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怒らせてはいけない人

 門に着くと、周りは暗くなるほど日が沈んでいた。


 冒険者ギルドって、夜もやってるのかな。

 もしかしたら、日が暮れたら閉めるかもしれない。


 走れ、走れ! 急いで戻ろう!

 リーンベルさんの笑顔を見るために!


 ギルドに着くと、幸いなことに灯りが付いていた。

 扉を開けると、片手で数えるくらいの人しかいなかったけど。


 受付カウンターにリーンベルさんの姿はない。

 元気っ子受付嬢の女の子が座っているだけ。

 初依頼はリーンベルさんに報告したいから、聞いてみようかな。


「すいません、リーンベルさんはもういませんか?」


「ベル先輩ですか? ちょっと待ってくださいね」


 ギルドの奥へ呼びに行ってくれると、すぐにリーンベルさんが受付に出てきてくれた。


「もう……。遅いよ?」


 両手に腰を当てて、ほっぺたを少し膨らませている。

 そうやって怒る人って本当にいるんだ、可愛い。


「ごめんなさい。ちょっと夢中になってたら遅くなっちゃって」


「君は登録初日なんだよー?

 ちゃんと暗くなる前に戻ってくるように言ったでしょ。

 お姉ちゃんと約束したんじゃなかったの。

 もう……。明日は早く戻ってくるんだよ。

 お姉ちゃんともう1度約束だからね?」


「は、はい」


 リーンベルさんのお姉ちゃん属性、すごい好きなんですけど。

 こんな可愛い人が心配してくれるなんて嬉しい。

 子供扱いがちょっと恥ずかしいけど心地いい。

 もうちょっと怒られてもいいかも。


 え? だから独り身なんだよって?

 その罵倒を受け入れよう、精神32万の強靭なメンタルには効かないからね。


「ゴブリンはちゃんと討伐できた?」


「はい。ゴブリン10体とウルフ2体アイテムボックスにあるんですけど」


「ウルフも入ってるの!? ……解体はしてある?」


「いえ、倒してすぐにアイテムボックスへ入れたので」


「じゃあ少し急ごう、解体場しまっちゃうから。こっち来て」


 リーンベルさんは僕の手をギュッとつかんで走り出す。

 手をつかまれて瞬間、恋という名の衝撃がビリンッと体を襲った。


 ドキドキドキドキ


 ま、待って! 胸の高鳴りが尋常じゃないですけど!

 称号『初心(うぶ)な心』の恋愛虚弱体質+のせいかもしれない。


 手を握られただけで恋に落ちた僕は、そのまま解体場まで連れていかれる。



 解体場は片付けをしている途中だった。

 リーンベルさんと一緒に1人のオジサンの元へと走っていく。


 両手を合わせて「もうダメかな?」とお願いしてくれるリーンベルさん。

 解体のオジサンは「仕方ねぇな」と、まんざらでもない感じで答える。


 オジサン、その気持ちはわかるよ。


 解体のオジサンに共感しながら、ゴブリン10体とウルフ2体を取り出す。

 出された魔物と僕の顔を何度もチラチラと見比べている。

 とても不思議そうな顔だ。


 小さい子供がゴブリンとウルフをいっぱい持ってきたから、驚いているんだろう。

 いや、レアスキル【アイテムボックス】に驚いたのかもしれない。

 ふっ、僕はそういう展開好きだよ。

 オジサン、もっと驚いて褒め称えてくれてもいいんだよ?


「おい、坊主。なんだこの独特のニオイと黒い液体は」


 あっ、そっちですか。


「ちょっと工夫して倒してみた結果です」


「「 ……… 」」


 「水で落ちるのか?」といいながら、ホースを引っ張り出してきて、水をかけていった。

 すると、醤油はきれいに流れ落ちた。


 よかった、これで雨が降れば街道もきれいになるよ。


 オジサンはササッと手慣れた手つきで解体していく。

 ゴブリンからは緑色の石を回収し、ウルフからも同じ石と毛皮を回収していた。


 「他は捨てちゃうの?」と聞いたら、「この地域はウルフを食べる習慣はないから魔石と毛皮だけだ」といっていた。

 きっと緑色の石が魔石だろう。


 10分もしないうちにアッサリと解体が終わった。

 片付けの途中でお願いしたから、お礼を言ってリーンベルさんと一緒に戻る。



 受付に座った途端、さっきまで天使だったリーンベルさんがニコニコした不敵な笑みを浮かべてきた。


「タツヤく~ん、ちょっといいかなー。

 ウルフってEランクモンスターなんだよー?

