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ホロホロ鳥のから揚げ

 告白がなかった僕は、ガックリした気分でギルドを後にする。

 そもそも告白を期待する方がおかしいんだ、気持ちを切り替えよう。


 夜ごはんの買い物へ向かうため、スズと一緒に市場へ向かっていく。


「先に宿だけ取ってきてもいい?」


「宿は取らなくていい。

 私が別のいい宿を予約しておく」


「そう? じゃあお願いね」


 お金を管理しているのはスズだから、言う通りに任せよう。

 ギルドではリーンベルさんがお姉ちゃん、パーティではスズがお姉ちゃんみたいになっている。

 お姉ちゃん好きの僕としては、幸せな気持ちで満ち溢れているよ。


 市場に着いても、スズにお任せだ。

 買い物リストだけ渡せば買ってくれるから、僕は荷物をアイテムボックスに入れるだけ。

 この前スズが買わなかった食材を買っていくことにする。



『生姜1個-銅貨1枚

 ジト目生姜1個-銅貨3枚

 垂れ目生姜1個-銅貨5枚』


「ジト目も垂れ目もそれぞれに良さがある。オジサン、どっちも100個」


 食べたことないけど、その気持ちはなんかわかるよ。



『ネギ1本-銅貨1枚

 絡み合うネギ1本-銅貨3枚

 寄り添うネギ1本-銅貨5枚』


「オジサン、寄り添うネギ100本」


「スズ、絡み合うネギはどうなの?」


「食べてるときによく舌に絡み合う。

 私は寄り添われたい派」


 これからスズにもっと寄り添っていきたいと思います。

 でも、スズとからm(自重



『ゴボウ1本-銅貨1枚

 あ~んゴボウ1本-銅貨3枚

 は~んゴボウ1本-銅貨5枚』


「オジサン、あ~んゴボウ100本」


 あ~んって食べさせてくれるのかな?

