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JK

- こちょこちょ地獄を見届けること、20分 -


 どうやってセリーヌさんのこちょこちょ遊びをやめさせようか、天を見上げて考えていると、大きな白い鳥が近付いて来るのが見えた。


 ん? よく見ると……、あれは鳥じゃなくて、ドラゴンなのかな?

 純白に身を包んだ綺麗な羽をしていて、古代竜のようなゴツイ鱗が存在しない。

 鳥のような雰囲気を持っているけど、シルエットはドラゴンに近い。


 きっと古代竜と同じ、珍しいタイプのドラゴンだろう。


 エステルさんの笑い声がBGMのように鳴り響く中、純白のドラゴンが舞い降りた。

 神秘的なドラゴンにみんなの視線が集まり、セリーヌさんも目を奪われて固まってしまう。


 唯一動いているのは、こちょこちょから解放されたエステルさんだけ。

 過呼吸のように荒い呼吸をして、笑い苦しんでいた。


「おじいちゃん、いったいいつまでエルフの里にいるのよ!

 マジあり得ないですけどー!」


 ドラゴンにしては、話し方がJKよりだな。

 古代竜のフランクな感じは、純白JKドラゴンの影響が大きそうだ。


「だ、だって、がれきの撤去をしろって言われてるしー」


「はぁー? だって、じゃなくない?

 魔法の使い方を教えてくれる約束、もう1週間以上も過ぎてるんですけどー。

 ひ孫と瓦礫、どっちが大事なのー?」


「ご、ごめんてー。

 ナナちゃんのとこに早く帰ろうと思ってたよ、おじいちゃんは」


 長い時間(とき)を生き続ける古代竜が、ひ孫のJKドラゴンに言い訳をしている。

 だが、ナナちゃんと呼ばれたJKドラゴンが怒りを治める様子はない。

 体格では圧倒的に古代竜が大きいのに、立場は完全に下だ。


 古代竜は一族の大黒柱的なドラゴンだと思っていたけど、自分の孫には弱いらしい。

 少しでもよく思われたくて、魔法の練習を付き合おうと思っていたに違いない。

 孫に好かれたいからと、会う度にお菓子で餌付けするみたいなもんだと思う。


 異世界人を餌付けし続ける僕がいうのも変な話だけどね。

 今朝、カレーを食べるために狩りをしていたことは内緒にしておいてあげよう。


 なんとなくJKドラゴンを怒らせてはいけないと、ここにいる誰もが思っただろう。

 気の強い女の子が怒っている時に、口を挟む勇気は持てないから。

 それがドラゴンだったら、なおさらのこと。


 こっそりとスズに近寄り、JKドラゴンの情報を収集する。


「鱗が見当たらないんだけど、この世界では一般的な種類に含まれるの?」


「ううん、私も初めて見る。

 街を襲う一般的なワイバーンやドラゴンとは、派閥が違うのかもしれない。

 普通の魔物は話すことができないから」


 エルフと古代竜は同盟国のような形、とリリアさんが言っていたから、精霊の魔力を帯びた竜族が何匹もいるんだろう。

 言葉を話せるくらい知的な種族で、エルフと共に表には出てこない特殊な一族。


「すごい流暢に古代竜を罵ってるもんね」


「手の動かし方も器用。

 ドラゴンは怒ると怖いから、関わらない方がいい」


 スズの方が怒ると怖いけどね。

 バジル村でワイバーンにキレて、ローキック攻めしたことを僕はしっかり覚えているよ。


 そんなことを思っていても、目の前のJKドラゴンも怖い。

 両手を激しく動かして感情を表現し、怒っているアピールをしている。

 しかも、息つく暇もないほどの早口で話し続け、どんどんヒートアップしていく。


「だいたい私の門限は陽が落ちる前なのに、おじいちゃんは遊びっぱなしとかズルくない?

 誰よりも年寄りなんだから、迷子になる前に外出禁止にすべきね」


「ま、まだおじいちゃんはボケてないし……」


「はいー? どの口がそんなことを言えるんですかー?

 私との約束を1週間以上もすっぽかしておいて、ボケてなかったらなんなのよ!

