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私も少し舐めていいですか?

- 翌朝 -


 目が覚めると、リーンベルさんが頭を撫でてくれていた。


 きっと昨日のお詫びみたいなものだろう。

 頭を撫でるぐらいで忘れませんけどね。

 僕は根に持つタイプですから。

 こんなことぐらいで……あっ、やめて。


 ちょ、ちょっと待って、なにそこ!

 なんなの、そのナデナデポイント!

 や、やめて。き、気持ち良すぎるからー!


「君はこの辺りにポイントがあるね~。

 よーしよーし。」


 や、やめてーーー!

 体がビクビクッてなりそうだから!

 根に持たないから、許してーーー!


「でも、おーしまい。

 これ以上はお預けだよー。

 みんなが待ってるから、一緒に行こうね」


 生まれて初めてナデナデポイントを攻められた。

 恐ろしいほど気持ちがよかった、新体験。


 なんなんだ、あのポイントは。

 あんなポイントが人類に存在しているなんて……。


 いったい何者なんだ、リーンベルさんは。

 冒険者ギルドの受付嬢+ナデナデ師なのかな。

 ユニークスキル【ナデナデ】とか持っている可能性がある。


 あのままやられてたら、僕は多分……。

 ダメだ、これ以上は考えないようにしよう。

 変態パワーが止められなくなりそうだから。


 リーンベルさんに起こしてもらった僕は、ギルドの地下にある会議室に連れてこられた。

 そこには、不死鳥(フェニックス)、スズ、騎士団長、フィオナ王女、ギルマスが集まっていた。


 僕はスズの隣に座ろうとすると、


 ぽんっぽんっ


 スズの隣に座っているシロップさんが膝の上を叩いて、笑顔で呼んできた。

 迷わず椅子に座るのをやめて、シロップさんの膝の上に座る。


 早速スリスリが始まったよ。


 そうだよね、僕の専用の椅子はシロップさんだよね。

 危うく座る場所を間違えるところだった。


 ちなみにリーンベルさんは職員だから、入り口付近で立っているよ。


「初めての者もいるため、もう1度最初から話し合いたい」


 僕が座ったところで、ギルマスが話し始めた。

 事情聴取みたいなものが始まるんだろう。


「本来ならEランク冒険者が関わるような案件ではないが、当事者だ。

 お前の意見も聞きたい。

 前回の依頼の時に気付いたが、子供とは思えない思考能力をしているからな。

 まずはフィオナ王女、当時の状況説明を頼む」


 中身は32歳の醤油を出すオジサンですからね。

 それなりに考えることはできますよ。


「わかりました、今回は獣人国を訪問した帰り道のことです。

 表立った外交ではないため、護衛も少なく馬車も偽装しておりました。

 この情報を知る者は多くありません。

 しかし、途中で黒ローブの男が現れ、「王女には消えてもらう」と、魔法陣を展開してきたのです。

 そこからオーガの変異種が召喚され、気が付けば黒ローブの男がいなくなり、苦戦しているところをタツヤさんに助けていただきました」


 召喚された? この世界って召喚士が存在するのかな。

 魔物と敵対する世界だから、あまりいい目では見られないと思うけど。


「ファイン騎士団長、実際に戦ってみてどれくらいの強さだったか教えてくれ」


「俺が戦ったオーガエリートは、Sランク並みだった。

 とてもじゃないが、1人で対応できるようなレベルじゃない。

 たまたまタツヤが加勢してくれたから助かったが、1度剣を弾かれて死にかけたほどだ。

 来るのが1秒でも遅れていたら、間違いなく死んでいただろうな」


 あのオーガはSランクモンスターだったの?

