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親睦会の反省会

「ちょっと反省会してもいいですか?」


 親睦会の反省会という意味のわからないことを提案する。


 不自然なほど、誰も視線を合わせようとしてこない。

 みんな食べ過ぎた自覚があるんだろう。


「みなさん、よく思い返してください。

 食べすぎたな、やりすぎたなって心当たりがある人。挙手」


 全員の手が挙がった。


「ですよね」


 人が食べる量じゃありませんでしたよね。

 クッキーをおかずにしてパンを食べちゃダメだし、ナイフがあるのに肉を食いちぎっちゃダメだ。

 普通の人はそんなことをやらないよ。


「俺も食いすぎたとは思っているが、あの味は卑怯だろ。

 なんだよ、あのスパイシーな味付け。

 あれだけの量を食べたのに、一切飽きなかったぞ」


 ザックさんはうなずく。


「私はこれから1週間、全く同じ味付けでも構わない」


 ザックさんはうなずく。


「刺激的でおいしかったよね~。

 オーク肉の脂っぽさを感じなかったよ~」


 ザックさんはうなずく


「美味」


 ザックさんはうなずく。

 しゃべれないザックさんは共感しまくりだ。


「私はまだ満足していないんだけど。

 もっと食べさせてほしいなー」


 誰も共感しなかった。

 さすが大食いのリーンベルさんだ、1人だけ浮いている。

 この人の胃袋は別次元だから、いったん無視して話を進めていく。


「今回出したオーク肉の味付けは、焼けばいいだけです。

 だから、簡単ですぐ作れるので問題はありません。

 でも、作る予定のオーク肉料理『とんかつ』は手間がかかります。

 手間をかけた分、今日のオーク肉よりおいしいです。

 サックサクの衣に、噛むたびにあふれる肉汁、下味のスパイシーな塩胡椒がコッソリと顔を出して、肉本来のうまみを引き出します」


「「「 今日よりも……おいしい…… 」」」


 スズ、リーンベルさん、シロップさんは混乱して、体が震えている。


「とんかつはソース、ケチャップ、味噌など、途中で味を変えて食べることができます。

 つまり、1つの料理で色々な味を楽しめるんです」


 カイルさんとザックさんまで、とんかつの潜在能力に怯えて震えだす。


「さらに、パンに挟んで食べるカツサンドは最高においしいです。

 僕はタマゴサンドよりもカツサンドの方がおいしいと思いますよ」


 目をギンッと大きく開けて、リリアさんは驚いた。


「皆さん、想像してください。

 とんかつを普通のオーク肉ではなく、上質なオークエリートの肉で作ったらどんな味になるでしょうか?」


 バタッ


 トンカツの味を想像してスズが倒れると、すかさずリーンベルさんが駆け寄っていく。


「スズが味を想像しただけで倒れたわ。

 どんな料理なのかほとんどわかってないのに。

 みんな! まだ見ぬ『とんかつ』のことを考えちゃダメよ!」


「とんかつ~……、今日のオーク肉よりおいしい~……」


 バタッ


 シロップさんも倒れた。

 どうして見たこともない料理で、倒れるまで妄想できるんだろうか。


「タ、タタタ、タタ、タタツヤ。

 お、おお、お、俺たちに何を言いたいんだ?」


 カイルさんはわかりやすく動揺していた。

 体の震え方が異常で、冷や汗もダラダラと流れている。

 本当にAランク冒険者か疑問に思えてくるよ。


「皆さんが1人前しか食べないんだったら、こんなこと言わないんですよ?

 今日出したオーク肉1枚で、200gぐらいありました。

 クッキー、パン、豚汁も食べたの覚えてますよね?