 このゴボウには期待したい。

 きんぴらごぼうをあ~んされたい。



『白菜1玉-銅貨1枚

 なかなかやる白菜1玉-銅貨3枚

 できる白菜1玉-銅貨5枚』


「オジサン、できる白菜100個」


 この白菜にはシンプルに味を求めたいと思う。

 白菜って鍋に欠かせないから食材だから。

 ……今まで買った食材には何を求めてるんだって話しだけどね。



『卵1パック-銅貨1枚

 きらめき卵1パック-銅貨3枚

 ときめき卵1パック-銅貨5枚』


「オジサン、ときめき卵100パック」


 ときめき卵でリーンベル姉妹をときめかせたいと僕は誓う。

 キュンキュンしてるところが見てみたい。



『アスパラガス3束-銅貨1枚

 前向きアスパラガス3束-銅貨3枚

 ポジティブアスパラガス3束-銅貨5枚』


「オジサン、前向きアスパラガス100束」


 後ろ向きな考えより、前向きに考えた方がいいっていうもんね。

 前向きで元気な女性に「大丈夫だよ。小さくても、早くても、初めてでも、私は気にしないよ」って言われたい。


 ……僕は何のことを考えているんだろうか。忘れてほしい。



『ピーマン1個-銅貨1枚

 甘えん坊ピーマン1個-銅貨3枚

 寂しん坊ピーマン1個-銅貨5枚』


「オジサン、寂しん坊ピーマン100個」


 なんなんだ、このピーマンは。

 食べたら寂しくなっちゃうのかな。

 もしスズが寂しくなったら、「今日は寂しいから一緒に寝よ?」とか言ってくれるかもしれない。

 このピーマンには期待しよう。



 この後、パン屋によってパンを大量購入した。

 それからギルドへ戻って、解体されたホロホロ鳥の肉を回収する。

 ギルドでは、リーンベルさんがよだれを垂らして僕の方を見ていた。


 そんなにホロホロ鳥が楽しみなんだろうか。

 でも、リーンベルさんの清楚なイメージが崩れてしまうから、よだれはやめてほしい。

 べ、別に僕を食べt(自重


 目的のお肉を回収したため、一足先にスズと一緒にリーンベルさんの家へ戻る。

 お昼ごはんを食べ終わったスズは、リーンベルさんのベッドで昼寝を始めた。

 徹夜の疲れもあったんだろう、ゆっくり休んでもらいたい。


 お昼ごはんを食べたばかりだけど、キッチンを借りて料理をすることにする。

 作りすぎてもアイテムボックスがあれば問題ないからね。


 今日の夜ごはんは、3種類作るとしよう。


 『ホロホロ鳥のから揚げ』

 『寄り添うネギと豆腐のみそ汁』

 『不倫かぼちゃの煮物』


 あの感じだと相当食べそうだし、から揚げは大量に作るつもりだよ。



 まずは『ホロホロ鳥のから揚げ』だ。


 1.ホロホロ鳥の肉を適当な大きさに切りまくる

 2.醤油・生姜・酒で1時間漬け込んで下味をつける

 3.下味を付けた肉に片栗粉・薄力粉をつける

 4.180度の油で揚げて完成


 から揚げはお弁当に入ってるとテンション上がるよね。

 嫌いな人はいないと思う。

 衣がサクサク、肉汁じゅわ~で肉のうま味がズドンッとくる。

 から揚げって誰が開発したんだろうね、最高の料理だよ。



 次に『不倫かぼちゃの煮物』だ。


 1.不倫かぼちゃを一口で食べれる大きさに切る

 2.鍋に水を入れて火にかけ、カボチャを煮る

 3.鍋に入ってるお湯の量を調節しながら醤油・砂糖を入れる

 4.味がしみ込むまで煮込んで完成


 個人的には、かぼちゃの食感がなくなるまで煮込んである方が好きだ。

 形が崩れるギリギリのところで維持されてて、口に入れたらトロ~っと崩れるやつ。

 だから、時間をかけてじっくりと煮込んだよ。


 本当はみりんで甘さを調整したいけど、調味料作成で作れないから許してほしい。



 最後に『寄り添うネギと豆腐のみそ汁』だ。


 1.青ネギも白髪ネギも斜めに切っていく

 2.鰹出汁を鍋に入れて、火をかける

 3.ネギを入れて味噌を溶く

 4.小さめに切った豆腐を入れて、ひと煮立ちしたら完成


 豆腐のおいしさを知ってもらうために、シンプルに豆腐とネギだけにしたよ。

 スズも楽しみにしてるはずだから。


 辺りが暗くなってくるまで、ひたらす作り続けた。

 途中でスズがやってきて、鶏肉を揚げる僕を拝みだしたときは驚いた。


「私の冒険者のカンが拝むべきだと警告してきた」


「拝むのはやめて。ご飯あげないよ?」


 スズはあっさりと引き下がってくれた。

 普通はカンが警告することってないと思うんだけど。

 どんな感じなのか少し気になる。


 ギルドを閉める時間が近付いたので、スズと一緒にリーンベルさんを迎えに行く。

 ギルドに着くと、マールさんに手招きされた。


「いったいベル先輩と何があったの?

 ボクはあんなベル先輩初めてみるよ」


 リーンベルさんは依頼の整理をご機嫌でやっている。

 鼻歌を口ずさみながら、ニコニコの笑顔だ。


「スズとリーンベルさんの家でご飯を食べたぐらいですよ」


「ご、ご、ごご、ご、ごはんを?!

 どうして君がベル先輩とごはんに行けるのさ?

 し、しかもベ、ベ、ベ、ベル先輩のお家ってどういうこと?