 通りでパワーとスピードがあると思ったよ。


 シロップさんがオークキングを瞬殺してたけど、あれって本当に異常だったんだね。

 ちょっと……この椅子に座るのが怖くなってきたよ。

 あっ、でもクンカクンカが始まった、すごくいい。


「残りのオーガもAランク並みの強さを持っていて、変異種よりも色がどす黒いのが特徴だ。

 魔法陣で召喚されたことを考えると、強化魔法を施されていた可能性がある」


 ファインさんの話が終わると、隣にいるスズが前のめりになった。


「聞きたいことがある。

 ファインとは何度も模擬戦をしているため、強さも理解しているつもり。

 私が現場に着いたときはモンスターを討伐した後で、衰弱しきったファインしかいなかった。

 Sランクモンスターでも簡単に死ぬはずがないのに。

 どれくらい戦っていた?」


「………正直にいうが、5分ぐらいだろうな。

 そこで剣を弾かれ、殺されかけた」


 ファインさんの言葉に、場の空気が凍り付いた。


 受け入れがたい現実に全員が戸惑っているように見える。

 騎士団長をやっているぐらいだから、ここにいる誰もが認めるほど強いんだろう。


 1つ気になるのは、胸騒ぎを感じたのが1時間以上も前だってことだ。

 それなのに、実際の戦闘は5分。

 この誤差がなんなのか気になる。


「ドラゴンと戦っていた方が楽だと感じるほど、オーガエリートは強かった。

 巨体から放たれる凄まじいパワーだけでなく、巨体に似合わないスピードで圧倒されたからな。

 弱点の首以外は皮が硬すぎて、俺では傷1つ付けることもできなかったよ。

 もしスズと共闘したとしても、勝つ自信はない。

 タツヤがオーガを無効化してくれたから、勝てたに過ぎない」


 やだ……照れる。

 みんなそういう尊敬する眼差しで見ないでよ、嫌いじゃないけど。

 ゴブリン以下のポンコツ冒険者をヨイショするなんて、ファインさんも物好きなんだね。


「答えたくなければ答えなくてもいいが、いったいどうやって倒した?

 普通ならEランクのお前がその場にいても、足手まといになるだけだ」


 あれ、騎士団長から聞いてないの?

 先にある程度ギルマスに伝えているものだと思っていたのに。


 僕は騎士団長の方を見る。


「冒険者にとって、スキルや魔法は知られたくないものだろう。

 相手がギルマスだからと言って、簡単に話したりはしない。

 少なくてもお前は、命の恩人なんだ。

 恩人の情報を売るようなことはしないさ」


 イケメン過ぎるだろう、ありがとうございます。

 でも、ここにいる人で僕の能力を全く知らないのは、ギルマスだけ。


 不死鳥(フェニックス)は餌付けしているし、ファインさんと王女は現場にいたからね。

 何の液体かはわからないと思うけど、どんな能力か推測はできるはず。


 適当に誤魔化せるような雰囲気じゃないし、ギルマスは正義感が強いからな。

 スキルの内容を公表しても、悪い扱いにはならないと思うけど……。


「まだ子供なので、判断に困ります。

 ちょっと相談させてください」


 だいたい「子供だから」って言えば、深く突っ込まれないからね。

 困った時は子供を武器にして逃げるよ。


 隣にいるスズの意見を聞くため、小声で話しかける。


「王女がいるってことは国にバレると思うんだけど、大丈夫かな?」


「この国の王族は信頼できる。

 国王に話がいっても、悪いようにはならない。

 逆に王族が味方になってくれた方が安全だと思う。

 でも、他の貴族に拡がるのは避けた方がいい」


 そういえば、前も王族に話した方がいいって言われたっけ。


「リーンベルさんにも聞いてくる」


 リーンベルさんの元に向かって訊ねてみると、


「この国の王族は民思いだから大丈夫だと思うよ。

 スズも王女様に懐いてるし。

 あの子は昔から動物のカンが働くから、人を見る目があるのよ。

 料理効果のことはいったん伏せて、素直に話してみたらどうかな?」


 2人とも賛成派みたいだから、リーンベルさんの言う通りにしよう。

 この場は料理効果を伏せて、調味料で戦闘していることについて話す。

 騎士団長にバレてるのも、調味料のことだけだし。


「僕は冒険者になって、まだ2か月も経っていません。

 普通のオーガを見たこともないですし、高ランクの魔物の討伐経験もありません。

 それにアイテムボックス持ちは後天的にスキル・魔法は覚えません。

 つまり、僕の全てを晒すことに繋がります。

 そのため、何があっても口外しないことを条件にしてもいいですか?」


 思わずファインさんは立ち上がった。


「アイテムボックス持ちなのか!

