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複雑な関係

 フリージアのギルドへたどり着くと、護衛をしてくれた冒険者にお礼を言って、先にギルドの中に入っていく。


 馬車から降りる前に強めに叱っておいたこともあり、エステルさんは静かに(うつむ)いたまま歩いている。

 一方、僕とマールさんは久しぶりにリーンベルさんを見て、ビシッと背筋を伸ばす。


 緊張して歩く人間と、落ち込む人間の組み合わせが異様なんだろう。

 無駄に注目が起きてしまうのも当然のこと。


 ちょうど冒険者の接客が終わったリーンベルさんと、書類整理をしていたアカネさんが固まってしまうのも無理はない。


 高まる胸を押さえつつ、僕達はリーンベルさんの元へ向かっていく。

 目の前までやって来ると、我を取り戻すようにリーンベルさんは立ち上がった。


「どうして暴れ馬を連れて来てるの?!

 その人はすごく危険だから、すぐにギルドマスターを呼んでくるね。

 あっ、ヴェロニカさんの方が早いかも」


 もはや世界共通の認識といっても過言ではない。

 迷惑をかけたばかりというのもあると思うけど、エステルさんの印象は最悪。

 今までの行いが悪すぎて、迷惑をかける常習犯みたいな扱いになっている。


「あっ、呼ばなくても大丈夫です。

 手懐けることには成功しましたので」


 小さな声で『また地獄に戻りたくない』と、エステルさんは呟いたけど聞かなかったことにする。


 でも、嫉妬深いリーンベルさんには間違って伝わってしまったんだろう。

 少しムスッとした顔になり、ゆっくりと顔を近付けてきた。


「この人だけはダメ、絶対に問題しか起きないから。

 お姉ちゃんとスズが一緒にいて、王女のフィオちゃんまでいるんだよ?