 ボクでも行ったことないんだよ?」


 そうだ、マールさんは女の子なのにリーンベルさんのことが好きな、百合属性持ちだったんだ。

 敵に回してはいけないから、ちゃんと誤解を解いておかないと。


「スズとパーティ結成の食事会をすることになったんですよ。

 それでリーンベルさんのお家を借りただけです、今日はそれの続きです」


「……そうなんだ、それならいいけど」


 この人はリーンベルさん一筋だね、尊敬するよ。

 僕は彼女いない歴32年だから、マールさんからもモテたいと思っているよ。

 モテなすぎた反動で、ハーレムを築きたいと意味不明なことを考えているんだ。


 モテないのに無謀だよね。


 ギルドを閉める時間になると、リーンベルさんがすごい勢いで片付け始めた。

 完全に目が血走っていて、話しかけれる雰囲気じゃない。

 今日は早く帰りたいの! ってオーラがすごいんだ。


 マールさんが「やっぱり何かあるんじゃないの?」と言わんばかりのジト目で見てくる。

 安心してほしい。彼女の狙いは僕じゃない、ホロホロ鳥だ。


 あっという間に片付け終わったリーンベルさんが上機嫌でやってくる。

 相変わらずスズとリーンベルさんは向かい合って、ガシッと握手をしてうなずきあっていた。


 そんな姉妹は帰り道も仲良く手を繋いで「ほっろほろ♪ ほっろほろ♪ 」と、口ずさんでいる。

 家に戻ると一目散に椅子に座って、箸を手に取りこっちを見つめてきた。


「外から帰ってきたら、手を洗ってくださいね?」


 リーンベルさん達が手を洗っている間に、パンをテーブルの中央に置く。

 2人が戻ってきたところで『寄り添うネギと豆腐のみそ汁』から渡していく。


 受け取った瞬間から2人は飲み始めた。


「「めっちゃ寄り添ってくる」」


 双子みたいにハモったね。


「この白いのは何?」


「豆腐。依頼の村で買い占めてきた。

 そのまま食べたらEランクの食べ物だったくせに。

 みそ汁に入るだけでAランクに化けるとは、侮った」


「豆腐が入ってると色合いも良くておいしいよね」


 そう言いながら、『不倫かぼちゃの煮物』を差し出す。

 2人はまた新しい料理が出たと、興味津々だ。


「甘い味付けがしてある、不倫かぼちゃの煮物です。

 ほどけるように柔らかくなるまで煮たので、おいしいですよ」


 早速一口パクりと食べ始めるスズ。


「むほっ! かぼちゃなのに歯がいらない。

 舌で押すだけでドロッてとろけておいしい。

 甘い味付けが不倫のドロドロさとマッチする。

 グッ、これからホロホロ鳥を食べるというのに、思わず不倫してしまう」


 不倫かぼちゃは食べてもいいけど、不倫はしちゃダメだからね。

 今は世間からのバッシングがひどいんだから。


 リーンベルさんも食べ始めた。


「なんなの、このドロドロとした不倫の甘さ。

 禁断の味に踏み込んだいけない味だわ。

 うっ、ダメ。この甘く優しい濃厚な味わいを求めてしまう」


 求めてもいいんですよ、ただのかぼちゃですから。

 健康にも美容にもいいですし、ちゃんと食べてください。

 ……言わなくてもパクパク食べてるわ。


「では、メインのホロホロ鳥のから揚げですね」


 大皿にから揚げを大量に盛って、机の真ん中に置いていく。


 鶏肉好きならガツガツ食べてくれると思っていたのに、2人はから揚げを見た瞬間から固まってしまった。

 想像していたホロホロ鳥料理と違ったんだろう、とても驚いている。


「待って! いけない、これは危険!

 見たことないホロホロ鳥の姿に冒険者のカンが警告してくる。

 食べたら後には引けないと。

 けっして手を出してはならないSランク料理だと」


「Sランク? いいえ、災害級の料理よ!

 いつ避難勧告が出てもおかしくない。

 私の受付嬢としてのカンも危険だと警告しているわ。

 なんなの……見るだけでおいしい料理って存在するの?

