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VS 魔眼持ちのダークエルフ

 魔法に特化したダークエルフを倒すなら、3つの問題をクリアしなければならない。


 1.魔法攻撃をされないこと

 2.MPを減らして魔力切れをさせること

 3.クソザコだとバレないように、常に先手を取ること


 恐ろしく難易度の高い戦いだ。

 仮にゲームだったら、初期装備で魔王を討伐するくらいの無謀さがある。

 怖すぎて漏らしてしまいそうだよ。


 膀胱をキュッと引き締めるように腹部に力を入れ、左手を天に掲げる。


「闇魔法が得意みたいですから、まずはフィールドを変えましょう。

 神聖なる雨よ降り注げ、”ホワイトレイン”」


 左手から牛乳を噴出させ、牛乳の雨を降らせていく。

 過去に振らせたことのある醤油の雨、ブラックレインとは対極の存在である。


 いきなりフィールドを変えようとする魔法を使ってきたことが、ダークエルフは予想外だったんだろう。

 周囲を確認するだけで、戦闘体勢を崩すことはない。


 正直、ホワイトレインに意図なんて存在しない。

 上級者はフィールドから変えていくかなと思って、ノリでやっただけだ。


「白い……雨ですか。

 特にダメージを受けることは……ん?

 このニオイは……牛乳?」


 早くもバレてしまったーーー!

 開始5秒の先制攻撃でクソザコっぷりを発揮してしまうとは!


 ダークエルフも普段は牛乳を飲むんですね。

 落ち着いているのは、充分にカルシウムを摂取しているからですか?

 キレやすい人はカルシウムが足りていないらしいですよ。


「思っていたよりも、ダークエルフのステータスは低いんですね。

 この雨のニオイを牛乳と勘違いしているのであれば、気を付けてくださいよ。

 あなたはもう、僕の幻術の中にいますから」


「幻術使いの我に幻術をかける……だと?!

 会話中に幻術をかけているはずの我が、逆にかけられていたというのですか。

 それも、本人に魔力の乱れを感じさせない、我と同じ高度な幻術を!」


 よし、効いてる! 効いてるぞ!


 十八番の幻術に嵌められたと思ったことで、冷静な思考ができていない。

 詳しすぎる知識が仇となり、勝手に後付け設定もしてくれた。

 ハイエルフという種族と、64万の高いステータスを見せ付けた影響も大きいだろう。


「グレイスさんは幻術と闇魔法をしか使えないようですが、僕はありとあらゆる属性魔法を使いこなします。

 決して油断しないで下さいよ。

 魔力が乱れているいま、手を抜いて防いだら即死しますから!

 複合魔法”サインポール”」


 ハバネロ、醤油、牛乳の3種類の液体を回転するように噴出。

 ビビリの性格であるダークエルフは驚愕の表情を見せると、真っ白な障壁を展開した。


 ちなみに、サインポールとは床屋さん前でクルクル回るやつである。

 複合魔法のイメージで出てきた物が、それしかなかったんだ。


「3属性に及ぶ複合魔法ですと!

 いえ、3属性を水魔法に変換して、4属性で攻撃をしているとでもいうのですか!」


 ダークエルフの脳内はパニック状態だろう。

 障壁にバシャーッとぶつかる調味料達に攻撃力はない。


 ここで冷静に水圧を感じさせれば、攻撃力のないタダの液体であることがバレかねない。

 でも幸いなことに、大量の魔力を使っている障壁は真っ白だから、こっちの様子が見えていないはず。


 子供であるフットワークを生かして、さらに混乱へと陥れてやる!


「ハイエルフの力を舐めない方がいいですよ。

 魔法のエキスパートである僕は、あらゆる魔法を見ただけでコピーしますから。

 倒れた仲間の魔法をコピーしましょう、”転移”」


 左手のホワイトレインを解除して、緊急醤油脱出で醤油をブシュッと放出。

 瞬時にダークエルフのサイドに飛び込み、着地を決める。


 障壁で隠れているために転移したように見せる、醤油戦士の醤油テクだ。

 当然、パニック状態のダークエルフは転移してきたと思い、いきなり現れる僕の方に顔を向ける。


「横がガラ空きですね、”サインポール”」


 再び3種類の液体を噴射すると、即座に障壁が展開される。

 全く気付く様子がなく、ダークエルフの顔には焦りの色しか見えていなかった。


「グッ、我以上の魔法の使い手がこの世に存在するとは!

