褒めの言葉を頂戴する。


 よし、これでいこう。

 僕は頭を撫でられて褒められたいんだ!


「今日はリーンベルさんとの約束を守るため、ゴブリン退治だけをするつもりでした。

 けど、途中で女の子がウルフに追われていたんです。

 僕は助けを求める女の子を見捨てることができませんでした。

 女の子の命を守るために戦ったんです」


 完璧だ。褒められることまちがいなs


「護衛しながらウルフ5体をソロで戦うFランク冒険者がどこにいるの!

 なんでそんな無茶なことをしたの!

 君は昨日の今日で……」


 あ、あれ? 火に油を注いでしまったようだ。

 たださえ昨日より怒っていたのに、さらにヒートアップしてしまったぞ。

 どうした? 何がダメだったんだ?


 ちょっと待って。リーンベルさんの後ろでみんな何してるの?


 マールさん。両手を合わせて『ご愁傷様です』って口パクするのやめて!

 アカネさん。なぜ忍び足で立ち去ろうとするんですか!

 ヴォルガさん。アチャーってジェスチャーせずに助けてくださいよ!


 リーンベルさんの怒りが静まるまでに30分かかり、僕はEランク冒険者に昇格した。

 天使のように可愛いリーンベルさんを独り占めできたと思えば、とてもいい時間だった。

 めちゃくちゃ怖かったけどね。


 これからはEランク冒険者になったんだし、ウルフを狩っても怒られないだろう。


「ヴォルガさんの推薦だからEランクに上げるけど、無理しちゃダメだからね?」


 よかった、もう完全に怒りが鎮火してる。

 堕天使じゃない、天使のリーンベルさんだ。


「任せてください!

 でもEランク冒険者ですから、単体のウルフなら狩っても大丈……あ、いえ、ゴブリンを退治します。

 Eランクでもゴブリンを退治します。

 ゴブリンにも上位種がいますからね。

 ゴブリンとの戦闘に慣れたいと思います」


「そうだね~、お姉ちゃんは嬉しいな。

 命を大切にすることを覚えてくれて」


 リーンベルさんを怒らせてはいけない人だと、たった2日の異世界生活でよくわかった。

 一応僕は精神32万の強メンタルだからね?

 なぜこんなに逆らってはいけない気がするんだろうか。


 ようやく解放された僕は、宿屋へ戻って夜ごはんを食べる。

 料理は何の肉かわからなかったけど、薄っすらと塩の利いた焼いただけの肉だった。

 パンは日本みたいな普通のパンでおいしかったよ。


 食事が終わると自分の部屋へ行って、今日あったことを思い出しながら眠りにつく。



 助けた女の子の臭そうな顔。

 助けた女の子の嫌そうな顔。

 助けた女の子の嫌そうな話し方。

 助けた女の子の語尾は「臭い」。



 なんて理不尽な日なんだ!

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