 物足りないことなんてないと思うんですけど」


 ち、違いますよ、エステルさんは両想いではないです。

 確かに魅力的な引き締まったボディをしていますが、ハーレム枠を増やしている訳ではありません。

 肉体関係を持ちたくない、と言ったら嘘になりますが。


 あなたの後輩に手を出してしまっただけで。

 いや、手を出されたのかもしれませんけど。


「わ、わかっていますし、満足していますから。

 エステルさんとはそんな関係じゃありませんよ。

 雪の都でトラブルになったので、ちょっと懲らしめただけです」


 小さな声で「ちょっと? あれはちょっとじゃない」と、エステルさんの声が聞こえてきても無視だ。

 危うく死ぬところだったし、約束を破って裏切った彼女が悪い。


「本当? お姉ちゃんは信じるからね。

 獣人国でも何もなかったって、猫ちゃん達も言ってたし。

 カエルのことで追い出しちゃったのも、悪かったなって思ってるから……」


 反省して弱さを見せてくるパターンはやめてくださいよ。

 僕の中に眠る男の血が、守ってあげたい、と騒ぎ始めるじゃないですか。

 受付嬢よりステータスが低いザコなんですからね。


「気にしてないからいいですよ。

 恐怖の象徴だと知りましたから」


「それはそうなんだけど……。

 この際だから言っておくけど、もう増やさないでよね。

 もし増やすようなことがあれば、お尻ぺんぺんするよ」


 マールさんと仲良くなったなんて、絶対に報告できないじゃないですか。

 お尻ぺんぺんされたい願望が芽生えていますから、それで許しもらえるのであれば……。

 って、そうだ、マールさんのことも報告しないと。


「や、やましいことはないので大丈夫ですよ。

 それより、マールさんもしっかり案内してくれて、とてもお世話になりました」


 色んな意味が含まれていて申し訳ないですが。


「そう、それなら安心かな。

 マールも急なお願いをありがとうね。

 他にお願いできる人がいないから、すごく助かったよ!」


 リーンベルさんの天使スキル、エンジェルスマイルが発動した。

 マールさんは胸がときめいてしまい、心臓を落ち着かせるために胸に手を当てている。


「い、いえ! べ、べべ、ベル先輩のお願いなら、木材でも頑張って食べます!」


 相変わらずマールさんはリーンベルさんに弱すぎる。

 そんなお願いがされることはないし、もしされた場合は絶対に断ってほしい。


「相変わらずマールは変なこと言う癖があるよね。

 ……あれ? ピアス付けてたっけ? 可愛いね」


 今まで見守っていたアカネさんの視線が、急激に鋭くなった。


 あの目は雪の都アングレカムで、双子の姉であるアズキさんが見せたパパラッチの目。

 マールさんにスノーフラワーの話をしたのもアカネさんであり、どういう意味を持つ花で、誰が渡したのか、すでに気付いてしまっただろう。


 アズキさんのように口封じに応じてくれたらいいけど。


 お願いだ、マールさん。

 なんとかうまく誤魔化してくれ。


「あ、えーっと、そ、そうですね。

 じ、実家の押し入れのタンスの引き出しの奥の方で見つけました」


 誤魔化す時に使う単語ベスト10に入るであろう言葉、『実家の押し入れ』と『タンスの引き出し』の二重使用。

 なぜそんなところに入れたあったのか聞きたくなってしまう、誰もが疑問に思うやつだよ。


「いいなー、私もタンスの整理しようかなー。

 たまには私もそういう可愛いピアスを付けてみたいもん」


 だが、純粋なリーンベルさんが疑うことはない。


 マールさんにプレゼントした以上、本命のリーンベルさんにもアクセサリーをプレゼントするべきだな。

 スズとフィオナさんにも渡さないとダメだから、忙しくなりそうだよ。


「………あ、上げません……よ」


「取ろうなんて思ってないよ。

 マールに似合ってて可愛いね」


 可愛いと褒められたマールさんは、顔が真っ赤になっている。


 なお、婚約指輪の役割を果たすピアスをマールさんが死守したことにより、僕の心臓はヒートアップしている。

 元々リーンベルさんに渡そうとしていただけに、マールさんが大事に思ってくれている何よりの証拠だ。


 当然、そんな状況を見られれば、アカネさんに手招きされてしまう。

 リーンベルさんの相手をマールさんに任せて、ササッとアカネさんの元へ向かい、ヒソヒソと話し合いを決行する。


「な、何か気になることでもありましたか?」


「気付かないと思っているのかしら?

 まさかベルに異常な愛情を持っていたマールを落とすなんて。

 随分と君も立派な男になったのね」


 そう言ったアカネさんは、ヒソヒソ話をするために前屈みになったので、胸の谷間が暴力的だった。


 大きなおっぱいで動揺させるという、アカネさんの恐ろしい作戦だ。

 お姉さんは何でもわかっちゃうぞ、という意味を込めて、見せ付けているに違いない。


「偶然に偶然が重なって起こったことなんですよ。

 だから、リーンベルさんには内緒でお願いします。

 それより、アングレカムでアズキさんに会いましたよ。

 お願いですから、変なことを手紙に書いて送らないでくださいね」


 おっぱいでめまいをする男の子なんて紹介されたら、完全な変態だと思われますよ。

 間違っていない事実になりますが。


「おっぱいに弱い君がダメなのよ。

 それで、お姉さんの口をどうやって封じるべきだと思う?

 このままだと口が滑って言ってしまいそうだわ」


 わかっていますよ、大人の口封じは、き、き、キスですよね!

 立派な男らしさを見せつけて、あなたのプルプルな唇にぶちかましてやりたいです!


 リーンベルさんの前だから、やりませんけど。

 強がりじゃありませんよ。


「今夜は家でパーティみたいな形になると思いますので、よければどうですか?

 新作デザートのアイスと、まだ未発売のコロッケパンも作りますよ」


「物わかりのいい子は好きよ。

 楽しみにしておくわね」


 これ以上は墓穴を掘りそうだし、ギルドの受付も占領してしまうため、もう1度リーンベルさんに声をかけてギルドマスターの部屋へ行くことにした。

 すっかり空気のような存在になっていた、暴れ馬エステルさんを連れて。

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