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VS黒ローブ

 謁見の間の入り口を見ると、黒ローブの男が立っていた。


 ドヤ顔をして先回りした甲斐があったよ。

 会いたくなかったけど、来てくれてすっごい安心してる。

 スズもどこか安心した表情だもん。


 でも、フィオナさんは身構えている。


「あなたはあの時の……。

 どうしてこんなところにまで!」


「こちらのセリフですよ。

 どうやってあのオーガ達から逃れたのですか?

 あそこにいる騎士では倒せないレベルだったと思いますが。

 それに……、そこにいるのは火猫さんではないですか。

 まさか先読みされるほど頭がまわるとは思っていませんでしたよ」


「なぜ私を知っている、何者?」


「この国であれだけ活躍をしていれば、当然知っていますよ。

 そうだ、もしよろしければ、ご一緒にこの国を滅ぼしませんか?」


「断る、あなたはだれ?

 なぜ国を滅ぼそうとする?」


「簡単なことです。

 この国の王族は……ハイエルフの末裔なんです!

 その血が邪魔なんですよ」


 どうしよう、『ど~も~、ハイエルフで~す』ってボケをかましたい。

 即効で殺されそうだからやらないけど。

 しかも、全然バレていないのも不思議で仕方がない。


「行方不明になった王女の捜索で兵を減らしている隙に強襲する予定でしたが、通りで減らないわけですね。

 まさか生きているとは思いませんでした。

 そのせいでこっちは、多くの魔物を召喚して疲れましたよ」


「ワシ達を確実に殺すために、こんな大規模スタンピードを起こしたというのか?!