 こちらは2,000年もの長き時間を準備に費やし……、また転移ですか!」


 ダークエルフの言葉を待ち続けてはならない。

 転移したように見せ付け、連続攻撃で動揺を誘う。

 一瞬でも冷静に考える時間を与えたら、ただの液体をぶつけているクソザコだとバレてしまう。


 四方八方からのサインポールを叩きつけ、広範囲に障壁を展開させる。

 日本のネット社会で培った煽りスキルを行使して、「魔力が乱れすぎて障壁に弱い部分が現れていますよ。そんな程度なんですかぁ?」と、適当な言葉で煽っていく。

 幻術にかかっていると思い込んでいることもあり、ダークエルフが疑う様子もない。


 ただし、同じようなことばかりしていては、マンネリ化してバレる可能性がある。

 予想以上にダークエルフは必死なのか、順調に魔力を消費して、障壁の色も薄くなってきた。

 どうやら障壁を維持するために、かなりの魔力を注ぎ込んでいるんだろう。


 そろそろ緊急醤油脱出で移動したら、障壁が透けている分、液体で飛んでいることがバレる。

 新たな一手で、さらに追い込んでやろう。


「お遊びはここまでですよ。

 闇魔法が得意なあなたには、この魔法で終わりにしてあげましょう。

 纏わりつく漆黒の闇、”カカオベノム”」


 デロンデロンに溶けたチョコレートを放出し、障壁にベターッと纏わりつかせる。

 粘性のあるチョコレートが闇に引きずり込ませるような光景を演出すると共に、毒のような効果をイメージさせていた。


「グッ、なんですか、この甘い香りは!

 まさか、甘い香りで油断させる幻術!

 我に何度も幻術をかけるとは……忌々しいハイエルフめー!!」


 恐ろしいほど怖い雄叫びが聞こえたため、次々にカカオベノムをかけていく。

 四方八方からかけた後は、上空にも打ち上げて蓋をすることまで忘れない。


 なお、ダークエルフの精神を削ることよりも、僕の精神を安定させるためである。

 ブチ切れたダークエルフ、怖い。


「こんなところで、我が死ぬはずなどない!

 闇魔法を使う我が、闇に怯える必要などどこにある!

 死にさらせ、ハイエルフがぁぁぁ!

 ”ジェノサイドレーザーッッッ!”」


 カカオベノムの塊というタダのチョコレートハウスから、漆黒のレーザーがいくつも放出。

 ダークエルフが混乱していることは間違いなく、狙いを定めて放っていない。

 ヤケクソになって、手当たり次第に解き放っていた。


 そんな危険な魔法を防ぐべく、僕は緊急醤油脱出で上空に浮遊。

 醤油を下方にブシューッ! と噴出し続けて空中で待機するという、珍しく賢い回避方法を取っていた。


 なお、スズとエステルさんはレーザーの反対側にいるから安心してほしい。


 ここまで一方的に魔力を使わせることには成功したけど、やはり反撃をされるわけにはいかない。

 放たれた闇魔法の威力は恐ろしいから。


 近くに立っていた木は爛れ落ち、石には穴が開いて闇が広がるように浸食している。

 毒のような効果は雑炊でカバーできたとしても、あの威力は防ぐことができない。

 大地にも穴が開いているくらいだし、かすっただけでもヤバいだろう。


 我を忘れたダークエルフの攻撃が止む頃、醤油の量を減らして地上へ舞い降りる。

 最後はブシュッ! と強めに放出して、強打しないように調整。


 そんな光景をダークエルフにキッチリ見られ、鋭い視線を浴びてしまう。

 魔法の影響で前方のベノムカカオがなくなっていたんだ。

 まだ後方と側方、それに頭上のベノムカカオは障壁の上に残っているけど、醤油戦士が舞い降りるところを見られてしまった。


「ハァ……ハァ……。

 空を飛んでいただと?

 いや、それにしては何か……」


 鋭い姿勢で睨まれたため、足がガクガクと震えているのがバレたのかもしれない。

 ダークエルフが違和感に気付き始めている。


 随分と障壁の色が薄くなっているし、もう一押しだというのに。

 これ以上のハッタリが思い浮かばない! と思った、その時だ。



 ダークエルフの魔眼が色を失い、ただの黒目になった。



「魔法にしては随分と周りが液体まみれ……うわぁぁぁ!

