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親睦会2 ~爆誕、オーク豚の角煮~

- 歓喜! ポテトサラダの召喚 -


「では、5分経ちましたので、4品目のポテトサラダの登場です」


 王女様を除いた6人は、椅子から立ち上がって拍手をする。

 料理を出す度に王女様は混乱している。


 僕もここまでポテトサラダが歓迎されたことに、正直驚いた。

 内心は戸惑いながらも、落ち着いた感じでポテトサラダを配っていく。


「ポテトサラダの見た目はきれいだよね~」


「わかる、ポテサラ様は美しい」


「キレイです! これが本当に料理なのですか?」


 王女様はもう新しい料理しか出てこないと悟ったらしい。

 すぐにポテトサラダを受け入れてくれる。


 あなたの方がキレイですよ、と言ってみたい。

 当たり前だろって話ですけど。


「キレイだけじゃない。

 ポテサラ様はじゃがいも料理の完成形。

 それなのに、ソースをかけると変化をするAランク料理」


「わかるなー。ポテサラ様ってAランクだけあって、いてくれるだけで安心するのよね」


「ポテトサラダがあるだけで~、見た目の印象が変わるよね~」


 おいおい、だいぶわかってきたじゃないか。

 確かにポテトサラダは、あるだけでホッとする名脇役だと思う。

 リーンベル姉妹だけ『様付け』で、違和感があるけどね。


 カイルさんとザックさんはソース派。

 シロップさんはかけない派。

 他はどっちもあり派だ。


 みんなはとても嬉しそうに食べ進めていく。


 ホットドックの回に続き、ポテトサラダも和やかな雰囲気のままだ。

 王女様も鼻歌を口ずさみながら、嬉しそうに食べてくれている。

 そんな姿が見れて、本当に嬉しいよ。





 でもさ、ここは戦場なんだよ?





 そんなに楽しそうに食事をしててもいいのかな。

 何のためにわざわざ安息の時を用意したと思っているの?


 油断を誘ってトドメを刺す以外にあり得ないでしょう。

 これが罠だと気付かないなんて、君達は愚かな子羊だよ。



- 爆誕、オーク肉の角煮 -



「では、5分経ちましたので、5品目のオーク肉の角煮です」


 いきなり目の前に現れた角煮の見た目に、参加者の心は大きく乱れる。

 やはり油断しきっていたんだろう、ザックさんは早くも虫の息だ。


 角煮はポテトサラダのような、野菜の鮮やかさは存在しない。

 かと言って、揚げ物のようなインパクトもない。

 ひたすら肉が醤油で煮込まれただけの、単純な料理に過ぎないのだ。


 だが、その肉と脂身の絶妙なコントラストは、強烈なパンチ力となって襲い掛かる。


「ぐあっ!! なんだこの見た目は!!

 胸がえぐられる!」


「うっ……油断した。なんて暴力的な料理。

 揚げ物以外に、こんな攻撃的な料理があるなんて」


「なんて豪快な肉料理なの……?