 なんて出鱈目な……」


「準備に苦労したので、喜んでいただけて何よりです。

 ……さて、名残惜しいですが、そろそろ始めましょうか」


 黒ローブは真っ黒な剣を1本取り出して、戦闘態勢に入る。

 それを見て、スズも同じように戦闘態勢に入った。



 スズと黒ローブの戦闘が始まろうとしている。



 先制攻撃を仕掛けたのはスズだった。


 黒ローブに突進して右ストレートを叩きこむ。

 すると、黒ローブは剣で攻撃を受け止めた。


 料理でパワーアップしたスズの攻撃を、いとも簡単に受け止めるなんて。


 反撃をするように黒ローブが拳を押し返し、斬りかかる。

 体を捻ったスズは左手で剣を受け止め、流れるように回し蹴りで反撃。


 攻撃が当たるギリギリのところで、黒ローブはバックステップで距離を取った。


 僕はスズの戦闘を見守りつつ、醤油ビームを放つ準備だけしておく。

 黒ローブは召喚魔法を使うし、ローブを着ているぐらいだから、魔法攻撃を使ってくるはず。


 醤油でどこまで対抗できるかわからないけど、流れ弾ぐらいは反らすことができると思う。


 ただ攻めるだけの黒ローブと、守りながら戦うスズでは大きなハンデがある。

 僕と王族達はスズの邪魔にしかならない。

 この場所に存在するだけで、スズの負担になっているんだ。


 だから、少しでも負担を減らして黒ローブとの戦闘に集中させてあげたい。


 料理を食べたSランク状態のスズなら大丈夫だと思うけど、あの強化オーガを召喚した相手。

 本人が強化オーガよりも強い可能性だって、充分にある。


 僕達はパーティなんだ、少しでもサポートをしてあげないと。




 スズと黒ローブによる激しい攻防が続くこと、10分。

 黒ローブは一向に魔法を使う気配がなく、ひたすら剣だけで攻撃していた。




 スズは魔法を使わないと判断したのか、スピードを上げて黒ローブに接近。

 黒ローブのお腹を拳でとらえると、1発で壁まで吹き飛ばした。


 しかし、思ったよりダメージはなかったみたいで、すぐに戦線へ復帰する。


「思っていたよりも手ごわいですね。

 ここまで戦える方だとは思っていませんでしたよ。

 疲れているので本気でやりたくありませんでしたが……仕方ありませんね!」


 お返しと言わんばかりに黒ローブが一気に踏み込み、スズを吹き飛ばす。


 今まで本当に手を抜いていたんだろう。

 スズの最速スピードよりも速い気がする……。


 受け身をしっかり取っていたこともあり、スズのダメージは少なそうだ。


「予想外、手加減されていた。

 ローブを着ているのに魔法を使わない、変な人。

 もう、容赦はしない」


 スズは人型で戦うことをやめ、猫のように4足歩行で駆け抜け、スピードを高めて駆け抜けていく。


 黒ローブとスズは、互いに同じぐらいのスピードでぶつかり合う。

 早すぎてハッキリとはわからないけど、僅かに黒ローブの方が速く、うまく捌いているような気がする。


 拳と蹴りを使って戦い、とことん攻めて戦っていくスズ。

 一方、黒ローブは剣1本ですべてを防ぎきり、隙を見て攻撃してくるようなイメージ。


 思っている以上にマズいかもしれない。

 スズは料理でドーピングをしたうえで、黒ローブと互角なんだ。


 料理効果は、たったの1時間。

 すでに30分以上は経っている。


 このまま時間が経てば、明らかに不利なのはスズ。

 その証拠に、スズの腕から薄っすら血が流れ始めているし、床にも血の跡がポタポタと垂れている。


 対して黒ローブは、ダメージを負っている様子はない。

 無理な攻撃をせず、スズの攻撃に合わせるようにカウンターを仕掛けてくる。


 いったい黒ローブは何者なんだ。

 Sランク並みの戦闘力を誇るスズと互角以上の戦いをしている。


 援護をしてあげたいけど、僕にはどうすることもできない。


 言葉が理解できないような魔物だったら、相談しながら援護をすることはできる。

 でも、今回の相手は人間だ。

 しかも、2人とも圧倒的な速さで動くから、直線的な醤油攻撃では避けられる。


 ここに助けが来る可能性だって低い。

 外はスタンピードで大事件が起こっているから。


 強化オーガのことを考えると、向こうだって援軍が欲しいぐらいだろう。

 仮に誰か来てくれたとしても、料理を食べた不死鳥(フェニックス)ぐらいじゃないと足手まといだ。

 Sランクレベルの力がないと、こいつには勝てない。


 いったいどうすれば……。


 ドゴォォォン


 頭を悩ませていると、轟音と共にスズがまともに攻撃を受けてしまった。

 ちょうど僕の真横を、砲弾のように飛ばされていった。


 どうやら装備のおかげで出血するような致命傷は受けていない。

 でも、お腹を押さえて苦しそうにしている。


「ふー、こちらも予想外ですよ。

 獣人よりも猫のように戦う人間がいて、ここまで強いとは。

 その若さでSランクを超える力があるなんて、優秀な人材ですよ。

 まぁ、もうすぐ消えますがね」


 不気味に笑いながら、黒ローブがゆっくりと近づいてくる。


 イチかバチかで、ハバネロを最大限まで圧縮してぶつけてみるか。

 ここで何もしなければ、どっちみち死ぬだけだ。


 そう思っていると、黒ローブは急に見えない壁にぶつかった。


「10分しか持ちません。

 スズ、タツヤさん、その間に策をお願いします」


 後ろを振り返ると、フィオナさんが右手を前にかざしていた。


 何の魔法かわからないけど、フィオナさんは魔法が使えたのか。

 そんなことより、今はスズを回復させて勝つ方法を考えないと。


「ホォ、これがハイエルフの力ですか」


 黒ローブは手当たり次第に見えない壁を攻撃する。


 フィオナさんは涼しい顔をしているけど、本当に10分も持つかわからない。

 オーガに襲われた時に座り込んでいたのは、この力を使ったからかな。

 体に大きな負担をかける魔法かもしれない、この時間を大切にしよう。


 急いでスズの元へ駆け寄っていく。


「大丈夫?」


「強い、隙が見えない。

 万全の状態でも勝てる見込みが少ない。

 今まで戦った相手の中でも、圧倒的に強い」


 戦闘中では気付かなかったけど、体のあちこちが傷だらけになっていた。

 血を流し始めたとは思っていたけど、まさかここまで傷を付けられていたなんて。


 スズがやられる姿なんて見たくない。

 これ以上傷付くところも見たくない。

 スズに守られるだけなんて嫌だ。


 黒ローブが言うようにハイエルフに力があるなら、なぜ僕は無力のままなんだ。

 もし本当に力があるなら、今すぐに目覚めてほしい。

 何もできない自分に腹が立つよ。


「……ニンジンの煮物」


 こんなシリアスな場面でニンジンの煮物を注文されるとは。

 とても複雑な気分だよ。

 君はどれだけニンジンが好きなんだい?