 はぁー、マジあり得ないんですけどー」


 とてもドラゴンがする会話とは思えない。

 目を閉じて聞いていれば、反抗期のJKと気の弱いおじいちゃんの会話みたいだ。


 そんな平凡なドラゴンの会話が進んでいく中、一人だけ勇気を持って仲裁しようとする者が現れた。

 笑い地獄から解放されたばかりのエステルさんだ。

 以前、スノーウルフを誰よりも怖がっていた彼女が、へっぴり腰になりながらドラゴンに近付いていく。


 不審な気配にJKドラゴンは気付いたのか、古代竜から目を離して、エステルさんを見下ろした。

 ビシッと背筋を伸ばしたエステルさんの冷や汗は、干乾びてしまうような勢いで肌から噴き出ている。


「き、昨日は私が古代竜に無理やり話をしてもらってだな、時間をもらってしまったんだ。

 か、代わりに瓦礫の片付けをすることで、手を打っていただけないだろうか」


 怒るJKドラゴンの視線は厳しい。

 エステルさんに頭を近付けると、品定めをするようにジロジロと見始める。


 極限の緊張感でさらに冷や汗が溢れ出しているため、脱水状態になっていないか心配だ。


「あんた、なにうちのおじいちゃんをナンパしてんのよ。

 イモ臭い顔して良い度胸ね。

 ふんっ、まぁいいわ。

 瓦礫の片付けはあんたに任せるから、ちゃんと綺麗にしておくのよ」


「は、はい、す、すいません……」


 奇跡的にエステルさんの仲裁が成功して、JKドラゴンは空へと舞い上がった。

 僕は急いでコップに水を入れ、脱水状態であろうエステルさんに差し出す。


 念のため、フォローしておこう。

 ゴクゴクと猛スピードで水分補給をするエステルさんは、帝国の第4王女であるため、決してイモ臭い顔はしていない。

 出会った頃はもっと気が強い暴れ馬たったけど、今は大人しい飼い馬のようになっているだけだ。


 古代竜がエステルさんに「マジ感謝」とJKっぽくお礼を言うと、すぐにJKドラゴンと一緒にエルフの里を離れていった。

 羽ばたいていくドラゴンたちを見送ると、嵐が去ったようにホッとする空気が流れ始める。


 一人を除いては。


「エンちゃん……、いつの間に結婚してたんじゃ……」


 どうやらセリーヌさんは、古代竜に恋をしていたらしい。

 口を開けたままボーッとしてしまい、いなくなった古代竜を見送り続けている。


 とはいっても、リリアさんが直接の先祖に当たるなら、セリーヌさんも結婚しているはずだ。

 フェンネル王国が繁栄していることも考えると、複数人の旦那がいるとも考えられる。


 もはや、ハイエルフという種族は浮気をする一族といってもいいだろう。

 様々な異性と恋をしてしまう、恋が多い種族なんだ。


 だから、僕ももっと浮気しよう。

 いや、でも、最近はチェックが厳しいからな。

 まずは恋人らしいイベントをクリアして、女性に慣れることから始めないと。


 そんなことを考えながら、みんなで古代竜が壊した後始末をしていく。


 言い出しっぺのエステルさんを中心に、せっせと瓦礫の撤去作業をして綺麗にするんだ。

 当然、腕力が低すぎる僕にやれることはないし、王女のフィオナさんが手伝うわけにもいかない。


 ましてや、徹夜でカレーを作り続けた僕は休むべきだろう。

 ちょうどフィオナさんの手が空いているから、寝かし付けてもらうべきだな。


 ひ、膝枕で!!!!!!!


 キングオブヘタレの僕がそんなことを言えるわけもなく、草の上にウルフの皮を敷いて横になる。

 撤去作業の音が気になるけど、寝れないほど大きな音ではない。


 そのまま目を閉じて眠ろうとしていると、フィオナさんが近付いてきた。


「枕がないのでしたら、膝をお貸ししましょうか?」


 膝を貸すというパワーワードが脳内に響き渡る。

 王女様に膝枕をしていただけるという快楽が脳を蝕み、強烈な睡魔に変換されてしまう。


「あ……え……あー……」


 フィオナさんに膝枕をされて眠りたい、と思いつつも、睡魔には勝てそうになかった。

 近付いて来るフィオナさんが腰を下ろし、僕の頭を触れた瞬間に意識が遠くなっていく。


 もうちょっと起きてたら、膝枕の記憶を脳内保存できるのに……と思いながら、重いまぶたが塞がれていった。

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