 子供という事実は百歩譲っても、戦闘ができないと言われる職に助けられるとは。

 俺はその条件で構わない、話を聞いてみたい」


 その場の全員がファインさんの言葉にうなずいた。


「僕はユニークスキルを持っています。

 本来は戦闘向けのスキルではないんですが、無理やり戦闘に使っています。

 スキル名は、【調味料作成】。

 多分なんのことかわからないと思いますけど。

 ギルマス、ちょっと協力してもらってもいいですか?

 あとリーンベルさん、コップに水を入れて持って来てください」


 すぐにリーンベルさんは水を取りに行ってくれた。


「先に言っておきますけど、敵意はないですからね。

 怒って殴りかかってこないでくださいよ」


「何をする気だ? 別に構わないが」


 さすがギルマスですね。

 その堂々とした態度はお見事です。

 敬意を表して、ちょっとだけにしてあげますね。


 リーンベルさんが戻ってきて、水が到着する。


「知りたいって言ったのはギルマスですからね。

 百聞は一見に如かずです。

 口を大きく開けてください」


 ギルマスはよくわからないまま、大きな口を開けた。

 みんなが見守る中、右手で狙い定めてロックオン。


 さぁ、ハバネロソースをお食べ。


 ピュッ


「ぬぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! みずみずみずーーー!」


 筋肉ムキムキのオジサンを倒すって、想像以上に気持ちがいい……。

 普通に戦ったら絶対に勝てないのに、少量のハバネロソースで倒すことができるなんて。


 おかわり、どうですか?

 オークさんみたいに大きな口を開けてもいいですよ。


 ハバネロソースの辛さで騒ぐギルマスをいったん無視して、ファインさんと王女に話しかけていく。


「今ギルマスに使ったのは、オーガ戦で最初に使ったものです。 

 あれを強力にしようと無理をしたら、反動で倒れてしまいました。

 名前はハバネロソースといって、本来は料理に数滴だけ使うものです。

 だから少量とはいえ口に入れすぎると、ギルマスのようになります」


 ギルマスはまだ辛さに苦しんでいるようで、縮こまって水をチビチビと飲んでいる。

 オジサンが縮こまっても、可愛さは0である。


「あのー、私も少し舐めていいですか?」


 マジかよ、この王女は好奇心旺盛だな。

 みんな引いてるぞ?

 でも、よく見れば胸もスズより大きいし、気品溢れる清楚系で最高だ。

 あまりの辛さにギュッと抱きついてくれるかもしれない。


 ……それに、今の言葉を聞いて少しドキッてした。

 生まれて初めてハバネロソースになりたいと思ったよ。


 皿にハバネロソースを入れて、王女に差し出すと、指にチョンと付けて舐めていく。


「~~~~~~!!!!」


 辛~いって感じで、チョコンっと舌を出している。

 めちゃくちゃ可愛い。

 どうしよう、好き。


 可愛いから特別にクッキーを出してあげよう。

 お口直しにお食べ。


 王女は迷わずクッキーを口へ入れた。


「なんですか! このクッキーのおいしさは!

 今まで食べてきたクッキーとは比べ物にならないおいしさです!」


 スズとリリアさんが手を伸ばしておねだりしてくるけど、無視をしよう。

 今はハバネロの話だからね。


「ハバネロに話を戻しますけど、これが目に入ると激痛がします。

 普段は魔物の顔面を狙って、口、鼻、目にハバネロを入れて攻撃しています。

 ギルマスみたいにムキムキでも、体の内側まで鍛えることはできませんから。

 なんならギルマス、目に1滴いれてみませんか?」


 僕はニコニコして、ギルマスに勧めてみた。

 ハバネロの辛さにやられたギルマスは、話が進んでもイジけたまま。

 椅子の上で体育座りをして、水をチビチビと飲み続けていた。


「俺は初めて魔物が可哀想だという気持ちになった。ハバネロ怖い」

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