 1番小食のリリアさんでも、オーク肉5枚で1キロも食べています」


 リリアさんは頭を抱えて震え始めた。

 きっと『そんなに食べてしまったのか』という後悔だろう。

 女の子が肉を1キロも食べて小食とか、意味がわからないもんね。


「結論として、今の段階でとんかつを作ることはできません。

 すでに想像しただけで倒れる人もいますから。

 まずは料理の味に慣れてからにしましょう。

 大量に作る準備も必要ですし。

 なので、とんかつによる親睦会は1週間後にします」


 全員が無言でうなずいた。

 まだ体の震えが止まらないようだ。

 倒れているスズとシロップさんも『うん、うん』とうなずいている。

 なぜ反応できたんだろうか。

 実は起きてるのかな。


「あと、リーンベルさんはちょっとお話しましょう」


「うっ……。はい、すいません」


 他のメンバーも『だろうな』って感じで見ているよ。


「とんかつを食べても倒れないように、これから1週間、夜ごはんは裏庭で食べます。

 簡単な物を用意しますので」


 その言葉に、Aランク冒険者は狂喜した。


 喜びのあまり、ザックさんとカイルさんは殴り合いを始める。

 お互いに嬉しそうな顔で、なぜか相手の顔面だけを狙い撃ちだ。怖い。


 リリアさんまで拳を握りしめ、ガンガン机を叩いて喜びを表現している。

 無表情のリリアさんが喜びを表現してくれるのは嬉しい。けど怖い。


 倒れているはずのシロップさんは、垂れている耳がピーンと伸びた。可愛い。


 まぁ、不死鳥(フェニックス)は基本いい人たちだからね。

 猛獣みたいに食い散らかしたけど。


 まだ2日しか関わってないけど、すごく気を使ってくれていたし。

 せっかく冒険者の知り合いができたんだから、親睦会を増やしてもっと仲良くなりたい。

 異世界で友達がいないって寂しいからね。


 あと、シロップさんにもっとスリスリとクンカクンカをされたい。



- 1時間後 リーンベルさんの家 -



 反省会後、とんかつの味を想像して倒れたスズとシロップさんを起こして、それぞれ宿と家に戻る。

 リーンベルさんの家に到着した僕は、リーンベルさんと話し合いを行う。


「リーンベルさん、ちょっと話し合いましょう」


「は、はい」


 いつも怒る側だったリーンベルさんを、今日は僕が怒る。新鮮だ。

 しゅーんとなってるリーンベルさんが可愛い。

 もちろん、2人とも正座だ。


「いっぱい食べることは隠しているはずでしたよね?」


「そ、そうなんですが……」


「今日200gのお肉、何枚食べたかご存じですか?」


「えっと、15枚……くらいですか?」


 目を反らしながら答えるんじゃありませんよ。

 冷や汗が流れてるじゃないですか。


「34枚です」


「うっ。バレてる」


 知ってて半分までサバ読んだんですか。読みすぎですよ。

 誤魔化すのも下手すぎです。


「だっておいしかったんだもん!

 すごいスパイシーで飽きがこないんだもん!