 もうおいしいわ、見てるだけなのにもうおいしいの」


「食べるのやめますか?」


「「食べます」」


 大げさすぎです。早く食べてくださいね。

 出来立てが1番おいしいんですから。


 スズは震える手で箸をつかみ、から揚げを持ち上げる。

 色々な角度から眺めながら、目に焼き付けるように見続けた。

 そして、大きな深呼吸をして一気に口へ放り込む。


 リーンベルさんはじっと見守っている。


 もぐもぐとじっくり味わって食べるスズは、ゆっくりと箸をおいた。

 きっとおいしかったんだろう、目から一粒の涙がこぼれ落ちる。


「お姉ちゃん、食べちゃダメ。

 今すぐ引き返して。

 想像の遥か上をいってる。

 私は……もう後に引けないから。

 この味を知ってしまったら、今までのホロホロ鳥には戻れない!」


「スズ、どういうこと?

 そんなになの?

 そんなにおいしいの?」


「おいしいってもんじゃない!

 おいしいって言葉では表現しきれないほどおいしい。

 まだ1つ食べただけなのに、口の中に肉汁のスタンピードが起こるの。

 おいしさの大災害だよ……」


「ホロホロ鳥の肉汁でスタンピードが。

 なによそれ、そんな料理あっていいの?

 やっぱりこれは食べてはいけない。

 あれ、手が勝手に……やめて、から揚げを持ち上げないで。

 持ってこないで、目の前に持ってこないで!

 食べちゃうから、我慢してるんだから!」


「お姉ちゃん、やめて! 我慢して!」


「ごめん、スズ……もうダメ。

 から揚げのニオイで我慢できないの!

 食べる道しか選べない!」


「お姉ちゃん! ダメーーー!」


 から揚げを食べ始めるリーンベルさん。

 阻止できなかったことに泣き始めるスズ。

 いろんな意味でそっと見守ることしかできない僕。


 そして、リーンベルさんも涙を流し始める。


「なによこれ。なんでこんなにも旨味が広がるの?

 噛んでも噛んでも終わりのない肉汁がじゅわ~って溢れて、口の中が支配される。

 私は……私はどうしたらいいの?」


 リーンベルさんは頭を抱えて怯え始めた。


「お姉ちゃん、しっかりして!

 ホロホロ鳥の肉汁に負けないで。

 スタンピードが起こっても、生きる道は残されているから。

 だから、生きてもう1回から揚げ食べよ?

 まだたくさんあるの。

 から揚げはたくさんあるの!」


「そうだね、お姉ちゃん負けない。

 から揚げに負けたりしないよ。

 姉妹で仲良く一緒に食べよ?

 まだ食事は始まったばかりだもの」


 あの……、から揚げ出しただけですよね?

 同じテーブルで食事できる空気じゃないんですけど。

 2人とも泣きながら食べてるからね。


 僕はテーブルに出した食べ物がなくなるまで、そっと見守ることにした。


 2人は30分かけてじっくりと味わい、料理を食べ終える。

 異常な空気を感じるよ、食事の雰囲気じゃないんだ。


 あまりのぶっ飛んだ状況に、僕はまだ自分のご飯の準備すらできていない。

 2人だけの世界に入ってたみたいだから、音すら立てずに見守っていたんだ。


 料理が無くなったこのタイミングで、1度声をかけてみる。


「おかわりいる人?」


「「はい!」」


 まっすぐ見つめて手を挙げてきた。


「あの……作っておいて言うのもあれですが、何かありましたか?」


「うっ、気にしないでもらえるとありがたいかな。

 おいしすぎて一時的に感情が高ぶっただけだから」


 変だった自覚あるんですね。安心しましたよ。

 

「タツヤが悪い。おいしすぎるのは罪」


「スズはおかわりいらないんだね」

「ごめんなさい」


 リーンベルさん達のおかわりと一緒に、僕もご飯を食べ始める。

 ちょっとおかしなところもあったけど、すごく幸せそうに食べてくれたから満足だ。

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