 絵力が強すぎるわ」


「これはダメ~! 危険だよ~!」


「圧倒的、威圧感」


「す、すごいです……。

 今ならわかります。

 この料理が、どれほど恐ろしい存在なのか」


 ザックさんはいつ倒れてもおかしくない。

 立っているのが不思議なくらいにフラフラとしている。


 見た目のインパクトがあるうちに、僕はあえて声をかけて追撃する。

 確実にトドメを刺すために。


「みなさん、気を付けてくださいね。

 角煮は大きなお肉なのに、ナイフはいりません。

 箸でスーッと切れて、口でふわ~っとトロけます」


 バタッ


 ザックさんは倒れた。

 まだ食べていないのに、見た目と想像で耐えることができなかったようだ。

 でも、彼に敬意を表したいと思う。


 君はから揚げを耐えただけでも頑張ったよ。

 だから、安心して眠ってほしい。

 あなたの仲間もすぐに駆け付けますから。


 ちなみに、ザックさんが倒れたことに気付いているのは僕だけ。

 みんな角煮と向き合うのに必死で、自分のことで精一杯だった。


 それほど角煮の見た目にやられて、誰も動けずにいたんだ。


 異様な雰囲気に包まれる中、突破口を開いたのは、リリアさん。

 震える手で箸をつかみ、角煮に対決を挑もうと動き始める。


 参加者は動き出した彼女に気付くと、全員がテーブルに手を付き、前のめりになって彼女を見つめた。


 震える手を両手で押さえているリリアさんは、大きな角煮を箸で切ろうと試みた。


 スーッ


「ぐっ、無抵抗……」


 何の抵抗もなく、スーッと切り裂いてしまう肉の柔らかさは、彼女にとって初めての経験だった。

 醤油のないこの世界では、肉という概念を覆すような異端の料理。

 固い肉を柔らかくする方法は、まだ存在していないのだから。


 リリアさんの言葉と、角煮がアッサリ切れてしまった現実を見て、全員が角煮から目を背けていた。


「私は王女です……。

 お城で裕福に暮らしてきたと思います。

 それでも、あのようにお肉が切れる光景を目の当たりにしたことはありません!

 あれは、本当にお肉なのでしょうか」


「なんなんだいったい!!

 これは現実なのか!?

 頼む、夢だと言ってくれ……」


 さらに僕は、ここで追い打ちをかけていく。


「とても柔らかいですけど、オークエリートの肉ではありませんよ。

 普段食べている、ただのオーク肉です。

 オークエリートはとんかつで使いますからね」


 カイルさんは心臓を押さえた。

 今まで食べていたオーク肉と同じ柔らかさという事実に、再び胸がえぐられるような衝撃が走ったんだろう。


「うぐっ! まだ食べてねぇだろうが!

 生き残るんだ、俺! しっかりしろ!

 角煮を見るだけで倒れるなんて、バカのやることだ!」


 君の横にバカが倒れているよ。


「……私は、逃げない」


 一度向き合った角煮から、リリアさんは逃げることがなかった。

 ここで逃げたら、もう2度と立ち向かえないと思ったんだろう。


 震える手で角煮を持ちあげ、リリアさんは口へ運んでいく。

 たった1度口を動かしただけで、あの無表情だったリリアさんの口元が緩んでしまう。


 角煮の濃い味付けとオーク肉の旨さが、幸せとなって口いっぱいに拡がったに違いない。

 ゆっくりと空を見上げたリリアさんは、目を閉じて味わうように口を動かしていく。


 そんな彼女の姿を見て、誰もが驚いた。


「リリアの表情が変化した……だと!?」


「は、初めて見たよ~。

 リリアちゃんの笑顔~」


 仲間であるパーティメンバーですら、リリアさんの笑顔を見るのは初めてだった。

 そんな彼女には、幸せって言葉の意味を聞いてみたい。

 きっと返答は、「クッキーと角煮」で間違いないだろう。


 戦いが終わったら、また一緒にクッキーを食べようね。


 あっ、なんかごめんなさい。

 勝手に死亡フラグ立てちゃいましたよ。

 もう……クッキーにはたどり着けませんね。


 僕が不敵な笑み浮かべていると、スズは1つの異変に気付いてしまったようだ。

 リリアさんの行動を見て、1人だけ挙動不審になっている。


「ま、待って、理解ができない。

 リリアの口に、もう角煮がない!

 なぜ早くも2口目にいく?

 ちゃんと肉を噛んだ?」


「消滅した」


「「「「 !? 」」」」


 リリアさんはそれだけ言うと、角煮を一口ずつ切り分けて食べていく。

 そして、誰よりも早くおかわりをした。


「わ、私がいく!」


 その姿を見て立ち向かったのも、スズだ。


 リリアさんの後に続いて見せると、角煮に勝負を挑む。

 思い返せば、リーンベルさんの家でも最初に食べるのはいつでもスズ。


 食事隊切り込み隊長は、震える手を押さえ込み、角煮と向き合った。

 まずは、箸で角煮を切り分ける。


 スーッ


「そ、そんな、本当に無抵抗……」


 その言葉に、誰もが『マジかよ……』と思っただろう。

 食べたはずのリリアさんもまだ理解できていないようで、なぜか驚いている。


 角煮の柔らかさを実感しても、スズの心は折れなかった。

 箸で切り分けた勢いのまま、すぐに口へ運んでいく。


 そして、頭を抱えて大きく取り乱した。


「わからない……なぜこんなにオーク肉が柔らかい!!