 そんな気持ちを抑えながら、スズの口にニンジンの煮物を入れてあげる。


「これで戦えるようになる。

 でも、時間稼ぎしかできない」


 おい! ニンジンの煮物に回復効果があるのかよ!

 スズさんの柔肌が綺麗になってるじゃん!


 いつから知ってたの?

 なんで今まで教えてくれなかったの?

 君はこういう大事なことを隠す傾向があるよね。


 とりあえず、サンドウィッチ系の食事で料理効果の時間を伸ばしていく。


 呑気に食事を始めるスズとは違い、国王は黒ローブと会話して気を引いてくれていた。

 サラちゃんは王妃様に抱きつき、その前にフィオナさんが守るように立っている。


「スズ、どうしたらいい?

 どうしたら勝てるの?

 僕は対人戦をしたことがない。

 ましてや、知能が高い敵とも戦ったことがないんだ。

 下手に援護をすれば、スズの邪魔になる。

 あいつを倒せるような攻撃はないの?」


「黒ローブも人である以上、強力な一撃には耐えられないはず。

 トップスピードで突っ込めば、ギリギリいけると思う。

 でも、隙がない。

 あいつの動きさえ止めることができれば……」


 動きを止める方法か。

 それくらいなら僕にできないだろうか。


 ケチャップを飛ばしてベタベタにしたら、機動力を奪えるかもしれない。

 ダメだ、そもそも当たらないし、スズに当たる可能性もある。


 マヨネーズの油分で地面をベタベタにして転ばせる。

 ……さすがにスズでも油の上は滑るか。


 味噌を投げてベタベタにして……当たらないか。


 クソッ、『動きを止める=ベタベタにする』ことしか思い浮かばない。

 ベタベタになって転んでしまえばいいのに。


「タツヤさん、スズ。そろそろ限界です」


 スズは回復したけど、勝てる策が見付からない。

 でも、諦めるわけにはいかない。

 フィオナさんもスズも頑張ってるのに、僕だけ眺めているだけじゃダメだ。


「なんとかあいつの動きを止める方法を考える。

 それまでお願い。

 止められたとしても、一瞬になるかもしれないから見逃さないで」


「わかった、信じて待ってる」


 命がかかっているこんな場面で、調味料しか出せないやつを信じないで。

 そんな真っすぐな目で見られるのは、ちょっとツラいよ。


 フィオナさんは全身から力が抜けたのか、急に地面へ倒れ込む。

 額からは大量に汗を噴き出し、息も荒くて呼吸をするのも苦しそうだ。


 それと同時に、スズが再び黒ローブに突っ込んでいく。


 嘆いている時間はない。

 女の子2人がボロボロになるまで頑張っているんだ。

 信じてくれている2人のためにも、絶対にあいつの動きを止めよう。


 でも、どうしたらいいんだろうか。


 相手の機動力を奪うために、転ばせるのはいい考えだと思う。

 完全に転ばなくても、足が取られるだけでもいい。

 雪に足が取られてうまく歩けなくなるようなイメージだ。


 田んぼとか畑とか、ぬかるんでいる場所も同じで、沼のようになれば動けなくなる。


 ………沼?


 そういえば、以前スズの戦闘スタイルについて聞いたことがあった。

 確かこう言っていた。


『沼地のように足を奪われる所でも、猫型の4足歩行ならダダダッて走れるから便利』


 謁見の間全体の地形を変えるのはどうだろうか。

 調味料を使って、戦いにくい足元へ変えてしまうんだ。

 どうせなら、調味料で沼を作ってみよう。


 じゃあ、最適な調味料はなんだ?