 あれでも我慢したんだもん……」


 駄々をこねるリーンベルさんが可愛い。

 語尾の『だもん』が卑怯だ。

 もっと言ってほしい。


 ……違う。食べすぎを注意しないと。


「お姉ちゃん、さすがに食べ過ぎ」


 そうだ、スズ。もっと言ってくれ。

 君もオーク肉10枚、2キロも食べてたけどね。

 10枚だったら少ないねって、変な錯覚が生まれてるから許すよ。


「おいしそうに食べてもらうのは嬉しいんです。

 でも、作るのは大変なんですからね?」


「はい……」


「ちなみに食べようと思ったら、後どれくらい食べられたんですか?」


「ほ、本当のことを言った方がいい?」


 そ、そんな上目遣いで言わないでください。

 初心(うぶ)な心が反応しちゃうじゃないですか。


「普段どれくらい作った方がいいのか参考にしたいんです。

 怒らないので正直に言ってくださいね。

 肉の枚数みたいにサバを読んだら、明日の朝ごはんは抜きです」


「今からオーク肉20枚、タマゴサンド20人前を食べたいです」


 ごめん、理解できない。

 目をキラキラさせて言ってこないでください。

 なんで『もしかして用意してくれるの?』って、期待の眼差しで見てくるんですか。

 出しませんし、さすがに引きますよ。


 今までの食事はだいぶ我慢してたんですね。

 リーンベルさんの天使+お姉ちゃんイメージが、残念大食いキャラに変わっていくよ……。


「僕が作る前から1人でそんなに食べてたんですか?」


「ホロホロ鳥が手に入った時だけはいっぱい食べてたの。

 それ以外は1人前を食べてただけだよ。

 お腹いっぱいになるまで食べたことは、大人になってからはないかな」


 スズまでドン引きだ。

 こいつやべぇよって顔をしている。


「スズはどうなの?」


「私はお腹いっぱい。

 今日は食べ過ぎた、お腹が張ってる」


 ポンポンとお腹を叩いている。

 よかった、妹だけど君は普通だね。

 ……普通ではないか、ただの大食いだ。

 リーンベルさんは怪物だ。


「せめて、暴走するのは家の中だけにしてくださいね。

 今までのリーンベルさんのイメージが崩れてしまいますから」


「ぜ、善処します」


 曖昧な返事で逃げて、目線も反らしてる。


「家の中ではいっぱい食べられるように用意しますから。

 だから、外ではもうちょっと自重してください」


「は、はい……」


 言質、取りましたよ?


「話もまとまった。クッキー出して」


 スズは相変わらずマイペースだね。

 甘いものは別腹か、それは仕方ない。認めよう。


 ……あ、あれ? クッキーほとんど残ってないじゃん。


「クッキーの在庫6,000個あったはずなのに、10枚しか残ってないよ。

 なんで1週間もしないうちになくなっちゃうのかな……」


 残っていたクッキーを10枚出してあげると、リーンベルさんとスズで5枚ずつ食べていった。


「スズ、しばらくは冒険者活動を休みにしていい?

 お菓子作りをしないと、クッキーが食べられなくなっちゃうから」


「休むべき、クッキーは最優先事項。

 金ならある。問題はない」


 出た、「金ならある」発言。

 そんな言葉は投資家か社長ぐらいしか言わないぞ。


「どれくらいお金持ってるの?

 買い物も豪快だし」


「私も気になってたんだよね。

 一緒に住んでた頃は、こんなに高い野菜は食べられなかったよ。

 魔石コンロとかも買ってるし」


「金ならある」


「「いくらくらい?」」


「ん……白金貨300枚くらい?」


「えーーーーーーーー!」


 リーンベルさんが叫んだ。

 口をパクパクさせて驚いている。

 白金貨って初耳だけど、どれくらいの価値があるんだろうか。


「白金貨の価値を教えてもらってもいいですか?」


「え!? あ、そっか。そうだよね、知らないよね。

 白金貨1枚で金貨100枚分。

 普通に生活してたら見ることもない硬貨なの」


「金貨100枚!?」


 ちょっと待って、高すぎて計算できない。

 白金貨1枚で100万円だから、10枚で1,000万円、100枚で1億円……。

 15歳で資産3億円とかヤバすぎる、結婚したい。


「なんでそんなに持ってるの?」


「王族の依頼をいっぱい受けた。

 ギルドに通さない特殊依頼とかも受けたし」


 王族の依頼をいっぱい受ける、ギルドに通さない特殊依頼。

 そりゃ金銭感覚が狂ってしまうのもわかる。

 多分『火猫のスズ』のネームバリューがすごいのも、王族に信頼されて大活躍をしているからだろう。


「王族の依頼を受けてたのは知ってたけど、特殊依頼まで受けていたなんて。

 Bランクが受ける依頼じゃないよ。

 お姉ちゃんはスズが遠い存在に見えてきたわ……」


 あなたの食欲の方が遠い存在ですよ。


「金ならある。だからクッキー作って?」


 これが噂の玉の輿ってやつか。

 僕はスズさんに一生ついていこうと思います。

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