 旨みも強すぎる。

 脂身の蹂躙によって、私の口が侵されてしまう。

 この現実を受け入れることができない。

 まさか……オーク肉がパンより柔らかいなんて」


「「「「 パンより……柔らかい 」」」」


 何気なく言った「パンより柔らかい」というパワーワードが、みんなの脳に刻み込まれてしまった。


 よくやったよ、スズ。

 君の言葉でこの軍は崩壊寸前。

 戦場で敵を前にして取り乱すなんて……冒険者失格だと思わないかい?


 そんな哀れな冒険者達を、崖へ突き落とすことにしよう。

 わざわざ君達の心の準備を待つ必要は、敵である僕には関係のないことだから。


「角煮が空気で乾燥して、おいしさが半減してしまいます。

 そろそろ5分経ちますので、ここは『せ~の』で口に入れましょう」


「「「「 え? 」」」」


 まだ君達はここが楽しい親睦会だと思っているんですか?

 甘いですね、炭酸の抜けたジュースのように甘いですね!


 ここは食うか倒れるかの戦場です。


 果たして、そんな乱れた心で角煮に勝てますかね。

 クックック、角煮は容赦しませんよ?


「じゃあ、食べる分だけ角煮を持ってください。

 一緒に食べなかった人は失格にしますね」


 僕の言葉に戸惑いを見せる参加者達は、パニック状態に陥った。

 もうすでに、戦いの雰囲気に飲み込まれてしまったようだ。


 全員が同時に器を持ち上げ、角煮に箸を入れると、スーッと2つに切れてしまう。

 本当に抵抗がないという現実を、受け入れる時間はない。


 ただ混乱しながら、指示に従うしかできないのだ。


「では、せ~ので食べますよ。

 いきますよ~、せ~の!」


 女性陣は全員が角煮のパンチ力にやられかけた。

 暴力的なボディーブローに、全員が自分の心臓を支えようとして左胸をつかんだ。


 とてもいい眺めだった。


 可愛い女の子達が倒れまいと、自分の左おっぱいを鷲掴みにしている。

 もしかしたら、角煮とおっぱいはどっちが柔らかいのかチェックしているのかもしれない。


 これは角煮の負けであってほしい。


 だって、弾力があって柔らかいおっぱいに、ただ柔らかいだけの角煮が敵うはずがないよ。

 角煮は食べたら終わりだけど、おっぱいは何度揉んでも永遠に柔らかい。

 極上の癒しを与えてくれる最高の存在さ。


 触ったことないけど。


 とても素晴らしい光景の片隅で、カイルさんだけは大混乱していた。

 角煮の柔らかすぎる肉というインパクトにやられてしまったみたいだ。


 君のおっぱいは筋肉でカチカチだからね。

 いくら胸を揉んだとして、角煮の勝ちは揺るがないよ。


 カイルさんはもう勝てないと悟ったんだろう。

 意識があるうちに、口の中へ角煮を詰め込んでいく。



 バタッ



 カイルさん、とんかつを楽しみにしていたのに、辿り着くことができないなんてね。

 まぁ……予想通りでしたけど。


 それにしても、男共は情けないですね。

 全員がとんかつ前にリタイアしてしまうとは。


 とんかつ親睦会だっていうのにね!