 ケチャップだと粘性が低いし、微妙になるだろう。

 マヨネーズだとオイルっぽさが出て、スズだって危ない。

 味噌だったらどうだ?


 ……いい感じじゃないか。


 常温の味噌がいきなり地面から20センチほど現れたら、泥沼っぽくて足も取られるだろう。

 場合によっては、バランスを崩してこけるかもしれない。

 スズはさっきから猫型で戦ってるし、影響は少ないはず。


 むしろ、それがチャンスの合図だと気付くだろう。


 でもドバドバ出してたら、黒ローブにバレて意味がなくなる。

 できるかどうかわからないけど、味噌を一気に大量召喚してみよう。

 もし出来なければ、その時また考えればいい。


 僕は地面に手をついて、謁見の間全体に味噌が召喚されるイメージをした。

 手が地面に隣接していれば、できるような気がするから。


 1センチ……、2センチ……、3センチ……。

 なんとなく召喚できるような感覚がある。

 これなら大丈夫だろう、イメージが沸いてくるんだ。


 しかし、それと同時に左目が少しずつブレ始める。


 ……オーガ戦の時と同じか。

 寝込むぐらいでスズの期待に応えられるなら、感謝したいぐらいだよ。


 そのまま10センチの感覚まで来た時、頭が痛み始めた。

 左目の焦点がほとんど定まらないほどブレている。


 13センチ……、14センチ……。

 気持ち悪くなってきたな。

 でも、フィオナさんにまた男らしいと思ってもらいたい。

 スズの力にもなりたい、スズを助けたい。


 17センチ……、18センチ……。

 視界がブレ過ぎて、左目を開けていられない。

 右目だけでスズと黒ローブの戦いを見守ろう。

 もう少しで、味噌がたまるから。


 19センチ……20センチ!

 吐きそうなほど気持ちが悪いし、頭に割れるような痛みが走っている。

 なんとか味噌をホールドできてるけど、長持ちしそうにない。


 でも、スズがトップスピードで突っ込めるように、2人が距離を取った時に発動させないと。

 それまでは気絶しない、吐かない、頭の痛みにも耐える。


 精神32万の強靭なメンタルの見せ所だ。


 ………フィオナさん、座り込んでいるけど嫌いにならないでね。

 今から味噌に埋もれることになっちゃうから!


 呼吸困難に陥ってるフィオナさんに一瞬だけ目を向けて、スズの方へ目線を戻した時だ。

 スズと黒ローブが互いに距離を取ったのは。




 今しかない!!




 ばふんっ




 謁見の間の全体に味噌が召喚され、足元が沼のように味噌で埋め尽くされる。


 王族の足に味噌が絡みつき、座り込んでいたフィオナさんはガッツリと味噌で埋もれてしまった。

 身長の低いサラちゃんは、「ヒィィィィ」と言っている。


 肝心のスズと黒ローブの戦いにも、大きな変化がやって来た。


 猫が威嚇するようなポーズをしていたスズは、味噌に手足の半分以上が埋もれてしまった。

 だが、急に現れた味噌にバランスを崩すようなことはなかった。


 一方、黒ローブは動き出そうとしていたところに味噌が現れたことで、大きくバランスを崩してしまう。

 味噌に足を取られてしまい、そのまま前屈みに倒れかけた。


 その隙をスズは見逃さない。


 一瞬で黒い炎を手足に纏わせ、触れている味噌の水分が蒸発。

 今までよりもさらに早い、最速スピードで黒ローブに飛びかかっていく。


「ふんっ!!」


 ドゴォォォォォン


 倒れかけた黒ローブのアゴに、スズの拳がクリーンヒット。

 予想外の展開に黒ローブは防御態勢を取ることができず、物凄い勢いで城の壁に激突。

 体が壁にめり込むほど、強力な一撃だった。


 その光景を見てホッとしたのも束の間、僕の体から力が抜けてしまい、意識が奪われるような感覚に襲われた。

 スキルの反動で、これ以上は見届けることができないみたいだ。



 後は任せたよ……スズ。









 ベチャッ

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