 我が、我が闇に飲み込まれ――― ……」


 障壁が消え、カカオベノムがダークエルフに覆いかぶさった。

 当然、ダメージなどあるはずもない。

 カカオベノムのチョコレートをペロッと舐めたダークエルフは、全てを悟ってしまっただろう。


「貴様、やってくれたな」


 どうしよう、子供が悪質ないたずらをしたために、大人にめちゃくちゃ怒られるような雰囲気だ。

 謝ってもなかなか許してもらえず、長時間叱られるマジ説教が起こるパターンのやつ。


「や、やってくれたとは?」


 動揺しながらも、念のために確認する。


「フッ、こんなお遊びがハイエルフの戦い方ですか?」


 それは僕が一番思っているよ。

 君よりも僕の方が圧倒的に苦労してるからな。

 真剣に戦っても、これ以上の戦いができないんだよ。


「魔法を特化した相手に、魔力切れを狙うのは当然だと思いますけど」


「口だけは誉めてあげますよ。

 こんな情けない罠にかかって、魔力がほぼ枯渇していますからね。

 ただ、あなたを倒す程度なら少量の魔力があれば充分でしょう。

 ”シャドウボール”」


「甘いですね、緊急醤油脱出ッ!」


 ダークエルフが解き放った黒い球を、醤油のジェット噴射で避ける。

 完全に立場が入れ替わったようで、蔑むような目で見られていた。


「攻撃力のない特殊な水魔法使い、と言ったところですか。

 肉弾戦は得意ではないんですが、子供のあなた程度なら大丈夫そうですね。

 ”ダークソード”」


 冷静に分析したダークエルフは黒い剣を作り出して、駆け出してきた。


 子供の歩幅でしか走れない僕に、大人のダークエルフが走ってきたら、逃げ切ることは不可能。

 そもそも、元々の潜在能力も違い過ぎる。


 でも、ダークエルフは魔力が枯渇状態であることを認めている。

 赤い目をしていた魔眼も色がなくなったし、カカオベノムで押し潰された時も自分で障壁を解除したわけではなさそうだった。


 つまり、本当に魔力は残っていないはず。

 それなら、調味料をフルに使えば勝てるかもしれない。


 距離を詰めるダークエルフに対して、僕は緊急醤油脱出で距離を取る。

 着地と同時にハバネロビームで反撃するも、ほとんど透明に近い薄い障壁を展開され、簡単に防がれてしまう。


「このような攻撃に魔力を使わされていたのは、屈辱ですね!」


 おっしゃる通りです、と思いながらも、緊急醤油脱出で逃げ続ける。

 再び着地と同時に右手でハバネロビームを、左手で()()()()する。


 攻撃の手を緩めることはできない。

 防御にまわれば、少しずつ魔力が回復するかもしれないから。

 少しでも魔力を障壁で消費させる必要がある。


 ダークエルフの攻撃さえ当たらなければ、チャンスはあるんだ。

 ようやく勝機が見えたタイミングで、諦めるわけにはいかない。


 同じことを繰り返し続けていると、魔力を使い過ぎたダークエルフは早くも肩で息をしていた。

 小さい子供に騙され、ちょこまかと逃げる僕にイライラしているんだろう。

 顔付きがどんどん険しくなっていく。


「ダークエルフの底力も、舐めないでもらえると助かりますね!

 ”シャドウウォール”」


 グルグルと逃げ回っていたこともあり、次の逃げる場所がバレてしまったんだろう。

 黒い大きな壁が作られ、逃げ場が制限されてしまう。


 ゼーゼーと息をしながら、ダークエルフはペキャペキャと音を立てて歩いてくる。

 ゆっくりと近付くダークエルフにハバネロをかけても、当然のように障壁が展開される。


 少しでも離れようと移動しても、シャドウウォールで逃げ道を制限され、黒い壁に囲まれてしまう。

 追い詰められた僕に、ダークエルフの接近を阻む術はない。

 それがわかっているのか、逃がさないようにゆっくりと近付いて来る。


「ようやく、鬼ごっこも終わりですね。

 安心してください、仲間もすぐにあの世へ送って―――、フゴッッッ!!」


 罠にかかってしまいましたね、腐ったウズラの卵トラップに!


 緊急醤油脱出で逃げ回りながら設置していた、腐った卵。

 ペキャペキャと割るように踏んで来たため、少しずつニオイが拡散していた。

 悪臭を充満させるようにシャドウウォールが展開されたことは、完全に偶然だ。


 臭すぎるニオイに戸惑うダークエルフの顔へ、ハバネロビームをぶちかます。

 ニオイで混乱するダークエルフに障壁を展開する余裕なく、ダイレクトに浴びさせることに成功。


「ノァァァァァァァ!!」


 そんな叫び声を聞いても、手加減をするわけにはいかない。

 魔力切れをしたとしても、彼はダークエルフ。

 攻撃の手を緩めることなく、徹底的に調味料地獄へ導く必要がある。


 まずは顔面を押さえて痛がるダークエルフの足元に、マヨネーズを撒いて転倒させる。

 ツルッとこけて頭をゴンッと強打した時に手が頭に回るため、ハバネロビームを顔面に追加。

 再びハバネロの痛みで苦しんだところを、カカオベノムで埋めていく。


 もしかしたら、チョコレートの沼から脱出する魔法があるかもしれないため、油断はできない。

 最後の仕上げとして、巨大ワームを討伐した巨大岩塩をアイテムボックスから取り出し、重しに乗せておこう。


 体力と魔力が奪われた状況で、さすがにここから脱出はできないだろう。

 その巨大岩塩は墓石として、特別にプレゼントしてあげるよ。

 冥土の土産ってやつかな。


 念のため、再度カカオベノムで脱出できないようにした後、僕はスズの元へ向かっていく。


 何度もダークエルフの魔法を浴びていたから、本当に生きているのか心配だ。

 今までスズが傷付いたことはあったけど、意識が飛ばされるような大ダメージを初めてだ。


 意識が戻らないと料理で回復させられないし、今の僕にやってあげられることは何もない。

 それでも愛し合う者として、優しく声をかけてあげようと思う。


 勇ましい戦いの終えた僕は、倒れてボロボロになっているスズを見付けると、ダッシュで近寄っていく。


「スズゥゥゥゥ! 起きてよォォォォ!

 怖かったよォォォ、あのオジサンが睨んできたのォォォ!

 うわぁぁぁぁん、怖かったよォォォォォォ!」

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