 女性陣の中で先陣を切ったリリアさんとスズは、まだ角煮に戸惑って食べていた。

 シロップさん、王女様、リーンベルさんは角煮のおいしさを受け入れ、とてもおいしそうに食べている。


 きっとおっぱいの方が柔らかいと理解したから、受け入れることができたんだろう。

 本当にどっちが柔らかいのか、一応僕が検証しt(自重



- サンドウィッチの休息 -



「5分経ちましたので、6品目のタマゴサンドとポテトサラダのサンドウィッチですね」


 サンドウィッチを大皿に置いて、テーブルの真ん中に差し出す。

 王女様はまた綺麗な見た目に感動している。


 スズ、リーンベルさん、シロップさんは『うんうん』と、うなずいて食べ始めていく。

 でも、リリアさんは食べようとしなかった。


 彼女は気付いてしまったんだろう。

 これが油断を誘う、安息のひと時だということに。


 でも、あなたの乱れきった心のままで、耐え抜くことができますかね。

 次はとんかつですよ?


 王女様は食べたことのないタマゴサンドを手にした。

 しまった、初めてのタマゴサンドは危険だ。


「王女様、そのタマゴサンド食べるとキュンキュンするので、気を付けてくださいね」


「え? キュンキュン、ですか?」


「最初はキュンキュンするよ~。

 私も最初は持ってかれちゃった~」


「……初恋の味」


「私とスズはそんな注意がなかったんですよ。

 身構えてなかったから、しばらくキュンキュンして大変でした」


 僕だってそんなことになるとは思いませんでしたよ。

 急に「はぅ!」とか言われて、何事かと思いましたから。


「そんなわけなので、キュンキュンしないように気を付けてくださいね」


 王女様は僕達の言葉を疑おうとしない。

 グッと身構えて、大きな口を開けて食べていく。


 ビクッ


 少し体が反応していた。

 それから目が泳いでいて、完全に挙動不審だ。


 これは……キュンキュンしちゃってますね。


「あ、あの~、豚汁を……ください」


 なんでキュンキュンする前に頼まないんですか。

 そんなにモジモジして、おかわりしないでくださいよ。

 こっちが『初心(うぶ)な心』のせいで、キュンキュンするんですからね。


 でも、ありがとうございます。


 リーンベルさんとスズはすっかり罠にハマってしまい、から揚げとタマゴサンドを交互に食べ始めた。

 食べたい気持ちはわかる。

 でも、君達がそこまで警戒しないとは思っていなかったよ。



 リリアさんがなぜ震えているのか理解できないほど、君達は愚かだったということか。



 完全にリーンベルさんは油断したんだろう。

 相変わらずの猛スピードで爆食が始まった。

 盛りだくさんでいっぱい作ったから、今日は素直にいっぱい食べてほしい。



 ……このまま耐えることができたら、の話だけどね。



 5分経って、とんかつを出そうと思った、その時だ。

 招かざる客が目覚めてしまったのは。



「うっ、俺はいったい……そうだ!

 から揚げのうまさにやられたんだ」


 ちょろい男、ファインさんが意識を取り戻した。


「ファイン、何故から揚げを侮った」


「す、すまない。から揚げの見た目に飲み込まれた。

 自分の欲望にブレーキをかけることができなかったんだ」


 そうなんだよね。

 揚げ物ってきつね色してておいしそうだもんね。

 うんうん、わかるよ。



 でもね、



 退場した君の再戦は認めないよ。

 戦いが終わるまで眠っていてくださいね、哀れな騎士団長さん。


「ファインさん、これが先ほどみんなが喜んでくれた、オーク肉の角煮です。

 崩れやすいので、優しくつかんで一口で食べてください」


「うぉぉぉぉぉ!! なんだこの見た目は!」


 ファインさんは一瞬で角煮に飲み込まれてしまった。

 何も疑うこともなく、そのまま口へ運んでしまう。


「ファイン、ダメ! それは罠!」


 君は本当に愚かな男だ。

 から揚げで何も学んでいないのかな?


 バタッ


 男共は本当に情けない生き物ですね。

 3人とも幸せそうな顔で眠っているよ。


 おやおや、女性陣は畏怖してしまいましたか。

 せっかく作った油断という心の隙間が、彼のせいでなくなってしまいましたね。

 つまり、彼は身を犠牲にしてチームに貢献した、ということですか。


 泣かせますね。


「では、邪魔者が退場したところで、とんかつとの戦いを始めましょうか」

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