 なんで冒険者登録したばかりの子が2匹も討伐しちゃってるのかなー。

 お姉ちゃんはちょっと詳しく聞きたいなー」


 あれ、コレ怒っているパターンのやつだ。

 あんなにも天使だったリーンベルさんから、黒いオーラを感じる。

 堕天使だ、これはまずい。


「えっと……わざとじゃないんですよ。

 歩いてたらウルフが出てきて、仕方なく倒したんです。

 そうです、仕方なかったんです。

 急に現れてきたんですよ。

 いやー、危なかったですよね」


「あぁそうなんだ、言い訳するんだ」

「ごめんなさい」


 しっかり頭を下げて謝罪する。

 今のリーンベルさんに逆らっちゃいけない気がする。

 すごい怖いことになると思うんだ。


「もうー! 無茶してやられちゃったらどうするの?

 命は1つしかないんだよ?

 だいたい君みたいな若い子は……」


 「ごめんなさい、ごめんなさい」と、平謝りをしながら10分ほど怒られた。

 でも、リーンベルさんは僕のためを思って言ってくれている。

 異世界に来て、まだ初日。

 こうやって心配してくれる人がいるって嬉しいことだと思う。


 リーンベルさんはやっぱり天使だ。

 ……今は怖いけど。


「今度はちゃんと気を付けてね。

 あと、明るいうちにちゃんと戻ってくること!」


「はい!」


 堕天使リーンベルさんが天使に戻ったところで、依頼の精算をしてくれた。

 常設依頼報酬と買取素材を合わせて、銀貨8枚になった。

 高いのか低いのかわからないけど仕方ない。

 これで宿が取れるといいなー。


 そうだ、泊まる場所がないんだった。


 今のリーンベルさんに相談したら怒られそうだな。

 でも頼れるのリーンベルさんだけだし、聞くしかないよね。


「あの~、リーンベルさん。1つご相談したいことがあるんですが」


「なんですか、タツヤさん。もう変なことは言いませんよね?」


 ヤバイ、すでに怒られそうだ。

 さっきよりもニコニコしているよ。


「えっとですね。泊まる場所を探してないんですけど、今からでも泊ま……れるところって……」


「もう~! ちょっとは先のことを考えて行動しなきゃいけないでしょ?

 なんで君はこんなに遅く……」


 また堕天使が現れた、やっぱり怒らせてしまったよ。

 意外に怒りやすいタイプなのかもしれない。

 これだけ怖いんだ、ギルドでも怒らせたらダメな人として有名に違いない。


 ひたすら「ごめんなさい、ごめんなさい」と謝っていると、奥から胸のボタンが弾けそうな美人受付嬢が顔を出してくれた。


「ベルちゃんは怒ると長いから気を付けなきゃダメよ?」


「うわっ、アカネ先輩! ビックリさせないでくださいよ。

 私はこの子のことを思って怒ってるんです!」


 美人受付嬢アカネさん、胸が大きいアカネさん。

 よし、名前を覚えた。


「はいはい。それでなに悩んでるの?」


「この子が泊まる場所がないっていうんですよ」


「開いてる宿屋はあると思うけど、日が落ちてから子供が探しに行くには危険ね」


「そうなんですよ、ギルドも閉めちゃいますし」


「うーん。ギルマスに休憩室借りられるか聞いてみたらどうかしら?」


「そうですね、ちょっと聞いてきます」


 リーンベルさんは席を離れ、足早に2階へと上がっていった。

 戻ってくる間はアカネさんが「ベルちゃんは良い子だから、ちゃんと言うこと聞くんだぞ~」と、話し相手になってくれている。


 1つだけ言いたい。


 アカネさん、前かがみになって胸を『こんにちは!』ってさせるのやめてください。

 谷間が気になって、会話が入ってこないんですよ。


 それに何だろう、大きい胸を間近で見ると異常にドキドキする。

 心が全然落ち着かない、これも恋愛虚弱体質+の影響か?

 まぁ元から弱い方ではあるけど、直視できないのはおかしい。


 大きな胸に戸惑っていると、リーンベルさんはすぐに戻ってきてくれた。

 ギルマスのOKもちゃんと出て、休憩室を使わせてもらえるようになった。


 その場でアカネさんと別れて、リーンベルさんに案内してもらう。

 休憩室に入ると「夜ごはん、どうせ食べてないんでしょ?」と、パンを差し出してくれた。


 この人はどれだけ天使なんだ、優しさが心に染みるぜ。

 明日はちゃんと早く帰ってきて、この人を怒らせないようにしよう。

 そういえば、異世界についてから何も食べてなかったな。


 僕はリーンベルさんの優しさに感謝しながら、パンを食べ始める。

 お腹が膨れると急激な眠気に襲われて、そのまま異世界初日は就寝した。

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